黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

二刀流男のラグビー漫画

 現在ラグビーのワールドカップが絶賛開催中である

 前後にバスケットボールのワールドカップやバレーボールの五輪予選など大きなスポーツイベントと日程が被る事や期間中に阪神タイガースセリーグ優勝が決定した事、そして自国開催じゃなくなった事などから、前回ほどの異常な熱狂はないながらも充分に注目度が高く、改めてラグビーというスポーツが定着してきた事を感じさせられる

 という訳で今回はラグビーをテーマにした漫画を紹介していきたい

 

 ゲイン(少年サンデー97年1号~98年35号)

 なかいま強

作者自画像

 

 御覧の通り本作品は短期終了作品でもなければ黄金期どころかジャンプの連載作品ですらないのだが、別にラグビー漫画だからというだけで紹介する訳ではない。以前ラグビー漫画の「ノーサイド」紹介した際に、黄金期ではないがジャンプには他にもこせきこうじが「スクラム」というラグビー漫画を連載していたと触れており、本当はそちらを紹介するつもりだったのに所持している筈の単行本が見つからなかったという事情もあるが、それ以上に紹介したい理由は本作品の作者であるなかいま強がジャンプとサンデーで同時に連載を持っていた稀有な漫画家だからだ

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 とはいえ、ジャンプには有名な専属契約があるので作者の場合はサンデーと同時に連載していたのはジャンプはジャンプでも月刊ジャンプであるのだが、それでも他に実現出来た者が少なくとも私は知らないくらいには貴重である

 作者はちばあきおのアシスタントを経て84年に月刊ジャンプ8月号から「わたるがぴゅん」の連載を開始し、同作品は04年10月号まで二十年以上も続く長期連載となる。と同時に88年にはサンデー19号から「うっちゃれ五所瓦」の連載も開始(91年29号まで)し、89年には同作品で小学館漫画賞少年部門を受賞する

 また、91年にはその2作品と並行して月刊ジャンプ1月号から原作担当として「キック・ザ・ちゅう」の連載まで開始(93年9月号まで)し、更に92年にはミスターマガジンで読切の「佐々霧兵吾円錐剣」の原作まで担当している

 96年にはヤングサンデーで「こんこんちきちき」の連載を開始、そして97年サンデー1号から本作品の連載を開始したのであった。ちなみに、流石に「わたるがぴゅん」との同時連載は辛いのか、「うっちゃれ五所瓦」もそうだったが本作品も度々休載していて楽しみにしていた私を落胆させたものである 

 

 さておき、そんな本作品は、破天荒でこらえ性のない問題児の夏井球生が、偶然出会ったラグビーに熱中していくラグビー漫画である

 主人公の球生がどれだけ破天荒かというと、中学時代は非常用の消火栓で校舎を水浸しにしたり校長の車に火を付けたりととにかく滅茶苦茶で、見かねた母親が高校の三年間部活を続けられたら父親の遺産を好きにしても言われて色々な部活に入部しようとするも速攻で問題を起こして断られるほどだ

 そんな中、サッカー部入部を邪魔された(と球生が思い込んでいる)ラグビー部に殴り込みに行ったらスカウトされてしまい、当初は仕方なしに続けていたがだんだんラグビーに引き込まれていくというのがあらすじである

 競技に興味すらなかった初心者が別の理由から始めてどんどんのめり込んでいくという展開は「SLAM DUNK」などでも見られるスポーツ漫画の王道と言える。そして普通、この手の作品の場合、初心者故の奇抜な発想は生かしつつも練習試合などでの失敗を経てどんどんルールや基本的な動きを覚えていって一端の選手になっていったりするのだが、本作品の場合、球生はまともにルールも覚えないままに話が進み、自分がボールを持っているのに相手にタックルしたり、味方からボールを奪ったりしても注意もされずやりたい放題であるし、性格の方も一向に改善されなかったりする

 そんなだから練習も常識はずれで、エミューを相手に半裸に亀甲縛りされた格好でタックルの練習とか牛を相手にスクラムの練習など滅茶苦茶だが、それでもラグビーを舐めるなとか怒りを感じないのは、本作品に限らず作者のスポーツ漫画はギャグ要素が強いものが多く、球生のような直情的でバカなキャラを描くのが慣れており、それ故にキャラ生き生きしていて楽しく読めるからだろう

 だが、問題もある。作者の他のスポーツ漫画はギャグ要素は強くても安易にギャグに逃げる事は無くしっかりと熱いスポーツ勝負を描いているのに対し、本作品は元々ラグビーというスポーツが1チーム15人と人数が多い上に選手がボールに群がってゴチャつくのでただでさえプレイ風景を描くのが難しいのに、作者がラグビーに詳しくないのであまり熱い勝負が描かれていない、と言うか、そもそもラグビーシーンが少なく試合より練習の方がよっぽど印象に残るくらいなのである

 そんな本作品はラグビー漫画というよりはラグビーをやっている主人公の破天荒さを楽しむ漫画と言った方が正解かもしれない。が、ラグビーの方はせっかく本物のワールドカップが開催中なのだからそちらで楽しんで、こちらはこちらで漫画ならではのハチャメチャさを堪能するのがいいだろう

地獄先生ぬ~べ~30周年記念傑作選を読む

 気付いたのが今更なので恥ずかしい話なのだが、今年の8月24日で「地獄先生ぬ~べ~」の連載が開始して三十周年を迎えたという

 必要ないと思うが一応「地獄先生ぬ~べ~」がどんな作品かを説明すると、童守小学校の教師であり霊能力者でもあるぬ~べ~こと鵺野鳴介が、教え子などに危害を加えようとする妖怪、悪霊の類を左手に宿した鬼の手で退治するという原作真倉翔、作画岡野剛によるホラー漫画であり、当ブログにおいては作品の紹介はしていないが、本作品を原作にしたゲームは紹介済みだったりする

 

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 作品の内容としては学校の怪談的な話を軸に、読者を緊張させ過ぎないように恐怖一辺倒ではなくギャグやお色気シーンを挿入しているので、私などは連載開始時には既に結構な年になっていたのでそれ程ではなかったが、当時低年齢層の読者にの中には恐怖のエピソードの数々にトラウマを、また、お色気シーンの多さに性的興奮を覚えた者も少なくなかったのではないだろうか

 同作品の原作担当の真倉翔、作画担当の岡野剛についてはこちらを参考にされたし

 

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 そんな2人がコンビを組んで93年27号に前身となる「地獄先生ぬ~ぼ~」が掲載され、そして同年8月24日発売の38号で「地獄先生ぬ~べ~」とタイトルを変更して連載が開始されたのである

 さておき、そんな「地獄先生ぬ~べ~」の連載開始三十周年を記念して原作担当の真倉翔、作画担当の岡野剛が自ら選んだ傑作選の電子書籍が現在期間限定で無料配信されているので今回は紹介していきたいと思う

 

 収録エピソードは三十周年に引っ掛けたのか全30編をエピソードの性質毎にガチホラー編、人気キャラ編、セクシー編と3冊に分け10編ずつ収録されている

 各巻の収録エピソードは以下の通りで#は通巻での話数である

 

 地獄先生ぬ~べ~30周年記念傑作選

 ①ガチホラー編



 #9   散歩する幽霊

 #16  真夜中の優等生

 #17  てけてけの怪

 #24  「A」がきた!

 #50  赤いチャンチャンコ

 #73  七人ミサキ

 #129 ブキミちゃん

 #194 見たら死ぬ!海難法師

 #236 メリーさん(前編)

 #237 メリーさん(後編)

 

 第1巻はいかにも本作品らしい学校の怪談的なエピソードが中心。本作品を未読の人でも読めば楽しめるし、本作品がどのような物か理解できるだろう

 

 ②人気キャラ編

 

 #30  なごり雪 季節はずれの雪女

 #67  人魚の恩返し

 #74  霊能力美少女イタコギャル・いずな

 #79  対決!雪女対座敷童

 #102 鬼の手の秘密(前編)

 #103 鬼の手の秘密(後編)

 #110 木枯らしに消えた雪女

 #132 ぬ~べ~・玉藻共同戦線

 #197 激突!玉藻VS.いずな

 #204 童守町最大の決戦!その2 いずなの戦い

 

 ぬ~べ~と教え子たち以外の人気キャラのエピソードを集めたのが第2巻。どうせゆきめとか玉藻とかいずなだろと思っている方もいるだろうが、正解である。その事は表紙デザインや各エピソードのタイトルからも察せられるし

 

 ③セクシー編

 

 #55  妖怪あかなめ

 #71  巨乳妖怪・弥々子河童

 #118 謎の人体発火現象

 #133 お色気妖怪・精霊パウチ

 #213 ゆきめ、禁断の恋⁉

 #214 ハレンチ妖怪・子泣きじじい

 #223 サキュバスインキュバス

 #241 鬼娘・眠鬼現る!

 #242 鬼のパンツはいいパンツ⁉

 #243 鬼の目にも涙⁉

 

 本作品のもう1つの売りであるお色気シーンの多いエピソードを集めた第3巻。と言っても、少年誌故に露出度は高いものの性行為を連想するようなシーンは皆無なので、当時は興奮したけれども今読んでみたらそんなに興奮しないなと思う人も多いかもしれない。…とか言いつつ、男子生徒がパンツにされてしまい、助ける為に女子生徒がそれを履くというエピソードや眠鬼の股間ドアップは破壊力高いと思う

 

 収録作品は以上で、さすがに300話近い中から抜粋しているのでタイトルだけでどんな話か分かる名作も含まれどれも面白く読めた。その上で個人的な意見を言わせて貰うなら私の好きなキャラの篠崎愛の出番が皆無なのが不満だ。百々目鬼のエピソードなんかはガチホラー編でもセクシー編でもいけると思うのだが

 他の人でも「なんであれが収録されていないんだよ」というエピソードは当然あると思うが、そこらへんは枠の関係上どうしようもないし、そもそも無料なのだからあまり文句を言わずに気軽に読んで、読みたかったが収録されなかったエピソードに関しては自分でお金を出して読むくらいの気持ちでいよう

出番がないので代わりにここに載っけておく



代打男の送りバント

 ジャンプの連載作品の入れ替わりサイクルは大体十数号毎に2、3作品を毎号1作品ずつ終わらせて、代わりに新連載作品をやはり毎号1つずつ開始させるのが定番であるという事は、ジャンプを購読した経験がある人ならご存じだろうし、当ブログでも以前に触れた

 だが、中にはそういったサイクルから外れて連載が開始された作品もごく少数ではあるが存在する

 

 という訳で今回紹介するのはそんな作品の1つであるこちらだ

 

 剣客渋井柿之介(89年37号~47号)

 高橋ゆたか

作者自画像

 作者の経歴はこちらを参考にされたし

 

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 「おとぼけ茄子先生」の終了後は89年増刊ウインタースペシャルに本作品のオリジナルでありタイトルも同じ「剣客渋井柿之介」を掲載、更に同年15号、16号と2号続けて同タイトルで掲載された後、37号から連載が開始されたのであった

 そんな本作品は、花のお江戸を舞台に柿のような頭をした浪人の渋井柿之介が騒動を起こしつつ悪者を成敗する時代劇ギャグ漫画である

 柿之介の「限りなく渋い(ニヒルな)男」という異名は渋柿とも掛けているのだろうが、剣術が渋柿殺法という名前からしても「眠狂四郎」をモデルにしたと思われる。のだが、柿之介はその異名とは裏腹に助平なうえ欲の皮の突っ張った俗物で、渋柿殺法も相手の股下をくぐりざまに股間を強打する股下くぐりの剣だの相手の頭髪から下半身に至るまで全ての毛を無くす断毛全身剣だの滅茶苦茶である。また、時代劇といっても設定は適当でセーラー服だのラジカセだのが普通に出て来るし、会話でも横文字が飛び交う「忍たま乱太郎」みたいななんちゃって時代劇である。まあ、ギャグ漫画でしっかり時代考証するのもどうかと思うが

 しかし、各エピソードは悪者が無辜の町民に狼藉を働いているところに柿之介が現れて渋柿殺法で成敗するというしっかりと時代劇してる展開が多く、そこにポンポンと矢継ぎ早にギャグが挿入されていてテンポよく読めるので、私は本作品を気に入っている

 ところで、前述の通り本作品はジャンプの通常の連載サイクルとは外れて、本作品の前に連載が開始された作品が4号前、本作品の後は3号後と、明らかにサイクルのど真ん中という奇妙なタイミングで連載が開始されている

 それは何故かというと単純な話で、萩原一至が「BASTARD‼」の原稿を落として連載が増刊送りになって枠が1つ空いてしまった為、その穴埋めとして急遽連載が決まったからで、おかげで連載第1話の掲載順が15番目となってしまっている。因みにその余波なのか、本作品が開始した少し後で行われた「カメレオンジェイル」から「ダイの大冒険」への入れ替えも妙なタイミングで行われていたりするが、もしかしたら本作品も本来はここのタイミングで「ダイの大冒険」と続けて連載が開始される予定だったのかもしれない

 さておき、そんな経緯で連載が開始されたのだから本作品がジャンプ編集部に期待されている訳も無く、求められているのは「BASTARD‼」打ち切りの混乱から体制が整うまでのつなぎ役であるのだから、11話で終了したのは予定通りだったのではないだろうか

 だが、編集部からすれば本作品はその程度であったかもしれないが、作者からすれば4コマ漫画だった前作の「おとぼけ茄子先生」から通常の漫画にモデルチェンジする為の経験を積めたし、主人公である柿之介の、周りが普通の中1人だけ低頭身という造形は次回作であり作者の代表作となる「ボンボン坂高校演劇部」の徳大寺ヒロミへと受け継がれる事となるなど実り多き作品であった

 そういう意味においては本作品は作者にとって後のヒット作を生む為の大事なつなぎ役だったと言える

ジャンプ黄金期の第4期を掘り下げる

 ジャンプ黄金期を連載作品の入れ替わりサイクル毎に掘り下げる記事の第4弾を

 

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 第4期は85年31号から41号で、連載作品は以下の通り。例によって並び順は連載開始順で、連載回数も併記しておく

 

 こち亀          76年42号 1955話

 キン肉マン           79年22号 389話

 ハイスクール!奇面組   80年41号 339話(「三年奇面組」含む) 

 キャプテン翼          81年18号 356話

 ウイングマン       83年5・6号 113話

 シェイプアップ乱     83年26号 128話

 北斗の拳         83年41号 245話

 銀牙 流れ星銀      83年50号 164話

 きまぐれオレンジ・ロード 84年15号 156話

 DRAGONBALL       84年51号 519話

 CITY HUNTER       85年13号 336話

 ついでにとんちんかん   85年14号 210話

 魁‼男塾           85年22号  313話

 飛ぶ教室         85年24号  15話

 BLACK KNIGHTバット     85年31号  10話

 ジャストACE         85年32号  10話

 

 新連載は前期限りで終了した「すもも」、「ばくだん」と入れ替わりで開始された「BLACK KNIGHTバット」、「ジャストACE」の2本。2減2増なので連載作品数は16本で変わらず。「BLACK KNIGHTバット」は「コブラ」でお馴染み寺沢武一の作品でこの時代にして既にCGを使用した意欲作であったが、「コブラ」でもギリギリだったバタ臭さが更に強くなっているなどジャンプの読者層には合わず短期終了してしまう。そして初連載となる井上泰樹の「ジャストACE」も短期終了、それも両作品とも第4期のうちに終了と奮わなかった

 また、漫画では無いが不定期連載の「ファミコン神拳」が開始されたのもこの時期である


 終了作品は上記の2本に加えて「飛ぶ教室」、「ウイングマン」と実に4本もの作品が終了している。また、読切作品は平松伸二の「GENIUS零男」と吉川ゆたかの「旗日なふたり」の2本。両者とも連載化は成らなかったが、平松伸二は「GENIUS零男」と同じくボクシングをテーマにした「ラブ&ファイヤー」を連載する事に。一方「旗日なふたり」の吉川ゆたかはこれが最初にして最後のジャンプ掲載で、後に学習漫画家に転向したようである

 

 短期終了作品は上に挙げた「BLACK KNIGHTバット」、「ジャストACE」、「飛ぶ教室」の3本で数も占有率も前回と変わらず.188のまま

 連載作品の平均連載回数は328.63回。こち亀抜きだと220.20回で、前期がそれぞれ329.81回と221.47回だったので微減となっている

 他に特筆すべき事としては、ゆでたまご(の嶋田隆司)が腰痛の為「キン肉マン」が長期休載となっている。長期休載自体は珍しい事ではないが、その間過去エピソードを再掲載という措置が取られたのは異例であり、既に連載が終盤に差し掛かって勢いに翳りが見えつつも、ある意味看板作品としての存在感を示した第4期であった

 

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栄冠は君に輝かぬ

 それにしても暑い…

 今年の夏は暑さが特に厳しく、東京をはじめ各地で猛暑日になった日数が観測史上最多記録を更新中だという。連日の猛暑に、暑さに弱い(別に寒さに強い訳でもないが)私なんかはせめて気晴らしに花火大会や海水浴など所謂夏の風物詩でも堪能しないとやってられない気分だ。…まあ、実際は出かけるのも嫌になるくらいの暑さだから気晴らしも出来ないのだが

 さておき、そんな日本の夏の風物詩の1つに挙げられるのが明日決勝戦が行われる夏の甲子園こと全国高等学校野球選手権大会である。以前の記事で黄金期ジャンプにおいては野球漫画が8本も連載されたという事に触れたが、最近は薄まりつつあるものの同大会が青春の象徴のように扱われる事に加えて友情、努力、勝利というジャンプの三本柱と相性が良いテーマのせいか、その8本のうち、実に5本までが高校野球を扱ったものだ。が、5本のうち4本までが甲子園に辿り着く事なく短期終了の憂き目に遭っているという悲しい事実がある

 

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短期終了になった高校野球漫画たち

 これらの作品が甲子園に辿り着く事なく終わってしまった理由は、単に甲子園に行くまで連載が続かなかったという事情もある。だが、各作品を読み直してみると、どうもそれだけではなく短期終了するには短期終了するだけの共通の理由が見えてきたのである
 その理由とは何か? 既に黄金期ジャンプの短期終了高校野球漫画は全て紹介済みなので、今回は黄金期終焉後のこちらの作品を紹介しつつ解説していきたいと思う

 

 Base Boys(98年33号~51号)

 にわのまこと

なぜBOMBER GIRL CRUSHはBOMBER GIRLとまとめてくれなかったのか

 作者の経歴についてはこちらを参考にされたし

 

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 「BOMBER GIRL」の終了後は94年増刊サマースペシャルに「トルネードクラッシャー野武」を掲載。翌95年に「陣内流柔術武闘伝 真島クンすっとばす‼」の連載を開始すると、これが作者最大のヒットとなる。同作品の終了後、98年17号に「闘神スサノオー」を掲載、そして33号から本作品の連載を開始したのであった

 主人公の杉浦祐は、監督が昔名捕手だったという理由で鷹津高校野球部に入部しようとしたのだが、高校入学前日に自主練習をしていたところに乱入してきた剣術少年の根津斬之助の話によると今や野球部はワルどものたまり場となっていて、公式戦はおろか練習試合も碌にやっていないという有様だという。それでも諦めない祐は明らかに追い出すのが目的の無茶な入部テストに臨むが助太刀に入った斬之助のおかげで合格する。そしてそのテストで野球の魅力の一端に触れた斬之助も、剣道部をクビになった事もあって野球部に加入。二人を中心にして野球部は生まれ変わろうとしていた

 そんな本作品のあらすじであるが、実は短期終了してしまった他の高校野球漫画と共通している要素、というか問題があったりする

 それは、試合がなかなか始まらないという事だ

 まず本作品の場合は上で触れた通り野球部がワルどものたまり場と化していた事で祐は歓迎されず、入部テストと称して先輩チームVS後輩4人+足りない分を先輩(協力する気なし)で補ったチームで1点でも取られたら負けというルールでやらされた試合もどきやライバルの顔見せを兼ねた1打席限定勝負はあるが、まともな試合が始まったのは第9話になってからの事である

 既に紹介済みの作品たちも見てみると、例えば「キララ」は最初の試合中にいきなり強盗犯が乱入してきて試合が中断、その後転校してワルのたまり場的野球部で入部テストと本作品同様の展開を見せるし、「チェンジアップUP‼」の場合は主人公が怪我の為ブランクがあって当初はまともに投げる事が出来ないのと、入った野球部が弱小でまともなグラウンドがないなど、それぞれ理由はあれどまともな試合が始まるまでに話数が掛かっており、黄金期に唯一長期連載を成しえた「県立海高校野球部員山下たろーくん」が最初から山沼高校とガッツリ試合しているのとは対照的である

 通常の漫画、特にジャンプお得意のフィクション性の高いバトル漫画の場合、序盤は作品世界の設定やキャラ達の特殊能力を説明しつつ徐々に本格的なバトルに切り替わるという展開は珍しくない。というか、そうしないと読者が置いてきぼりになってしまう。だが、野球漫画の場合「アストロ球団」みたいな超人野球漫画でない限りは特に説明すべき特殊能力もなく、作品舞台は現代、野球自体も基本的なルールは皆知っているから同じような展開にすると読者が置いてきぼりどころか、逆に作品の方が読者に置いてきぼりになって早く試合しろよとなってしまう

 とはいえ、なかなか試合が始まらない作品が全て短期終了になっている訳ではない。他誌だと「タッチ」をはじめとするあだち充作品もそうだし、何より本作品と同時期にジャンプに連載されていた森田まさのりの「ROOKIES」なんかは試合がなかなか始まらないだけでなく、野球部がワルどものたまり場となっている所まで同じであるのに片や短期終了、片やドラマ化もされるほどのヒットと対照的な結果になってしまっている

 両者の明暗を分けたのは何か? それは「ROOKIES」は試合が始まらないうちにしっかりドラマを作りキャラを際立たせて読者を引き込んだから、云わば野球以外にもシッカリとした作品の軸があったからである。上にも挙げた「タッチ」なんかは野球をやらな過ぎるきらいもあるが、逆に言えばそれだけ濃いドラマが無いならとっと野球やれという話であり、野球もその他のドラマも中途半端でどっちつかずの作品では長期連載を勝ち取る事は出来ないのだ

 

BOMBER GIRLは三度死ぬ

 今回は前回の記事で少し触れた電子書籍の合本の紹介の兼ねてこちらの作品を紹介したい

 

 BOMBER GIRL(94年7号~17号)

 にわのまこと

左は気にしないように

 

 合本とは何かという事を改めて説明すると、複数の単行本を1つにまとめた電子書籍である。内容に関しては通常の電子書籍と読み比べてみたところ、そのまま詰め込んだだけという感じで違いは見られなかったのだが、特性上総ページ数が多くなってしまうので只でさえ電子書籍ではやり辛い飛ばし読みや、読みたいところを探して読むという行為が更にやり辛くなるという欠点がある。また、合本は単行本が複数出ている作品、作者の作品を例に挙げると「超機動暴発蹴球野郎リベロの武田」(以下「リベロの武田」)の1、2巻を1つにまとめられたりしているケースが多いのだが、上のように作者が同じだけで全く関係の無い作品を雑にまとめただけというケースもあり、興味ない作品のしかも最終巻だけあっても扱いに困ってしまう

 一方利点はというと、元々がデータなのでまとめたところで場所をとらなくなるという事もないし、価格も通常の電子書籍をバラで買う場合と大差ないので、セールになった時に得だという以外に利点が感じられない。なので、セールで買う以外はお薦め出来ないというのが正直な意見だ。実際私も前回の記事でセールしていたので「やるっきゃ騎士」の合本を買ってしまったと述べたが、逆に言えばセールじゃなければ買っていなかったし、これからも通常の電子書籍が配信されていないとかじゃない限りはセール以外で買う事はないであろう。…まあ、セールが多いので結構買う事になるのだが

 

 さておき、いつものように作品紹介の前に作者の経歴紹介を

 作者は81年に「迷勝負⁉」で赤塚賞佳作受賞。86年に「THE MOMOTAROH 村上伸一君の場合」で再び赤塚賞佳作受賞、翌87年増刊ウインタースペシャルに掲載されてデビュー。同年スプリングスペシャルに「THE MOMOTAROH」が掲載されると好評を博し同タイトルで47号から本誌初登場にして連載デビューを飾る。「THE MOMOTAROH」が二年ほど続いた後、91年13号から「リベロの武田」の連載を開始し、こちらも二年近く連載が続く事に。そして「リベロの武田」の終了後、93年スプリングスペシャルに本作品のオリジナルとなる「BOMBER GIRL」の掲載を経て翌94年7号から本作品の連載が開始されたのであった

 そんな本作品は、治安が悪化して世界屈指の犯罪都市となった201X年の東京を舞台に、賞金稼ぎの羅生門エミーとテロ集団のメガリスとの戦いを描いた近未来アクション漫画で、主人公のエミーの性格は子供好きという一面があってもフォローのしようがないクソ女で、見た目は作者の作品によくいる露出度の高い服を着たお色気担当キャラのクソ女だが、賞金稼ぎとしては一流で、カスタムトンファーの夜叉丸を武器にテロリストどもを狩りまくりつつ、助けた相手に高額な報酬を巻き上げるクソ女である

  と、クソ女を連呼してしまったが、実際私が本作品で憶えているのはそれだけなので仕方がない。とはいえ、主人公だから決めるところは決めるし、作品自体ギャグテイストが強めなのでそこまで嫌悪感がある訳ではないのだが、そもそも女性主人公という時点でジャンプでは不利である。また、ギャグテイストが強めなせいでテロリストが闊歩するディストピアがなのに全く悲壮感がない世界になってしまっているのも中途半端に感じられる。おまけに作者のヒットした作品は前述の「THE MOMOTAROH」、「リベロの武田」、そして本作品の後に連載された「陣内流柔術武闘伝 真島クンすっとばす‼」と現代を舞台にしたスポーツ及び格闘技もので、近未来を舞台にしたフィクション色の強い作品が向いているのかというと、本作品を見る限り否と言わざるを得ない出来であり、作者史上最短の11話で終了してしまったのも無理のない話である

 

 そんな本作品であったが、思い入れが強かったのか作者がジャンプを離れた後の2000年に続編となる「BOMBER GIRL CRUSH」がヤングコミックで連載(不定期)が開始される。が、掲載誌が途中でヤングキングに変わったと思ったらまたヤングコミックに戻るなど迷走して単行本は全3巻どまり、更に続編となる「BOMBER GIRL XXX」が04年からヤングキングで連載が開始されるがこちらも単行本が全3巻どまりと、作者の思い入れに反して最後まで結果が出ないままであった

紙か 電子か それが問題だ

 当ブログは主に黄金期ジャンプの短期終了作品を扱っている訳だが、今になってそれを読もうとする場合は2つの方法が考えられる。1つは当時出版されて今は絶版となっている単行本を中古で入手する事。そしてもう1つは、現在配信されている電子書籍版を利用する事である

中には復刻版が新品で入手可能な作品もあるが

 では、中古の単行本、所謂紙の本と電子書籍ではどちらの方がいいのだろうか?

 まあ、最初に結論を出しておくと人によるとしか言いようがないのだが、どちらを選ぶかを判断する参考になればと思い、今回は私自身が両者を利用して感じた利点と欠点を挙げる事にする

 と、その前にまず紙の本と電子書籍で中身に差異があるのかどうかを「メタルK」を読み比べて検証したい。なんで「メタルK」なのかというと、表現の規制によって改変されている所が無いか確かめる為にエロとグロが多めの作品を選んだ、という訳ではなく、私は、というか大概の人はそうだと思うが、基本的に1つの作品につき紙の本か電子書籍かどちらかがあればいいというスタンスなので、両方所持して読み比べる事が出来る作品がこれくらいしかないからである

 さておき、両者を読み比べた結果、電子書籍版は扉絵や目次、余白に描かれたイラストなどがカットされているものの、漫画自体は乳首が修正される事も無く全く同じであった。というか、カットされているページがあるのにページ表記までが同じであるから、おそらく単行本をスキャンして電子書籍化したのだと思われる。ただ、これはあくまで「メタルK」の場合であって、全ての電子書籍がそうだとは限らないと断っておく

 ちなみに紙の本と比べる事は出来ないが他の作品の電子書籍も一通りチェックしてみたところ、読んでいて不自然な部分は感じられなかったから仮に改変があったとしてもそんなに問題の無いレベルと言っていいだろう。ただ、チェックした範囲では全ての作品でカバー折り返しの作者あいさつやカバー下の表紙デザインがカットされているし、作品によって「メタルK」同様に扉絵や目次、イラスト等がカットされていたりいなかったりするので、そういう部分を気にする人は注意が必要である

電子書籍ではこれが見れないのは残念だが

 それを踏まえて両者の良い点と悪い点を挙げていこう

 まず、紙の本の良い点は紙の本だという事である。それってどういう事だと思う方もいるかもしれないが、年齢が上に行けば行くほど電子書籍に対する忌避感が強い人は多くなるし、紙の手触りが心地良いとか紙の本じゃないと読んだ気がしないなんて人も一定数いるのだ、というか私自身も割とそういう気質だったりする。また、上でも触れたが、表紙カバー折り返しの作者あいさつとカバー下の表紙デザインは紙の本、中でもオリジナルのジャンプコミックス版のみで後から出版された文庫版や豪華版などでは見る事が出来ない事も留意すべき点である

  逆に悪い点はというと、既に絶版している為復刻でもしていない限りもはや新品で入手する事は不可能である事、そして絶版してからかなりの時間が経っているので現存している物は状態が酷く劣化しているケースが多いという事である。実際私も商品を画像で確認出来ないマケプレで買った本が届いてみたら文字見えない程背表紙が灼けていたり、ヤフオクで画像を確認して買った本がタバコ臭かったりとガッカリした事が少なくない。それでも私はそこまで状態にこだわる方じゃないのでダメージは少ないが、状態にこだわる人や潔癖な人にとっては我慢できないだろう。また、絶版してからかなりの時間が経っている影響は現存数の面でも影響があり、例えば先週紹介した「ウルフにKISS」などは今買おうとすると2冊セットで3000円とか4000円とかプレミアがついているし、中にはプレミアどころが売りに出されている事すら稀な作品もあり、入手性が良いとは言えない。まあ、多くの作品は安価で入手する事が可能ではあるのだが

 一方、電子書籍の良い点(といっても私は電子書籍は全てkindleにまとめているのでkindle以外はわからないのだが)は、データなので劣化する事はないし、品切れも無いので入手性も良く、値段も上記の「ウルフにKISS」は今現在1巻が446円、2巻が495円と当時の紙の本より若干高めではあるがリーズナブルである。しかも、セールになると更に安くなり100円くらい、ものによっては10円くらいにまで価格破壊したりする。また、通常の電子書籍の他に2、3冊ぶんを1冊にまとめた合本というものもあり、通常は値段の方も2、3冊ぶんなのだが、こちらもセールになると同じくらいまで安くなるでかなりお得である。実はこれを書いている最中も「やるっきゃ騎士」の合本が全5巻中3巻までが1冊11円だったので思わず購入してしまった

 ただ、セールの頻度や割引率は販売元がどこかによって差異があり、販売元がamazonのものは頻度も割引率も高いだけじゃなく、kindleunlimited会員ならタダでいくらでも読めるのに対して発売元が集英社のものはそんなに安くならないので期待してはいけない

 逆に電子書籍の欠点は、配信元がサービスを停止した場合に読み続ける事が出来るか不透明なところ、そして最大の欠点は、現状では全ての本が電子書籍化されている訳ではないので、電子書籍だけで黄金期ジャンプの短期終了作品をコンプ出来ない事である

最近紹介した作品だとコレとかも電子書籍化されていない

 まあ、昔の作品の電子書籍化については現在進行形で進んでいるのでいつかは電子書籍でコンプ出来る可能性もないではない。が、現在黒岩よしひろ作品の殆どが電子書籍化されているのに「不思議ハンター」だけが電子書籍化されていない(不思議ハンターS」のほうはされているのでおそらく原作者の飯塚幸弘と連絡がつかないとかで許可が取れていないのだろう)のを見ると期待できなそうである。井上雄彦などは現状では電子書籍化の許可を出す気がないみたいだし

同じく飯塚幸弘原作のこちらも電子書籍化されていない


 以上の事を踏まえて各人が自分に向いた方を選ぶのが良いだろう。因みにそういう自分は両者を併用して、紙の本などはジャンプコミックス版や文庫版、豪華版などこだわりなく集めているが、そこまで高価じゃないのなら紙の本を優先して購入するという感じである