黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

黄金期ジャンプで最も多くの作品を連載した男 その3

 今回も黄金期ジャンプで最多、実に6つもの作品を連載した作品の片割れである次原隆二の短期終了作品を紹介したい

 前々回に紹介した2作品は自身の代表作である「よろしくメカドック」の影響が色濃い自動車、バイク漫画2作品で、その路線が挫折して方向転換を図ったのが前回紹介したスポーツ漫画2作品だった

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

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 そして、スポーツ漫画路線も挫折した作者はまたも方向転換を図ってこちらの作品を連載する事となる

 

 東京犯罪物語 菩薩と不動(94年41号~49号)

 本作品は山の手署刑事課に配属された新人の伊達聖人と、コンビを組むベテラン刑事の平井賢三を始めとする刑事課の面々が織りなす刑事漫画である

 伊達は正義感が強いがお人好し過ぎる為に犯人に騙され事件を悪化させる事もしばしば。一方平井は犯人逮捕の為なら手段を選ばず問題行動も多いという真逆のタイプのトラブルメーカーである2人が時に反目しあいながらも協力して事件に取り組み、そこに刑事課の個性的な面々と人情噺が色を添える。…という説明をされたら頭の中でなんとなくイメージ出来るものがあるだろう。本作品はおそらくそのイメージから殆ど外れていない内容となっている

 ところで前回、前々回と私は作者の作品群に厳しい言葉を並べてきたが、実のところ個人的には嫌いどころか楽しんで読んでいたし、当時はお金が無くて短期終了作品の単行本はあまり買えず、これまで当ブログで紹介した作品の多くは後になって買い集めたものなのだが、「ロードランナー」、「隼人18番勝負」、「ドンボルカン」、おまけに短編集の「F1倶楽部」はしっかり当時に購入していたりする。…「隼人18番勝負」以外は見つからなくて買い直すハメになったが

 そんな私であるが、本作品については正直つまらないとしか言いようがない。昭和の古臭い刑事ドラマの典型のようで、主人公の伊達も相棒の平井もよくあるテンプレキャラ、どうせこんな展開になるんだろうなという予想がほぼその通りになるという悪い意味で予想を裏切らない退屈な作品である。私がジャンプを購読していた時期は、せっかくお金を出して購入したのだからという貧乏人根性もあって基本的に全ての作品を複数回読み直すのが常であったのだが、本作品についてはあまりに退屈で一度流し読みするだけで読み返す事は無かった程だ

 わりと作者に好意的な私でさえこの有様なのだから他の読者の人気を得られる訳もなく、本作品は作者の作品の中でも最短、黄金期ジャンプの連載作品全体でも「セコンド」の6回に次ぐ2位タイの9回という回数で終了してしまった

 

 

 さて、ここまで3回にわたって紹介してきた作品と「よろしくメカドック」を合わせた6作品で作者がジャンプ黄金期に連載した作品は終わりになるのだが、実はもう1つ作者が関わった作品が存在する

 それがこちらの作品だ

 

 元気やでっ(95年14号~24号)

 山本純二次原隆二土屋守

 


 本作品における次原隆二の役割は作画でも原作や原案でもなく脚本・構成・演出という微妙なポジションの為に作者の連載作品としてカウントしなかったが、カウントするならジャンプ黄金期の連載作品は7つとなり単独トップに躍り出るし、こちらも単行本は1巻完結な為短期終了作品も6となる

 さておき、本作品は娘がいじめにあった事実を基にして土屋守が書いた「私のいじめられ日記」を原案にした学園漫画である

 原案の土屋守は本作品の原案となった「私のいじめられ日記」の他にもいじめに関する書籍が幾つも出版されている精神科医。作画担当の山本純二は91年に「南風からから」でホップ☆ステップ賞佳作受賞、同年増刊オータムスペシャルに掲載されてデビューを飾り、その後94年ウインタースペシャルに「南風の吹く季節」、95年ウインタースペシャルに「はっぴいべる」の掲載を経て本作品で本誌デビューにして初連載を果たしたのであった

 主人公の佐伯幸子はそれまで仲良く接してきたクラスメイトの伊藤京子から突然いじめを受けるようになり、周りのクラスメイトも自分に被害が来ないようそれに同調、クラスで孤立してしまう。日々エスカレートするいじめに耐えられなくなった幸子は意を決して担任の上沼に相談するも、事なかれ主義の上沼はいじめではなく悪ふざけだとして根本的な解決をしようとせず、見かねた親友の内田優香や教育実習生の榊が周りに働きかけてもまともに話を聞いてもらえない。そして、どんどん追い詰められていった幸子は自殺を考えるようにまでなってしまう。…といった辛気臭い内容で、気分が沈んでいる時に本作品を読むと更に気が滅入ってしまうので注意が必要だ

 そんなあからさまにジャンプの雰囲気にそぐわない本作品が何故連載されたかというと、この時代のジャンプはいじめ問題に関するキャンペーンを展開していて、いじめについて真剣に考えるJ’sサークルというコーナーを設けると共に本作品の連載を開始、同年48号には飛鷹ゆうきが実際にあったいじめ事件を基に描いた読切作品の「彼女の告白」が掲載されるという力の入れようであった

 いじめは許されざる卑劣な行為だと建前ではなく本気で思うし、いじめ問題に警鐘を鳴らす事自体は悪くない事だとも思う…が、やるべき場所を選べと言いたい。人々はジャンプに求めているのは娯楽である。娯楽を求めてジャンプを手に取った人々が本作品を読まされたところで冷や水をぶっかけられたような気分になるだけでいじめについて真剣に考えようなどと思う訳がない

 結局本作品は原案がボリュームが無い事から元々長く連載させる気も無かったのだろうが11話で終了、J’sサークルも一年ももたず気がつくと件のキャンペーンなど無かったかのようにジャンプは元の誌面に戻ってしまっていた

 そして次原隆二の脚本・構成・演出という仕事もなかったかのように漫画家に戻るものの、その後ジャンプで連載を持つ事は無かったのであった