黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

時代が早すぎたレスリング漫画

 前回当ブログで紹介した「ノーサイド」のラグビー同様に、急激にメジャー化したスポーツというのは他にも結構ある。カーリングもオリンピック中継で大々的に取り上げられる前はどマイナースポーツだったし、スケートボードなども昨年行われた東京オリンピックでメダリストを複数輩出した事で始める人が急増したという。卓球なんか昔は根暗のスポーツだと蔑まれていたのがウソのようだ

 そしてそんなスポーツの1つに含まれるのがアマチュアレスリングである。昔からオリンピックで金メダリストを何人も輩出してきたにも関わらず何故かメディアの扱いが悪く、かつては私がアマレス関連で憶えている事と言えばソウルオリンピックで金メダルを取った小林幸至選手がメダルを紛失した事くらいだったのに、2004年のアテネオリンピックで女子レスリングが正式種目化した途端、吉田沙保里伊調馨といったスター選手が現れた事もあるがメディアが挙って取り上げるようになって一気にメジャースポーツ化してしまった感がある。…まあ、男子レスリングの方は相変わらずメディアの扱いが悪いし、世界的に見ればオリンピック競技から除外するという動きもあるのだが

 そんな訳で今回紹介するのはこちらの作品だ

 

 Wrestling with もも子(97年20号~39号)

 徳弘正也



 作者の「水のともだちカッパーマン」までの経歴はこちらを参考にされたし

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 そして、その後97年20号から連載を開始したのが本作品である

 体格は小柄なので自らがする事は無いが知識だけはある格闘技マニアの岡イサムは、入学した八田学園の同級生に女子レスリングのジュニアチャンピオンである持合もも子がいるのを知り、後をつけて行って覗いたレスリング道場で彼女の素敵なおっぱいと、そのスパーリング風景に圧倒される。そして道場が閉鎖され、練習する場所がなくなるという事を聞いたイサムは、彼女とふれあいたいという不純な動機もあって八田学園にレスリング部を作る事を決意、そこにイサムと同じ動機でやってきた和田と松浪が加わり、4人でレスリング同好会が発足する

 さて、「水のともだち カッパーマン」の紹介記事でも触れたが、作者は根が真面目なせいか、「新ジャングルの王者ターちゃん♡」の末期あたりから環境問題に警鐘を鳴らしたり、果てには無責任に環境を破壊し続ける人間に対する怒りを吐き出したりとエンタメとしてはどうなんだというような作風になってしまった。だが、流石に反省したのか、それとも取材しているうちにレスリングにハマって余計な事に目がいかなくなったのか、本作品では嬉しい事にそんなところは全くなくなっていてエンタメ全開となっている

 中でも特筆すべきは下ネタで、主人公は頭の中がエロい妄想で溢れている高校生男子、レスリングを始めたきっかけが不純、更に父親がエロ小説家という無駄な設定もあって、次々と繰り出されるギャグの殆どが下ネタという徹底ぶりだ。元々作者は自らち〇こマンガ家を自称するくらいに下ネタを多用しているが、もう1つの得意技である人情噺が殆どなく、ここまで下ネタに振り切った作品は私が知る限り他にはない。にもかかわらず意外に不快感がないのは、1つのネタを引っ張らずにテンポよく繰り出す事と、下ネタの被害者といえるもも子がノリノリで突っ込んでくれるからだろう。…まあ、私が齢を食ったせいで下ネタに対して寛容になっただけかもしれないが

 一方で、スポーツ漫画としては未経験者がめきめき上達していくという王道を行っている。フィクションである為に上達スピードが速いのは否めないものの、前回紹介した「ノーサイド」ほど極端じゃなく、しっかり負けるし苦労もする。それでいて試合シーンの中にも下ネタをぶっこんでくるので真面目になり過ぎず読み味が軽やかだ

 …が、そんな本作品にも欠点はある。それは、上にも挙げた通り当時レスリングは

メジャー化する前で興味を持つ者が極めて少なかった事であり、では、何故そうだったかというと、身も蓋も無い話だが非常に見栄えが良くないからである

 レスリングという競技はスポーツであると同時に格闘技でもあるので、本作品はバトル漫画の側面も持ち合わせていると言えるのだが、ルール的に打撃が禁止されている上に、そもそも相手にダメージを与えるのが目的ではない(結果としてダメージを与える事はあるが)ので、攻防に派手さが無いのだ

取材に行った作者もこんな反応である

 私はスポーツ全般の観戦が好きでレスリングの試合も結構見るのだが、実際の試合は相対して押し合いするなど膠着する場面が殆どで正直退屈な時間が多いし、本作品でもクライマックスにもも子がガッツリとレスリングをするシーンがあるのだが、個人的にはその部分が一番面白くないと感じた

 結局本作品は当時はまだマイナーなテーマを扱ったという事もあって18話で終了となってしまう。もし連載当時既にレスリングがメジャースポーツになっていたらもう少し連載が続いていたかもしれない。が、そうなるとイサムの上達と共に必然的にレスリングシーンが増えて面白みがなくなってしまうので、その前に終了したのはある意味では良かったのかもしれない。おかげで面白いまま短時間で読み切れる作品となっており、作者の作品で一番好きなものは何かと問われたら、世間的には「(新)ジャングルの王者ターちゃん♡」挙げる人が多数だろうが、私は冗談ではなく本作品を推したい程である

 本作品の終了後、作者はジャンプを離れ同年スーパージャンプ21号から「狂四郎2030」の連載を開始、そのダークな雰囲気が高評価を得る事になるが、私としてはそれよりも作者には本作品のように何も考えず心の底から笑えるような作品を描いて欲しいと思う。…まあ、賛同する者は少ないだろうけど

ラブコメ-ラブ-コメ=

 最近、という程最近でもないが、ラグビーのW杯が日本で開催されて以来、選手が一般メディアやTVCMにちょこちょこ登場したり、BSではあるがレギュラーのラグビー情報番組が開始したりとラグビーが急激にメジャースポーツ化した感がある

 と言っても、以前はマイナースポーツだったかというとそういう訳でもなく、実はW杯は第1回から日本でもTV中継が行われていたし、昔から国内の大きな大会はメディアで結構大きく取り上げていたおかげで、そこまでラグビーに興味ない人でも日本選手権を7連覇した新日鉄釜石神戸製鋼といったチーム名や、高校ラグビーの聖地である花園こと東大阪市花園ラグビー場といった単語は知っているという人も少なくないのではなかろうか

 また、フィクションにおいても「スクール☆ウォーズ」を筆頭に決して多いとは言えないが幾つかあるし、ジャンプにおいても「県立海高校野球部員山下たろーくん」でお馴染みのこせきこうじが黄金期前に「スクラム」というラグビー漫画を連載していたりする。そして黄金期にもラグビー漫画が1つだけあった

 そんな訳で今回紹介するのはこちらの作品だ

 

 ノーサイド(87年43号~88年1・2号)

 ちば拓

作者自画像

 作者の「ショーリ‼」までの経歴はこちらを参考にされたし

 

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 その後86年増刊ウインタースペシャルに「ゴール1/2」を、同年オータムスペシャルに「5Mのかなたに…」を掲載。そして翌87年43号から本作品の連載を開始したのであった

 さて、以前「ショーリ‼」を紹介した際に、同作品を作者の代表作である「キックオフ」というラブコメからラブ要素を引いたコメディだと評したが、本作品も「ショーリ‼」と同様、いや、それ以上にラブ要素が引かれてしまい、なんと作中に女性キャラが1人も出てこない。加えて本作品はコメディ要素すら引かれており、結果、ラブもコメも無いノーマルなスポーツ漫画となっている

 主人公である坂本光は両親がおらず群馬の山奥で祖父と2人暮らし。父との思い出は幼い頃に連れて行ってもらった先で見た屈強な男たちが激しくぶつかり合う光景と、試合が終わったら敵も味方も無いノーサイドの心を持てという父の言葉だけだった

 ある日、光は近くでラグビーの合宿をしていた人たちと偶然出会い、あの時見た光景がラグビーだった事を知り、選手たちに混じって参加した事ですっかりラグビーに魅了されてしまい、そして選手の1人からラグビーの名門である本郷高校に入る事を勧められて検討するが、ラグビー嫌いの祖父に止められてしまう。世話になっている祖父を裏切れないと一度は断念した光だったが、迷った末に結局単身上京して本郷高校に入る事となる

 とまあ、そんなあらすじから察せられる通り、本作品はフィジカルが強い初心者が経験を重ねてどんどん上達をしていくという王道的ストーリーのである。…のだが、それにしても上達速度が尋常じゃ無さ過ぎた

 それが良く表れているのが、光が碌に練習もしないままに練習試合のスタメン、それもチームの司令塔と言えるポジションのスタンドオフとして出場するエピソードの「スタンドオフ光!」である

 この試合は光を認めようとしない監督が恥をかかせてやる気をなくさせようと仕組んだものであり、試合開始当初はルールすらよくわからず反則を連発して次々と失点を重ねたチームであったが、相手スタンドオフの動きを見て理解すると即座に同じプレーをやってのけてトライを挙げるとそのままの流れで逆転勝ちを収めるという、前回紹介した「力人伝説 鬼を継ぐ者」の主人公である若貴兄弟顔負けの現実離れした活躍を見せるのだ。向こうはまだ事実だから許されるが(長期連載は許されなかったのはさておき)、完全フィクションである本作品では問題だ

 問題はもう1つある。作者は「ショーリ‼」や本作品の単行本の余白に観戦した試合の思い出を書くほどにスポーツが好きなのは感じられるのだが、そのわりにはどうもスポーツシーンを描くのがあまり得意ではないと思える事である。これは「ショーリ‼」の時にも若干感じていたのだが、本作品で扱うラグビーは1チームが15人もいるうえに選手がボールに密集して入り乱れて描きづらい事で顕著になってしまった。中でも逆境と、そこからの逆転を描くのが苦手なようであり、ピンチが深刻に感じられず、大したきっかけもなくすぐに逆転してしまうのでカタルシスが無いのだ。「ショーリ‼」もそうだったが試合の描写がアッサリなのも、上で触れたように光の上達速度が尋常じゃ無さ過ぎるのも、ここに根本的な原因があるのだろう

 「キックオフ」で成功したラブコメからラブもコメも無くなってスポーツ漫画となったのに、肝心のスポーツシーンに難があるとなっては苦しい。そのせいで前作である「ショーリ‼」も好きだった私ですら正直言うと本作品はあんまり面白くないと感じたくらいなのだから他の読者の目はさらに厳しく、様子見期間の四週間が過ぎると即掲載順が2桁になり、僅か11話で終了するのもやむ無しだっただろう

 

文字通り伝説となった物語

 前回「大相撲刑事」を紹介した時に話の枕として大相撲の話題を出して呑気に優勝争いについて語っていたが、その後、日が進むごとに次々と休場者が出てえらい事になるとは思いもよらなかった。まったくコロナとは怖ろしいものである

 さておき、今回はその際に名前を出したあの作品を紹介したい

 

 力人伝説 鬼を継ぐ者(92年52号~93年23号)

 小畑健・宮崎まさる

 

作者自画像?


 作画担当の小畑健の「魔神冒険譚ランプランプ」までの経歴はこちらを参考にされたし

 

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 その後92年32号に山際淳司原作の読切「天に昇った金メダル カール・ルイス物語」を掲載、そして同年52号から本作品の連載を開始したのであった

 一方原作担当の宮崎まさるの経歴についてはこちらを参考に

 

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 因みに前回紹介したガチョン太朗の「大相撲刑事」の連載が終了したのは92年40号で、その僅か三ヵ月後に本作品の連載が開始されている訳だが、ジャンプの歴史を見てもかなり数が少ない相撲漫画(「大相撲刑事」を相撲漫画に入れていいのか微妙だが…)の連載が短期間でたて続けに開始されたのには理由がある

本作品は「大相撲刑事」の弟弟子であると言ってもいい…訳ないか

 …などと勿体つけなくとも大概の人はわかっているだろうが、当時大相撲は若花田(後の若乃花貴花田(後の貴乃花)兄弟の人気による空前の大ブームにあり、貴花田は本作品の連載が開始されたのとほぼ時を同じくして行われた11月場所で10勝5敗の好成績を挙げて次の場所では大関獲りに挑戦と、より一層人気が過熱していたからである

 今になって考えると小畑健がまだ実績もないにも関わらず「魔神冒険譚ランプランプ」の連載終了から約半年という短いスパンで再び(厳密には三たびだが)連載を持つ事が出来たのも、相撲ブームが冷めないうちに連載を急いだという面もあったのだろう

 さておき、本作品はそんな相撲ブームの中心的存在であった若貴兄弟が各界入りしてからの道のりを描いた相撲ドキュメント漫画である

 若花田こと花田勝貴花田こと花田光司の兄弟は、父は角界のプリンスと呼ばれ人気も抜群であった大関貴ノ花、伯父は土俵の鬼と呼ばれ栃錦と共に栃若時代を築いた名横綱の(初代)若乃花という相撲一家に生まれたサラブレッドである。2人は父が横綱に昇進できぬまま引退したのを見て、自分達が父の果たせなかった横綱昇進の夢を実現させると決意して子供の頃からけいこに励んでわんぱく相撲で結果を出し、光司が15歳、勝が17歳の時に2人揃って父が親方を務める藤島部屋に入門する

 親子の情を捨てて厳しく指導に当たる父と、陰ながら2人を見守る母の下で力士として着実に成長していく2人。まさに古き良き家族愛の形がこの作品にはある。…のだが、その後両親は離婚、兄弟も絶縁状態になっている事を知っている現在からすると苦笑いしか出てこないのは残念である

 それにしても、ストイックでひたむきに強さを求める弟と、ややおちゃらけながらも弟を気遣いムードメーカー役を務める兄という2人のキャラはベタな主人公と相棒のような設定である。まあ、内実はどうあれ当時は実際に2人はそういう人物だと思われていたのだから設定もクソもないのだが。加えて同期のライバルである大海(後の曙)はハワイ育ちの巨漢で師匠は2人の父のライバルだった元高見山こと東関親方というこれまた事実ではあるがベタベタだ

 更に昇進スピードもご都合主義すぎると思える程で、弟の光司は88年3月場所で初土俵を踏んでから破竹の勢いで白星を重ね、90年5月場所で早くも入幕、91年5月場所では史上最年少で初金星を挙げ、92年1月場所で初の幕内優勝を飾る。そして同年9月場所で2度目の優勝、翌場所でも前述の通り好成績を挙げて臨んだ大関獲りの場所である93年1月場所でも11勝を挙げてアッサリと大関昇進を決めてしまった。兄の勝も弟ほどではないにしろ90年9月場所で初入幕、そして光司が大関昇進を決めた翌場所の93年3月場所で初優勝を飾り、おまけにライバルである曙に至っては、光司が大関に昇進したのと時を同じくして横綱に昇進を果たすというスピード出世ぶりである

 もし本作品が事実ベースではなく完全なフィクションだったとしたら、あまりに安易な設定にボツを喰らっていた事だろう。更にこの後兄弟も揃って横綱昇進を果たし、毎場所のように3人のうちの誰かが優勝するなんて話にする予定だなどと作者が提示した日にゃ、漫画を舐めるなと担当からキツいお叱りを受けたに違いない

※画像はイメージです

 本作品はブーム便乗に加え、実在の人物を扱っていて権利問題もあるので短期終了は既定路線だったのだろう。しかし、だからこそ人気を当て込んでいた事が連載開始時からしばらく掲載順が良かったところからも窺える。にもかかわらず後半になるにつれ掲載順がどんどん下がっていったのは、2人の活躍があまりに現実離れし過ぎて大した障害も無かった為物語として盛り上がらなかったというのもあると思われる。まったく、現代でも野球の大谷翔平とか将棋の藤井聡太とか一部の天才の物語はフィクションよりもウソ臭くなって困るものだ

 

相撲ブームが生んだ怪作

 今日現在、大相撲名古屋場所は十日目を迎え、既に無敗どころか1敗の力士すらなく優勝争いが混沌としてきている。…などと書くと鋭い方は先読みして、さては今回紹介するのは相撲漫画の「力人伝説 鬼を継ぐ者」だなと思うかもしれない

 外れである

 今回紹介するのはこちらの作品だ

 大相撲刑事(92年40号~49号)

 ガチョン太朗

作者自画像

 

 作者は90年にガチョン☆太郎名義の「虫さされに木工用ボンド」で第2回GAGキング残念賞を受賞、翌91年オータムスペシャルに本作品のオリジナルにあたる「大相撲刑事」を掲載してデビュー、翌92年ウインタースペシャルに「大相撲教師」を掲載…とWikipediaなどにはあるが、別の情報では「大相撲教師」は92年ではなく91年のウインタースペシャルだとあり、どちらが正しいかは情報が少ないので判明しなかった。私の調べた感じだと、当該ウインタースペシャルの西暦表記が間違っているっぽいのだが…。さておき、92年14年には「大相撲刑事」が本誌初登場を飾ると40号からは連載デビューまで飾ったのであった

 そんな本作品は両国県警捜査課に配属された元FBI捜査官の大関が騒動を起こしつつ悪人を取り締まる刑事ギャグ漫画である

 そのタイトルと単行本のカバー絵からも察せられるように主人公の大関は大銀杏を結いまわしをつけただけといういでたちで、まるで「こち亀」の特殊刑事課にいるような人物である。そして行動理念は犯罪よりも相撲を侮辱するような行為にキレるなど、刑事というより力士のそれ(実際にはそんな力士などいないが)であり、各話の流れは大関の非常識な行動に新人刑事の今井や、ヤクザなのに大関に無理矢理弓取りをやらされている政などが巻き込まれるのがパターンとなっている

 作品の細かい内容についてはギャグ漫画、それもシュールギャグ、ナンセンスギャグに分類されるものであるから、捕まえた犯人に対して「木工用ボンドと登校きょひについて」だの「エレキギターとはな毛切り」だのをテーマにレポートを書かせ、それで罪が軽くなるのかと問うと「ならん」と一蹴するの定番の流れなどを一々解説するのは無意味かつ無粋なのでやめておく。正直私は当時も今も滑っているとしか感じなかったし、同様に感じた読者が多かったから僅か10話で終了したのだろうが、ギャグが笑えるかどうかは結局感性の問題に過ぎず、何が良くて何が悪かったなどと語れるものではないからだ

 

 が、それはそれとしてどうしても本作品には気になる部分が2つほどある

 まず1つは、取り調べ中に寿司を食わせろと要求する容疑者に対して大関が「なぜちゃんこにしない」とキレたり、モンゴル相撲の使い手が電車道という必殺技を使ったりと、作者が相撲の事をあまり詳しくないと思える事だ

 とは言え、前者はちゃんことちゃんこ鍋を混同しており、ちゃんこというのは親と子、つまり親方と弟子という意味であり、それが転じて特定の料理ではなく相撲部屋で食べる料理全般の事をちゃんこと呼ぶので大関の発言は意味が通っていない、後者は電車道というのは立ち合いから電車のレールの如くまっすぐ一気に押していく事で、土俵が無く押し出しも無いモンゴル相撲にはそんな概念はない、などとわざわざ説明しなけりゃ普通の人はわからないし、そもそも相撲漫画では無くギャグ漫画であり作中でまともに相撲をする訳でもないのでそれ程問題では無いとも言える

 致命的なのはもう1つの問題で、それは絵が下手だという事だ

 世の中には絵が下手と言われる漫画家が結構居て、中には子供でも描けるような絵だなどとまで評される人もいる。だが、そういう人達は下手なりに絵が整って安定しているし、余計な線を加えずシンプルな絵柄に仕上げるのであんまり酷く見えず、実際にはとても子供が描けるような絵ではない場合が多い。しかし作者の絵柄は全く整っても安定してもおらず、マジで子供でも描けるように見える、というか、素人目でも陰影のつけ方がおかしいのがわかるし、手の描写など細部のデッサンが歪み過ぎてむしろ子供が描いたようにしか見えない。しかも信じられない事に、作者1人で全部仕上げたのではなくアシスタントがついているのにこのレベルなのだ(作者自画像の左の方に描かれているのがアシスタントである)

 単行本の余白に書かれている当時の述懐によると、作者は話を考えるのも絵を描くのも早く、連載中でも睡眠時間をたっぷり十二時間も取れたという。そんなに余裕があるなら絵の勉強をしろとまでは言わないにしろ、もう少し時間を掛けて丁寧に描いても良かったのではなかろうか。こんな絵にベタを入れたりしなければならないアシスタントも気の毒である

 しかもそれでいて無駄に線が多い為、見た目が非常に汚い。絵が汚いと言えば漫☆画太郎を連想する方も多いだろうが、漫☆画太郎の絵は確かに汚いし見ていて不快感を覚えるものの、作者と見比べてみると線の雑さは同レベルに見えるが適当ではなく細部も整っており全くレベルが違う事がわかる。以前当ブログで「まんゆうき」を紹介した際に漫☆画太郎はイメージ程に絵が下手な訳ではないと述べたが、図らずもそれが証明された形だ

カバー絵だけだと大差ないように見えるがマジで全然違う

 そんな絵の下手さもあってか作者は本作品の連載終了後は増刊でいくつか読切を掲載しただけで漫画家の活動は休止してしまったという。もっと向上心を持って絵を上達させていれば成功していた、などと言う気は無いが、少なくとも掲載のチャンスは増えていただろう。そう考えると非常に勿体ない話である

 

ACEを狙え

 先日行われたウインブルドンは、女子はリバキナの、男子はジョコビッチの優勝で幕を閉じた。などと言った場合、多くの人は程度の差はあれど「ああ、テニスの大会の事だな」と理解するだろう。これが例えば少し話題が古いが、スーパーボウルラムズが勝利してMVPはクーパー・カップだった、などと言っても殆どの人は話題が古いのかどうかもわからずポカーンとなるだけだ

 言い換えればそれだけテニスというスポーツは知名度があるという事で、漫画の世界でも古くは「エースをねらえ」を筆頭に多くの人気作品が生まれ、ジャンプにおいても黄金期ではないが「テニスの王子様」が大人気となっているなど一大ジャンルとなっており、当ブログでも既に1度テニス漫画を取り上げていたりする

 

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 そんな訳で今回紹介するのはテニスを題材にしたこちらの作品だ

 ジャストACE(85年32号~41号)

 井上泰樹

作者自画像

 

 いつもはここで本作品の連載を開始するまでの作者の経歴に触れるところだが、今回は割愛させて頂く。というのも、情報がまるで見つからなかったからである。私は当ブログの為に何人もの短期終了作家の経歴を調べてきたが、こんなに情報が見つからなかったケースは原作者なら「カメレオンジェイル」の渡辺和彦や「不思議ハンター」の飯塚幸弘がいるが漫画家では初めてだ。これまでは情報が無いなりにジャンプ本誌や関連誌の掲載歴や、誰々のアシスタントの経験があるとか、何々賞受賞とか1つくらいは見つかったのものだが。いやはや、調査不足で申し訳ない

 さておき、物語は主人公の荻野目純がテニスクラブでボールボーイをしつつ練習している所に、元全日本王者で現在はジュニアアカデミーで指導をしている五十嵐が娘の奈緒美を連れて現れるところから始まる

 伸び悩んでテニスへの熱意を失っていた奈緒美を無理矢理コートに立たせ、それでもプレーしようとしないのを見るとショットを体にぶつけまくる五十嵐に怒りを覚えた純は思わず2人の間に割って入ってボールを打ち返し、五十嵐はそれを易々と受け止めるもその強烈さに才能を感じ取る、といった感じの導入だ

 さて、漫画に限らず現実でもテニスプレイヤーは各々ネットプレイが得意とか強力なサーブを持っているとか自分のプレイスタイルを持っている訳だが、純の場合はフォアハンドでのストレートショット一で、それでノータッチエースを決めるのが理想のプレーとしており、練習でもそればかりしている為バックハンドは苦手で、試合ではバックを狙われないようフォアサイドを大きく空けたポジションを取り、それでもバックを狙われたら無理矢理フォアに回り込むという極端なスタイルである

 こういった一点豪華主義的スタイルはいかにもフィクション的で、テニス漫画に限らずよく見られる。例えば野球漫画ならストレートは滅茶苦茶速いが変化球は投げられない上にノーコンなピッチャーとか

 だが、そういう設定の作品は大概展開もフィクション要素が強く派手になるものだが、本作品の場合は導入であるモブとのミニゲームこそ割と派手だったものの、いざ試合になってみると派手なプレーは減り、各プレーに丁寧に図説も入れた結果テンポも悪く、純の個性があまり生かされていないように感じられた。↓に挙げた単行本カバー折り返しの挨拶からして作者は本質的には派手で大味な展開よりもしっかりとした展開が描きたくて、それが作品にも出てしまったのだろう

 作者もそれではマズいと思ったのか途中から相手がダブルウイングマニュピレイションなる作戦(大仰な名前の割に中身はショットを左右に振って純を消耗させるだけだが)を繰り出したり、かつてテニス界を追放された神代という男が登場したり、試合に負けた純が相手との握手を拒否して姿を消し、神代から教えを受けてボールが相手のラケットを弾きつつ顔面を直撃するライトニングフラッシュという必殺ショットを身に付けるというヒールムーブに走るなど如何にもな要素を加えてきたのだが、ちぐはぐな内容になってしまった。…というか、ストレートショットでのエースが理想と言ってたのに何故ラケットに当てられる前提のショットを身に付けるんだ。壁にぶち当たってこだわりを捨てるという展開もあるにはあるが、だとしても早すぎだ。作者が本質的にそういう作風に向いてない上、突貫工事だからそういう歪みが出るのも仕方がない事かもしれないが

 結局本作品は10回で終了、最終回は特にきっかけも無くライトニングフラッシュを封印して新たな強敵との試合が開始したところで完という、典型的な短期終了作品の最終回であった

 

黄金期ジャンプ短期終了作家列伝 その2

 ジャンプの短期終了作品ではなく作家の方にスポットを当てる記事である黄金期ジャンプ短期終了作家列伝、第2弾となる今回紹介するのは「チェンジUP‼」と「暗闇をぶっとばせ!」(作画)の作者の今泉伸二である

 尚、第1弾となる前回でも述べたが、内容については以前紹介した記事と重複する部分も多分にある事を断っておく

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 今泉伸二は高校卒業後一度は就職するも程なく漫画家を目指して退職し、寺沢武一宮下あきら原哲夫といった面々のアシスタントを務める。そして84年に「ブリキの鉄人」がフレッシュジャンプ賞入選、同年フレッシュジャンプ12月号に掲載されてデビューを果たす

 その後86年増刊スプリングスペシャルに「スーパーマンの花嫁」を掲載、同年33号から「空のキャンバス」で本誌初登場にして連載デビューを飾り、連載期間が一年を超えるまずまずの人気作品となる。88年22号からは「神様はサウスポー」の連載を開始すると連載期間は二年を超え、黄金期ジャンプの看板作家とは言えぬまでも中堅作家として名が知られるようになっていった

 そんな今泉伸二の作風と言えば、「空のキャンバス」が体操、「神様はサウスポー」がボクシングをテーマとしていると事からわかる通りスポーツ漫画、…というよりも、前者の主人公は幼い頃に負った背中の傷が今も体を蝕み続け、後者の主人公は左腕が麻痺する持病があるといった身の上なのに加え、他にも似たり寄ったりの不幸を抱えた人物がチラホラいるという不幸の見本市みたいな設定と、登場人物が皆涙もろくて常に誰かは泣いているという、大映ドラマに通じる大仰さだろう

 そして「神様はサウスポー」の終了後、91年増刊サマースペシャルに「ドリーム・ボール」を掲載、92年12号からそれをベースにした野球漫画「チェンジUP‼」の連載を開始したのだが、同作品は作者にしては不幸が大人しめだった為かそれとも作風が飽きられたのか3度目の連載にして初めて短期終了の憂き目に遭ってしまう

 


 と、それまで上昇カーブを描いてきたキャリアが暗転し、93年スプリングスペシャルに「チョコレート☆ミラクル」を掲載したのを経て94年2号から原作者に宮崎博文を迎えてこれまでのスポーツ路線から一転、逃亡者をモチーフにした「暗闇をぶっとばせ!」の連載を開始するが連続で短期終了となってしまい、同作品を最後にジャンプから離れる事となってしまう。結局ジャンプでの連載作品数は4つ、その内短期終了作品は2つで短期終了率は50%であった

 だが、「暗闇をぶっとばせ!」では功を奏さなかったが、原作者をつけるという試みは後に実を結ぶ。95年からスーパージャンプで「炎の料理人 周富徳」(原作KISHO・荒仁)の連載を開始するなど活躍の場を青年誌に移し、01年にはコミックバンチで「リプレイJ」(原案グリム・ウッド)の連載を開始するなど、原作・原案付きの作品を数多く手掛ける事となる。また、09年からは漫画ゴラクで「神様はサウスポー ダイアモンド」、17年にはゴラクエッグで「VIVA‼空のキャンバス」と、往年のジャンプ作品のリバイバル作品も描いていたりもしていて、地味ではあるが意外と幅広く息も長い活躍をしていたりする

 

 尚、余談であるが、現在はYOU TUBEにも進出しており、二年前に開設したチャンネル「今泉伸二 MANGA館」には漫画の描き方指南など色々な動画をアップしている。…のだが、宣伝らしい宣伝も無くサムネにもあまり引きが無い事もあって、チャンネル登録人数は1000人にも満たず動画の再生回数は殆どが3桁で多いものでも1万回も行っていないという状況はかなり寂し過ぎる

ハンター×ハンター(HUNTER×HUNTERではない)

 本日は「モンスターハンターRISE」の大型DLC、「サンブレイク」の発売日である。思い起こせば「モンスターハンターRISE」の発売時、当ブログではタイトルそのままの「モンスターハンター」をはじめ、ハンターと名の付く作品を色々紹介したものだ

 

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 そんな訳で今回は、やはりハンターと名がつく作品であるが、当時は単行本を未所持だった為に紹介しそびれたこちらの作品を紹介したい

 

 不思議ハンター(92年32号~48号)

 黒岩よしひろ・飯塚幸弘

作者自画像

 本作品は以前紹介した「不思議ハンターS」が連載化されたものであり、そこまでの経緯はこちらを参考にされたし

 

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 そして、92年32号から本作品の連載が開始される事になったのだが、その際に原作者が付けられるという大きな変更がなされている。まあ、「不思議ハンターS」は上の紹介記事にもあるように、ネームに一ヵ月から二ヵ月もかけて描いたものだから、そのまま週刊連載をさせてはとてももたないという判断は妥当であろう。だが、それで付けられた原作者が、「モンスターハンター」の原作担当であった飯塚幸弘だったというのはなかなか奇遇な話だ。おかげで本作品は「不思議ハンターS」と「モンスターハンター」のコラボ作品、ハンター×ハンターという事になる訳だ

 そんな原作者の飯塚幸弘は、「モンスターハンター」の記事を書いた際には紹介するような情報が殆ど無かったが、今回紹介する為に調べ直しても新たに判明した事は「モンスターハンター」掲載後、88年増刊スプリングスペシャルにて松長春樹が作画を務める「ウルフJ」と勝山英幸が作画を務める「クライムブルース」と2作品の原作を担当したくらいしかなかった

 ところで余談だが、黒岩よしひろの作品は本作品の前身にあたる「不思議ハンターS」も含めて殆どが電子書籍化されているのに本作品だけ電子書籍化されていないのは、原作者である飯塚幸弘と連絡がつかないので許諾も取れないのが原因ではないだろうか。同じく黒岩よしひろ作品で他の原作付き作品は電子書籍化されているので原作付き作品自体が駄目という訳でも無さそうだし。おかげで今回紹介記事を書く為に電子書籍版を所持している「不思議ハンターS」とのセットで購入するハメになってしまった。私はコレクターではないので紙の本と電子書籍の両方欲しいなどとは思わないから無駄な出費としか。まあ大した出費でもなかったが

 さておき、本作品は原作者が付けられた為か否か、「不思議ハンターS」と違う部分が色々見られる。特に大きな違いは、具体的な年齢は明かされていないが主人公の雷門竜太が怪奇現象の解決を仕事としている職業ハンターから学生ハンターに変更され、妹の空子共々若くなっている事と、竜太が天神二刀流なるものの使い手となっており、それを駆使したバトル要素が強くなったところだろうか

 その変更理由は察する事が出来る。まず主人公たちの年齢を下げたのは読者層に合わせたのだろう。ジャンプの他の漫画を見ても主人公は中高生くらいの場合が多く、主人公とそれを取り巻く人たちの年齢がそのままターゲット層の年齢である事は少なくない。そして、バトル要素が強くなった事については言わずもがなである。いずれもジャンプに合わせた変更と言えるのだが、逆に言えば周りの漫画も大抵そうなので差別化が出来ていないとも言える

 一方、話の流れについては「不思議ハンターS」も「モンスターハンター」も、根底には本当に悪いのはモンスターや妖怪より人間の欲望という勧善懲悪思想が流れている為か、読み比べても別人が考えたと思えないくらいに馴染んでいて新たに紹介するべきところは特にないくらいだ。その点においては両者は相性が良いと言えよう。だが、そもそも論として黒岩よしひろは話作りに定評がある方ではないので、原作者をつけて同レベルというのはさして強みになっていない。今改めて読んでみても決して悪いとは思わないのだが強いインパクトも感じられず、当時のジャンプの連載陣の中では埋もれてしまうだろうな、というのが正直な感想である。実際、私は本作品をリアルタイムで読んでいたにも関わらず話を全く憶えていなかったし

 まあ、そんな感じの作品なので17話で終了してしまうのもやむ無しである

 と、部外者に過ぎない私は気楽に言えるが、当事者たちにとってはせっかくのチャンスをふいにしてしまって痛恨の極みであろう。特に過去の連載作品が悉く短期終了してしまって後が無かった黒岩よしひろの悔恨は大きかったようで、単行本2巻のあとがきで3ページにわたって心情を吐露しており、作品に対する真摯な姿勢とままならぬ思いがヒシヒシと伝わってきて、ある意味では本編以上の見どころと言える

 

 そして本作品の連載終了後、原作担当である飯塚幸弘は本人らしきツイッターアカウントが確認された以外は全く足取りが掴めないのは「モンスターハンター」の記事でも触れた通りである。一方、作画担当である黒岩よしひろは、92年には月刊ジャンプ谷菊秀原作の「鬼神童子ZENKI」の連載を開始、TVアニメ化されるほどの人気を獲得するも本誌に戻る事は叶わず、その後は集英社からも離れて執筆活動を続けていたが、18年5月8日に心筋梗塞で亡くなってしまう。享年55、あとがきで語っていた「不思議ハンターS」の続きを描きたいという希望は結局果たされないままであった