黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

ジャンプロボット大戦

 前回当ブログではロボットが主人公である「SCRAP三太夫」を紹介したわけだが、ロボットが登場する漫画は他にも数が多い。古くは「ロボット三等兵」や「鉄腕アトム」から始まり、メジャー中のメジャー作品である「ドラえもん」、ジャンプでは「Dr.スランプ」、当ブログで紹介した短期終了作品では「AT Lady!」に「すもも」など枚挙に暇がなく、定番のジャンルの1つと言える

 だが、その多くはサイズが人間大で自我を持っているロボットばかりで、パイロットが中に乗り込んで操縦する巨大ロボットが出て来る漫画は、アニメのコミカライズやメディアミックス作品を除くとかなり少ない。ジャンプにおける有名な巨大ロボット漫画は歴代で見ても「マジンガーZ」くらいで、これもまたアニメ主導の作品である。巨大ロボットは動いてこそ華だという事だろうか

 そんな有様であるからジャンプの黄金期においても巨大ロボット漫画は皆無である。…唯一この作品を除いては

 

 魔神竜バリオン(87年22号~32号)

 黒岩よしひろ

画像は電子書籍版です

  作者の経歴についてはこちらを参考にされたし

 

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 そして「サスケ忍伝」の終了後、87年増刊ウインタースペシャルで「魔神ZO」を掲載、同年22号から本作品の連載を開始したのであった

 そんな本作品は志羽竜樹が乗り込む巨大ロボットの魔神竜バリオンと、人類を滅ぼそうと企む秘密組織のハロウィーンとの戦いを描くロボットアクション漫画である

 竜樹の父はロボット工学の分野で天才と謳われた科学者だったが、謎の失踪を遂げていた。それから一年が経ったある日、父が作り、竜樹が17歳になった時に起動するようプログラムされていた小型アンドロイドのアリスが竜樹の前に現れる。そして父が開発したバリオンシステムを手に入れ、人類を滅ぼす為に利用しようとしたハロウィーンによって一年前に父が殺されていた事、そのバリオンシステムを搭載した巨大ロボット、魔神竜バリオンが研究所の地下に隠されている事を告げられるのだが、そこにハロウィーンの刺客が襲いかかってくる

 ところで、単行本のあとがきで作者の漫画は師である桂正和や、永井豪の漫画と似ているとよく言われると本人が語っているが、なるほど確かに本作品にも両者の影響が見て取れる

 以前紹介した「サスケ忍伝」もそうであったが見た目に魅力的な女性キャラの数々は桂正和譲りであるし、主役ロボットであるバリオンは「マジンガーZ」と「機動戦士ガンダム」をあわせたようなデザイン、そして設定は「機動戦士ガンダム」以来当時も今も主流と言える、設定が比較的現実的な所謂リアルロボット路線ではなく、悪の組織の野望を阻むために主人公が奮闘するというクラシックなスーパーロボット路線となっている。また、それは桂正和が初期に好んで描いた特撮ヒーロー風作品とも近いものでもある

コレとかとそっくりである

 だが、その組み合わせは決して相性が良いとは言えない。桂正和の描く女性キャラに惹かれるような読者は、既に性に興味を覚えた比較的高年齢層が主であるのに対し、スーパーロボット路線は「マジンガーZ」がジャンプに加えて「テレビマガジン」でも連載が開始された(その為、ジャンプの連載は打ち切られる事になる)事実からもわかるように低年齢層向けである。結果、本作品は両要素が食い合ってどちらの層にも受け入れられない作品となってしまった

 と言うか、ぶっちゃけ本作品には根本的にもっと大きな問題点があったりする。それは、本作品の構成が前作の「サスケ忍伝」とほぼ同じで、そこにロボット要素を乗っけただけのように感じられる事だ

 具体例を幾つか挙げてみると、世界を統べる事が出来るほどの強大な力を持ったものが「サスケ忍伝」では妖刀十六夜で、本作品ではバリオンシステム及び魔神竜バリオンであり、それを手に入れようとする悪の組織が獣魔忍群にハロウィーン、そして組織の幹部で主人公のライバルとなるキャラが獣王院影丸にゼピュロスといった感じである。その上登場するキャラ達も主人公のサスケと竜樹、前述の影丸とゼピュロスなど、同じ役割のキャラは性格も似たり寄ったりだ

 まあ、それは作者が同じ故に仕方がない部分もあるし、そもそも両作品に限らずヒーローものによくある王道的な設定だとも言える。ジャンプの人気漫画の多くも基本設定はベタだし。それだけ世の中に溢れている王道であるから、ヒットを飛ばすには他を圧倒するパワーか他と比べて明確な差異が必要であるのだが、本作品は「サスケ忍伝」ともそこまでの差異が見られないし、パワーがあるのなら「サスケ忍伝」の時点でヒットしている訳で

 結局本作品は前作の「サスケ忍伝」の全10話に対して、ロボット要素を乗っけた分1話だけ多い、という訳ではないが全11話であえなく連載終了となってしまう。設定だけでなく、掲載順の動きといい、単行本が全1巻で完結したところといい、何から何まで似た者同士の両者であった

 

原点回帰し過ぎ問題

 黄金期の終焉から早や二十五年が過ぎ、当時の誌面を彩った漫画家の多くは第一線から引いており、鬼籍に入った者も見られる。中には荒木飛呂彦のように今も尚現役バリバリで存在感を放っている者もいるが、数少ない例外と言えるだろう

 そんな例外の1人として外す事が出来ないのが、ゆでたまごである

 二十年以上の時を経て2011年11月から週プレNEWSで連載が再開された「キン肉マン」は、(それを批判する気は無いが)かつての人気だけが頼りで中身は明らかにパワーダウンしている安易なリバイバル作品とは違って当時と変わりない、いや、むしろ当時よりもパワーアップしていると思えるような熱い話になっており、最早現在進行形で連載が続いている漫画を読む事が殆ど無くなった私が続きを楽しみにしている数少ない作品となっている

 という訳で、今回紹介するのはゆでたまごによるこの作品だ

 

 SCRAP三太夫(89年24号~40号)

 ゆでたまご

 

画像は電子書籍版です

 作者は原作担当の嶋田隆司と作画担当の中井義則という同級生2人によるコンビで、高校在学中の78年に「キン肉マン」で赤塚賞準入選、翌79年2号に掲載されデビュー&初登場を飾る。のだが、当時副編集長で後に第3代編集長となる西村繁男の著書「さらば、わが青春の『少年ジャンプ』」によると、2人は漫画家になれると考えておらず、既に就職が決まっていたという

 

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 そこを西村と、「キン肉マン」に登場するアデランスの中野さんのモデルでお馴染みの編集者である中野和雄の2人で当時2人が住んでいた大阪まで赴き、例え漫画家として成功しなくとも就職口を紹介すると説得して親の承諾を得て79年22号から「キン肉マン」の連載を開始する。と、これがいきなりTVアニメ化し、キン消しことキン肉マン消しゴムがバカ売れして社会現象となるなど大ヒットを記録して一躍ジャンプの看板作家に登り詰める。また、「キン肉マン」の連載と並行してフレッシュジャンプ82年8月号からは「闘将‼拉麵男」の連載も開始している(~89年1月号)

 87年21号で「キン肉マン」が連載終了すると、程なく同年34号から「ゆうれい小僧がやってきた!」の連載を開始し、翌88年24号で終了。そして同年43号及び89年5・6号で読切作品の「SCRAP三太夫」を掲載、それが連載化となり24号から開始されたのが本作品である

 そんな本作品は、20XX年、東京我楽太シティのロボット警備隊基地のS級ロボット警官、三太夫の奮闘を描くロボット警察漫画である

 ところで作者と言えば、時にゆで理論などと揶揄されるトンデモ理論や滅茶苦茶な展開と、それをカバーして有り余る熱いバトルが魅力である事からバトル漫画畑の人間と思っている方が多いと思うが、元々は前述の通り赤塚賞出身というギャグ畑の人間であり、代表作である「キン肉マンからして、特にその初期においてはギャグが目立つ内容となっているのを忘れてはならない

 主人公の三太夫は、原料不足からそこらに捨てられていた粗大ゴミを原料に作られ、それでも足りない頭部を補う為に近所のレトロ屋(所謂古道具屋)でバケツを買い、マジックで顔を描いて乗っけて完成させたという間に合わせのロボット警官。なのだが、そのバケツが実はかつて最強と謳われた柔術家、姿サンタローが返り血を洗い流すのに愛用していたバケツであり、それには柔道着と数々の奥義が封じられ、サンタローの霊がとり憑いていた。…柔術家なのに柔道着なのかい、と突っ込んではいけない。当時は格闘技に対する世間の知識は乏しく、柔術という言い方は柔道の古風な言い方なのだろう程度の認識でしかなかったのだ。まあ、読者側はそれでもいいけど作者側がその程度でどうかとは思うが

 さておき、そんな経緯から三太夫は普段はダメダメでS級、と言ってもSuperとかSpecialなどという上等な意味ではなくではなく、下等なScrap級の称号を持つポンコツロボットなのだが、正義の怒りが頂点に達するとバケツからボロジャケットことサンタローの柔道着が飛び出し、身に纏う事によって二本背負いなどサンタローの得意技が使えるようになり、悪党たちと激闘を繰り広げる

 とまあ、そんな感じなのだが、ボロジャケットが飛び出すのは基本的にクライマックスになってからで、物語の大部分は普段のポンコツ三太夫がウンコマシンガンだのジェット小便だの小学生が喜ぶようなギャグ満載の言わばズッコケヒーロー漫画となっている。考えてみれば「キン肉マン」も序盤はそんな話、というか、タイトルからして「ウルトラマン」のパロディであり、そういう意味では本作品は作者の原点に回帰した作品と言えるだろう

 だが、それは作者の原点ではあるかもしれないが、なにせ「キン肉マン」がブレイクしだしたのは超人オリンピックが始まりバトル路線に舵を切ってからであり、今更初期路線を踏襲する事など読者は望んでいなかった。結局本作品は5話目にして掲載順がかなり後ろの方に追いやられ、「キン肉マン」で超人オリンピック編の第一次予選が始まる第29話にも届かない19話、その内巻末掲載が5回という体たらくで終了してしまった。ラストエピソードは「キン肉マン」と世界観を共有しているかのような示唆があったが、アレは最初から考えていた事なのか、テコ入れが間に合わなかっただけなのか

 尚、余談ではあるが、つい先日とあるTVでバカリズムが本作品を評して気の抜けたコーラなどと例えていたが、私が例えるならコーヒー牛乳である。それはまだコーヒーの味を経験していない子供にとっては親しみやすい味だが、既にコーヒーの味に慣れた者にとっては風味が薄いし甘すぎるので求めたものとは違うと感じる。(超人オリンピック以降の)「キン肉マン」のようなバトル漫画を期待したのにバトル要素の薄いギャグ路線で読者の期待を裏切った本作品にはピッタリではあるまいか

青春の迷走

 早いもので今週末からGWである。この春から新たな生活を始める事になった新入生や新社会人はそろそろ環境に慣れ、期待に胸躍らせた気持ちも不安に苛まれた気持ちも一段落した頃だろうか。…まあ、かく言う私がそんな環境にあったのは20世紀の話になる訳だが。ああ、青春の日々は遠くになりにけり

 さておき、今回紹介するのは、私などが記憶の彼方に置いてきた若き青春の日々を描いたこの作品だ

 

 VICE(93年25号~34号)

 柳川よしひろ

 

 作者は北条司のアシスタントを経て89年に「ジグザグ・シンコペーション」で手塚賞佳作受賞、同年増刊サマースペシャルに掲載されてデビューを飾る。その後91年オータムスペシャルに「TEMPA!」を、92年スプリングスペシャルに「PA-PA!」を掲載。そして93年25号から本作品で本誌初登場にして連載デビューを果たしたのであった

 そんな本作品は、堀川拓郎とその悪友の土居文彦、陣内公一の3人の高校生を軸とした青春群像劇である

 主人公の拓郎は、101回目のナンパでようやく誘うのに成功した女性は既に彼氏持ちだったというモテたくてしょうがないのにモテない男。対照的に文彦は付き合っている女性の金で高校生にして1人暮らしをしているモテ男。そして陣内はリーゼントにヒゲという高校生には思えない貫禄の持ち主。3人は特に何かに打ち込むという事も無く毎日を気ままに生きていた

 そんなある日、いつものように文彦、陣内と共に街に繰り出した拓郎は、偶然知り合ったさゆりという少女に心を奪われるが、さゆりはチーマー集団ブラック・サンズのリーダーである健一という男につきまとわれていた

 話の中心は拓郎の恋の行方に不良の喧嘩が花を添えるという感じなのだが、恋愛話は上に挙げた「TEMPA!」で既にやっていたりする。しかも主人公は名前こそ違うものの拓郎とそっくりで、陣内などは名前もそのまんまで登場して

 まあ、それはいい。問題は本作品の連載開始時には安定した人気で連載五年目を迎えた「ろくでなしBLUES」、連載半年にしてブレイクしつつあった「BØY」というジャンプ2大不良漫画が揃い踏みしており、後発で不良の喧嘩を扱うには厳しい状況にあった事である

 無論、そんな状況であっても本作品が迫力のある喧嘩を見せられるならその2作品を押しのける事も出来るのだが、本作品の喧嘩シーンは全体的に軽いというか迫力に欠けて見劣りするというのが正直な意見だ

 一体なんでこんな悪すぎるタイミングで本作品の連載が開始されたのだろうか。しかも、「BØY」の梅澤春人は作者と同じ北条司のアシスタント出身で、言わば同門で潰しあいをさせるような形である。そういえば成合雄彦の「カメレオンジェイル」も、内容が被る「CITY HUNTER」が既に連載中のところに連載を開始されられたり、どうもジャンプ編集部は意味不明な判断をする時がちょくちょく見られる

 さておき、そんな事情から差異をつけようとしたのか、唐突に健一の父親が黒幕ムーブをかましたり、文彦にサッカー少年だったという設定が生えたりと色々工夫の跡が伺える。…のだが、連載開始直後で話の幹もしっかりしていないのに枝葉を盛り始めた上に投げっぱなしで描き切れておらず、全体的に迷走している感が否めない。まあ、描き切る前に連載が終了してしまったという側面もあるだろうが

 そしてもう1つ本作品を読んでいて気になるのは、ギャグなのだろうけど拓郎が突拍子もない行動をとる事が度々見られ、読者を置いてけぼりにしてしまっている事だ

 

作者挨拶も読者置いてけぼりである

 話の軸が定まらずキャラの行動は読者を置いてけぼりにするとあっては本作品が僅か10話で終了してしまうのは止む無しであり、結局最後まで拓郎がどんなキャラなのか、何がしたいのかわからないままであった

 本作品は正直不出来と言わざるを得ない。だが、それでも私は不思議とそんなに嫌いじゃなかったりする。考えてみれば、青春とは迷走と空回りの連続であり、ブレずに何か1つの事に打ち込んだ者などどれだけいよう。私もそうだったが、自分が何をしたいかもわからず毎日を気ままに過ごし、特別な事など成し遂げられなかった者が殆どではないだろうか。そういう意味では本作品は作者の空回りも含めてリアルな青春を体現していると言えよう

黄金期ジャンプ短期終了作家列伝

 当ブログではこれまで主に黄金期ジャンプの短期終了作品にスポットを当てた記事を書いてきたのだが、そんな記事をいくつも書いているうちに、作品では無く作者について、短期終了作品以外のジャンプ及び他誌での連載作品の記事も書きたいという気持ちも湧いてきた。という訳で、今回からはちょくちょく黄金期ジャンプに短期終了作品を連載した経験のある漫画家の方にスポットを当てた記事も書いていきたいと思う

 そんな記念すべき第一弾として扱うべき漫画家と言えば、やはりこの人物をおいて他にいないであろう。そう、当ブログで初めて紹介した短期終了作品である「カメレオンジェイル」の作者、成合雄彦だ

 

 尚、今回紹介する内容については、以前紹介した「カメレオンジェイル」の記事と重複する部分も多分にあるという事を断っておく

 

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 成合雄彦は熊本大学在学中に投稿作品が編集者の目に留まった事をきっかけに大学を中退して上京、北条司のアシスタントを務めながら漫画の勉強をする。そして88年に「楓パープル」が第35回手塚賞で入選、同年32号に掲載されデビュー及び本誌初登場を飾り、更に42号にも読切作品の「華SHONEN」が掲載される事となる。因みに同回は手塚賞で唯一入選者が2人出たのだが、もう1人の入選者は後に「WILD HALF」を連載する事になる浅美裕子である

 

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 そして本誌初登場から一年後の89年33号から「カメレオンジェイル」で連載デビューを果たす。のだが、何故かそれには渡辺和彦という原作者がつけられていた上、その内容が当時連載中で、既に人気作となっていた北条司の「CITY HUNTER」と類似していたという事もあり、僅か12話で終了となってしまう

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 しかしその後から快進撃が始まった。90年サマースペシャルに井上雄彦と名前を変えて読切作品の「赤が好き」を掲載、これが同年42号からタイトルを変えて連載を開始する事となる。そう、それこそが累計1億部を超える単行本売り上げを記録し、「DRAGON BALL」と並んで黄金期ジャンプの二大看板と称された「SLAM DUNK」である

 「SLAM DUNK」で一躍ジャンプの看板まで上り詰めた井上雄彦であるが、ジャンプとの別れが唐突に訪れる。同作品が人気もストーリーの盛り上がりも絶頂に達した頃の96年27号に突然に終了すると、その後は98年9号に読切作品の「ピアス」が掲載されたのみでジャンプから姿を消してしまったのだ。結局ジャンプで連載した作品は「カメレオンジェイル」と「SLAM DUNK」の2本のみ、出た単行本は併せても33冊と、ジャンプを代表する作家にしては寂しい数字と言えよう

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 この急激なジャンプ離れは、二大看板と並び称された片割れである鳥山明の「DRAGON BALL」が連載終了のだいぶ前から誌面で示唆され、その終了後も、言い方が悪いが気楽に余生を楽しみながら描いたような連載を幾つも持ったのとはあまりにも対照的であるが故に当時も今も様々な憶測を呼んでいるが、真相は定かではない。ただ言えるのは、その前年に「DRAGON BALL」が終了したのに続き、二大看板を失った事でジャンプの黄金期が終了してしまったという事だけである。もし「SLAM DUNK」の連載がもうちっとだけ続いていたら、「SLAM DUNK」の終了後もジャンプで描き続けていたら、ジャンプの黄金期は終わらなかっただろうなどと言うつもりはないが、その後の歩みは少し違っていただろう。…まあ後の作品を見ると、どのみちジャンプとの決別は避けられなかったとも思うが

 さておき、井上雄彦が離れた後のジャンプが急激に勢いを失っていくのとは対照的に、自身の勢いは相変わらずであった。「SLAM DUNK」が終了してすぐに、当時では珍しかったウェブコミックとして宇宙バスケットボール漫画の「BUZZER BEATER」を連載(月刊ジャンプで再掲)、そして98年からはモーニングで吉川英治の「宮本武蔵」を原作とした「バガボンド」の連載を開始、99年からはヤングジャンプ車いすバスケットボール漫画の「リアル」の連載を開始する。前者は「SLAM DUNK」に迫る人気を得て、後者はそのテーマから大ヒットとはならずとも文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞するなど名声を更に高め、今やその名声は漫画家の中でも屈指であろう

 その栄光も「カメレオンジェイル」という短期終了作品が出発点となっている訳で、言わば井上雄彦は最も成功した短期終了作家であり、また、例えデビュー作が短期終了の憂き目に遭っても、これだけの成功を収められるという生き証人でもあるのだ

 

希少な赤塚賞入選者

 前回当ブログでは「地獄先生ぬ~べ~」の原作担当である真倉翔が自分で作画も手掛けた「天外君の華麗なる悩み」を紹介した。であるなら、今回は「地獄先生ぬ~べ~」の作画担当である岡野剛が自分で原作も手掛けた作品を紹介するのが筋であろう

 筋と言っても、都合よくそんな作品があるのかとお思いの方もいるかもしれない。それが都合よくあるのだ。しかも、奇しくも真倉翔が以前に真倉まいなという名義で活動していたように、岡野剛もまた別名義で活動していた頃の作品が(真倉翔が別名義で活動していたのは「天外君の華麗なる悩み」より前の事だったが)

 

 という訳で、今回紹介するのはこちらである

 

 AT Lady!(89年52号~90年11号)

 のむら剛

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作者自画像

 

 作者は87年増刊オータムスペシャルにのむら剛名義の「暴発!ゆりこ先生」が掲載されてデビューを飾る。88年には本作品の基となる「AT Lady!」で赤塚賞入選を果たし、同作品がオータムスペシャルに掲載、更に同タイトルで33号に掲載され本誌初登場。そして翌89年スプリングスペシャルに「AT LADY! 某国より愛をこめて♡」を掲載した後、52号から本作品で連載デビューを果たしたのであった

 ところで、ジャンプの新人漫画賞は数あれど、中でも二大巨頭と言えるのが手塚賞と赤塚賞であろう。そのうち手塚賞については、審査が厳しく入選者は滅多に出ないという事は当ブログでも何度か触れたが、実はそれ以上に厳しいのが赤塚賞で、作者が入選を果たしたのが第28回にして僅か4人目という少なさである(因みに手塚賞で4人目の入選者が出たのは第12回)。しかもジャンプ黄金期において入選を果たした者は、作者の他には90年に「UNDEADMAN」で受賞した八木教広の2人がいるだけで、その後に入選者が出たのは2019年と、30年近く入選者が出なかったのだから審査が厳しいどころの話ではない

 そんな希少な赤塚賞入選者による本作品は、警視庁が開発したロボット刑事、通称AT(Automatic-Tec)の中でも最新型でありながらポンコツな7号の奮闘と失敗を描いたロボット&警察コメディである

 年々科学的・組織的になってきた犯罪に悩まされた警視庁は、対策会議の末ロボット刑事の開発を決定した。それも警視総監の独断で、全員若い女性型の。そして春田警部によって開発された7体のATは、1号は100万ボルトの高圧電流を発する事が出来、2号は体内にスーパーコンピュータを搭載、3号はジェット噴射で飛行可能など、それぞれが強力な能力を有した優秀な刑事であり、次々と事件を解決していった。が、そんな中で一番最後に開発された7号は、7万馬力のパワーを誇るものの人工知能に欠陥を抱え、事件を解決するどころか更に悪化させてしまう

 作品は大小様々なネタがテンポよく次々と繰り出され、中には銃を的に当てる射撃テストで銃を撃つのではなく、銃を投げたというネタが伏線となり、後にその投げられた銃が犯罪に使用されるなど赤塚賞入選者らしい工夫も見られるが、基本的にはロボット故の常識の無さがトラブルを引き起こすというタイプで、以前紹介した「すもも」と同じく本作品もまた「Dr.スランプ」フォロワー作品と言えよう

 ただ、「Dr.スランプ」や「すもも」が絵のタッチからオシャレ感が漂っているのに対し、本作品は主人公の7号を始め全体的に可愛らしいタッチでそれが感じられない。加えて、7体のATたちにそれぞれ違った特徴を持たせたのは明らかにサイボーグ009を意識しているし、ATたちが皆専用のマシンを持っているのはサンダーバード、他にもアニメや特撮ネタがちりばめられている事も相まって率直に言うとかなりオタクくさく、それが当時ではかなりのネックとなってしまっている

 というのも、アニメや特撮を見るのに抵抗もなく気軽にオタクだと言える現代と違って、当時のオタク像は宅八郎のような見た目も言動も気持ち悪いイメージであったからだ。それ故に一部のファミリー向け作品以外のアニメを見るという行為は半ばタブー視され、人前でアニメや特撮の話題をしようものなら周りから白眼視されるような時代だったのである

 そんな世情の中で本作品が受け容れられる筈もなく、赤塚賞入選者という華々しい肩書きを引っ提げての初連載にも関わらず、短期終了作品の中でもかなり短い僅か10話で終了してしまう。しかも、単行本2巻折り返しの作者あいさつによると、連載終了直後にはバイク事故に遭って全治三ヵ月の怪我をしてしまったという不幸の追い打ち付きで。そして、次に作者が本誌に再登場するまでは実に三年以上の月日が流れてしまっていたのである

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 その再登場作品が、真倉翔という原作者を迎えて93年27号に掲載された読切の「地獄先生ぬ~ぼ~」で、同年38号からタイトルを変更して連載を開始する事となる。そう、ご存じの通り「地獄先生ぬ~べ~」である

 しかし、考えてみれば赤塚賞入選者が話を考えずに作画担当となり、エロ漫画家が絵を描かずに原作担当となって成功を収めるというのはなかなか奇妙な話ではないだろうか

真倉翔の華麗なる転身

 当ブログでは前回、原作・原案付き作品という括りで記事を書いた。その流れで今回は、とある有名な原作・原案付き作品の原作者が、自身で作画まで手掛けた作品を紹介したい

 …まあ、表題に名前が入っているので察した人も多いだろうが。そう、今回紹介するのは「地獄先生ぬ~べ~」の原作者として有名な真倉翔のこちらの作品である

 

 天外君の華麗なる悩み(91年41号~92年6号)

 真倉翔

画像は電子書籍版です

 Wikipediaによると作者はジャンプで活動する以前は真倉まいなという名前でエロ漫画を描いていて、単行本も結構な数が出ていたという。果たしてこれは事実なのか確認の為に、あくまで確認の為に真倉まいなの単行本を取り寄せてみた

 それがこちらである

 

 私は鑑定眼に自信がある訳ではないが、見比べてみるとまつ毛の描き方など共通している特徴が見られるので、まず同一人物ではないかと思う。因みに内容の方は、…私の性癖には刺さらなかったとだけ言っておこう

 さておき、その後真倉翔と名義を変えて90年増刊ウインタースペシャルに本作品とタイトルも同じ「天外君の華麗なる悩み」を、スプリングスペシャルに「マッチョキュービー」を掲載、また、同年19号には「ハッタリ4×4」で本誌初登場、しかも3号連続での掲載を果たしている

 いきなり3号連続掲載とは余程期待されていたのだろう。と思いきや、さにあらず。これはおそらく当時連載を持っていた新沢基栄が急病で連載中断となった為の代理原稿だと思われる。そして、翌91年41号から連載が開始されたのが本作品である

 そんな本作品は、女性にモテてモテてしょうがない鬼相天外が、モテないように硬派を気取るものの結局モテてしまうというギャグ漫画である

 単行本のカバー画像を見てもわかるように主人公の鬼相天外は角刈りにサングラス、変形学ランと、まるで「魁‼男塾」に出て来るモブのような男で、とても女にモテるようには思えない。…のだが、生まれつき強力なフェロモンが分泌される体質で、物心がついた頃からモテすぎて色々なトラブルに巻き込まれた為にすっかり女性嫌いになっていたという、リアルで存在すれば皆に殺意を抱かれるような男である。故に女性を寄せ付けないよう硬派を気取って応援団に入るものの、生まれつきの体質はいかんとも出来ず、何をやっても蛾を引き寄せる誘蛾灯の如く女性を惹きつけてしまう

 女性にモテたくて頑張るという主人公は「SLAM DUNK」の桜木花道や、以前当ブログでも紹介した、本作品と同じく応援団が舞台である「神光援団紳士録」の杉山ヒデキチなど少年漫画の定番の1つと言えるが、逆にモテたくなくて頑張るという主人公は珍しい。その斬新な設定故に本作品は私の中では数ある短期終了作品の中でも印象が強いほうであった

 

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 だが同時に、その設定は作品の幅を大いに狭める要因となってしまっている。何しろ天外がそこにいるだけで周りの女性は皆フェロモンの影響を受けて群がってしまうという強すぎる設定であるので、結局どのエピソードでもそこばかり印象に残ってしまうのだ。私などはギャグが肌に合うという事もあって、本作品に対して割と好意的な方であるのだが、それでも単行本で何話も続けて読んでいると正直またかと思ってしまう程であった

 それでも群がる女性たちが可愛いなら、言い方は悪いが美少女動物園としてある程度の人気は得られたのかもしれない。が、本作品最大の問題はまさにそこで、天外に群がるモブの女性どころか、メインキャラの1人で天外のいとこにあたる鬼相さつき、ヒロイン格の八茶目茶子に至るまで、悉く可愛くないのである(個人の感想です)

 女性キャラが可愛くないのによくエロ漫画家なんかやっていけたな、とお思いになる方もいるだろう。少しフォローをさせて貰うと、少なくとも上に挙げたエロ漫画に出て来る女性キャラは上手いとは言い難いものの、可愛くないと断言するような出来では無かったし、少なくとも可愛く描こうという気は感じられた。それが本作品になって可愛くないと断言する出来になってしまったのは、ギャグマンガという事を意識してタッチを変えたのか、はたまたエロ漫画家という過去を払拭する為だろうか。何れにせよ私の目には女性を可愛く描こうという気すらないように見えた

 ともあれ、女性キャラが多く登場する作品なのに女性が可愛くなくなるようなタッチの変化は悪手としか言いようがなく、本作品は16話で最終回を迎えてしまう事となる。…まあ、本作品の連載当時は女性キャラの可愛さに定評があり、しかもエロくもある桂正和の「電影少女」が既に連載中であったので、タッチを変えなくとも詰んでいたのかもしれないが

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 かくして、真倉まいな改め真倉翔のエロ漫画家からジャンプ連載漫画家への華麗なる転身は失敗してしまった訳だが、その後、更に原作者へと転身し、「地獄先生ぬ~べ~」というヒット作を生む事になるのは皆さまもご存じの通りである

 

データで見る黄金期ジャンプ 原作・原案付き作品編

 当ブログでは前回紹介した「暗闇をぶっとばせ‼」など原作・原案付き作品をいくつか紹介してきた。そこで今回は原作・原案付き作品をテーマに少し掘り下げてみたいと思う

 改めて説明するまでも無いが原作・原案付き作品とは、漫画の作業を設定やストーリーを考える原作担当(原案の場合は負担が軽く、設定のみでストーリー作りには関わらない事が多い)と、それを基に絵を描いて漫画として仕上げる作画担当に分けて作られ、著者として原作・原案者と作画者が併記されている作品である。なので、「キン肉マン」などでお馴染みのゆでたまごのように原作担当と作画担当に分かれているものの、1つのペンネームで活動しているケースは除外している事をあらかじめ断っておく

 ジャンプを、いや、漫画誌を購読した経験がある人なら感覚的にわかると思うが、原作・原案付き作品は漫画全体からすると割合は少なく、ジャンプの黄金期においては全連載作品が168あるのに対して原作・原案付き作品は20で、割合は約12%しかない

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95年3・4号だと連載作品が20のうち原作・原案付き作品は3つである


 因みに当ブログで紹介した黄金期ジャンプの短期終了作品は47、そのうち原作・原案付き作品は6で、割合が約13%と偶然か否かほぼ同じ数値になっている

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当ブログで紹介した原作・原案付き作品たち

 まあ、漫画家サイドとしては別に1人でも漫画は描ける、というか1人で描きたいだろうし、編集サイドとしても原稿料とか打ち合わせとか諸々でコストも手間も増える訳だから原作・原案付き作品が少ないのは当然と言えよう

 だが、逆に少ないながらも存在し続けるのはそれだけの理由があるからで、例えば黄金期ジャンプを代表する原作・原案付き作品の1つである「北斗の拳」が、読切の段階では原哲夫1人で描いていたのに連載の時点になって武論尊が原作者についた事情は、当時編集長であった西村繁男が後に書いた著者「さらば、わが青春の『少年ジャンプ』」によると、担当の堀江信彦から原は絵に時間をかけるタイプなので、どうしても話作りが弱い、連載となると原作なしでは無理だと言われ、それを受けて西村が原作担当として武論尊に白羽を立てたという。他には「ドラゴンクエストⅣ」のプロモーションの一環として企画された「ダイの大冒険」のような例もあるが、基本的には絵は得意だが物語作りはあまり得意ではない漫画家をカバーする為に編集サイドで原作者を引き合わせるケースが多いと思われる

 

 では、その物語作りの弱い(失礼)漫画家こと、原作・原案付き作品の作画担当の多さランキングを見てみよう

 

 1位 原哲夫        4作品

 2位 小畑健        3作品

 3位 鬼窪浩久 戸舘新吾  2作品

 

 1位2位に関しては原作・原案付き作品と言えばまず名前が挙がる2人だから納得であろう。ただ、1位の原哲夫は黄金期以外を含めても4作品のままなのに対し、2位の小畑健は黄金期以外も含めると倍以上に膨れ上がって逆転するという事を補足しておく

 そして、同数3位には鬼窪浩久、戸舘新吾という割とマイナーな漫画家がランクインした。実はこの両名には共通点があって、どちらも原哲夫のアシスタント経験者であるという事だ。他に前回紹介した「暗闇をぶっとばせ‼」の今泉伸二も同様の経験があり、本人とその門下で20作品中9作品と一大勢力を築いている。原哲夫自身が原作・原案付き作品を多く手掛けた事もあってか、同氏の下は作画の勉強には良くとも話作りの勉強にはならないという事だろうか(失礼²)

 

 次に原作・原案担当の多い作家ランキングを

 

 1位 宮崎まさる      4作品

 2位 隆慶一郎       2作品

 

 因みに1位となった宮崎まさるは前回紹介した「暗闇をぶっとばせ‼」での宮崎博文名義など別名義も含めてのものである。こちらは複数担当者が僅か2人、しかも2位となった隆慶一郎原作は「花の慶次」と「影武者徳川家康」の原作者だが、「花の慶次」の元となる小説「一夢庵風流記」を書き、連載前の読切版は手がけたものの、連載開始時には故人となっていて後の「影武者徳川家康」には勿論ノータッチであり、実質的には複数の作品を担当した人物は1人だけとかなり寂しい結果となった

 尚、ジャンプ漫画の原作者と言えば、黄金期の読者ならまず上でも名前を挙げた武論尊を思い浮かべる人が多いだろう。実際同氏がジャンプで原作を手がけた作品は5つあるのだが、ジャンプでの活動時期は主に黄金期以前であり、黄金期に限定すると「北斗の拳」しか手掛けていないのでランク外という結果となった。いつかジャンプ全体でのデータもとってみたいとも思うが、…正直面倒くさいとも思ってしまう

 

 ところで、絵は得意だが物語を作る力に難がある作家と物語を作る力がある作家を組ませて、画力が高く物語を作る力もあるユニットが出来たのだから、普通に考えると原作・原案付き作品は漫画家単独で描いた作品よりもクオリティが高く、長期連載になるケースが多い筈である

 では実際どうなのか見て行こう

 まずは黄金期ジャンプに連載歴がある全作品の単行本巻数の割合をグラフにしたものを

  

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 尚、今まで当ブログで使用してきた作品データはジャンプの黄金期中に連載が開始された作品をカウントしたものであった。だが、それだと「北斗の拳」、「キン肉マン」といった黄金期の初期を代表する作品がデータから漏れてしまうので、今回からは黄金期中に連載歴のある作品を使用した事を断っておく

 

 続いて原作・原案付き作品に限定したデータ

 

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 両者の比較グラフがコレ

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 見ての通り、実際は短期終了作品の割合はジャンプ全作品の割合よりむしろ高くなっているのである。このあたり原作・原案担当サイドと作画担当サイドとの連携が上手くいかないなど原作・原案付き作品特有の問題があるのか、いずれにしても理屈通りにいかないものである