黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

黄金期ジャンプで最も多くの作品を連載した男 その2

 前回に引き続いて黄金期ジャンプで最も多く、実に6つもの作品を連載した2人の漫画家の片割れである次原隆二(もう1人は桂正和)の短期終了作品を紹介したい

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 前回紹介した2作品は自身の代表作である「よろしくメカドック」の影響が色濃い自動車、バイク漫画であったが、それが挫折した事で作者は方向転換を図る

 

 そんな訳で今回紹介するのはスポーツ漫画路線に舵を切った作品でまずこちらから

 

 隼人18番勝負(89年23号~39号)

 

 佐々木小次郎の末裔である剣術少年の佐々木隼人が巌流島決戦の借りを返す為宮本武蔵の末裔に勝負を挑もうと上京したところ、当の武蔵の末裔である宮本駿とその息子である剣吾はなんと剣術家をやめてゴルファーに転向してしまっていた。憤懣やるかたない隼人はゴルフ評論家である塚本の薦めもあり自らもゴルファーに転向、刀をクラブに持ち替え打倒宮本一族を目指すというゴルフ漫画

 ゴルフというとオッサン向けの題材に思われるかもしれないが、ライバル誌を見るとサンデーでは坂田信弘原作万丈大智作画の「DANDOH‼」、マガジンではちばてつやの「あした天気になあれ」、ジャンプでも黄金期ではないが鈴木央の「ライジングインパクト」に金井たつおの「ホールインワン」とヒット作があり意外と少年誌でも多かったりする。「プロゴルファー猿」なんかは更に低年齢向けのコロコロコミックにも連載されていたし

 本作品は小次郎になぞらえて隼人に長尺クラブ「飛燕零」を持たせたり、武蔵になぞらえて宮本剣吾は右でも左でも打てる二刀流にしたりと設定を生かした部分はあるのだが、塚本の娘に連れられて一見関係の無い射的をやる事でクラブの握り方を覚えるなど「ベスト・キッド」他多くの作品で見られるありきたりな部分も多く、ゴルフ漫画としてはリアル寄りかフィクション寄りか中途半端で17話にして終了してしまう。ジャンプでやるならばもっとフィクションに寄せて豪快な嘘をついた方が良かったのではと思わせる作品である

 連載終了後も本作品に強い思い入れがあったのか同年48号には同じくゴルフ漫画「もったり純平」を、更に90年増刊サマースペシャルに今度は佐々木小次郎ではなく宮本武蔵の血統にスポットを当て時代劇漫画「浮世傘竜之介」を掲載するがどちらも連載化を果たせず、別のスポーツに乗り換える事になる

 それがこちらの作品だ

 

 ドンボルカン 聖なる男の伝説(91年27号~38号)

 

 本作品は単身ドミニカに渡った投手の轟嘩太郎が逆輸入でイーグルス(といっても楽天イーグルスでなく架空の球団。時代的に楽天イーグルはまだ存在していない)に入団し、球界に旋風を巻き起こすプロ野球漫画である

 轟は高校時代に野球部のマネージャーが暴走族に絡まれているのを他の部員と共に助けようとした結果、キャプテンは轟を庇って死亡、本人も大怪我を負った上に野球部は解散となってしまう。それでも野球を諦められない轟は怪我が治るとドミニカに渡り、イーグルスが現地に設立したイーグルスベースボールアカデミーに入学。そして三年後、ドラフト外イーグルスに入団した轟は7対0と既にチームの敗戦が決定的となった巨人との開幕戦のマウンドにリリーフとして立つのであった

 という感じで基本的に轟はリリーフ投手である為試合全体ではなく1つの打席にドラマを見せるタイプである。轟自体はスキンヘッドに加えひたいに大きな傷跡があるというインパクトのある見た目な上、肝が据わっていてマウンドでも物怖じせず外国人選手に中指を立てるなどヒール的な側面を持つのは良いのだが、普段は好青年という味付けのせいでキャラが陳腐になってしまっているし、各エピソードもかつての大打者で衰えたベテランとの引退を賭けた勝負など、どこかで見たようなありがちなものが多く新鮮味に欠ける印象だ

 更に作品自体とは関係ない問題もある。本作品の連載が開始される2号前に同じく野球漫画、それもプロ野球が舞台で入団したのが弱小球団というところまで一緒な「ペナントレース やまだたいちの奇蹟」の連載が開始されていて人気を取り合う形となってしまったのだ。それにしても、ここまで設定の被る作品を同時期に開始するなんてジャンプ編集部は何を考えているのだろう。先日放送された「踊る!さんま御殿‼」にゆでたまご嶋田隆司が出演した際、ジャンプでは連載作家も編集者も互いをライバル視しているというような事を話していたが、それ故に情報を秘匿しあって連携が取れていないのだろうか

 さておき、野球漫画同士の争いとなっては「県立海高校野球部員山下たろーくん」をヒットさせているこせきこうじに軍配が上がるのは必定で本作品は11話で終了してしまう

 

 そして「よろしくメカドック」を踏襲した自動車・バイク漫画路線に続いてスポーツ漫画路線でも2回続けて短期終了してしまった作者は更なる路線変更を求められるのであった