黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

手塚賞準入選作と佳作も読む

 当ブログでは前々回に手塚賞入選作家たちのその後を、前回は手塚賞入選作家の入選作を含む短編集の紹介をしてきた。となると、入選作だけではなく準入選作や佳作の作品、ついでに赤塚賞の方も気になってくるのが人情ではないだろうか。…気になってこなくても気になってくると答えるのが人情だろう

 そんな事言っても、入選作はジャンプ若しくは関連誌に掲載されるから例えその後作者が単行本を出せずに消えたとしても最悪バックナンバーを探せば読めるが、それ以下の作品は掲載されない方が多いから読めないじゃないかとお思いかもしれない

 それが、読めるのである

 

 という訳で今回紹介するのはこちらの単行本だ

 

 めざせ漫画家!手塚・赤塚賞受賞作品集1

 おそらく殆どの人はこんな単行本が存在する事を知らなかったのではないだろうか。それも無理のない話で、同じくジャンプの新人漫画賞であるホップ☆ステップ賞の受賞作品集ならジャンプコミックスの裏表紙カバー折り返しを見れば既刊情報に載っているが、本単行本はジャンプコミックスデラックスなのでジャンプに載っている新刊情報や、単行本に挟まっている集英社のコミックスニュースをを細かくチェックしているような人じゃないと知りようがないだろう。というか、私もこのブログを始めてジャンプ関連の情報を色々調べるようになって初めて知った

※これには本単行本の情報は載っていません

 さておき、本単行本はタイトル通り手塚賞と赤塚賞の受賞作品を開催回毎にまとめた作品集である。ただし、全ての回ではなく、87年下半期に開催された分から97年上半期分までの20回分が単行本化されているのと、それから十年以上経って何故か2012年上半期から13年上半期までの3回分だけが電子書籍化されているのみである

 内容は勿論各賞受賞作品に加えて受賞者のプロフィール、そして審査委員長の手塚治虫・赤塚不二夫両名を始めとする審査委員による作品短評という構成で、この短評が審査委員の個性が出ていてなかなか面白いので、収録されている作品の紹介に加えて印象的な短評も挙げておく

 

 手塚賞準入選 ぶっとびストレート 冨樫義博 

 

 ご存じ冨樫義博の作品で、以前紹介した短編集「狼なんて怖くない‼」にも収録されている。内容としては、速球派で暴力的な轟と変化球タイプで陰険な瀬川という性格も野球観も正反対の2人の投手が互いの退部を懸けて紅白戦を行うという野球漫

 短評(手塚治虫)なんだか知らんが、面白いというタイプの少年漫画。気迫でかいている。ユーモアもあっていい

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 

 手塚賞準入選 夜景 城敏晃

 

 作者はジャンプでは掲載歴すらないが、後に城としあき名義で講談社ちばてつや賞準大賞を「豆腐屋桶川物語」で受賞、モーニングで連載を果たす事になる。内容は西部開拓時代のアメリカのような世界を舞台に、1人の男がバーンスタインの店を訪ねると、中には現代の高層ビルのような風景が広がっていたというSF作品

 短評(高橋三千綱)主人公の顔も魅力に乏しいが、なんかいい気持ちにさせられる。人造の空、たとえばプラネタリウムを見るような話なのでしょう

 

 手塚賞準入選 2001年夢中の旅 浅美裕子

 

 作者は後に「天より高く」で連載デビューを飾る浅美裕子。舞台は受胎調節法により全ての人間は受胎調節工場で産まれるようになり自分の体で子供を産むことが禁止されている2001年の東京。翔太の母親はそれに反対して妊娠八カ月を迎えていたが、科学局に知られてお腹の子を始末されてしまいそうになる。翔太と父親は科学局の連中を止めようと体を縮小させて母親の体に潜り込むというSF作品

 短評(武論尊)自分の頭の中だけで、話を進めている感じがする。もう少し、わかりやすい構成ができれば、もっといい

 

 手塚賞佳作 古代からのメッセージ 宇津木輝生・樋口雅一

 

 宇津木輝生は87年増刊オータムスペシャルに「ゆうれい特捜みちるinみちる」が掲載されてデビュー、88年ウインタースペシャルとスプリングスペシャルに「超音速追撃パトロールスペーサー21」を掲載しているが連載は持てなかったようだ。一方樋口雅一の方は調べても何の情報も得られなかった。内容は行方不明の兄浩二の情報を求めてインドに渡った淳は、兄のスポンサーの竹内から兄が古代インドの神話「ラーマーヤナ」に出てくるヴィマナという兵器の研究をしていた事を知らされ、兄の行方を知る為にも研究を継ぐよう頼まれるというオカルトもの

 短評(手塚治虫)前半は面白いが、途中から平凡。ネームが多いので少なくしたい

 

 手塚賞佳作 アフリカに行きたい! 石原紀子

 

 作者は本作品以前に85年フレッシュジャンプ1月号に「Jet' aime SCANDAL」、同年増刊サマースペシャルに「舞台袖の天使」を掲載、86年に「ウィークエンド・アバンチュール」で手塚賞準入選を果たして同作品がサマースペシャルに掲載されるが本作品以降は作品が掲載されなかったようだ。内容は受験を前にナーバスになっている近藤と、受験せずにアフリカに旅立とうという美鈴の青春ラブコメディ

 短評(松本零士)絵に愛嬌があり、かわいい。理屈がつづくので、読むのにつらいが

 

 手塚賞佳作 BELIEVE IN LOVE 高野晃介

 

 作者については調べても何の情報も得られなかった。内容は、恋人のエミリーを守る為に事件を起こして服役することになったボクサーのニックが、出所後にエミリーを取り戻す為チャンピオンに挑むというボクシング漫画

 短評(高橋三千綱)エネルギーに点数を入れたい。荒けずりで、魅力的だ

 

 赤塚賞佳作 ボケルンバよ今一度 たけだつとむ

 

 作者は本作品が88年増刊ウインタースペシャルに掲載されるが、その後は似顔絵描きに転向して週刊誌などでイラストを描くようになったという。内容は、フランスから来た泳げないアシカのボケルンバによる動物コメディ

 短評(鳥山明)一般的でないと思うが、この手のバカバカしいギャグやセリフまわしは、とても面白いと思う

 

 赤塚賞佳作 何でもやります株式会社 さいとうひさのり

 

 90年増刊スプリングスペシャルに「そこまで貧乏くん」という読切を掲載した作者が斎藤ひさのりという名前だが同一人物だろうか。内容はクラスのマドンナである薫の父が営む何でも屋でバイトする事になった勉が、やくざの出入りの代行として薫らと共に武器を持って乗り込むバイオレンスコメディ

 短評(赤塚不二夫)なかなか軽快な絵と内容である。両方のバランスが良くとれていて、見せ場の描き方もうまい

 

 赤塚賞佳作 懲りねえ奴ら 中森健太

 

 作者については調べても何もわからなかった。内容は禁煙条例が施行された東京で繰り広げられる、禁酒法時代のアメリカのような騒動を描いた風刺の効いた作品

 短評(糸井重里)もう少し磨けば、面白くなったなったような気がする。首都が変わるというのは、新鮮だった

 

 赤塚賞佳作 駅員物語風に立て 渡辺隆

 

 作者はお笑いコンビ錦鯉の突っ込みの方と同じ名前の為、調べてもそっちしか引っ掛からなかった。内容は暴力的な松田や助平な美濃島など相州鉄道山戸駅の個性的な駅員たちが勤務中に引き起こすトラブルを描いた駅員ギャグ

 短評(コンタロウ)設定はちゃんとこなしている。時限爆弾を中心とした話にして、キャラクターを盛り上げたかった

 

 以上、全10作品を読んで思うのは、新人漫画賞という性質上当然ではあるのだが、今になってはネットで調べても出てこない作者だけでなくあの冨樫義博も含めて皆未熟であるし、正直読んでいてキツい作品も少なくないという事だ。だが、逆に言えばジャンプで読めない原石のような粗っぽい輝きを放つ作品揃いであるので、そういう作品が読みたい方にはお勧めである。…といっても、殆どの人が出ている事も知らなかったような本が沢山流通している訳もなく、電子書籍化されているもの以外は入手困難で私も20冊のうち半分程度しか入手出来ていなかったりする