黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

初代Mr.ジャンプとの別れ

 当ブログでは前回の「猛き龍星」、その前の「男坂」と2度続けて「男一匹ガキ大将」を参考にした作品を紹介した

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 であるならやはり「男一匹ガキ大将」も紹介するのが筋であろう。…と言いたいところだが、同作品は連載が終了した時ですら私が生まれる前という事もあってあいにく未読である

 いや、未読だったら今から読めばいいだけの話じゃないか、という意見もあるだろうが、そんなに昔の作品を、しかも齢を取って余計な知恵や常識がこびり付いた今になって読んだところでフラットな評価など出来る筈もないし、無理にここで紹介せずとも紹介している所はいくらでもあるので無しとさせて頂く

 

 代わりに紹介するのは「男一匹ガキ大将」と作者が同じこちらの作品だ

 赤龍王(86年13号~87年12号 スーパージャンプ87年2号3号)

 本宮ひろ志

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 さて、作者である本宮ひろ志は「男一匹ガキ大将」でジャンプの黎明期を牽引し、その影響を受けた多数の漫画家もジャンプで連載を持つようになるなどその貢献は非常に大きく、また、編集部の待遇も格別であった事から、もしMr.ジャンプという称号があるとしたらその初代は作者しかいないと以前紹介した「ばくだん」の記事でも述べた

 

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 そして85年30号で「ばくだん」の連載が終了してから約半年後の86年13号から連載が開始されたのが本作品だ

 そんな本作作品は、古代中国の秦帝国末期から漢王朝成立までの時代、所謂項羽と劉邦の物語を描いた歴史漫画である

 さて、作者の作品で中国の歴史を描いた作品と言えば、本作品より以前にジャンプで連載された三國志漫画の「天地を喰らう」が有名であろう

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画像は文庫版です

 そちらの方がのっけから竜王だの呑邪鬼だのが出てきてファンタジー丸出しなのに比べると、本作品は比較的史実に忠実な話となっている。と言っても、全く史実通りという訳でもなく、例えば自分はかなり後になるまで史実だと疑わなかったが、虞美人が項羽と出会う前に劉邦の嫁になるというエピソードなど、細かく見るとフィクションも少なくなかったりする

 始皇帝が死に、宦官趙高の専横による秦帝国の弱体化。陳勝呉広頭目とした大規模な農民反乱。そして、かつて秦に滅ぼされた楚の名将の家系である項梁の挙兵と続く激動の時代の群像劇。前述の「天地を喰らう」もだが、こういった歴史物語と作者の画風、キャラ作りは非常に相性が良い。特にろくでなしで戦下手ながらも不思議な魅力を持ち人を惹きつける劉邦は、「男一匹ガキ大将」の戸川万吉などに見られる作者の得意なキャラとあって生き生きと描かれている。そして項梁の甥という良血にして無類の戦上手であり、その鬼神の如き強さによって人を押さえつける項羽という対称的な2人を軸に、張良韓信、黥布といった英傑が色を添える中国の覇権争いは読み応え充分である

 …のだが、私がそう感じたのは連載当時より数年経ってからの事で、リアルタイムで読んでいた頃は正直第一話冒頭で始皇帝が放った「煮殺せィ‼」という台詞が印象的だった他はあまり興味が持てなかった。なにしろ作者の作品の対象年齢は年々上がっていっているのに対し、当時の私はジャンプの読者層の中でもかなり年齢が下の方であったから趣味が合う筈もない

 それに加えて、歴史漫画は基本的に読者の食いつきが悪いものである。それでも「花の慶次」のように日本のものであったり、「天地を喰らう」のように中国のものでも三國志という比較的有名な時代を扱っているのならまだ親しみもあるが、当時の私もそうだったが項羽と劉邦の時代なんて知りもしないし知りたくも無いという読者の方が多かったであろう

 

 ところで、本作品の連載が始まるのと前後してジャンプを取り巻く環境に大きな動きが2つあった。まず1つは「DRAGONBALL」のTVアニメが開始され、ジャンプの中心と言える作家が名実ともに作者から鳥山明へと移った事。もう1つは編集長が第3代の西村繁男から第4代の後藤広喜への交代である

 作者が編集部から格別な待遇を得ていたのは、その実績、影響力もさることながら、初代担当であり、作者に対する思い入れが強い西村が編集部内に影響力を持っていたという要因も強く、その西村が編集長を退いたという事実は作者が後ろ盾を失った事を意味する

 無論、編集長を退いたとはいえ、その影響力が一掃された訳ではないし、後任の後藤広喜を始め多くの編集者は西村の薫陶を受けて育ったのだから急に掌を返されたという事はなかったと思われる。だが、取り巻く環境の変化に居心地の悪さを感じていただろう事は想像に難くない

 そして、本作品は一年連載が続いた後、西村の後を追うようにその西村が編集長を務めるスーパージャンプに連載の場を移し(結局スーパージャンプでは2回しか掲載されなず、最終的には描き下ろしで完結させたが)、作者はその後92年9号に高橋三千綱原作の読切作品である「父の耳 オンザティ」を掲載したのを最後にジャンプから姿を消したのであった

 

 なお、余談ではあるが、本作品の最終回になると主役であるはずの劉邦が天下人へと成り上がっていく様は権力欲に取りつかれた俗物のように描かれ、逆に天下から滑り落ちていき敗北を受け容れながらも超然とした態度で最後の闘いに赴く項羽の方が主人公であるかのように描かれている。単行本最終巻のカバーに描かれているのも劉邦ではなく項羽と虞美人だし。このあたり、当時の作者の心境が項羽に投影されているといった見方は穿ち過ぎであろうか

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タイトル文字の色も最終巻だけ赤ではなく青になっている

 

ガキ大将に魅せられた者たち

 前回の「男坂」の記事において、同作品は本宮ひろ志の「男一匹ガキ大将」を参考にして描かれたという事を述べた。ところで、黄金期ジャンプの連載作品の中には「男坂」以外にも「男一匹ガキ大将」を参考にした作品が存在する事をご存じだろうか

 その作品とは、今回紹介するこちらである

 

 猛き龍星(95年21・22号~48号)

 原哲夫

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作者自画像



 作者は高校時代からジャンプ編集部に原稿持ち込みをするようになり、卒業後は小池一夫主宰の劇画村塾で学びながら、初代担当にして後に第5代編集長となる堀江信彦の紹介で高橋よしひろのアシスタントを務める。そして82年、「スーパーチャレンジャー」でフレッシュジャンプ賞入選、同作品が4月増刊号で掲載されてデビューを飾る事となる。同年フレッシュジャンプ8月号に「マッドファイター」を掲載、そして43号に「クラッシュヒーロー」で本誌初登場、その僅か二週後である45号から「鉄のドンキホーテ」で連載デビューを果たしている

 同作品は10話であえなく終了してしまうが、翌83年フレッシュジャンプ4月号と6月号に掲載された「北斗の拳」が好評で、連載化にあたり原作者として武論尊を迎えてタイトルもそのままに同年41号から開始した同作品については説明は不要であろう。そして88年に「北斗の拳」が終了した後、同年52号からは以前紹介した「CYBERブルー」の連載を開始するも、31話で終了してしまう

 

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 その後89年50号に隆慶一郎歴史小説一夢庵風流記」を原作とした読切「花の慶次」を掲載、90年13号から「花の慶次 雲のかなたに」(以下「花の慶次」)として連載を開始し93年33号まで続く。94年12号からは同じく隆慶一郎の「影武者徳川家康」を原作としてタイトルもそのままの「影武者徳川家康」の連載を開始して95年13号まで。そして「影武者徳川家康」の終了から僅か二ヵ月後の21・22合併号から連載が開始されたのが本作品である

 

 まず本作品の見どころの1つとして、下の画像を見ていただきたい

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 見どころも何も、ただ作者の名前が書いてあるだけじゃないか、と思う人もいるかもしれないが、それは半分正解で半分間違いだ。正しくは作者の名前だけが書いてある、つまり、原作者がいないのである。「北斗の拳」は武論尊、「花の慶次」と「影武者徳川家康」は隆慶一郎、「CYBERブルー」はBOBと、作者の作品は大抵原作がついているのだが、本作品は連載デビュー作の「鉄のドンキホーテ」以来の原作がついていない連載作品なのだ。…まあ、前述の通り「男一匹ガキ大将」を参考にしているのでオリジナル作品とも言いづらいのだが

 さておき、本作品は同じく「男一匹ガキ大将」を参考に描かれた「男坂」と比べると2つの点で大きく異なっている。まず1つは、「男坂」は「男一匹ガキ大将」からあまり設定を変えずバンカラ路線を踏襲している為、当時ですら古臭い印象が否めないのに対し、本作品の設定は(当時の)現代風にアレンジされている事。そしてもう1つは、「男坂」が物語的に「男一匹ガキ大将」の前半部、主に不良同士の抗争を扱っているのに対し、本作品は後半部、社会に出て成り上がっていく様を扱っている事だ

 

 そんな本作品は、16歳にして関東一円の暴走族の総長に登り詰めるも、それから数日のうちに忽然と姿を消した花藤龍星が、二年ぶりに地元の街に還ってきた所から始まる

 街は龍星が不在の間にすっかり様変わりしていた。龍星の後継であった八城は暴力団の蝶栄会に従い麻薬を売るようになり、不良社会なりに形成されていた秩序が崩壊してしまっていた。そんな状態に怒りを爆発させた龍星は八城に、続いて背後にいる蝶栄会の組長である鬼土にも喧嘩を仕掛けていき、その熱い姿は敵対者である鬼土までも魅了してしまう

 そして鬼土はかつて目指しながらも捨てなければならなかった夢を龍星に託し、ある男を紹介する為に流星を香港に連れて行く。そこで出会った条河誠は、香港に日本人による日本人の国家を打ち立てようという野望を持っており、そのスケールの大きさに感銘を受けた龍星は自らも香港で成り上がろうと決意するのであった

 

 舞台を香港に移したのは、「男一匹ガキ大将」の連載当時は日本も最終学歴が高等小学校卒業の田中角栄が総理大臣にまで登り詰めたように裸一貫からどこまでも成り上がる事が出来たが、本作品の連載当時の日本は最早そんな国ではなくなってしまっていたからだろう。この変更は現代で「男一匹ガキ大将」をやろうというのなら妥当ではあるのだが、結果、時代も舞台も変わってしまい、「男一匹ガキ大将」感はかなり薄められた感がある

 とはいえ、本作品は「男一匹ガキ大将」を参考にしたと言ってもあくまで「猛き龍星」なので大した問題ではない。それよりも問題に感じたのは、当たり前であるが作者の別の作品である「北斗の拳」や「花の慶次」と絵が同じ為に、どうしてもそちらの方を連想してしまう事である

 これは作者のみならず、漫画家がヒット作を生んだ後に突き当たる共通の問題だろう。あだち充なんかはどの作品でもキャラが同じ顔に見える為に、自虐交じりで同じ役者が違う役を演じる「あだち充劇団」などと言っているし。特に作者の場合は絵力が強すぎる為にこの問題は顕著で、思えば「CYBERブルー」でも終始「北斗の拳」の幻影がちらついたものである。同様に本先品の場合は龍星の男気溢れる生き様がまるで傾奇者のようである為に、当時の私は「花の慶次」がちらつくどころか「現代版花の慶次的なにか」という印象しか抱かなかった。このあたりは、作者が原作者をつけないのも現代を舞台にするのも久しぶりの為に色々余裕がなく、差別化が充分に出来なかったという面もあるのかもしれない

 そして、その印象が拭えぬまま、本作品は「男坂」より僅か1回多いだけの26回で連載が終了、作者も本作品が最後のジャンプ連載となってしまったのであった

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日本一有名な短期終了作品

 当ブログでは前回紹介した「RASH‼」、そして以前に紹介した「BAKUDAN」を、ジャンプの発行部数という観点から日本で一番読まれた短期終了作品と定義した。だが、両作品は日本で一番読まれた短期終了作品かもしれないが、正直なところ憶えている人も少なく、かつ顧みられる事も殆ど無い為、日本一有名な短期終了作品では無いだろう

 では、日本一有名な短期終了作品とは一体どの作品だろうか?

 日本で一番読まれた短期終了作品には発行部数という客観的指標があるのに対し、この問いには客観的指標がないので、正確なところはアンケートでも取らなければわからない。が、独断と偏見で言わせて貰うならおそらくこの作品になるのではないだろうか

 そんな訳で今回紹介するのはこちらの作品だ

 

 男坂(84年32号~85年12号)

 車田正美

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カバー下のデザインも男らしさが溢れている

 

 作者は高校3年生の時にヤングジャンプ賞に応募するも落選、編集部に落選理由を尋ねに行ったのがきっかけで「侍ジャイアンツ」の作画担当である井上コオのアシスタントとなる。そして74年33号に「スケ番あらし」が掲載されデビュー、同作品は35号でも掲載され、その後連載化もされる事になる。76年には月刊ジャンプ12月号に「みけ猫ロック」を掲載。そして77年2号から「リングにかけろ」の連載を開始すると、これが五年以上も続き、最終回となる81年44号を巻頭で飾る程の人気作となった。82年3・4号からは「風魔の小次郎」の連載を開始し、約二年ほど連載が続く事になる。そして84年32号から連載を開始したのが本作品である

 

 さて、私が本作品を日本一有名な短期終了作品であるとした理由は、勿論伝説の最終回、ラストの1コマからである。当ブログの方針から画像は上げないでおくが、知らない人は「男坂」で検索をかければ当該の画像が腐るほどヒットするだろう

 天まで続く坂道を駆け上がる主人公の後ろ姿とオレはようやくのぼりはじめたばかりだからな このはてしなく遠い男坂をよ…というモノローグ。そして左下で存在感を放っている「未完」というデカデカとした描き文字。そのラストは絶大なインパクト故に「男坂エンド」などと呼ばれており、当ブログとしてはあまり使用したくない言葉だが、打ち切りエンドの代表例として未だに語り継がれ、またネタにされてもいる。その為、短期終了作品でありながら知名度はかなりのもので、Yahooで「車田正美」と検索した場合、作者の代表作であり本作品より遥かに長く連載が続いた「聖闘士聖矢」などを差し置いて関連ワードのトップに本作品が来るくらいである

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 それ程有名な本作品であるが、そのラスト1コマ以外は全く憶えていない、知らないという人も多いのではないだろうか。かく言う私も、当時はまだジャンプを購読する前という事もあり、主人公の名前すら知らなかったりするのだが

 そんな本作品は、九十九里の中学生である菊川仁義が東日本を支配しようと襲撃してくる数多の勢力から東日本を守る為に戦いつつ仲間を集める不良漫画である

 それまで喧嘩で負け知らずだった仁義は、関西を支配する武島軍団の首領である武島将に敗れた悔しさから鬼山の喧嘩鬼の下で修業し、喧嘩の腕だけでなく人間としても格段の成長を遂げた。そこに襲いかかるのは武島軍団だけじゃなく、同じ関東の黒田闘吉連合、更には世界各国の不良界の首領たちで構成されるジュニアワールドコネクション(JWC)のメンバーでありシカゴを支配するフォアマンの尖兵たちと多士済々で、仁義はそれらを次々撃退し、その男気に惹かれた連中が集い仲間がどんどん増えていく

 ところで、本作品はある作品から強い影響を受けているという事実をご存じだろうか? その作品とは、ジャンプの黎明期を支え、ジャンプ作品初のアニメ化も果たした本宮ひろ志の「男一匹ガキ大将」である。黄金期のはるか前の作品であるから単行本を持っているという人は少ないと思うが、もし持っているなら是非読み比べてみて欲しい

 元々作者が漫画家(本人は漫画屋と称しているが)を志したきっかけは、中学生時代に「男一匹ガキ大将」に出会い、自分もあんな漫画が描きたいと思ったからだという。そしてデビューから十年が経ち、ようやく自分の望みが叶った作者のやる気のほどは、1巻のカバー折り返しの作者挨拶からもうかがい知る事が出来る

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 だが、本作品はそんな作者の溢れるやる気に加え、連載初回から3号連続巻頭カラーという破格の扱いで始まったにも関わらず僅か30回で終了してしまい、最終巻となった単行本3巻カバー折り返しには1巻とはうって変わって悔恨の言葉が綴られている

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 いったい本作品の何がいけなかったのか? ハッキリ言ってしまえば「男一匹ガキ大将」を参考にした事だろう。「男一匹ガキ大将」は間違いなくジャンプの黎明期を支えた名作であるが、既に終了から十年以上も経過し、その間に時代も読者も大幅に変わっていた。本宮ひろ志のファンは作者がそうであるように二十歳を越え、その多くはジャンプから離れていたし、「湘南爆走族」や「ビー・バップ・ハイスクール」の登場によって不良漫画の主流はヤンキー路線に移り、「男一匹ガキ大将」や本作品のようなバンカラ路線は古臭いものになっていたのである

 そして何よりも気になったのが、本作品は作者の他の作品、例えば「聖闘士聖矢」ならアテナを守護する聖闘士みたいに設定で豪快なウソをつかず、フィクション色の薄い設定である為に却ってウソ臭く感じて物語に没入できない点だ。なにせ登場するキャラたちは普通とは言えないかもしれないが中学生に過ぎないのに、JWCなる世界的な組織を結成し、徒党を組んで海の向こうまで攻めてくるのである。いくらフィクションでもなんだそれはと思うし、鬼山の喧嘩鬼なんてそのネーミングだけで吹き出してしまうというもので、これでは読者の反応が良くないのも致し方がないだろう

 

 気合充分で描き始めた本作品が短期で終了してしまい、描きたいものとヒットするものは違うという事を痛感した作者は、次回作の「聖闘士聖矢」で思いっきりヒットを狙って、作者最大どころか黄金期ジャンプでも十指に入る大ヒットを生む事になるのは皮肉な話である

 

 ところで、こちらを見て頂きたい

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 実は、本作品がジャンプで終了してから約三十年後の2014年に作者の公式サイトにて本作品が再開に向けて準備中である事が宣言され、同年「週プレNEWS」にて復活、17年からは「少年ジャンプ⁺」に移籍し、単行本1冊分ごとに短期集中連載を繰り返すという変則的な形式ながら現在も続いているのである

 その内容については、ここでは敢えて触れないでおく。気になる方は自分の目で確かめるのがいいだろう

 

 

日本で一番読まれた短期終了作品その2

 今から二十七年前、94年の本日12月20日はジャンプが653万部という最大発行部数を記録した95年3・4号が発売された日である

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 そして、その号に掲載されていた短期終了作品こそ、日本で一番読まれた短期終了作品であるという理屈で以前宮下あきらの「BAKUDAN」を紹介させて頂いた

 

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 だが、実は当該号にはもう1つ、短期終了作品が掲載されていたのである。そう、今回紹介するこちらの作品が

 

 RASH‼(94年43号~95年9号)

 北条司

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画像の人物は槇村香ではなく、本作品の主人公の朝霞勇希です



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作者自画像

 

 日本で一番読まれた短期終了作品とか言っておいて2作品挙げるなんて、一体どっちが本当の日本一なんだと疑問をお持ちの方も少なくないと思う。両作品は1号違いで連載が開始され、連載回数も全く同じなので、「BAKUDAN」のみが掲載されている94年42号の発行部数と、本作品のみが掲載されている95年9号の発行部数を比べれば判明するのだが、あいにくそこまで詳細な発行部数のデータは調べても判明しなかった

 

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 さておき、作者の「こもれ陽の下で…」までの経歴は以前紹介したこちらの記事を参考にされたし

 

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 そして、94年6号で「こもれ陽の下で…」が終了した後、一年も置かずに同年43号から連載が開始されたのが本作品である

 それまで作者がヒットを飛ばした「キャッツ♡アイ」、「CITY HUNTER」は、大人を中心にした都会の香り漂う作品だった。それに対し、作風をガラリと変え、子供を中心にした田舎の香り漂う作品の「こもれ陽の下で…」が自身初の短期終了作品となってしまった訳なのだが、この結果は半ば覚悟していたようである。というのも、作者の公式サイトには「こもれ陽の下で…」の前身にあたる読切の「桜の花咲くころ」の作品紹介に以下のようなコメントを寄せているからだ

 

 少年誌に向かない話だとわかりつつ、『桜の花~』を土台とした『こもれ陽の下(もと)で』という話を強行。案の定一年もたなかったなぁ。

 

 そこまでして描きたいテーマだったのか、それとも、「CITY HUNTER」の連載末期に編集部のゴタゴタに巻き込まれ、連載終了の通告がその僅か四週前だったという事があった為、この時期の作者は編集部に対して不信感を抱いており、半ばあてつけの気持ちがあったのか。どちらにしても、失敗する可能性が高いとわかっているのに連載を強行するという行為は、既に2つも作品をヒットさせている余裕があっての事だろう。だが、それで実際に失敗すると、続けて失敗する訳にもいかず、本作品は編集部の意向もあり、以前の作風に戻している

 そんな本作品は、刑務医、要するに刑務所勤めの医者である朝霞勇希が様々なトラブルに巻き込まれ、あるいは自ら首を突っ込んでは解決していく医療アクションである

 タイトルに使用されているRASHという言葉は無鉄砲という意味がある。主人公の勇希はその言葉通りのトラブルメーカーであるのだが、診察は確かで処置も素早く医者としては優れた腕を持っている

 そんな勇希が目指す医療は、病気を治すのではなく、病気の原因を取り除く事によってそもそも病気にならぬようにする医療である。それは具体的にどんな事をするかというと、娘のストーカーに悩まされて発作を起こした患者を治す為にストーカーを退治したり、麻薬中毒の患者を治す為に麻薬の売人を捕まえようと大立ち回りを演じるといった感じだ。先の医療アクションという説明に、なんだそれはと思った人もいるだろうが、こんな内容だからである

 でも、そう思うのは当然の事で、実際医療とアクションは明らかに食い合わせが悪いと言わざるを得ず、実際に話が進み、アクション要素が増えていくにつれて医療要素がどんどん希薄になっていってしまった

 特に勇希の恩師である新田唯法が登場してからはそれが顕著である。新田は勇希の憧れの人物で、彼女が目指す病気の原因を取り除く医療の先駆者なのだが、理想が暴走してしまい、麻薬中毒患者を無くすには麻薬を供給する者たちを完全に除去、つまり殺すべきと考えるようになり、実際殺人を犯して勇希の勤務先である刑務所に収監されていた。そして最終的に新田は再び殺人を犯す為に脱獄し、それを止めようとする勇希と対峙するのである

 …いや、もはや医療とか関係無くなってないか。こういった対立はフィクション内だけではなく現実でもままある事だが、犯罪者を殺すか否かという対立の構造は、どう考えても医者のそれではなく警察のそれだろう。医療に関する話も正直最初からそこまで濃くないし、こんな話にするのだったら勇希は警察官という設定にするか、刑務医ではなくもう少し捜査に近い立場の監察医にでもした方が良かったのではないだろうか。そうしておいたら作中で勇希と新田に「でも…それってやっぱ警察の仕事ですよねェ」、「警察にまかせていたからこういう状況になったんだ」という無理めの会話をさせてフォローをする必要も無かったのに

 このあたりのチグハグさは、作者の医療関係の知識の無さから方向転換を余儀なくされたのか、はたまた編集部に対する不信がまだ尾を引いていた為か。いずれにせよそんな状態では読者の心を掴む事は出来ず、本作品は17話で終了となってしまう。そして作者は好き勝手に描いた「こもれ陽の下で…」と編集の要請に応えて描いた本作品と続けて短期終了になってしまった事と、編集部との関係悪化があいまって漫画を描く事がつまらなくなり、漫画家を辞める事まで考えたという

 そして、作者は結局漫画家を辞める事は無かったが、本作品がジャンプ最後の連載作品となり、以後読切を幾つか掲載した後にMANGAオールマン、コミックバンチと活躍の場を青年誌に移したのであった

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「キララ」を継ぐもの?

 前回当ブログで平松伸二の「キララ」を紹介した時に触れそびれたが、その新装版単行本の帯には次のような文言が書かれている

 

 アストロ球団」と「地獄甲子園」をつなぐDNA的作品

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 更に巻末の解説でも、ネット上で漫☆画太郎の「地獄甲子園」は「キララ」にインスパイアされて描かれたのではないかという意見がよく見られるという旨の説が書かれている

 ならば、確かめる為に読み比べねばなるまい

 

 という訳で今回紹介する作品はこちらだ

 

 地獄甲子園月刊少年ジャンプ96年5月号~97年4月号)

 漫☆画太郎(正確には☆の中にF)

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 尚、紹介するにあたって家にある筈の単行本を探したのだが、生憎見つける事が出来なかった。なので、今回は本作品の単行本全3巻を1冊にまとめた編集版である「地獄大甲子園」を使用する事を了承願いたい。まあ、1冊といっても厚さは2冊ぶんくらいあるし、省略された部分は殆ど本筋と関係ない部分なので問題は無いだろう

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 因みに触れられているもう1つの作品である「アストロ球団」は、かなり昔の作品で私が未読であるのと、以前紹介した「戦国甲子園」の記事で最低限の事は書いたので今回は見送らせてもらう

 

 

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 まずは前々回紹介した「まんゆうき」が94年50号で連載終了して以降の作者の足取りを辿っていこう。95年5・6号に「ババアゾーン」、同年9号「家・なき子」と読切が掲載されたのを最後に作者はジャンプを離れ、MANGAオールマン96年2月号から「道徳戦士鳥獣ギーガー」の連載を開始。そして月刊ジャンプで同年5月号から連載が開始されたのが本作品である

 そんな本作品は、星道高校の十兵衛率いるケンカ野球戦士たちが、卑怯なラフプレーの数々で相手を試合放棄まで追い込むという外道高校を打倒する為に奮闘する野球漫画である。…のだが、いつものようにちゃんと完結せず、結局外道高校との試合に十兵衛が遅れて現れた所で終わってしまっている

 対戦相手を故意に傷つけるようなラフプレーも厭わない野球を殺人野球などと形容するが、本作品の敵役である外道高校はその範疇を完全に逸脱しまっている。グランドに地雷を仕掛けるわ、バットを改造して誘導ミサイルにするわと、最早殺人野球というよりは野球殺人である。対する十兵衛も十兵衛で、そんな卑怯な反則などせずとも身体を回転させて勢い良く投げたボールが人体を貫通してしまうというとんでもなさだ。…反則投球だという突っ込みは置いておくとして

 こんな連中によって球場はタイトル通り地獄と化すのだが、基本的にはギャグ漫画であるのと、作者の絵がアレな事が相まってそれほど凄惨さは感じられ無い。とはいえ、身体中に釘が突き刺さったり、後頭部を殴られて目玉が飛び出したりする様は見ていて気分がいい筈もなく、かなり読み手を選ぶ作品だと言えよう。…まあ、作者の作品に読み手を選ばない作品なんてないのだが

 

 さて、一通り紹介したところで本題に入ろう

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 本作品が「キララ」からインスパイアされたものかどうかであるが、読み比べた感じでは、可能性は否定はしないが殊更言う程のものではないというのが率直な感想だ

 おそらくこの説の根拠は、野球漫画としては過大といえるバイオレンス要素が入っているという共通点があり、そして作者はジャンプのGAGキング出身だから元々ジャンプ読者で、「キララ」も読んでいただろうという推測からだろう。だが、バイオレンス度合いにおいては本作品の方がギャグという事もあって比べ物にならない程過激である。また、野球とバイオレンスの両要素が入った作品は、「キララ」と同時期にサンデーでは中原裕が野球漫画であり暴走族の抗争漫画でもある「ぶっちぎり」を連載しているなど、別に平松伸二の専売特許ではない。そしてバイオレンス部分を除いて比較すると、本作品と「キララ」で共通している部分は殆ど無い。強いて言えば本作品では番長、「キララ」ではキャプテンが主人公との勝負に敗れ、改心して仲間になるというエピソードくらいだろうが、この手のエピソードは少年漫画では別段珍しくもなく、両作品の関係を裏付ける根拠としては弱過ぎる

 ところで、黄金期ジャンプには野球漫画では無いが梅澤春人の「BØY」のエピソードの1つに肩繰高校野球部と野球の試合をするというものがあったのをご存じだろうか。その試合はエアガンで目を狙撃したり、しまいにはナイフで襲い掛かったりと、試合におけるバイオレンスぶりでは「キララ」と負けず劣らずである。そして「BØY」のエピソードの方が「キララ」よりも本作品と近い年代に発表されている事を鑑みれば、本作品は「キララ」ではなく「BØY」からインスパイアされて描かれた可能性の方が高いのではないだろうか

 …勿論、本気でそう主張している訳では無い。私が言いたいのはそう強弁する事も出来るという話で、信憑性においては「キララ」と本作品との関連性を主張する説もそれと同じレベルでしかないという事だ

 また、作者は代表作である「珍遊記」が、タイトルからし西遊記のパクりである事からもわかるようにパクりネタの常習犯である。が、作者のパクりは人知れぬように盗用するのではなく、元ネタが容易にわかるからこそネタとして成立するタイプであり、失礼ながらマイナーな作品でネタにならない「キララ」をパクるとも思えないというのも関連性を疑う要因と言える

 以上が私の出した結論であるが、あくまで一個人の見解に過ぎず、人によっては本作品と「キララ」を強固に結びつける共通点を見出せるかもしれない。幸い両作品とも電子書籍化されており入手も容易なので、興味のある方は読み比べてみるのもいいだろう

バットは殴る為にある?

 12月になってもう一週間が過ぎようとしている。年齢を重ねると一年が早く感じるとはよく言われ、若かった頃はそんな訳ねーだろと思っていたが最近は本当に早く感じ、つい最近令和になったと思ってたのに気付けばもう令和3年も終わりである。ここ数年は体の衰えを感じる事も多く、肩が上がんなくなってくるわ腰の痛みは酷くなるわで嫌になってくるな

 などというグチはさておき、年末らしく今年を振り返ってみると、当ブログ的に最大のニュースは、なんといっても岩泉舞の短編集である「七つの海」が未収録作品と描き下ろしの新作を加えて装いも新たに「MY LITLE PLANET」として復活した事だろう

 

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 だが、実は今年復活を果たした黄金期ジャンプゆかりの作品はもう1つあった事をご存じだろうか? それが今回紹介するこちらの作品である

 

 キララ(86年47号~87年11号)

 平松伸二

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 なぜ今年突然復刻したのかというと、単行本の帯にも書いてあるが、今年は作者のデビュー五十周年でそれを記念しての事である。それにしても、一年の間に本作品と「七つの海」(「MY LITLE PLANET」)と正直黄金期ジャンプ作品の中でも知名度が高いとは言えない作品が相続いて新装版として復活するなど世の中とはわからないものだ

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 さておき、本作品は柴虎高校に転校した天才投手の生沢輝良々が、甲子園優勝を目指して奮闘する野球漫画である

 「ドーベルマン刑事」に「ブラックエンジェルズ」と当たり前のように人が死ぬバイオレンス漫画の第一人者である作者が野球漫画を描く事を不思議がる方もいる方もいるだろう。だが、何を隠そう作者のデビュー作で71年50号に掲載された読切作品の「勝負」は野球漫画であり、そういう意味では本作品は作者にとってバイオレンス漫画よりもより原点に近い作品だと言えよう

 それに安心して頂きたい。野球漫画といっても作者が描くのだからまともな野球漫画である訳がなく、当然のようにバイオレンスに溢れている。物語は甲子園東京予選決勝の9回2アウト、あとワンアウトで勝利という場面から始まるのだが、気を抜いてモタモタしていたらいきなり拳銃を持った強盗犯が球場に乱入、輝良々と恋人の斉藤奈美が撃たれてしまい、二人ともなんとか命は取り留めたものの、奈美は半身不随、輝良々は弾丸が心臓のすぐ近くに埋まってしまった為に摘出出来ずに命を蝕み続けるという有様になってしまうのである

 もしあとワンアウトという所で気を抜かずにいたら、試合が早く終わってこんな事になっていなかっただろう。責任と自分の甘さを感じた輝良々は、自らを厳しい環境に置こうと名門の帝城高校から不良の巣窟である柴虎高校に転校し、甲子園優勝を目指すのであった

 敢えて弱いチームに入るという選択は野球漫画に限らずフィクションでは割とある展開である、が何故不良高校なのだろうか。強い弱い以前に不祥事で出場辞退になりかねないのだが。そして案の定野球部の連中はボールを打つよりも人を殴るのにバットを使うような連中だった。真面目に野球をしようとした1年生部員をリンチにかけるし、練習もせず部室で丁半博打をおっぱじめるといったザマで、結局殆どの部員は輝良々との賭けによって退部させられ、残ったのは輝良々の他には前述の1年生部員山田と高校生の分際で彼女に雀荘を経営させているヒモ男のジュン、そして輝良々とジュンに野球、ではなくケンカで敗れて改心したキャプテンの座門のみと、野球をしようにもメンバーが足りなくなってしまう

 それでも女子高生まで狩りだしてメンバーを揃え、野球部の存続を賭けた竜国高校との対抗戦に臨むのだが、相手もこちらに負けず劣らずの不良高校である。試合前には重機を持ち出してを襲撃するわ、試合になったら故意のデッドボールとかバットをすっぽ抜けさせて投手に向かってとばすなんてのは当たり前で、包帯をランナーの足に絡ませて転倒させるわ、麻酔薬を仕込んだ含み針を喰らわせるわと、最早ラフプレーの範疇に収まらないバイオレンス行為を働くのであった

 

 …ここで1つ告白しなければならない事がある。実は私は本作品を間違いなくリアルタイムで読んでいた筈なのだが、話の内容どころかこんなタイトルの作品があった事すら全く憶えていなかったのである。いや、こんなインパクトのある作品を憶えていないとか嘘だろうと思うだろうが、実際に新装版を購読してみても、そういえばこんな話だったなどと思い出す事が全く無かったくらい完全に忘れていたのだ

 何故奇麗サッパリ忘れてしまったのか? 自分なりに考えた結論としてはこうだ。本作品のインパクトはつまるところ野球漫画としては異端すぎる所である。だが、本作品連載当時の自分はまだ幼く、野球漫画はこうあるべきだという固定観念を持っていなかった為にすんなり受け容れてしまっていた為ではないかと

 私に限らず子供というものは総じて人生経験も知識も乏しく、良くも悪くも無垢で柔軟な考えをするものである。なので、今となってはガバガバ設定で散々ネタにされている「キン肉マン」も、当時の低年齢層読者にはそこまで突っ込まれる事なく普通に読まれていたものだ。…あくまで「そこまで」だが

 そして、本作品はこういうものなのだとすんなり受け容れて読んだ場合、作者の代表作である「ブラックエンジェルズ」等と比べると流石にバイオレンス要素は控えめで、野球漫画としては主人公の輝良々以外は野球の実力の凄さを見せる選手がいないので純粋な勝負としては魅力に欠けると、どちらにしても中途半端な出来に感じてしまうのである

 以上はあくまで私の考えであり、正しいかはわからない。ただ本作品は僅か15話で終了しまったという事実が残るのみである。そしてその後作者は以前紹介したように「ドーベルマン刑事」以来となる原作者付きの「モンスターハンター」で連載獲得を目指すが叶わず、黄金期以前のジャンプを支えた作者は静かにジャンプから姿を消したのであった

 

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