黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

孫悟空になれなくて

 ご存じの通りジャンプの黄金期は「DRAGONBALL」と「SLAM DUNK」の二大看板が牽引していたのだが、両者のうちでもジャンプにより強い影響を与えたのは黄金期の始めから連載していた、というよりその連載開始こそが黄金期の始まりを告げ、ジャンプ=バトル漫画という印象を決定的にした「DRAGONBALL」だろう

 などというと、鳥山明の作品を紹介するのかなと思うかもしれないがさにあらず。今回紹介するのはこちらの作品である

 

 アニマル拳士(86年14号~23号)

 やぎはし正一

作者自画像

 

 作者は80年に八木橋正一名義の「僕心愚」でちばてつや賞佳作受賞、翌81年ヤングマガジン増刊号に「僕心愚」が掲載されてデビューを飾る。82年には「燃える純」で手塚賞佳作を受賞し翌83年にフレッシュジャンプ4月号に掲載される。同年「バトル OF V」で再び手塚賞佳作、84年にやぎはし正一とペンネームを変えて「悪魔の剣」で手塚賞準入選を果たし翌85年にフレッシュジャンプ2月号に掲載。同年増刊スプリングスペシャルに「格闘学園No.1!」、サマースペシャルに「ミラクルモンキー健太」を掲載、そして翌86年14号から本作品で本誌初登場にして連載デビューを飾ったのであった

 さておき、上の単行本のカバー画像を見れば、私が何故冒頭にあんな話を持ち出したのかお分かりだろう。拳法着を着た無邪気そうな少年が主人公の漫画、それも掲載誌がジャンプとくれば「DRAGONBALL」を連想せずにはいられないではないか

 別に本作品は「DRAGONBALL」をパクったなどという気はない。主人公である豹堂いづるは見た目だけじゃなく、あまり深く考えない性格も孫悟空を彷彿させるが、話的には格闘技の学校である爆風学園の園長に才能を見込まれたいづるが、動物になりきる事でその本能的な力を引き出して敵を攻撃する究極の拳法である野生拳の後継者となるべく修行するという学園拳法漫画であるから方向性は違う

 また、拳法を題材にしたのも単行本カバー折り返しの作者あいさつによると、野生拳は高校生のときから考えていた拳法で、野生拳をテーマとした作品はそれまでも書いていてようやく本作品で陽の目を見たとの事だから元ネタとしたのは「DRAGONBALL」ではなく香港のカンフー映画、特にジャッキー・チェンの「○○モンキー」シリーズ作品ではないだろうか。それは本作品以前に描いた読切作品の中にもカンフー漫画がある事からもうかがえる。思えば「DRAGONBALL」の鳥山明カンフー映画が好きで戦闘シーンはその影響を受けているというから、そういう意味では本作品が「DRAGONBALL」をパクったのではなく、両作品が同じネタ元をルーツにする兄弟分だと言えるかもしれない

 ただ、ルーツは同じでも本作品は「DRAGONBALL」と比べると格段に見劣ると言わざるを得ない…そもそも「DRAGONBALL」と比べても見劣りしない作品なんて殆ど無いというのはさておき

 まず気になるのは対象年齢の狭さである。「DRAGONBALL」は悟空のキャラと単純なストーリーから低年齢層に好まれる一方で、洗練された絵柄や迫力ある戦闘シーンで年長者にも受け入れられる幅広さがあるのに対し、本作品の主要キャラは年寄りも含めてどいつも見た目は幼く、性格的には身勝手で好き勝手な行動を取るためにストーリー展開も唐突かつ強引で、まるでコロコロコミックの漫画を読んでいるようで年長者に受ける要素が見当たらないのだ

 別にコロコロコミックを貶すつもりはない。私自身も昔はコロコロコミックを楽しく読んでいたし、今でも当時の作品を懐かしむ事がしばしばあるくらいだ。だが、楽しめるのはせいぜい小学生の頃までで、それより上の年代の人が読むとガキ臭くてとても読めたものではない。本作品の掲載誌がコロコロコミックならば読者層と合致しているのだが、ジャンプの読者層は編集部の想定が10歳~15歳で、実際はもっと上に広いからかなりの読者を最初から切り捨ててしまっている

 それでも低年齢層の支持率が高いのならいい。低年齢層をジャンプに引き込む導線となる作品は必要だし、実際「まじかる☆タルるートくん」や「地獄先生ぬ~べ~」あたりはそうであろう

両作品はアニメ化やゲーム化する程の人気であったし(画像に他意はありません)

 だが、本作品がそうなるには拳法漫画、バトル漫画としての魅力が少な過ぎた

 何より問題に感じるのは必殺技を大切にしていない事である。「DRAGONBALL」ならかめはめ波、「聖闘士聖矢」ならペガサス流星拳、「幽☆遊☆白書」な霊銃と、有名なバトル漫画にはそれぞれ作品を代表する必殺技が存在している

バトル漫画じゃなくてもこんなのもある

 これらの技は作品内で最強ではないが最初期に登場したからインパクトが強く、その後もしばしば使用されるからこそ読者の印象に残り続け作品の象徴となり得る訳である

 一方、本作品を見ると、一番最初に使う風鷹拳なんかは元々父親が生み出した拳法であり、作品内でまともに説明されている数少ない技であるからまさにそのポジションにふさわしいのに、入学試験が終わったら使われなくなってしまっている。その次のエピソードであるリスを捕まえる特訓なんか、実際に小動物を捕食している鷹を模した技である風鷹拳はうってつけの技である筈なのに何故か試そうともせず、リスを模したリスのキャノンボールランなる技で捕まえてるし、その直後の話になるとキャノンボールランも使わなくなりチーターの速行という同じような技を使っていたりとコロコロ使う技を変えてしまっている。おそらくはいづるが動物の動きを学んで次々と新しい技を覚えていくというのを作品のコンセプトにしているのかもしれないが、まるで使い捨てるように次から次へと新しい技が出てくるせいで印象に残る技が何もない

 加えてバトル漫画の肝である戦闘シーン自体も迫力がないので、最近になって単行本を購入して読み返すまで私が本作品について憶えているのは、蛇拳使いの女拳士が服をひん剥かれているシーンがエロかったという事だけであったし、そのエロさにしても上に挙げた「まじかる☆タルるートくん」や「地獄先生ぬ~べ~」、そして初期の「DRAGONBALL」のノーパンブルマに及ばないとあっては連載が続くわけもなく、本作品は僅か10話にして終了と相成ってしまった