以前当ブログでは手塚賞入選作家のその後についての記事に関連して、手塚・赤塚賞受賞作品集1を紹介したが、せっかくなので他の巻も紹介しておきたい
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という訳で今回紹介するのはこちらだ
めざせ漫画家!手塚・赤塚賞受賞作品集2
本単行本に収録されているのは88年上半期に開催された第35回手塚賞及び第28回赤塚賞受賞作品の計12本になる。因みにこの回は、手塚賞は史上初にして唯一の2人同時入選が出ているのに加え、赤塚賞は現在まで100回開催されて僅か6人しか出ていない入選者が出るという大豊作の回だったと言える
1巻同様以下、収録作品と印象的な短評を
手塚賞入選 楓パープル 成合雄彦
作者は後の井上雄彦。本単行本以外にも「カメレオンジェイル」の1巻及びヤングジャンプコミックス版の復刻「カメレオンジェイル」にも収録されている
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内容は「カメレオンジェイル」の紹介記事でも少し触れたが、「SLAMDUNK」の流川楓の原型と思われ名前も同じ流川楓が主人公のバスケット漫画で、後の作者の作品と比べると話も画力も発展途上ではあるが新人離れしたレベルの高い作品で短評も賛辞ばかりと、入選も納得の作品である
短評(手塚治虫)絵のうまさが光っている。話もドラマチックにうまく作られている
手塚賞入選 ジャンプ☆ラン 浅美裕子
作者は前回「2001年夢中の旅」では準入選だったが今回は入選を果たした。本単行本以外にも短編集「ポケットに聖書を」にも収録されている
内容は、憧れの先生がスカイダイビングのライセンスを取ろうと渡米した為にアメリカとスカイダイビングが嫌いになった高校生飛渡明生が、ひょんな事からスカイダイビング好きのアメリカ人クリスと知り合い、先生が夢中になったものを知りたいとスカイダイビングに挑戦する青春漫画。まとまってはいるが、正直「楓パープル」と比べたら一枚落ちる印象
短評(本宮ひろ志)絵はバツグンにうまい。ドラマ性がもうひとつ弱かったが、将来がとても楽しみな人である
手塚賞準入選 G(ジェネラル・エクシード)X 赤山寿文
作者はジャンプでのデビューは叶わなかったが、後にあかやま壽文の名で漫画を描いたり小説の挿絵を担当したりしている。内容は特務部隊ジェネラル・エクシードのエージェントで甲賀忍者でもある里見速魚が、誘拐された少女を傷つけることなくその背中に取り付けられた軍事ユニットを排除するというミッションに挑むミリタリーもの
短評(ちばてつや)鋭いタッチの絵はそれなりの魅力はあるが、人物が機械的なのが気になる。発想・アイデアも奇抜で面白いが、今ひとつ臨場感が欲しい
手塚賞佳作 倒魔の剣 出口竜正
作者は庵老竜正の名で87年上半期に「荒鷲の伝説」で手塚賞準入選と「治療博士」で赤塚賞佳作のダブル受賞を果たし、同年サマースペシャルに「荒鷲の伝説」が掲載されてデビューを飾る。その後増刊では本作品を含む幾つかの作品が掲載されるも本誌では連載も掲載も無かったが、マガジンSPECIAL「命~紅の守護神~」で連載デビューを飾る。また、01年には後にアニメ化された、というかアニメ化ありきで先行して月刊マガジンZで連載が開始された「アベノ橋魔法☆商店街」の作画担当も務めている。内容はアイヌ風の世界を舞台に、狩人の少年アラシが来魔(熊)に捧げる生贄に選ばれた幼馴染の舞依を救う為に来魔に闘いを挑むというもの
短評(弓月光)わかりやすい話で、クライマックスもいい。すべてにソツがないが、それが欠点でもある
手塚賞佳作 Country Sideーある田舎の出来事ー 岩丸
作者は88年増刊オータムスペシャルに「宇宙人屋敷」が掲載されてデビューを飾る。翌年下半期の手塚賞でも「魔女の街」で佳作を受賞し、オータムスペシャルの「スクワイヤー」を経て92年33号に掲載された武田薫が原作を務める「金メダルウォーズ」の作画担当として本誌初登場を果たすが、これを最後にジャンプからは姿を消す。そしてその後MANGAオールマン97年12号から米山公啓が原作を務める「SAMU特別援助医療隊Dr.無限谷陽」の作画担当として連載デビューを飾る事に。内容は古き良き時代のアメリカの田舎町を舞台に、少年ジョディとクラスメイトのエアリー一家との交流を描いた海外ドラマ風の作品
短評(高橋三千綱)いい話を作ろうとして、感動を与えることができない作品になった感じがする
手塚賞佳作 CHANGE OF THE TIMES 石田正和
作者については残念ながら調べても何もわからなかった。内容は、八年後にタイムスリップしてしまった高校生の柚木浩司がそこで未来の自分と出会い、自分にとっては未来の、未来の自分にとっては過去の運命を変える為に奮闘するタイムパラドックスもの
短評(松本零士)デフォルメの研究が必要。ストーリーは、よくあるタイプだが、セリフが多くなってしまっているので、わかりにくくなっているのが残念
手塚賞佳作 山小屋 おおうち賀津雄
作者は月刊少年ジャンプ漫画大賞佳作を3度受賞している事以外はわからなかった。内容は、高校卒業前の思い出作りとして冬山登山を行っている最中に吹雪に襲われて山小屋に避難した矢崎達郎らの4人組と、先客である男性とのやりとりを描いた人間ドラマ
短評(ちばてつや)それぞれの人物が克明に描写されていて、ドラマもありよい。もう少し人物や話を整理してもよいと思う
赤塚賞入選 AT Lady! のむら剛
作者は後に同タイトルで連載デビューし、岡野剛と名を変えて93年38号から連載が開始された真倉翔が原作を務める「地獄先生ぬ~べ~」の作画を担当する事に。本単行本以外にも「AT Lady!」の単行本1巻にも収録されている
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内容はロボットによる犯罪に対抗する為に開発された婦警型ロボット刑事7体と、悪の科学者松戸狂授の開発したロボットたちとの闘いを描いた近未来ロボットギャグ漫画
短評(糸井重里)骨太いものはないが、展開の”間”がよい
赤塚賞準入選 ざます 赤峰亮介
作者は本作品が88年増刊サマースペシャルに掲載されてデビュー。また、同名の人物がNHKのTV番組「プロフェッショナル仕事の流儀」のコミック版の作画担当者などを務めているが、タッチが違い過ぎて同一人物かどうかは不明。内容は、教育ママが息子を東大に合格させる為に無茶な勉強を強いるというブラックなお受験コメディ
短評(永井豪)少しストレートすぎる。かき方が、笑いにつながらない。作者のパワーは感じる
赤塚賞佳作 HIP-HOP JUNGLE 上北双子
作者はその名の通り双子の姉妹で、元々笹川ひろし事務所のアニメーターとしてタツノコプロのアニメ制作に関わっていた。この次の回の赤塚賞では「RED・HOT」で準入選、同作品が89年増刊スプリングスペシャルに掲載されてデビュー。その後上北沢ふたごと名を変え「大人のないしょ話」スーパージャンプ94年14号から短期集中連載。更に上北ふたごと名を変えTVアニメのプリキュアシリーズの漫画版をなかよしで連載したり、TVアニメ「ヤッターマン」のリメイク版のキャラクターデザインを担当したりしたという。内容は夏休みに憧れのアフリカ旅行に出かけた砂伴奈虎子が、自称ターザンの孫であるテレンス・トレント・バービーに出会って振り回されたり、象に誘拐されたりするドタバタコメディ
短評(楳図かずお)楽しいのだが、ややドラマにとぼしい。主人公をもっと工夫して、一貫した内容に
赤塚賞佳作 私はてれびちゃん 松本拓也
松本拓也で検索したら元プロ野球選手やらサッカー選手やら声優やら色々出てきたが、作者らしき人物の情報は見つからなかった。内容は、彼女に振られた男が試作品のモニターに選ばれてTV型ロボットと共同生活を送るというもの
短評(糸井重里)ラストのオチでガッカリした。もっといろいろふくらむはず
赤塚賞佳作 英雄になる時 十静馬
作者はほぼ同時期に「双頭の蛇」でフレッシュジャンプ賞準入選、同作品がフレッシュジャンプ88年4月号に掲載されてデビュー。更に本作品が同年フレッシュジャンプ8月号に「ドラゴン荘冒険記」と同時掲載される。その後木崎ひろすけと名を変え月刊マンガボーイズ94年8月号から「GOD-GUN世郎」で連載デビューを果たす。他にもコミックビームや月刊少年エースで連載経験があるが01年に若くして心不全で死去。内容は茂吉、音吉、万吉の3人が世界中のお宝をかき集めるという私欲の為にロボットを制作し、邪魔者となる強盗団「よもぎ色の月」を排除しようというもの
短評(鳥山明)絵は個性的でていねい、上手である。が、肝心のキャラクターに魅力がないのはおしい。人物のかき方に工夫を
以上が88年上半期に開催された手塚賞及び赤塚賞の全受賞作品である。今後も折を見て手塚賞、赤塚賞の受賞作を振り返っていきたいと思うのだが、以前の記事で述べたように現状では単行本全20巻のうち半分程度しか所持しておらず、入手も難しいので全部振り返るのは厳しそうだ…