今回紹介するのは、かつて重いテーマの作品で読者に強い印象を残した作者によるこちらの作品だ
ハッスル拳法つよし(86年37号~46号)
作者の経歴についてはこちらを参考にされたし
そして「飛ぶ教室」の連載終了後は86年増刊ウインタースペシャルに同作品のオリジナルでありタイトルも同じ「ハッスル拳法つよし」を掲載、それが連載化して同年37号から開始されたのであった
そんな本作品は、ブルースリーにあこがれるカンフー少年の桑田つよしが名門夢ヶ丘高校に通う為に単身上京し、下宿先である清原源心の家で拳法の修行に励んだり、源心の孫娘で同居人にしてクラスメートであるみどりといがみ合ううちにいい関係になったりならなかったりする拳法ラブコメ漫画である
前作にあたる「飛ぶ教室」は、核荒廃後の世界で子供ばかりの集団が今日を生きる為に奮闘するという重い設定であり、それ故に読者アンケートでは人気が悪くなかったのに編集部から連載終了を迫られたという苦い経験からか、本作品は同じ轍を踏まないようにこれが同じ作者の作品なのかというくらいに軽い設定となっている
…のはいいのだが、その結果良くも悪くも読者に強い印象を与えた「飛ぶ教室」と対照的に本作品は全くと言っていいほど印象に残らない作品になってしまっている
なにせラブコメ漫画としては同級生の女の子と一つ屋根の下で暮らす事になるというのもベタなら、その女の子と初対面時に痴漢に間違えられて以降きつく当たられるという展開もベタ、同居する孫娘はもう1人いてそちらはやさしく接してくるというのもベタというベタ尽くしの内容なのだ。ついでにいうならみどりが新体操をしているという設定はどう考えても「タッチ」の浅倉南にインスパイアされたものだろうし、全体的に本作品ならではというものが見られない
とはいえ、ラブコメ自体がベタにベタを重ねたようなお約束を楽しむジャンルであるのでそこはいい。個人的な意見であるが女性キャラも可愛いし。問題は当時のジャンプはあからさまにラブコメが冷遇されていて生半可なラブコメは即淘汰される環境な上、本作品の連載が開始した時期は既に生半可じゃないラブコメである「きまぐれ☆オレンジロード」が鎮座している(本作品の連載中に一時連載中断となったが)とあっては分が悪い
一方、拳法漫画としても正義感は強いが実力はサッパリという主人公の設定もベタなら、それでいて見栄を張って自分は強いと語るいうのもベタ、そして偶然な出来事のおかげで周りには実力者と勘違いされているのもベタと、こちらもベタにベタを重ねた内容となっている
拳法漫画、というかおおまかに格闘漫画と括れるジャンルもまたベタという名の王道が好まれるジャンルではあるが、こちらも同じ雑誌で「DRAGONBALL」が派手なバトルを繰り広げている傍らで本作品の特別な能力を持たない普通の高校生が戦う姿は地味な事この上ないし、格闘シーン自体も描き慣れていないのか躍動感が感じられない。大体、73年に死去していて読者の多くがリアルタイムで見た事がないブルースリーにあこがれているというつよしの設定もあまり刺さらないだろう
一応見栄えのあるシーン、というか技もあるにはある。それは相手のバックを取り、両手を抑えて高所から叩きつける『つよしスペシャル86』という技で、そのネーミングセンスはさておき、見た目は「キン肉マン」の偽キン肉マンソルジャーことアタル兄さんの使うナパームストレッチのようで私も気に入っていたりする。…が、いかんせん超人ではないつよしは技をかけた体勢から高く跳び上がる事など出来ないので、自分も相手も最初から高所にいないと掛けられないし、掛けたら掛けたで落下の衝撃が全部相手の顔にのしかかる危険極まりない技なので使いどころが限定され過ぎて結局読切版と合わせても二度しか使われなかったのがなんとも
そんな感じで独自の魅力に欠ける本作品ではジャンプ黄金期に連載を続ける為の過酷なサバイバルレースに勝ち残れる訳もなく、イレギュラーな事情で短期終了を余儀なくされた「飛ぶ教室」の15回を下回る10回で終了してしまう
そして作者は87年増刊オータムスペシャルに「ミアフィールドの少女アニー」を掲載するが連載化はかなわず、そのままジャンプから姿を消したのであった