黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

Mr.ジャンプに黙祷を

 ご存じの方も多いと思うが本日、鳥山明が急性硬膜下血腫で3月1日に死去していたとの報が入った。同氏の作品である「DRAGONBALL」はジャンプ黄金期の象徴であったのみならず、それ以前に描いた「Dr.スランプ」もまたジャンプの躍進に大きく貢献しており、Mr.ジャンプと呼ぶに相応しい氏の逝去に黙祷を

つよしハッスルしなさい

 今回紹介するのは、かつて重いテーマの作品で読者に強い印象を残した作者によるこちらの作品だ

 

 ハッスル拳法つよし(86年37号~46号)

 ひらまつつとむ

 

 作者の経歴についてはこちらを参考にされたし

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 そして「飛ぶ教室」の連載終了後は86年増刊ウインタースペシャルに同作品のオリジナルでありタイトルも同じ「ハッスル拳法つよし」を掲載、それが連載化して同年37号から開始されたのであった

 そんな本作品は、ブルースリーにあこがれるカンフー少年の桑田つよしが名門夢ヶ丘高校に通う為に単身上京し、下宿先である清原源心の家で拳法の修行に励んだり、源心の孫娘で同居人にしてクラスメートであるみどりといがみ合ううちにいい関係になったりならなかったりする拳法ラブコメ漫画である

 前作にあたる「飛ぶ教室」は、核荒廃後の世界で子供ばかりの集団が今日を生きる為に奮闘するという重い設定であり、それ故に読者アンケートでは人気が悪くなかったのに編集部から連載終了を迫られたという苦い経験からか、本作品は同じ轍を踏まないようにこれが同じ作者の作品なのかというくらいに軽い設定となっている

 

カバー絵だけ見ると同じ作者だとわかるが

 …のはいいのだが、その結果良くも悪くも読者に強い印象を与えた「飛ぶ教室」と対照的に本作品は全くと言っていいほど印象に残らない作品になってしまっている

 なにせラブコメ漫画としては同級生の女の子と一つ屋根の下で暮らす事になるというのもベタなら、その女の子と初対面時に痴漢に間違えられて以降きつく当たられるという展開もベタ、同居する孫娘はもう1人いてそちらはやさしく接してくるというのもベタというベタ尽くしの内容なのだ。ついでにいうならみどりが新体操をしているという設定はどう考えても「タッチ」の浅倉南にインスパイアされたものだろうし、全体的に本作品ならではというものが見られない

 とはいえ、ラブコメ自体がベタにベタを重ねたようなお約束を楽しむジャンルであるのでそこはいい。個人的な意見であるが女性キャラも可愛いし。問題は当時のジャンプはあからさまにラブコメが冷遇されていて生半可なラブコメは即淘汰される環境な上、本作品の連載が開始した時期は既に生半可じゃないラブコメである「きまぐれ☆オレンジロード」が鎮座している(本作品の連載中に一時連載中断となったが)とあっては分が悪い

 一方、拳法漫画としても正義感は強いが実力はサッパリという主人公の設定もベタなら、それでいて見栄を張って自分は強いと語るいうのもベタ、そして偶然な出来事のおかげで周りには実力者と勘違いされているのもベタと、こちらもベタにベタを重ねた内容となっている

 拳法漫画、というかおおまかに格闘漫画と括れるジャンルもまたベタという名の王道が好まれるジャンルではあるが、こちらも同じ雑誌で「DRAGONBALL」が派手なバトルを繰り広げている傍らで本作品の特別な能力を持たない普通の高校生が戦う姿は地味な事この上ないし、格闘シーン自体も描き慣れていないのか躍動感が感じられない。大体、73年に死去していて読者の多くがリアルタイムで見た事がないブルースリーにあこがれているというつよしの設定もあまり刺さらないだろう

 一応見栄えのあるシーン、というか技もあるにはある。それは相手のバックを取り、両手を抑えて高所から叩きつける『つよしスペシャル86』という技で、そのネーミングセンスはさておき、見た目は「キン肉マン」の偽キン肉マンソルジャーことアタル兄さんの使うナパームストレッチのようで私も気に入っていたりする。…が、いかんせん超人ではないつよしは技をかけた体勢から高く跳び上がる事など出来ないので、自分も相手も最初から高所にいないと掛けられないし、掛けたら掛けたで落下の衝撃が全部相手の顔にのしかかる危険極まりない技なので使いどころが限定され過ぎて結局読切版と合わせても二度しか使われなかったのがなんとも

 そんな感じで独自の魅力に欠ける本作品ではジャンプ黄金期に連載を続ける為の過酷なサバイバルレースに勝ち残れる訳もなく、イレギュラーな事情で短期終了を余儀なくされた「飛ぶ教室」の15回を下回る10回で終了してしまう

 

 そして作者は87年増刊オータムスペシャルに「ミアフィールドの少女アニー」を掲載するが連載化はかなわず、そのままジャンプから姿を消したのであった

ジャンプ黄金期の第5期を掘り下げる

 ジャンプ黄金期を連載作品の入れ替わりサイクル毎に掘り下げる記事の第5弾を

 

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 第5期は85年39号から86年1・2号までで連載作品は以下の通り。いつものように並び順は連載開始順で連載回数も併記しておく

 

 こち亀          76年42号 1955話

 キン肉マン           79年22号 389話

 ハイスクール!奇面組   80年41号 339話(「三年奇面組」含む) 

 キャプテン翼          81年18号 356話

 シェイプアップ乱     83年26号 128話

 北斗の拳         83年41号 245話

 銀牙 流れ星銀      83年50号 164話

 きまぐれオレンジ・ロード 84年15号 156話

 DRAGONBALL       84年51号 519話

 CITY HUNTER       85年13号 336話

 ついでにとんちんかん   85年14号 210話

 魁‼男塾           85年22号  313話

 ウルフにKISS       85年39号  13話

 ショーリ‼         85年40号  13話

 ロードランナー       85年41号  22話

 

 新連載は前期限りで終了した「飛ぶ教室」、「ウイングマン」、「BLACK KNIGHTバット」、「ジャストACE」と入れ替わりで開始された「ウルフにKISS」、「ショーリ‼」、「ロードランナー」の3本。4減3増なので連載作品数は1つ減って15本となる

 「ウルフにKISS」は黄金期以前に女性キャラの露出が多めの「テニスボーイ」を筆頭に幾つも作品を連載した小谷憲一寺島優のコンビによる作品で、こちらも露出多めであったが振るわずに短期終了。同コンビはこれがジャンプでの最後の連載作品となってしまった。そして「ショーリ‼」はラブコメ&サッカー(サッカーしているシーンは皆無だったが)漫画「キックオフ」で人気を博したちば拓がラブコメ要素を薄くした上に競技をサッカーから野球に変えてスポーツコメディといえる仕上がりになっていたがやはり短期終了。更に「ロードランナー」は「よろしくメカドック」でアニメ化を果たした次原隆二がテーマを車からバイクに替えて臨んだ作品だったがこれもまた短期終了と、実績のある作家陣による新連載作品が揃いも揃って討ち死にという結果は編集部も想定していなかったのではないだろうか。しかもそのうち「ウルフにKISS」と「ショーリ‼」は第5期のうちに終了してしまっているし

 

 連載終了作品は上記の2本に加えて「シェイプアップ乱」の3本。そして読切作品は0本

 短期終了作品は、前期までに連載されていた3本は全て終了したが、今期に開始した3本が全て短期終了作品なので3本のまま変わらず。全連載作品における占有率は連載作品数が減った分.200と増えている

 連載作品の平均連載回数は343.87回。こち亀を抜くと228.79で、前期がそれぞれ328.63回と220.20回だったので増加していてこれまでで一番の数値になってはいるが、それは連載作品数が減ったおかげであり、実態は前期に引き続いて新連載陣が全て振るわなかった上に読切作品も0と、後に繋がるものが何もなかった停滞期と言える第5期であった

 

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黄金期ジャンプで最も多くの作品を連載した男 番外編

 当ブログでは前回まで3回にわたって黄金期ジャンプで最も多くの作品を連載した男である次原隆二の短期連載作品群を紹介してきた

 

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 ところで、次原隆二は連載作品だけじゃなく読切作品も多く、黄金期における掲載数は8本もあって北条司の10本に続いて2番目、更にフレッシュジャンプや増刊にも掲載しておりそちらも加えるとその数は倍以上に増えたりする

 という訳で今回はそんな次原隆二の読切作品たちの中でも少し特殊なこちらの単行本を紹介したい

 

 週刊少年ジャンプ特別編集 ノーベル賞受賞者特別寄稿

 好きなことをやれ‼ 21世紀の天才たちへ 漫画編

 本単行本は92年31号に掲載された「0の宇宙 ブラックホールの誕生を予言した男」を皮切りに不定期で掲載されたノーベル賞受賞者をテーマにした作品に同テーマの描き下ろし作品を加えた7本の漫画、更に受賞者のコメントまで収録したものである。ちなみに漫画編とわざわざ銘打っている通り漫画じゃないバージョンもあり、私は未見だがそちらは受賞者42人のインタビューが掲載されているという

 前回紹介した「元気やでっ」はジャンプがいじめ問題に取り組んだ結果誕生したものだったが、90年代に入ってからのジャンプはその莫大な発行部数からくる大きな影響力を社会貢献に役立てようという考えでもあったのか、それともやがて来る黄金期の終焉に備えて模索していたのか社会的な企画がちょこちょこ誌面を飾っており、これもそのうちの1つだ

 内容的にはどの話もノーベル賞受賞者の生い立ちから始まる伝記的漫画になっている訳だが、正直その時点でジャンプの読者層は興味を持たないし、加えてその受賞者もS・チャンドラセカールとかチャールズ・H・タウンズとか全く馴染みのない人物の上、ノーベル賞に繋がる発見も基本的には研究の積み重ねによるものなので漫画的な盛り上がりに欠けていた。この問題は「元気やでっ」を核とするいじめ問題キャンペーンや、本作品と同年に行われた戦後60周年企画なども同様であり、これらの企画は結局以降の誌面に何ら影響を及ぼす事は無く、ジャンプは黄金期の終焉を迎える事となる

 

 それにしても作者はどうしてこんなに多くの連載及び読切作品を描く事が出来たのだろうかと不思議に思う人もいるのではないか。というか私自身もそう思うし。それは何故かと考えた結果、作者の陰にいるある人物の存在が関係しているのではないだろうかという結論に落ち着いた

 その人物とは堀江信彦。作者の担当編集者であり、「北斗の拳」などのヒット作を生み出して編集部では一目置かれ、93年からはジャンプの編集長に就任した人物である

 ついでに言うなら作者と並んで黄金期で最多の連載作品数を誇る桂正和の担当もまた後にジャンプの編集長となるあのマシリトこと鳥嶋和彦、更に土方茂名義も含めてデビュー以来4度続けて短期終了を喫しても切り捨てられず5度目の「ヒカルの碁」でようやくヒットを飛ばした小畑健の担当もやはり後に編集長となる茨木政彦なのを鑑みると、担当編集の力がどれだけ重要かがわかるだろう

 勿論どれだけ有力な編集者であろうがジャンプの誌面を好き勝手にできる訳もない。が、例えば連載作品の入れ替え枠が3つあってその内2つは有力な候補があるが、あと1つはどうしようという場合には自分が担当する作家を捻じ込む事も可能であろう。そうでもなければ複数のヒット作がある桂正和はともかく「よろしくメカドック」以外にヒット作を持たない作者が何度も何度も短期終了を繰り返しても他の作家を押しのけて連載の依頼が来た事の説明がつくまい

 とはいえ、堀江が担当した漫画家は他にも数多くいた訳で、その中で作者が選ばれるのには別の理由が必要である

 私はジャンプを購読する以前から家に「よろしくメカドック」の単行本があったという環境のおかげで作者の作品はどれも注目していたのだが、作品を読んで共通して感じる印象はどの作品も古臭ささがあるが話としてはまとまっている、言い換えれば構成力が高いというものだ

 そういった能力の高さから作者は優先的に仕事を振られていたのだろうが、それは作者が一方的に恩恵を受けていたという訳でもない。本単行本に収められているような作品は漫画にするのは難しいのにテーマ的に読者に受けない、よしんば受けたとしても連載化に繋がるとも思えないので漫画家としてはあまり請けたくない仕事であろう。また、「元気やでっ」での作画は無しで脚本・構成・演出という役割も本来は漫画家が担うべきものではない。そういった引き受け手のいない企画を都合よく押し付けられる場合もあり、いわば2人は持ちつ持たれつの関係なのである

 そういった深い関係であるから堀江が集英社を退社した際は、やはり堀江が担当していた原哲夫北条司らと共に堀江の下に集結して編集プロダクションのコアミックスを設立、集英社と袂を分かつのは当然の流れであった

黄金期ジャンプで最も多くの作品を連載した男 その3

 今回も黄金期ジャンプで最多、実に6つもの作品を連載した作品の片割れである次原隆二の短期終了作品を紹介したい

 前々回に紹介した2作品は自身の代表作である「よろしくメカドック」の影響が色濃い自動車、バイク漫画2作品で、その路線が挫折して方向転換を図ったのが前回紹介したスポーツ漫画2作品だった

 

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 そして、スポーツ漫画路線も挫折した作者はまたも方向転換を図ってこちらの作品を連載する事となる

 

 東京犯罪物語 菩薩と不動(94年41号~49号)

 本作品は山の手署刑事課に配属された新人の伊達聖人と、コンビを組むベテラン刑事の平井賢三を始めとする刑事課の面々が織りなす刑事漫画である

 伊達は正義感が強いがお人好し過ぎる為に犯人に騙され事件を悪化させる事もしばしば。一方平井は犯人逮捕の為なら手段を選ばず問題行動も多いという真逆のタイプのトラブルメーカーである2人が時に反目しあいながらも協力して事件に取り組み、そこに刑事課の個性的な面々と人情噺が色を添える。…という説明をされたら頭の中でなんとなくイメージ出来るものがあるだろう。本作品はおそらくそのイメージから殆ど外れていない内容となっている

 ところで前回、前々回と私は作者の作品群に厳しい言葉を並べてきたが、実のところ個人的には嫌いどころか楽しんで読んでいたし、当時はお金が無くて短期終了作品の単行本はあまり買えず、これまで当ブログで紹介した作品の多くは後になって買い集めたものなのだが、「ロードランナー」、「隼人18番勝負」、「ドンボルカン」、おまけに短編集の「F1倶楽部」はしっかり当時に購入していたりする。…「隼人18番勝負」以外は見つからなくて買い直すハメになったが

 そんな私であるが、本作品については正直つまらないとしか言いようがない。昭和の古臭い刑事ドラマの典型のようで、主人公の伊達も相棒の平井もよくあるテンプレキャラ、どうせこんな展開になるんだろうなという予想がほぼその通りになるという悪い意味で予想を裏切らない退屈な作品である。私がジャンプを購読していた時期は、せっかくお金を出して購入したのだからという貧乏人根性もあって基本的に全ての作品を複数回読み直すのが常であったのだが、本作品についてはあまりに退屈で一度流し読みするだけで読み返す事は無かった程だ

 わりと作者に好意的な私でさえこの有様なのだから他の読者の人気を得られる訳もなく、本作品は作者の作品の中でも最短、黄金期ジャンプの連載作品全体でも「セコンド」の6回に次ぐ2位タイの9回という回数で終了してしまった

 

 

 さて、ここまで3回にわたって紹介してきた作品と「よろしくメカドック」を合わせた6作品で作者がジャンプ黄金期に連載した作品は終わりになるのだが、実はもう1つ作者が関わった作品が存在する

 それがこちらの作品だ

 

 元気やでっ(95年14号~24号)

 山本純二次原隆二土屋守

 


 本作品における次原隆二の役割は作画でも原作や原案でもなく脚本・構成・演出という微妙なポジションの為に作者の連載作品としてカウントしなかったが、カウントするならジャンプ黄金期の連載作品は7つとなり単独トップに躍り出るし、こちらも単行本は1巻完結な為短期終了作品も6となる

 さておき、本作品は娘がいじめにあった事実を基にして土屋守が書いた「私のいじめられ日記」を原案にした学園漫画である

 原案の土屋守は本作品の原案となった「私のいじめられ日記」の他にもいじめに関する書籍が幾つも出版されている精神科医。作画担当の山本純二は91年に「南風からから」でホップ☆ステップ賞佳作受賞、同年増刊オータムスペシャルに掲載されてデビューを飾り、その後94年ウインタースペシャルに「南風の吹く季節」、95年ウインタースペシャルに「はっぴいべる」の掲載を経て本作品で本誌デビューにして初連載を果たしたのであった

 主人公の佐伯幸子はそれまで仲良く接してきたクラスメイトの伊藤京子から突然いじめを受けるようになり、周りのクラスメイトも自分に被害が来ないようそれに同調、クラスで孤立してしまう。日々エスカレートするいじめに耐えられなくなった幸子は意を決して担任の上沼に相談するも、事なかれ主義の上沼はいじめではなく悪ふざけだとして根本的な解決をしようとせず、見かねた親友の内田優香や教育実習生の榊が周りに働きかけてもまともに話を聞いてもらえない。そして、どんどん追い詰められていった幸子は自殺を考えるようにまでなってしまう。…といった辛気臭い内容で、気分が沈んでいる時に本作品を読むと更に気が滅入ってしまうので注意が必要だ

 そんなあからさまにジャンプの雰囲気にそぐわない本作品が何故連載されたかというと、この時代のジャンプはいじめ問題に関するキャンペーンを展開していて、いじめについて真剣に考えるJ’sサークルというコーナーを設けると共に本作品の連載を開始、同年48号には飛鷹ゆうきが実際にあったいじめ事件を基に描いた読切作品の「彼女の告白」が掲載されるという力の入れようであった

 いじめは許されざる卑劣な行為だと建前ではなく本気で思うし、いじめ問題に警鐘を鳴らす事自体は悪くない事だとも思う…が、やるべき場所を選べと言いたい。人々はジャンプに求めているのは娯楽である。娯楽を求めてジャンプを手に取った人々が本作品を読まされたところで冷や水をぶっかけられたような気分になるだけでいじめについて真剣に考えようなどと思う訳がない

 結局本作品は原案がボリュームが無い事から元々長く連載させる気も無かったのだろうが11話で終了、J’sサークルも一年ももたず気がつくと件のキャンペーンなど無かったかのようにジャンプは元の誌面に戻ってしまっていた

 そして次原隆二の脚本・構成・演出という仕事もなかったかのように漫画家に戻るものの、その後ジャンプで連載を持つ事は無かったのであった

 

黄金期ジャンプで最も多くの作品を連載した男 その2

 前回に引き続いて黄金期ジャンプで最も多く、実に6つもの作品を連載した2人の漫画家の片割れである次原隆二(もう1人は桂正和)の短期終了作品を紹介したい

 

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 前回紹介した2作品は自身の代表作である「よろしくメカドック」の影響が色濃い自動車、バイク漫画であったが、それが挫折した事で作者は方向転換を図る

 

 そんな訳で今回紹介するのはスポーツ漫画路線に舵を切った作品でまずこちらから

 

 隼人18番勝負(89年23号~39号)

 

 佐々木小次郎の末裔である剣術少年の佐々木隼人が巌流島決戦の借りを返す為宮本武蔵の末裔に勝負を挑もうと上京したところ、当の武蔵の末裔である宮本駿とその息子である剣吾はなんと剣術家をやめてゴルファーに転向してしまっていた。憤懣やるかたない隼人はゴルフ評論家である塚本の薦めもあり自らもゴルファーに転向、刀をクラブに持ち替え打倒宮本一族を目指すというゴルフ漫画

 ゴルフというとオッサン向けの題材に思われるかもしれないが、ライバル誌を見るとサンデーでは坂田信弘原作万丈大智作画の「DANDOH‼」、マガジンではちばてつやの「あした天気になあれ」、ジャンプでも黄金期ではないが鈴木央の「ライジングインパクト」に金井たつおの「ホールインワン」とヒット作があり意外と少年誌でも多かったりする。「プロゴルファー猿」なんかは更に低年齢向けのコロコロコミックにも連載されていたし

 本作品は小次郎になぞらえて隼人に長尺クラブ「飛燕零」を持たせたり、武蔵になぞらえて宮本剣吾は右でも左でも打てる二刀流にしたりと設定を生かした部分はあるのだが、塚本の娘に連れられて一見関係の無い射的をやる事でクラブの握り方を覚えるなど「ベスト・キッド」他多くの作品で見られるありきたりな部分も多く、ゴルフ漫画としてはリアル寄りかフィクション寄りか中途半端で17話にして終了してしまう。ジャンプでやるならばもっとフィクションに寄せて豪快な嘘をついた方が良かったのではと思わせる作品である

 連載終了後も本作品に強い思い入れがあったのか同年48号には同じくゴルフ漫画「もったり純平」を、更に90年増刊サマースペシャルに今度は佐々木小次郎ではなく宮本武蔵の血統にスポットを当て時代劇漫画「浮世傘竜之介」を掲載するがどちらも連載化を果たせず、別のスポーツに乗り換える事になる

 それがこちらの作品だ

 

 ドンボルカン 聖なる男の伝説(91年27号~38号)

 

 本作品は単身ドミニカに渡った投手の轟嘩太郎が逆輸入でイーグルス(といっても楽天イーグルスでなく架空の球団。時代的に楽天イーグルはまだ存在していない)に入団し、球界に旋風を巻き起こすプロ野球漫画である

 轟は高校時代に野球部のマネージャーが暴走族に絡まれているのを他の部員と共に助けようとした結果、キャプテンは轟を庇って死亡、本人も大怪我を負った上に野球部は解散となってしまう。それでも野球を諦められない轟は怪我が治るとドミニカに渡り、イーグルスが現地に設立したイーグルスベースボールアカデミーに入学。そして三年後、ドラフト外イーグルスに入団した轟は7対0と既にチームの敗戦が決定的となった巨人との開幕戦のマウンドにリリーフとして立つのであった

 という感じで基本的に轟はリリーフ投手である為試合全体ではなく1つの打席にドラマを見せるタイプである。轟自体はスキンヘッドに加えひたいに大きな傷跡があるというインパクトのある見た目な上、肝が据わっていてマウンドでも物怖じせず外国人選手に中指を立てるなどヒール的な側面を持つのは良いのだが、普段は好青年という味付けのせいでキャラが陳腐になってしまっているし、各エピソードもかつての大打者で衰えたベテランとの引退を賭けた勝負など、どこかで見たようなありがちなものが多く新鮮味に欠ける印象だ

 更に作品自体とは関係ない問題もある。本作品の連載が開始される2号前に同じく野球漫画、それもプロ野球が舞台で入団したのが弱小球団というところまで一緒な「ペナントレース やまだたいちの奇蹟」の連載が開始されていて人気を取り合う形となってしまったのだ。それにしても、ここまで設定の被る作品を同時期に開始するなんてジャンプ編集部は何を考えているのだろう。先日放送された「踊る!さんま御殿‼」にゆでたまご嶋田隆司が出演した際、ジャンプでは連載作家も編集者も互いをライバル視しているというような事を話していたが、それ故に情報を秘匿しあって連携が取れていないのだろうか

 さておき、野球漫画同士の争いとなっては「県立海高校野球部員山下たろーくん」をヒットさせているこせきこうじに軍配が上がるのは必定で本作品は11話で終了してしまう

 

 そして「よろしくメカドック」を踏襲した自動車・バイク漫画路線に続いてスポーツ漫画路線でも2回続けて短期終了してしまった作者は更なる路線変更を求められるのであった

黄金期ジャンプで最も多くの作品を連載した男

 黄金期ジャンプにおける最長連載記録を持つ作家は「こち亀」こと「こちら葛飾区亀有公園前派出所」を連載していた秋本治だという事は前回当ブログでも触れたし、別に当ブログで触れなくとも周知の事実であろう

 では、黄金期ジャンプにおいて最も多くの連載作品を描いた作家は誰だろうか?

 

 答えは2人いて、1人は当ブログでも何度か取り上げた桂正和、そしてもう1人は「よろしくメカドック」でお馴染みの次原隆二で、連載作品数は6つになる

 因みに黄金期以外も含めると両者とも連載作品数は7つに増えるが、これが最多という訳ではなく、小畑健は土方茂名義も含めると10、本宮ひろ志に至っては11にもなって上には上がいるものである

 さておき、今回から黄金期ジャンプ最多連載作品記録を持つ次原隆二が描いた作品のうち短期終了作品を3回にわたって紹介しておこうと思う。その数は実に5つ、つまり「よろしくメカドック」以外の作品は全て短期終了作品となっており、こちらも黄金期ジャンプ最多記録となっている

 と、早速作品紹介に入る前に例によって作者の経歴を

 次原隆二は79年に「翔べ雷音図」で手塚賞佳作受賞、翌80年34号から河西和久原案の「暴走ハンター」で連載デビューを果たす。因みに原案を務めた河西和久は何者なのか調べてみたところ、当時16歳で後にカメラマンになったという事しかわからなかった。そして82年フレッシュジャンプ8月号と10月号に「よろしくメカドック」を掲載するとそれが連載化されて同年44号から開始、後にアニメ化も果たし作者の代表作となる。同作品は中断を挟んで85年13号まで続き、これが作者の黄金期ジャンプ初の連載作品でもあった

 そしてまず紹介するのは「よろしくメカドック」の連載終了後、増刊サマースペシャルに連載された後に連載化されたこちらの作品だ

 

 ロードランナー(85年41号~86年12号)

画像は電子書籍版です

 前作の「よろしくメカドック」はカーチューンショップであるメカドックのスタッフ風見潤を主人公に序盤は業務中心のお仕事漫画だったのが、後にチューンした車に自ら乗り込みレースに参加するようになって人気を博した訳だが、本作品はバイク便ドライバーの速水烈を主人公に序盤はお仕事漫画、後にレースに参加するようになるという、「よろしくメカドック」が四輪なら今度は二輪だと言わんばかりの内容となっている

 しかし、「よろしくメカドック」の人気の要因は作中に登場する見た目にも格好よく個性的な車の数々によるものが大きかったと思うのだが、バイクは車に比べると機種ごとの見た目にあまり差異はないから画的にあまり映えないし、人気も漫画作品含めて車の方が様々な点で上である。勿論バイク漫画の人気作品もある訳だが、そういう作品を見てみると大概は走り屋だったり暴走族だったりと本作品とは方向性が違うし、そもそもバイク漫画を好む読者層もジャンプのそれより年齢が高めだったりするので人気が出る訳もない。アニメ化した「よろしくメカドック」の次の作品という事で多少猶予が与えられたのか、なんとか1サイクルでの連載終了は免れたものの、2サイクル目に入るとほぼ巻末、たまにブービーという酷い扱いで22話にして終了してしまった

 

 そして「ロードランナー」の終了後、87年25号に読切作品の「SUPER PATROL」を掲載、それが連載化してタイトルを変更した上で同年32号から開始されたのがこちらの作品だ

 

 特別交通機動隊SUPER PATROL(87年32号~46号)

 

 本作品は、過激化する交通犯罪に対抗する為に結成された特別交通機動隊スーパーパトロール(タイトルではない)の隊員で、パトカー乗りの水城武尊と白バイ乗りの伊達勝が、互いの乗り物こそ最高だと反目しながらも事件を解決する警察漫画である

 まさか二輪が駄目なら四輪と二輪のチャンポンならどうだ、と安易に考えたのではないかと勘繰ってしまうが、内容としてはダブル主人公ではあるもののビジュアルからして明らかに武尊の方が優遇されており、比重が車の方に寄っているのはいいとして、問題なのは交通機動隊としてしまった為に結局のところやる事は基本カーチェイスでバリエーションが少なく、その内容は「よろしくメカドック」や「ロードランナー」の序盤と変わりばえしない印象を受ける

 一応違いとしては前の2作品が後にレースに参加するところを本作品は2人の腕を見込んで警察を辞めてレースに参加するよう誘いを受けるが、警察官である事を貫いて断るという点がある。…のだが、それは「ロードランナー」を下回る15話で連載終了と相成ってしまって描くページが無く結果的にそうなっただけで、連載が続いていれば変な理屈をつけてレースに参加するようになっていたのではないだろうか。ジャンプ漫画は隙あれば勝負とか大会とかさせようとするし

 そして、この失敗をもって作者は「よろしくメカドック」の流れを汲む自動車、バイク路線に見切りをつけたのであった