黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

伝説のトラウマ作品とその舞台裏 その2

 さて、前回は「メタルK」を紹介するなどと言っておきながら、前段階が長過ぎて結局紹介できないという詐欺じみた事をやってしまったが、今回こそはきちんと紹介したい

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 まずは「連載終了!」を引用しつつ前回の続きから 

「機械戦士ギルファー」の連載終了後、作者は再びジャンプで連載する事を目指して85年スプリングスペシャルに「バースター3」を、更に続けて「ブラック☆スター」と読切を掲載するが、どちらもアンケートは中の上どまりと頭打ちの状況になっていた

 そんな時、2代目担当の松井栄元からの提言が作者に飛躍のきっかけを与える事になる

 「少年誌の常識ってやつをブチ壊す作品だ‼

  それぐらいやらないと今の少年ジャンプじゃ他の作品に埋もれてしまうだけなんだよ‼」

 今となっては意外な事だが、この時点までの作者の描く作品はキング時代の2作品がアクションコメディ、ジャンプに移籍してきてからの作品はいずれもロボットアクションと、後の作者から連想されるバイオレンス、エロ、グロといった作風とはかけ離れたものばかりであった

 勿論、これらの作品も嫌々ながら描いていた訳ではないだろう(望まぬ原作を押し付けられた「機械戦士ギルファー」はわからないが)。しかし、テーマの選定などにおいては少年誌という事を少なからず意識していたに違いない。そもそも好き勝手に描こうとしてもネームが通らないし

 だが、編集の一言で吹っ切れた作者は少年誌の常道とは真逆を行こうと決心する。少年誌の主人公は普通は男性だからこそ、敢えて女性主人公に、読者の胸を熱くさせるのではなく背筋を凍らせる夢も希望も無い話を描こうと。そうして描き上げたネームは編集会議にかけられ、意外な事に即連載が決定してしまう

 それが86年24号から連載が開始された「メタルK」である

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カバー下の表紙は結構エロい(乳首修正済み)

 そんな本作品は、世界規模の陰謀組織である薔薇十字団に両親を殺され、自身もその体を炎に焼かれた冥神慶子がサイボーグとして蘇り、復讐の為に組織の人間を次々と始末していくバイオレンスアクションである

 薔薇十字団と戦う慶子の最大の武器は、機械の骨格を覆う皮膚だ。何度実験を繰り返しても慶子の興奮状態が続くと機械が高温になって溶けてしまう事から、逆にこれを利用しようと成分を変え、溶けるとゼリー状の硫酸と化す皮膚は、周囲に硫酸ガスを発生させるし、手の皮膚を溶かして伸ばし鞭として使用する事も出来る

 そんな設定なので、慶子の見た目は普段は奇麗だが、クライマックスになると皮膚が溶け出し機械の骨格が露わになるというグロテスクな姿になり、衝撃を受けた読者も少なからずいた事だろう

 かく言う私も本作品の第1話を目にした時の衝撃は今も忘れられない。慶子の顔が溶けて機械の骸骨が露わになるシーンは、その少し前まではコロコロコミックを愛読していたような子供にはあまりにも刺激が強すぎた。更に第2話になると、狐のマスクをつけられた慶子が全裸で野に放たれて狩猟のターゲットにされるという、コロコロではまずお目にかからないシーンに軽いトラウマを覚え、基本的に買ったジャンプは全作品を何度も読み返していた私だったが、本作品に関しては再読をためらう程であった

 そして、作者もまた第2話が掲載されているジャンプを読んで別の意味で軽くトラウマを覚えた事だろう。というのも、本作品の掲載順が第2話目にして早くも巻末に追いやられていたからである

 アンケート結果が悪かったにしろ、反映するのが早すぎると担当を問いただした作者は以下のような答えを受ける

 「…どうやらこの漫画を…いやもしかしたらオレの担当の漫画を嫌って嫌っている人が編集部内にいるのかもしれない」

 加えて連載終了も既定路線であると告げられる作者。ただ、これはあくまで担当であった松井栄元の推測に過ぎず、事実かどうかは不明である。しかし、読者が出したアンケートを集計し、その結果を踏まえて掲載順を決定、更に誌面の編集、印刷という一連の作業が一週間で可能とは思えない。これまで当ブログで紹介してきた作品たちを見ても第2話目にして巻末に追いやられた作品など他に例を見ず、掲載順の動きから推測するとアンケートの結果が反映されるには一ヵ月はかかると思われるから、本作品に対して何か特別な力が作用したのは間違いない。以前紹介した「さらば、わが青春の『少年ジャンプ』」を読むと、編集部内にも派閥があり、権力争いが行われているような記述が見られるので、編集部内の力関係が影響を与えたのだろうか

 

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 それにしても、自分で選べるわけでもないのに付けられた担当編集者によって作品の扱いが変わるなんてひどい話である。こういう事が横行していたとは思いたくないが、長いジャンプの歴史の中で他に全くなかったとも思えない。まさに黄金期ジャンプの影と言えるだろう

 編集部内の思惑はさておき、本作品に強い思い入れを抱いていた作者は、連載終了が半ば決定していてもめげずに全力で描き続けた。おかげで作者には熱いファンレターが届くようになり、アンケート結果も徐々に良くなってきて編集部でも無視できず、改めて連載終了か否か会議に掛けられる事になる。が、決定を覆すには至らず、本作品は全10話中、巻頭を飾った初回と「はなったれBoogie」が最終回の為にブービーとなった31号を除いた8話が巻末掲載という記録と、私を含む少なからぬ読者にトラウマを残し、連載終了となってしまったのである

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伝説のトラウマ作品とその舞台裏

 ジャンプ作品がどれだけ読者の記憶に残るかは基本的に連載期間の長さに比例するものである。何しろアンケートで高く評価された作品=読者の注目を集めた作品ほど長く連載されるし、ずっと読者の目に触れられる事で、より読者の記憶に深く刻まれるのだから。なので、悲しい事だが短期終了作品は元々読者の注目度が薄い上に読者の目に触れられる期間が短いので、記憶に残っていないという場合も少なくない

 そういう理屈だと、今回紹介する作品は僅か10話で終了しているので、あまり憶えている人は多くないと言えるのだが、おそらくこの作品に関しては例外で、多くの人が憶えていると思う

 その作品とはこれだ

 

 メタルK(86年24号~33号)

 巻来功士

 

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 それともう1つ、作者は後にこんな作品を描いているのをご存じだろうか

 

 連載終了!

 イースト・プレス

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 これは作者が漫画家としてデビューする以前から、自ら申し出てジャンプの専属契約を解消するまでを描いた実録漫画で、「メタルK」の誕生から連載終了に至るまでの事情も詳しく描かれているので併せて紹介したい

 まずは作者が「メタルK」の連載を開始するまでの経緯を「連載終了!」の内容に沿っていつもより詳しく紹介して行こう

 作者は小学生の頃には既に自分は漫画家になると決心しており、高校1年の時にはフレッシュジャンプ賞の最終候補に残るなど早くもその片鱗を見せていたが、その後大学に進学して講義もそっちのけで留年してしまう程のペースで漫画を描き、様々な出版社の様々な賞に応募し続けるも、最終候補どまりになってしまう事が多く、やっと小学館から月2回刊行していたマンガくんの賞で佳作を受賞したと思ったら程なくマンガくんが休刊してしまうなど、なかなかデビューのきっかけを掴めないでいた

 一方、同じ大学の同期には、あの北条司がおり、作者がもがいているのを尻目に在学中に手塚賞準入選を果たし、アッサリと連載デビューまで決めてしまう。それに対抗心を抱いた作者は漫画に本腰を入れようと大学を中退して上京する事を決意したのであった

 

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 …と作中では描いてあるのだが、作者のインタビュー記事等、他で調べた情報と比べてみると違う部分が若干見られる。大学名なども配慮の為か変えてあるし、どうやら実録と言えども漫画としてまとめる為に若干改変しているようなので、そこのところは留意して頂きたい

 あてもなく上京してきた作者だが、早々にチャンスを掴む事になる。当初は大学時代に一度自宅まで訪ねてきた編集者がいるサンデー編集部に原稿を持ち込もうと小学館のある神田まで出てきたのだが、その日は持ち込み可能日ではない事に気付いてそのまま帰ろうとした途中、少年画報社の前を通りかかったので、せっかくだからと少年キング編集部に原稿を見てもらったところ評判がよく、81年村田光介名義の「ジローハリケーン」でアッサリ連載デビューを果たしたのであった

 尚、それと同時期には前述の小学館編集者からコロコロコミックの編集者を紹介され、誘いも受けていたが、キングの連載話があったので結局断る事にしたという。もしこの時作者がキングではなくコロコロを選んでいたらと思うと興味深い。まかり間違えればあの「メタルK」がコロコロで連載されたという未来もあり得たのだ。…いや、ないだろうが

 「ジローハリケーン」は翌82年に連載終了するものの、続けて「ローリング17」の連載を開始。作者の前途は洋々と思えたのだが、その矢先、キングが休刊するという思いがけない事が起きてしまう

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 これで漫画家としての基盤を失った作者は投稿及び持ち込みの日々に逆戻り。例によって最終選考止まりを何度も経験しながらも持ち込み先の1つであるジャンプ編集部に認められ担当編集者がつけられた。そしてフレッシュジャンプ83年9月号に「サムライR」が掲載され、これがアンケートで2位を記録し、連載の話が持ち上がる事になる。因みに最初についた担当は、何の因果かあの北条司の担当でもあり、後にジャンプ第5代編集長となる堀江信彦だった

 

 ところで、当ブログで紹介してきた作品の作者の多くはジャンプの所謂純血主義政策の為、手塚賞やホップ☆ステップ賞などジャンプ系のコンテストで入賞し、ジャンプ系以外で掲載経験の無いまま連載に至るというケースが多い。それに比べてなんと波乱万丈の漫画家人生ではないか。そして、それ故に作者は独立心が強く、ジャンプの文化に馴染む事が出来ずに苦悩したという

 作者は臨時で原哲夫のアシスタントを務めた後、83年51号でついにジャンプで連載を開始する事になる。そのタイトルは「機械戦士ギルファー」。だが、この作品は作者の本意ではなかった。というのも、てっきり「サムライR」が連載化されると思っていたのに、編集から提案されたのは当時ジャンプで主催していた原作賞である梶原賞受賞作品の漫画化であったからだ。しかもこの原作は、賞を取らせた手前、漫画化しなければならないけど誰も引き受け手がいなかったいういわくつきの作品で、いわば厄介ものを押し付けられた訳である

 それでも許される限り原作を改変してなんとか形を整えて連載にこぎつけたが、ただでさえ望まぬ原作付きでモチベーションが上がらないのに、加えてアシスタントは素人同然で自分の負担が重い。更に途中でいきなり担当編集者を代えられるなど環境にも恵まれないとくれば充分な力を発揮する事も出来ない。結局「機械戦士ギルファー」は僅か10話で連載終了となってしまうのであった

 …おっと、今回は「メタルK」の紹介をすると言ったのに、その前段階で予想外に長くなってしまった。なので、看板に偽りありかもしれないが、今回はここまでにして続きは次回とさせて頂きたい

色無き世界の色男

 当ブログでは前回ジャンプ二大ヤンキー漫画の1つ、「BØY」の作者である梅沢勇人(梅澤春人)の作品を紹介した。ならば、二大ヤンキー漫画のもう1つ、「ろくでなしBLUES」の作者である森田まさのり作品を紹介するのが筋であろう

 …と言いたいところだが、残念ながら森田まさのりがジャンプで連載した作品は前述「ろくでなしBLUES」の他に「ROOKIES」、「べしゃり暮らし」と残念ながら短期終了作品は存在しない(「べしゃり暮らし」はジャンプ連載分だけなら短期終了作品とも言えるが)。いや、作者からすれば残念でも何でもないのだが

 なので、今回は代わりに森田まさのりのアシスタントであった作者によるこの作品を紹介したい

 

 原色超人PAINTMAN(93年14号~25号)

 おおた文彦

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作者自画像

 本作品の連載当時は作者が森田まさのりのアシスタントだったという事を知らなかったので見比べようなどと思わなかったが、改めて師弟の画を見比べてみると作者の方は当時デビューして間もないという事もあってタッチはかなり粗い。が、顔の陰影のつけ方や、口を開けた時に下唇が突き出るような感じなどに師の影響が見て取れる

 作者は90年に高校卒業後、森田まさのりのアシスタントとなる。因みに森田まさのりとは同郷(滋賀県)の上、単行本1巻に寄せられた同氏のコメントによると恩師も一緒だったというが、出身校まで一緒だったのかは残念ながら調べてもわからなかった。尚、同門には以前当ブログで紹介した「神光援団紳士録」の岩田康照もいる

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 その後91年に「ペイントマン」でホップ☆ステップ賞佳作受賞、翌92年増刊スプリングスペシャルに掲載されてデビューを飾る。同年サマースペシャルに設定を引き継ぎ題名を少しだけ変えた「原色超人ペイントマン」を掲載、それが連載化にあたりペイントマンをPAINTMANと英語つづりに変えて93年14号から開始されたのが本作品だ

 そんな本作品は、新米の小学校教師である一色彩人が、ドゥ・トゥーン・ボーリ星の王子であるクィン・ダ・ウォーレⅡ世から授けられた超人原色でペイントマンに変身し、クィンを追って地球にやってきたケェアニ・ド・ルァークの一族と生徒たち及び地球を守るために戦う変身ヒーロー漫画である

 ドゥ・トゥーン・ボーリやらクィン・ダ・オーレやら語感の悪いカタカナが出てきて戸惑った人もいるかもしれないが、落ち着いてよく見て欲しい。何の事は無い、道頓堀に食い倒れ、かに道楽と関西由来の名前をもじっただけである。作中には他にもアディ・グル・スーだのジャ・ロートァ・イーグだのが出てくるのだが、これらも元ネタがあるのだろうか。あいにく私は関西に縁が薄いのでわからない

 ところで、ジャンプの黄金期において生徒たちを守る為に戦うといえば「地獄先生ぬ~べ~」を、地球を守る為に戦う変身ヒーローといえば「とっても!ラッキーマン」を連想する人も多いだろうし、その中には本作品を両者からパクっていいとこどりをしようとした作品と思ってしまう人もいるかもしれない。が、本作品の方が先に連載が開始されているので誤解なきよう。むしろ両者の方が本作品からパクったのかもしれない…いや、ないか

 そんな本作品の一番の特徴は、ペイントマンの名前の通り、彩人が赤、青、黄という三色の超人原色を体に塗る事によって変身する事だ。この超人原色は、赤は空中飛行、青は筋肉超増強、黄は五感超進化、と塗る色によってそれぞれ異なる能力が得られる。加えて、色を混ぜる事で更に強力な能力、例えば青と黄を混ぜて緑にする事によって武装変形の能力が得られるという風に、色の特性を生かしたギミックがあってなかなか面白いアイデアである

 のだが、ここで問題が1つある。ジャンプは、いや、ジャンプに限らず漫画というものは基本的に白黒で描かれるものだという事だ。その結果、色を塗る、色を混ぜるという本作品の肝であり見どころでもあるシーンが何色なのか視覚的にわからないという残念な事になってしまったのである

 この問題は読切の段階で気付いてもよさそうなものだが、作者や編集者はどう考えていたのだろうか。デビューする事に必死で見落としていたのか、それとも気付いていたけど読切が好評だったから大した問題ではないと高を括ったのか

 いずれにしてもいくら読切で好評だったからといって連載でもそうだとは限らない。何せ他の連載陣も皆、読切で好評を博して連載を勝ち取った作品であり、今度はその中で争わなければならないのだから。そして各作品がそれぞれの特色を出してなんとか連載存続を図る中、白黒な為に特色を充分に出せなかった本作品は、当時誌面で「キン肉マン」のオリジナル超人募集のように読者から怪人を募集したにもかかわらず、結局作品に登場させる事の無いまま僅か11話にして終了してしまったのであった

 

 

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 本作品の終了後、作者は二度とジャンプ作品が掲載される事も無く、話によると再び森田まさのりのアシスタントに戻ったという。一方、皮肉な事に本作品の終了後僅か数カ月のうちに「とっても!ラッキーマン」(同年35号)、「地獄先生ぬ~べ~」(同年38号)の連載が開始され、共にアニメ化されるほどのヒット作となってしまう。それを見て作者は一体何を思ったであろうか

あの人気作品との共通点は

 突然だが、あなたはヤンキー漫画と言えば何を思い浮かべるだろうか?

 「BE-BOP-HIGHSCHOOL」、「疾風伝説 特攻の拓」、「今日から俺は」、「カメレオン」等々、80年代から90年代にかけてはヒットしたヤンキー漫画が各誌で数多く誕生した為、思いつくタイトルは人によって千差万別だと思う。が、ここに「ジャンプで」という前置きをつけたならば、思い浮かべるタイトルは2つしかないのではなかろうか

 その2つとは勿論「ろくでなしBLUES」と「BØY」である

 どちらも長い事連載が続いたジャンプの二大ヤンキー漫画と言えるのだが、私個人の意見としてとしては悪役のキャラが本当にクズみたいなのが多く、それを晴矢がぶっ飛ばすという単純な構造で爽快感のある「BØY」の方が好みで、単行本も購入していたものだ。…後半になるにつれ悪役キャラの悪事がインフレして、いくら漫画だとしても洒落にならん重犯罪レベルまでになったのにドン引きして途中で購入を止めてしまったが

 

 そんな訳で今回紹介するのはそんな「BØY」の作者によるこの作品である

 

 酒吞☆ドージ(90年15号~30号)

 梅沢勇人

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作者自画像

 まず触れるべきはペンネームだろう。梅「澤」「春」人ではなく梅「沢」「勇」人。もっと厳密に言うなら現ペンネームは梅の旁の部分が「毎」ではなく「每」と書く旧字体なのだが、変換方法がわからなかったので不本意ながらそのままにしておいた。ところでWikipediaには旧ペンネームは「うめざわまさと」と読むと書いてあるのだが、ソースは何処なんだろうか? 少なくとも単行本の奥付には©Hayato Umezawaと書いてあるのだが

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画像は荒いが頭文字がMではなくHなのはわかるだろう

 作者は北条司に師事し、88年に「南方遊伝」がホップ☆ステップ賞入選、同年増刊サマースペシャルに掲載されてデビュー。同年オータムスペシャルにも「炎のマリア」を掲載している。89年スプリングスペシャルには「南方遊伝 初戀地獄編」が掲載。因みに作者はこのタイトルに思い入れがあるのか、ジャンプが653万部という発行部数記録を打ち立てた95年3・4号でも設定を少し変え、タイトルも「NANPO U DEN」とローマ字に変えた読切を、当時連載中であった「BØY」と共に掲載している

 

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 その後同年サマースペシャルに掲載された「酒吞ドージ」が同年39号に掲載されて本誌初登場を飾ると、これが連載化されて翌90年15号から開始されたのが本作品である

 さて、作者の漫画と言えば上に挙げた「BØY」以外にも「無頼男」、更にヤングジャンプに移ってからの「カウンタック」と、現代が舞台でやんちゃな男どもが沢山出てくる作品が多いというイメージだが、本作品はタイトルと単行本のカバーイラストからしてそんな作品ではない事は想像がつくだろう。そう、本作品は大江山酒呑童子伝説をモチーフにした物語である

 作者のイメージからはかけ離れているかもしれないが、実は古史古伝をモチーフにしたものは本作品だけではない。デビュー作である「南方遊伝」は西遊記を、「炎のマリア」はジャンヌダルクをそれぞれモチーフにしたもので、この時期の作者の常套手段であったのだ

 ただし、あくまでモチーフとしただけで内容の方は元ネタとはだいぶ違う。「南方遊伝」は三蔵法師の三代目と孫悟空の孫娘の恋話であるし、「炎のマリア」はジャンヌダルクが火刑に処された後、神の導きによって異世界を渡り歩くという内容で、設定にフレーバーが感じられる程度の全く別の話と言ってしまってもいい作品になっている

 そして勿論、本作品にも大胆なアレンジが加えられている。共通点は名前と酒が好きという所くらいで、舞台は大江山どころか日本ですらないし、時代も酒吞童子がいたとされる平安時代でもなければ現代でもない。主人公のドージが妹のシズカ、ダビンチ星人のポンと共に星から星へと渡り歩くというSF漫画なのである

 基本的な話の流れは、酒を飲むほどに酔うほどに力をまし、その手で惑星をも破壊できるという伝説の超戦士である酒吞星人のドージが行く先々で酒を飲んでは悪事を働く。のではなく、逆に悪事を働く連中をぶちのめすというものであり、ぶちのめされる連中は善人を虐げる下衆ばかりと、時代劇のような非常にわかり易い勧善懲悪ものになっている

 こういった特徴は作者の代表作である「BØY」とも共通しており、まさに私好みの展開である。加えて言うならば、本作品は別のある作品とも共通したものがあったりする

 その作品とは黄金期ジャンプの大看板の「DRAGONBALL」だ

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 伝説の超戦士という酒吞星人の肩書はサイヤ人と近いものがあるし、それに何といっても「DRAGONBALL」もまた主人公の名前が孫悟空というところからもわかるように元々は古史古伝西遊記をモチーフにした作品なのである

 作者の代表作である「BØY」だけでなく「DRAGONBALL」とも共通したものを持っているとあれば本作品もヒットする素地は充分にあると言っても過言ではない。…いや、過言だった

 なにせ「DRAGONBALL」は如意棒や筋斗雲といった西遊記由来のものは早々にぶん投げてしまっているし、サイヤ人の設定もそこまでオリジナリティのあるものではなく、そこが共通していたところでヒットする程ジャンプは甘くないし、そもそもSFはジャンプの読者層にはウケが悪い。更に間が悪い事に、本作品の連載時はちょうどサイヤ人にスポットが当たるフリーザ編の真っ最中で大盛り上がりとあっては連載デビューしたてでまだ画力も話作りも未熟な作品に注目する読者は少ない。結局本作品は「DRAGONBALL」との類似点を指摘される事すら無く15話で終了してしまったのであった

 

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ジョジョの奇妙な冒険のルーツ

 本日発売のウルトラジャンプ9月号で荒木飛呂彦が描く「ジョジョの奇妙な冒険」(以下「ジョジョ」)Part8こと「ジョジョリオン」が完結する。と言ってもシリーズ自体が完結する訳では無く、「JOJOLANDS(仮)」という新章が始まるとの事で、胸をなでおろした人もいるだろうし、やっぱりかと思った人もいるだろう。ジャンプの黄金期が終焉を迎えて早や二十五年、黄金期を彩った作品が皆連載を終える中、連載中断や掲載誌の変更がありながらも未だ連載が続いている「ジョジョ」は、黄金期唯一の生き残り、言わば生きる伝説である。…厳密に言うなら「BASTARD‼ 暗黒の破壊神」はまだ連載中断扱いだが、どうせほぼ息していないし

 今回はそれを記念して荒木飛呂彦によるこの作品を紹介したい

 

 魔少年ビーティー(83年42号~51号)

 荒木飛呂彦

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画像は文庫版

 作者は80年に荒木利之名義の「武装ポーカー」で手塚賞準入選、81年1号に掲載されてデビューにして本誌初登場を飾る。同年に増刊で読切作品の「アウトロー・マン」と「バージニアによろしく」を掲載、82年にはフレッシュジャンプ12月号で読切作品の「魔少年ビーティー」が掲載、それが連載化されて83年42号から開始したのが本作品である

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読切版「ビーティー」と「バージニアによろしく」はこちらの短編集に収録されている

 そんな本作品は社会的ダイナマイト一触即発的良心罪悪感ゼロ的猛毒セリフ的悪魔的計算頭脳的今世紀最大的犯罪少年であるビーティーが巻き起こしたり巻き込まれたりした身も心も凍りつくエピソードを描いたサイコホラーである。…なんだ、その修飾過剰でやたら的が多い形容詞は、とお思いの人もいるかもしれないが、これは私の言葉ではなく作中で言及されている言葉なのであしからず

 ところで、このビーティーという名前は本名でなくイニシャルである。余談だが、当時の私はイニシャルという概念が理解出来ない程に幼くて、ビーティーではなくてビューティー、つまり美少年という事だなと誤解していた。更に余談を重ねると、ビーティーの本名は作中では明らかにされていないが、作者が語るところによるとBuichi Terasawa、つまり「コブラ」の作者である寺沢武一から取ったという事である。が、この手の話は、「キン肉マン」の作者のゆでたまごというペンネームの内訳は嶋田隆司が「ゆでたま」で中井義則が「ご」だという話と同様、冗談半分で語られている場合が多いのであまり信用しない方がいい

 さておき、本作品は「ジョジョ」とは違って、登場するキャラ達は波紋や幽波紋、その他超常的な能力を何も持たない一般人であるし、舞台も特別なところはない普通の現代日本である。そしてビーティーはそんな中でもフィジカルでは大人はおろか同級生にすら劣っている、なんて言うと本作品は「ジョジョ」とはまるで違う作品のように感じるかもしれない。それはある意味では正しいが、ある意味では正しくない。確かに本作品を読んで受ける印象で「ジョジョ」に似ているところは絵柄くらいしか無いように感じられる。しかし、ある面に注目してみると、本作品は間違いなく「ジョジョ」と共通した面を持ち、そのルーツになった作品だと言えよう

 フィジカルに劣るビーティーは敵対する相手とまともにやりあってはとても敵わない。そこで手品のトリックを利用したり、言葉を巧みに操ったりして相手を陥れるのだが、こういう頭脳を駆使して精神に揺さぶりをかけるやりとりは「ジョジョ」Part2の主人公であるジョセフの常套手段であり、他にもPart3の人気エピソードの1つであるダービーとのギャンブル勝負などに見られ、間違いなく本作品から受け継がれている要素である

 受け継がれているものは他にもある。ビーティーはタイトルに魔少年とあるように、恐竜の化石を盗もうとデパートに侵入したり、敵対した相手には向こうに非があるとは言え容赦なく叩きのめしたうえに財布を失敬したりと悪事を働く事に躊躇が無い、というよりは悪い事をしているという意識すら感じられない。おかげで編集部のウケが悪く、人を説得させたら右に出る者はない、と作者が評する担当編集者の椛島良介ですら本作品の連載化を認めさせるのに大変苦労をしたという

 こういった悪魔的性格は「ジョジョ」シリーズにおけるディオなど、毎朝パンを食べるように悪事を行うような魅力的な悪役に受け継がれている。と同時にビーティーは確固とした信念を持ち、自分より親友の麦刈公一に危害が与えられる事の方により怒りを感じるという友情に厚いところもあるという、(作品ではなくキャラとしての)歴代のジョジョに相通じる面もある。言わばビーティーはディオのルーツであると同時にジョジョのルーツでもあるのだ

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ビジュアル面でもディオと共通した雰囲気が感じられる

 しかし、あくまでルーツはルーツに過ぎず、本作品は「ジョジョ」ではない。ビーティーは悪役と主人公の両方の性格を持ち合わせているのでその魅力が倍増とはいかず、両方の魅力を打ち消しあってしまい、結果、善悪の区別がつかない小賢しいガキになってしまった

 また、頭脳戦は確かに「ジョジョ」の魅力の1つではあるが、それは肉体及び能力を使用した派手なバトルの合間に行われるからこそ魅力が際立つのであり、そればかりだと見た目も地味で飽きてしまう。ましてや本作品は相手がナチかぶれのイカレたオッサンとか、妄想癖のあるサイコパスな警備員とかしょぼい連中で、キャラとしての魅力も皆無である。ようやく最終エピソードでビーティーを一度は負かすような好敵手が出てきてアンケート結果も良かったというが時既に遅し、元々編集部のウケが悪かった事もあり、その頃には連載終了が決定していて本作品は僅か10回でその幕を閉じたのであった

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ジャンプで一番激しいバトルは

 本日8月10日は、ジャンプの黄金期を彩った漫画家の1人である山根和俊の誕生日である。などと周知の事実のように言ってみたが、もしかすると中には「誰だよ、山根和俊って?」と思っている人も少なからずいるかもしれない。だが、そんな人も作品名と単行本のカバーを見れば思い出すのではないだろうか。…まあ、思い出せなくてもどうせ紹介するから問題ないし

 という訳で今回紹介するのはこの作品だ

 

 超弩級戦士ジャスティス(93年48号~94年11号)

 山根和俊

 

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カバーの下にはスタッフクレジットが

 作者は89年「BERSERK」でホップ☆ステップ賞佳作を受賞。翌90年に「KILL BLADE」が増刊スプリングスペシャルに掲載されてデビュー、同年サマースペシャルにも「SCORPIO」が掲載される

 また、この頃に萩原一至のアシスタントを務めるとともにアルバイトとしてウルフチームというゲームメーカーで働いており、同社の数々の作品のキャラクタデザインを担当したという。そしてその内の1つである「エル・ヴィエント」が91年にゲーム誌の「BEEPメガドライブ」でコミカライズされる事になり、これが連載デビュー作となる(名義は上野哲也)

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画像はBEEPメガドライブの前身であるBEEP(復刻版)

 ジャンプ関連に話を戻すと91年にジャンプノベルで第1回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞入選作である定金伸治の「ジハード」の挿絵を担当、翌92年には増刊オータムスペシャルからコミカライズも手掛けるようになる。そして93年30号「魔剣戦記DEICIDE」で本誌デビューを飾ると、同年48号から本作品で連載を開始する事となったのであった

 そんな本作品は、生きている剣である斬魔刀の使い手であるジャスティスが、人類を滅ぼして地球移住を目論むネクロシスとの戦いに身を投じるバトル漫画である

 ところで、本作品の単行本カバーを見て、作者がアシスタントを務めた萩原一至の「BASTARD‼ 暗黒の破壊神」(以下「BASTARD‼」)を思い浮かべた方もいる事だろう。主人公であるジャスティスの長い金髪につり目という外見的特徴は「BASTARD‼」の主人公であるダーク・シュナイダーと一緒であるし、画のタッチも師弟である故か似た雰囲気がある

 共通点は他にもある。そもそも剣と魔法のファンタジーというテーマからして「BASTARD‼」と一緒だし、女性キャラがやたら露出度が高いのも一緒、決めの場面でのアメコミのようなハッタリの効いた演出もまるで「BASTARD‼」を見ているようで、師である萩原一至の影響は隠れようがない

 だからといって、私は本作品を「BASTARD‼」のパクりなどと言う気はない。確かに「BASTARD‼」との共通点も多いのでそう思ってしまうのもわからないでもないが、読んでみるとそれと同じくらい相違点も見つけられるからだ

 まず物語の舞台からして違う。「BASTARD‼」の舞台はベタベタなファンタジー世界で、登場するキャラも如何にもな格好をしているのが多いのに対し、本作品の舞台は現代に近い世界で魔法の要素は薄く、普通にヘリコプターとか銃も出てくるし主人公のジャスティスも革ジャンにホワイトジーンズ姿でバイクに乗っていたりする

 中でも一番の違いは主人公だろう。両作品の主人公の見た目が似ている事は前述したが、中身の方はまるで違う。「BASTARD‼」の主人公であるダーク・シュナイダーは、所謂剣と魔法のファンタジーにおいては主人公になる事が少なくむしろ悪役になりがちな魔術師であり、性格面を見ると残忍で傲岸、おまけに世界征服を目論んでいるという悪役じみた、というかまんま悪役な設定である

 一方、本作品の主人公であるジャスティスの方は、単行本のカバーでも剣を持ってポーズを決めている事からわかるようにバリバリの剣士であり、性格の方も正義を意味する名前そのまんまに正義の心を持った熱血漢と、典型的なジャンプの主人公キャラとなっている

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刀より銃の方が似合いそうな格好だ

 以上の相違によって「BASTARD‼」は一見王道のヒロイックファンタジーのようで、実はアンチヒーローのダークファンタジーになっているのに対し、本作品の方はジャンプの王道ど真ん中と、似て非なる作品に仕上がっている。そしてその相違はそのまま両作品の明暗を分ける結果となってしまった

 何度も言っているが、ジャンプで連載を持つだけでも相当大変な事である。そして、長期に渡って連載を続けるにはその相当大変な事をやり遂げたもの同士での争いに勝ち残らなければならないので輪をかけて大変な事である。なので、各々はサバイバルレースを勝ち抜く為のセールスポイントが必要とされる

 その点において「BASTARD‼」はダーク・シュナイダーの主人公でありながら悪逆非道なところは当時のジャンプでは珍しく、他にない明確なセールスポイントとなっているのに対し、それが無い本作品はジャンプの中でも最も層の厚い王道バトル漫画という土俵で他の王道作品と真正面から争わなければならなかった。そしてその結果、力足りず14話で終了となったのであった

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  しかし、当時のジャンプの王道バトル漫画といえば「DRAGONBALL」に「幽☆遊☆白書」、「ダイの大冒険」といった錚々たる面々であり、それらとの争いに敗れたからといって誰が責める事が出来ようか

 ジャンプの王道バトル漫画同士の生き残りを賭けたバトルは、どんな漫画の中のバトルよりも過酷なのだ

北条司に何が起こったか

 何度も言っているが、と何度も言っているが、ジャンプの正式名称は少年ジャンプであり、メイン読者層は少年、つまり未成年である。なので、連載作品の主人公は読者と同様の未成年者か、成人であっても「北斗の拳」のケンシロウや「るろうに剣心」の緋村剣心のように社会生活感が無く、何で収入を得ているのか、そもそも収入があるのかもわからないような者が多い。「DRAGONBALL」の孫悟空なんかは初期は少年で、後に大人になった上に結婚して子持ちにもなるが、仕事をしている様子は微塵も無しと両者を兼ね備えており、こんな部分でもジャンプの王道を行っていると、ある意味感心させられたりする

 そんな中で一際異彩を放っているのが北条司の作品である。北条司と言えば黄金期前に「キャッツ♡アイ」、黄金期に「CITY HUNTER」と2つの作品がTVアニメ化されたジャンプを代表する漫画家の1人であるが、その両作品共に主人公はちゃんと仕事を持った社会人(スイーパーはちゃんとした仕事と言っていいのか微妙だが)で、内容の方もジャンプ作品の主流とはかけ離れた大人のムードが漂う都会的な作品となっている。その為か両作品の読者層はジャンプのメイン層よりも年齢が高めで、アンケート結果はそれほどでもないが、その割に単行本の売り上げは良かったという話もある

 そんな訳で今回紹介するのは北条司のこの作品だ

 

 こもれ陽の下で…(93年31号~94年5・6号)

 北条司

 

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短編集「桜の花咲くころ」より作者自画像


 作者は79年に「スペース・エンジェル」で手塚賞準入選、翌80年に「おれは男だ!」がジャンプ増刊に掲載されてデビュー。81年に原作付きの「三級刑事」が増刊に掲載された後、29号に読切「キャッツアイ」が掲載されて本誌デビューを飾ると、これが好評だったのか早くも同年40号から連載作品となり連載デビューを果たし、いきなりTVアニメ化される程の大ヒットを記録する。84年に「キャッツ♡アイ」が終了した後は、同作品が連載中の83年18号及びフレッシュジャンプ84年2月号に掲載された読切の「CITY HUNTER」が85年13号から連載化、こちらもTVアニメ化と2作続けての大ヒットとなる。そして91年に「CITY HUNTER」が終了後、92年11号に「ファミリープロット」、同年39号「少女の季節」と読切作品を経て、93年3・4合併号に掲載された「桜の花咲くころ」をベースにタイトルを変更した上で同年31号から連載が開始されたのが本作品である

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ベースとなった読切はこちらの短編集に収録されている

 そんな本作品の概要は、作者の公式サイトに解説が載っているのでまずはそれを引用させて頂く

 妹の怪我の原因となったエゴノキを切ろうとした少年・北崎達也の前に現れた少女・紗羅。彼女は植物と交感できる力を持っていた。短編「桜の花咲くころ」を土台に連載化された、永遠の少女と彼女に出会った人々の交流を描くハートフルSF

 物語は達也とその家の隣に引っ越してきた紗羅との出会いから始まり、2人を中心にして植物に因んだエピソードが繰り広げられていくうちに、当初は紗羅をあまりよく思っていなかった達也の心に変化が、という所謂ボーイミーツガール色の強い作品である

  と、説明だけでも察せられると思うが、本作品はそれ以前に連載した「キャッツ♡アイ」、「CITY HUNTER」とはかなり方向性が違っている。以前の2作品は一言で言うと『大人の都会の物語』なのに対して、本作品は物語の中心は紗羅と達也という小学生だし、舞台も植物が関連しているので都会では成立できない『子供の田舎の物語』(厳密には田舎とより郊外と言う方が近いと思うが)と、ほぼ真逆のテーマを持っている

 また、違うのはテーマだけではない。過去作は漫画的なフィクション要素は多めではあるものの、基本的には魔法や超能力といった超常的なものとは無縁だったのが、本作品はヒロインの紗羅からして歩く超常現象と言える存在と、何から何まで違う作風に、連載が開始した当初は戸惑いを覚えたのは私だけではあるまい

 それにしても過去作が不評だったならともかく、好評だったにもかかわらずガラリと作風を変えるなんて、一体作者に何が起こったのだろうか? アスファルトタイヤを切りつけながら暗闇走り抜ける(By Get Wild)事に疲れたのだろうか? などと冗談めかしてみたが単行本1巻カバー折り返しの作者あいさつを見るとあながち的外れではないような気もする

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なかなかポエミックな挨拶である

 考えてみれば、この時作者は連載デビューしてから十余年、年齢は30代半ばを迎えており、レオタード姿の女怪盗や、何かというと股間を膨らませるスイーパーなどを描く事に疑問を感じ、読者の心に染み入る幻想的な物語を描きたいなどと考えてもおかしくないだろう。そしてこの頃の作者の読切作品は、本作品の元となった「桜の花咲くころ」以外にも人間に化けた猫や吸血鬼など、ファンタジー溢れるキャラクターが登場する作品がチラホラあったりする

 など勝手な事を言ってみたが、作者がどのように考えていたのかなど結局のところ本人にしかわかりようがない。それよりも読者にとって重要なのは、作品が面白いかどうかである。そしてその部分がどうだったかというと、作者にとって初の短期終了作品となってしまった事実からして残念ながらジャンプの読者層にはあまり響かなかったと言わざるを得ない

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 前述の通り、作者の読者層はジャンプのメイン層よりも年齢が高めである。そんな読者にとっては『大人の都会の物語』から『子供の田舎の物語』への路線変更は受け容れ難いものであった。そして、子供がメインの物語になったからといって年齢が低めのメイン読者層に刺さるかというとそれも否な話である。「キャッツ♡アイ」での盗みに入った先での攻防や「CITY HUNTER」でのガンアクションといった見せ場が無く、自然が絡んだ物語が中心となっているので、むしろ従来の読者層よりも更に年齢が上の、もうジャンプを読まなくなったような層が郷愁を感じるような仕上がりと、完全に読者層とターゲット層が乖離しているので短期終了も止む無しと言える

 コロナ禍の真っ只中の現在、帰郷したくても出来ないという人も少なくないだろう。そんな人は代わりに本作品を読み、子供の頃田舎で過ごした日々を思い起こしてノスタルジックな気分に浸るのも一興ではないだろうか