黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

198X年 世界は核の炎につつまれた

 見出しを見て「間違っているぞ。198X年じゃなくて199X年だろ」と思う方もいるかもしれないが、間違いではない。紹介する作品が「北斗の拳」だったなら間違いだっただろうが、残念ながら「北斗の拳」は短期終了作品ではないので当ブログで扱うのには不適格であるから。…いや、全然残念ではないだろうが

 そうではなく今回紹介する作品はこちらの作品だ

 

 飛ぶ教室(85年24号~38号)

 ひらまつつとむ

 

 実は作者の作品を紹介するのは今回が初めてではなく、作者は以前に鷹沢圭というペンネームを使用しており、その名義に描いた「マッドドッグ」を紹介していたりする。なので、作者の経歴は下の記事を参考にされたし

 

shadowofjump.hatenablog.com

それにしても絵柄が変わり過ぎだ

 「マッドドッグ」の終了後、84年フレッシュジャンプ7月号に本作品のオリジナルでありタイトルも同じ「飛ぶ教室」を鷹沢圭名義のままで掲載。そして翌85年24号からペンネームをひらまつつとむに変更して連載が開始されたのであった

 物語は埼玉県立第八小学校の6年生である安田オサムがガールフレンドのみつ子とデートしている最中に突然天変地異が起き、街が壊滅してみつ子が倒壊した建物の下敷きになってしまう。と思いきや、それはオサムの見た夢であった…のだが、目を覚ましたオサムの眼前に広がるのは夢と大差ない荒廃した風景だった。という二重にショッキングなシーンから始まる。一カ月前の198X年9月3日、突然東京に水爆が落ちた為だ

 オサムは学校に建てられたシェルターに避難して助かったが、同じように助かったのは小学生が122人、大人は避難の際に子供を庇ってケガをした為に満足に動けない北川先生しかいないという絶望的な状況の中、オサムたちは今を生きる為、そしているかどうかわからない他の生存者を探す為に奮闘する。というのが本作品あらすじである

 私が本作品を読んで強烈に感じたのは生々しさである。同じく核戦争後の荒廃した世界を舞台にしながらも、現代社会とはかけ離れ過ぎてそこが日本なのか、そもそも地球なのかも定かではなく(一応日本であるかのような描写があるが)、食料の確保も厳しい筈なのにケンシロウがどうやって食いつないでいるのかわからないという、ある意味ではファンタジーな「北斗の拳」(別にそれが悪いと言う気は無い。方向性の問題である)とは違って、本作品は埼玉という馴染みのある土地を舞台にし、デパートなど現代的な施設が登場するので身近に感じられるし、それが核でメチャメチャになっているという事でショックも大きい

 そしてそんな世界で助けはいつ来るのか? それまで生きていけるのか? そもそも助けが来るのか? 日本は、世界はどうなっているのか? と物質的にも精神的にも不安になるオサムたちが、それでもなんとか生きていこうと食料や他の生存者を探して荒廃した街を徘徊する姿は、当時は東西冷戦の真っ只中でちょちょこちょこ核戦争の可能性が取りざたされていたという事もあって、現実もこうなるかもしれないのかと不安になる読者もいただろう。…まあ、生々しくはあるがサンシャインビルが埼玉まで吹っ飛んできたのに原型を保ったまま地面に逆さに突き刺さっているなど突っ込みどころも多いし、ご都合主義的な展開も少なくないので決してリアルとは言えないのであるが、完全にリアル寄りにすると漫画として面白みがなくなるのでそれはそれで良し

 さておき、明日をも知れぬ世界を懸命に生きているオサムたちの姿に私は読んでいて息苦しさを感じながらも引き込まれていったものである

 そんな本作品は結局15話にして終了してしまう 

 だが、終了の理由は例によってアンケートが奮わなかったからではないという

 作者の公式サイトによると人気はまずまずで普通なら続けられるレベルであったのだが、核、放射能といった重いテーマを持った本作品を掲載するのは部数を飛躍的に伸ばして存在感も増しているジャンプにはリスクが高すぎると編集部から終了を打診され、それを突っぱねる程の自信が無かったので了承し、14話15話を急遽作り変えて無理矢理終わらせたという事だ

 そんなリスクは最初からわかっていて連載を決定しただろうに途中で尻込みした編集部は格好悪いと思うし、作品が中途半端な形で終了してしまうのは非常に残念な事である

 だが、私見ではあるが本作品は物語的に描くべきものは既に粗方描かれており、あとはどうオチをつけてそれに向けて筋道を立てていくかというくらいだったので、付け足すにしてもあと数話くらいしか必要無かった思う。それがなまじ連載が続いてオサムたちのサバイバル生活が長くなってしまうとなると、知識も技術も力もない子供だけのコミュニティが過酷な状況の中で生き永らえるとも思えず、生き永らえたら生き永らえたでご都合主義が酷過ぎて本作品の持ち味である生々しさが失われるだろうから、この話数で終了したのはベストではないもののベターなのかもしれない

 そんな本作品のジャンプコミックス版は当然絶版であるが1、2巻をまとめた上、続きを描き下ろした166ページの新作まで収録した完全版と、さらにその続きを描いた完全版2が潮出版から発売されていて現在でも入手可能である…のだが、ボリュームたっぷりとはいえ1冊4400円という値段はなかなか手を出しにくいところだ。かくいう私も、伝え聞くところによると続きはファンタジー溢れる内容になっているという事なので値段よりもそっちの理由で購入を躊躇していたりする