黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

いぶし銀コンビの落日

 今更言う事でもないが、漫画の中には絵を担当する作画者と、話を担当する原作者に役割を分担したものも存在する。そして、そのような作品がヒットすると、稲田浩司といえば三条陸(「ダイの大冒険」)、武論尊といえば原哲夫(「北斗の拳」)、みたいに作画担当と原作者がセットで憶えられている例も少なくない。まあ、中には武論尊といえば「ドーベルマン刑事」でコンビを組んだ平松伸二だろ。とか思っている人もいるかもしれないが

平松伸二といえば飯塚幸弘だろうと思う人はさすがにいないだろうが

 という訳で今回紹介するのは、例に挙げた人たち程ではないが黄金期前のジャンプで存在感を示した、云わばいぶし銀コンビが黄金期に連載したこちらの作品だ

 

 ウルフにKISS(85年39号~51号)

 小谷憲一寺島優

 

 作画担当の小谷憲一手塚治虫のアシスタントなどを経て77年20号に「山犬狩り」が掲載されてデビュー及び本誌初登場を飾る。翌78年37号に「黒獅子魂」が掲載されると43号から高山芳紀原作の「渡り教師」で連載デビューを果たす

 一方、原作担当の寺島優は78年に「からくり源内」で週刊少年ジャンプマンガ原作賞準入選。そして翌79年31号から小谷憲一が作画を務める「テニスボーイ」で連載デビューを果たすと二年半以上も連載が続くヒットとなった。同作品は小谷憲一にとっても初のヒット作となった為か82年21号から再びコンビを組んで「ウイニング・ショット」の連載を開始するがこちらは短期終了。その後小谷憲一は原作なしで83年3号から「スキャンドール」、84年22号から「KID」の連載を開始するがどちらも短期終了。そして85年39号から三たびコンビを組んで本作品の連載を開始したのであった

 そんな本作品は、一条財閥の総帥一条源蔵の孫娘で、幼い頃に遭難して狼に育てられたという過去を持つ故に、生肉を食べたりすぐに服を脱ぎ捨てたりといった野生溢れる癖を持つ一条実果が、源蔵の財産の相続人となった事からそれを快く思わぬ者に命を狙われたり、行く先々でトラブルに巻き込まれたり自分で巻き起こしたりするオカルトコメディ漫画である

 ところで、狼に育てられた子供という話はオカルトの世界では双子の狼少女アマラとカマラなど結構見られる話である。そして、そういう育ち故に常識の無い主人公が突拍子の無い行動をして騒動を巻き起こすというのが本作品の骨子であり、大別するなら「オバケのQ太郎」や、黄金期ジャンプでいうなら「まじかる☆タルるートくん」と同じタイプの作品と言えるだろう

これも同じタイプだと言える

 だが、同じタイプの他作品がオバケだったり魔法使いだったりフィクション全開の設定に比べると、本当かどうかはともかく現実でも割と聞かれて本作品の連載が始まる少し前にも若干話題になった狼少女という設定はインパクトの面でも作中で巻き起こす騒動の面でも見劣りしてしまうし、そもそも主人公が女の子という時点でジャンプ向きでもない。数少ない利点としては、「テニスボーイ」が人気を博した要因の1つであるパンチラなどのお色気要素をぶち込みやすいという点があり、実際全裸になるシーンも多々あるのだが、実果が小谷憲一の得意とするキャラより年齢が若い為か、私は当時読んだ時も今改めて読んでも性的興奮を覚える事はなかった。…まあ、当時はともかくオッサンになった今11歳の全裸見て性的興奮を覚えたらそれはそれで問題だが

 また、ストーリーの方もあんまり先の展開を考えていなかったのか、当初はお金持ちの祖父の資産を巡る陰謀劇的な話で、そこに探偵の福沢幸雄との「ローマの休日」的な淡いロマンスが足された感じだと思ったら、祖父の資産を狙う連中は早々に退場し、幸雄は年齢が離れすぎてるせいか保護者的ポジションに収まってしまい、唐突にバスケットボールの試合(しかも相手がラフプレーで潰しに来るというベタなヤツ)が始まったり、実果と同じく狼に育てられた少年が出て来たりと一体何を描きたいのかがサッパリわからず、正直なところわざわざ原作をつけた意味があったのか疑問である

 そして最後には謎の組織が登場と迷走したまま本作品は同コンビの作品の中でも最短の13話で終了してしまい、以降、小谷憲一寺島優もジャンプで見る事が無くなっただけでなく、他誌でも両者によるコンビはもう二度と実現しなかった

 しかし、小谷憲一はジャンプから去って青年誌に場を移してから「DESIRE」などで、寺島優も「競艇少女」などで活躍する事になるから、コンビの解消は両者にとって良かったのではなかろうか