黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

Happy Birthday JUMP

 本日はジャンプにとって最も重要な記念日である。というのも、今を遡る事五十三年前の今日、1968年7月11日にジャンプの第1号、年度毎に発行されるものじゃなく本物の第1号、つまり創刊号が発売されたからだ

 そういう訳で今回はジャンプ誕生記念としてジャンプの創刊号がどんなものであったかを紹介したいと思う。なお、実際に見て頂くのはオリジナルではなく、以前紹介した1995年3・4号と同じく後に復刻されたものだが

 

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  早速だが表紙はこちら

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95年3・4号と並べてみると白さが目立つ

 なんというか、流石に五十年以上前とあって非常に時代を感じさせるデザインだと言えよう。特に最上部に書かれている「新しい漫画新幹線」という今となっては意味不明なキャッチフレーズが、東海道新幹線が開通してからあまり時間が経っておらず、まだ庶民が気軽に乗れるものでは無かったという当時の世相を感じさせて微笑ましい。現在や黄金期の表紙と比べるとかなり違和感のあるデザインだが、中でもジャンプという文字のロゴデザインが全然違うところが一番違和感を感じさせる原因だろうか

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一方で海賊マークはこの頃から変わらなかったりする

 他にも注目すべき所はいくつかあるが、まずはこの部分だろう

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 創刊当時のジャンプは週刊ではなく月二回刊である事は一部では知られた事実ではあるが、その発売日は第2第4木曜日。現在の発売日である月曜日ではなく、黄金期に発売日であった火曜日(首都圏では月曜日だったが)でもなく木曜日だ。木曜日といえばかつてのマガジン、サンデーの発売日だが、逆に両誌の創刊号の発売日は59年3月17日の火曜日であったという興味深い事実がある

 そして驚愕のこの値段

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因みに表紙の裏には明治のキャラメルの広告が載掲載されているがその値段は20円だ

 私が購読を始めた頃の値段は170円で、それが90年に190円になり、96年に200円の大台に乗った時にはジャンプがこんなに高くなったのかと衝撃を受けたものだが、この時の値段は3桁にもなっていない。まさに桁違いの安さである。しかも実はこれでも競合誌に比べれば高いほうで、マガジンもサンデーも当時はたった60円であった

 

 そしてジャンプと言えばこれ。創刊号から既にアンケート至上主義が徹底されているようである

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 創刊号の記念すべき掲載陣の顔ぶれ

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記念すべき創刊号の巻頭カラーはこの作品だ

 掲載作品数は僅か8本で、総ページ数も256しかない。以前紹介した95年3・4号の場合、掲載作品数は22本、総ページ数は500を超えており、比べてみるとかなり寂しく感じられる。ただし、これはジャンプに限った事ではない。この当時はマガジンもサンデーもページ数は大差なく、部数争いの結果、年を経るごとに徐々にページ数が増えて行った形だ。これより以前のマガジン、サンデーの創刊当時など両誌ともに100ページにも満たなかったのである。

 顔ぶれを見ると目立つのは赤塚賞でもおなじみ赤塚不二夫の「大あばれアパッチ君」、恐怖漫画の大家である楳図かずおの「手」あたりだろうが、残念ながらいずれも読切で連載作品ではない。そしてジャンプの黎明期を牽引した作品の1つである永井豪の「ハレンチ学園」も掲載されているが、この時はまだ読切での登場となっていて、連載作品は梅本さちおの「くじら大吾」と貝塚ひろしの「父の魂」の2本のみである

 ところで、皆さんは両連載作品の事をご存じだっただろうか。私は正直に言うと両作品どころか両作者の名前すら知らなかった。調べたところ梅本さちおは70年から少年キングで連載された「アパッチ野球軍」が、貝塚ひろしは72年からサンデーで連載された「柔道讃歌」がそれぞれTVアニメ化されており、それなりの人気作家と言えるのだが、同時期のサンデーやマガジンは赤塚不二夫に藤子不二雄石ノ森章太郎ちばてつや川崎のぼるといった錚々たる顔ぶれを擁しており、それと比べると一枚も二枚も落ちる感じは否めないだろう

 ここでもう一度ある部分に注目して表紙を見て頂きたい

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 連載作品があるのにもかかわらず「ぜんぶ読切」という矛盾したキャッチフレーズがあるではないか

 ジャンプ創刊メンバーの1人である西村繁男の「さらば、わが青春の『少年ジャンプ』」によると、これに関して疑問をぶつけた著者に、初代編集長である長野規は「連載では大きな流れのほかに、その号その号展開の中にもヤマを作っていくはずだな。そのヤマを読切とみなすんだよ」と答えたと書いてあるが、イマイチよくわからない。要は、看板となる人気作家の連載作品が確保できなかったので、代わりに何か付加価値をつけようという苦し紛れの方策なのだろう。発行部数の方もそのあたりの苦しい事情を反映してか、マガジン、サンデーどころか少年キング(同時期の平均部数約40万部)の足元にも及ばない僅か10万5千部であった

 そんな前途洋々とは程遠い船出となったジャンプであったが、その後快進撃を続けて全盛期には創刊号の発行部数の60倍を超える653万部という前人未到の記録を打ち立てる事になるのは皆さんもご存じの通りである

ジャンプ作品たちの仮面の下の素顔を暴く

 意味深な題名にしてみたが、ここで言う仮面とは単行本についているカバーの事であり、要はカバーの下の地を見せるという意味なので、スキャンダラス的なものを期待した方はガッカリさせてしまって申し訳ない。しかし、考えてみると私たちは表紙絵というとカバー絵を連想してしまう程カバーがついているのが当たり前の事となってしまい、単行本を雑に扱っていた子供の頃を除くとカバーの下を見る機会はあまり無いのではなかろうか。それが短期終了作品だと尚更に。え?そもそも短期終了作品はカバーを見る機会もあまり無いって?。それを言っては身も蓋もないではないか

 そんな訳で今回は普段見る事のない短期終了作品の単行本カバーの下の地の表紙を色々見て頂きたい

 

 まずは毎度お馴染み成合雄彦の「カメレオンジェイル」から

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 御覧の通りカバーデザインとはうって変わってタイトルロゴと作者名など最低限の情報のみという非常にシンプルなデザインとなっている

 このタイプは古い作品の多くが該当し、メジャーなところでは「こち亀」もワンポイントで両津と中川の顔が描かれているが基本的にはこのタイプと言えよう。100巻を超えたあたりでデザインが変わってしまったけど

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ジャンプスーパーコミックスは大概このパターンだ

 次に見て頂きたいのはこちら

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 自分で見せておいてなんだが、カバーデザインと全く同じで三色刷りになっただけという面白みのないデザインだ

 このタイプは時代が新しくなると共に上に挙げたタイプにとって代わって主流となっている。多くの単行本は以上2タイプのどちらかと、そのバリエーションだ

 バリエーションの一例としてはこんな感じ

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 カバーイラストの一部を流用して枠で飾っただけだが、それだけで結構印象が違うエコなデザインだ

 数はそんなに多くないが、カバーデザインとは全く別のデザインをわざわざ用意したパターンもある

 

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 同タイプであるがデザイン的に絵よりロゴに力を入れたものもある。前回紹介した「ZOMBIE POWDER.」も自己主張は激し過ぎるがタイプとものはこれに該当するだろう

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 これなんかはシンプルだが、作品とマッチしていて個人的に好きなデザインだ

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 このパターンは大抵全巻共通のデザインである事が多いのだが、中には各巻でデザインが違うのもある

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 こういう場合はラフスケッチや設定画を流用するのが殆どで、ここまでしっかりしたのは珍しい

 珍しいといえば裏表紙にもデザインが施されているパターンもある

 まずは通常の単行本の裏表紙を見て頂こう

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ジャンプスーパーコミックスだとJSCマークだ

 こんな風に大抵の単行本の裏表紙は無地で中央にJCマークがあるだけのシンプルなもので、あってもせいぜい表紙のベースの柄を流用している程度だ

 次にこちら f:id:shadowofjump:20210705134443j:plain

 これなんかは凝ったデザインで流石小畑健だと感心させられる。が、それでも表紙の地を裏表紙にも利用しているに過ぎない。まあ、そもそも実際にデザインしたのは小畑健本人ではなくデザイナーだろうし

 で、これが裏表紙にもデザインが入っている珍しいパターンだ。私の調べた範囲では他に裏表紙に独自のデザインを施しているものは殆ど無かった

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 と言ってもタイトル文字が裏まではみだしているだけなのだが、派手な色使いといい、作者の宮下あきらとマッチしていて味わい深い

 

 参考までに三大少年漫画誌の他の二誌のカバーの下も少しだけ見て頂こう

 まずはジャンプ最大のライバルであるマガジンから

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 週刊月刊問わずどの単行本も皆同じデザインという無個性ぶりで、文字のフォントもつまらない。私が子供の頃、家には誰が買ったのか不明だがマガジンコミックスが何冊かカバーの無い状態で置いてあり、理由は自分でもよくわからないのだが それを見て強い嫌悪感を抱いた記憶がある。私がマガジンを殆ど読まないのはそれが理由の1つなのかもしれない。後にはデザインが変更されて、しかもカバーと下の地が同じというケースも多くなっているので今では見られないデザインだ

 そしてサンデー

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 私が調べた限りでは「ジャストミート」や「タッチ」などもこのタイプで、80年代半ばには既にカバーと下の地が同じデザインが主流となっていたようだ。ジャンプでこのタイプが主流なるの80年代末期から90年代初頭あたりで、マガジンは更に遅い。三大少年漫画誌の中では常にジャンプ、マガジンの後塵を拝してきたサンデーだが、この分野においてはサンデーが先駆けで他誌が追随する形となっている。まあ、それにどんな価値があるのかはわからないが

 

  他にも見せたいものは沢山あるが、まだ記事にしていない作品については今後記事にする際にカバーの下も披露するようにしたいという事で、今回はここまでとする

 最後に、これを見てカバーの下に興味を持つ奇特な人がいるとも思えないが、もしいたならば、ブックオフなどに出かけて売り場の本のカバーを片っ端から剥いて回るような事はしない方が良いと忠告しておく。私もこの記事の為に近所のブックオフでやってきたのだが、小心者には他人の目が気になってデザインが殆ど頭に入らなかった。ので、ちゃんと単行本を購入して家でじっくり見るように。尚その際は電子書籍版を購入しないよう重ねて忠告する。他の出版社の電気書籍の中にはちゃんとカバー下の地の部分も入れてくれているところもあるが、ジャンプコミックスについては入っていない(少なくとも私の手持ちの電子書籍はそうだった)ので金の無駄になるからだ。…いや、中身は普通に読めるので無駄ではないか

  

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サクラ革命よ、静かに眠れ

 明日6月30日、所謂ソシャゲの「サクラ革命 華咲く乙女たち」(以下「サクラ革命」)のサービスが終了する。栄枯盛衰の激しいソシャゲ界隈ではサービス終了など日常茶飯事で珍しい事でもないかもしれないが、大手であるSEGAがかつての看板IPである「サクラ大戦」を持ち出し、その前段として「新サクラ大戦」のアニメ及び家庭用ゲームを制作するなどかなり力を入れたにも関わらず半年余りでのサービス終了は、いくら何でも早すぎると驚きの声があると共に、「新サクラ大戦」の時点で旧来のファンにそっぽを向かれ、新規には見向きもされないという有様なのにサービスを強行した時点でどんな判断なんだと訝られ、肝心の「サクラ革命」の出来もアレだったので早期終了も当然だという声も少なくない

 いきなりこんな事を語りだして、それがジャンプと何の関係があるのかと疑問に思う方もいるだろうが、黄金期ではないもののちゃんとジャンプと関係あるので安心して頂きたい

 それはどんな関係かというと「新サクラ大戦」のキャラクタデザインを担当したのが、あの久保帯人だという事だ。いや、「サクラ革命」の方ではないからやっぱり関係ないじゃないかと言われるかもしれないが、そこは気にしてはいけない

 という訳で今回紹介するのは久保帯人の代表作である「BLEACH」、では無くてこちらの作品だ

 

 ZOMBIEPOWDER.(99年34号~2000年11号)

 久保帯人

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 作者は95年に久保宣章名義で描いた「FIRE IN THE SKY」がホップ☆ステップ賞最終選考作となり、翌96年「ULTRA UNHOLY HEARTED MACHINE」が増刊サマースペシャルに掲載されてデビュー、同年36号には「刻魔師麗」が掲載されて本誌デビューを飾る。更に97年51号に「BAD SHIELD UNITED」を掲載した後、ペンネームを久保帯人と変え99年34号から本作品で連載デビューを果たしたのである

 そんな本作品は12個集めると死者は蘇り生者は永遠の命を得る薬であるゾンビパウダーが手に入るという死者の指輪を探して主人公の芥火ガンマとその仲間たちが旅を続ける冒険&バトル漫画である

  物語の舞台はアメリカ西部開拓時代にスチームパンク的ファンタジーを加えた感じだろうか。血と硝煙に溢れ、ならず者が闊歩する力こそ正義の世界で、賞金稼ぎであり自らも賞金首でもあるガンマ達が行く先々で騒動に巻き込まれるといった構成は「ONE PIECE」を意識しつつも、その退廃的な雰囲気はアンチ「ONE PIECE」を志向したとも言える

 ところで、作者と言えば、その作風はオサレとかスタイリッシュとか皮肉交じりに形容されているのがネット上で散見されるが、作者の代表作である「BLEACH」の連載が開始された頃にはもうジャンプを読まなくなっており、なんなら本作品の連載時も既にいい年になっていて惰性で読んでいた私は正直あまりピンと来なかった。のだが、この記事を書くにあたって単行本を買って読み返して納得してしまった。確かにキャラの台詞の言い回しや構図といった作中だけにとどまらず、単行本カバー折り返しの普通は作者の写真や自画像を載せる欄やカバーを外した表紙の地のデザインでも俺は他とは違うと言わんばかりの強い自己主張を感じて正直苦笑を禁じ得なかった

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 などと言っておきながら掌を返すようであるが、このような意見は私のように冷めた目線で見ている者や「BLEACH」の連載が長くなりすぎて途中で飽きてしまった者によるネット上の声の大きな意見と、それに影響されてネタとして拡散されているに過ぎないというのが個人的な考えだ。確かに自己主張の強い作風とは思うが、それは同時に作者の強い個性として他作品との差別化に役立っているし、そもそも論としてそんな意見が大半を占めるなら、何度も言っているが長期に渡って連載を続けるのが非常に困難なジャンプで「BLEACH」の連載を十五年も続けられる訳がないだろう

 とは言え、本作品は「BLEACH」と違って短期で終了しているので、気になる部分もある。これが初連載というキャリアの薄さに加え、単行本3巻折り返しの作者あいさつによると連載当時は精神状態がガタガタだったという事が影響しているのか、絵は雑だし、所々に挿入されるギャグは作中の雰囲気にそぐわず明らかに浮いている。中でも一番問題だと思うのは、元々全体的に情報不足気味な上、伏線のつもりなのか無駄に情報を隠した思わせぶりな台詞をちょこちょこはくので主人公のガンマすらどんなキャラかよくわからないまま読者置いてけぼりで物語が進んでしまう事だ。そして、中途で連載が終了してしまう為に結局最後まで読んでもわからないままというのは、短期終了作品あるあるだったりする

 ところで、一部には本作品が短期で終了してしまった理由を内藤泰弘の「トライガン」に類似している為とする意見もあるが、私は似ていないなどと言うつもりはないがそれが理由で連載を終了させられる程とは思わない。まあ「トライガン」についてはアニメを見ただけで原作は未読だから、間違った意見かもしれないが。それよりは上に挙げた問題の為、他の雑誌ならまだしも黄金期が終ってしまっていたとはいえバトル漫画の総本山とも言えるジャンプで長期に渡って連載を続けるられるだけのクオリティには残念ながら達していなかった事の方が大きいと感じられる。ぶっちゃけヒット作品なら多少問題があっても連載を終了させるなんて判断にはならないだろうし…作者が逮捕されたりしたら別だが

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 真相はわからないが、ともあれ本作品は27話、期間にすると半年余りで連載終了と相成ってしまい、今となっては語られる事も殆どなくなってしまっている。一方「サクラ革命」のサービス期間は本作品にも及ばないが、種々の悪評もあってしばらくはネタ的な意味で語られる事だろう。まさに悪名は無名に勝る状態ではあるが、「サクラ革命」や「新サクラ大戦」ネタで盛り上がった時には本作品の事もついでに思い出して頂ければ幸いである

名作と名作の狭間に

 前にも述べたが、黄金期のジャンプでは長期に渡って連載を続けるどころか、連載を持つ事すら非常に困難である。ましてやそれを複数の作品で成し遂げる事は非常に稀であり、黄金期を代表する漫画家でも1つの作品では大ヒットを飛ばしたものの、後が続かなかったというケースは少なくない

 そんな稀な人物の1人に入るのが徳弘正也である。黄金期の初期においては「シェイプアップ乱」を三年近く連載し、黄金期真っ只中においては「ジャングルの王者ターちゃん♡」及びそれを改題した「新ジャングルの王者ターちゃん♡」を合わせて七年以上も連載しただけではなくTVアニメ化まで果たしており、両作品については当時の読者なら当然のように憶えているだろう。そういえばTVアニメでターちゃんを演じたのがブレイク前の岸谷五朗だったというのも今となっては味わい深い話である

 だが、両作品の間に連載したこの作品の事を憶えている方は一体どれだけいるだろうか

 

 ターヘルアナ富子(86年22号~36号)

 徳弘正也

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 作者は82年に「美女は肉料理がお得意」で赤塚賞佳作を受賞、その後「彼女の魅力は三角筋?」と「軟派巌流島」の2本がフレッシュジャンプ83年2月号に掲載されてデビューすると、同年26号から「シェイプアップ乱」の連載が開始され、本誌初登場にして連載デビューを飾る事となる。そして86年、「シェイプアップ乱」が1・2合併号で連載終了の後、18号に読切作品の「What’s おニャン子」を掲載、その僅か4号後の22号から連載が開始されたのが本作品である

 そんな本作品は、カバー絵と杉田玄白が翻訳した解体新書の原題であるターヘルアナトミアをもじったタイトルから察する通り、医療漫画である…と言いたいところだが、正直医療が話の核心に絡む事はあまりなく、実際は診療客の少ない開業医の娘で高校生の亀田富子と、その同級生で向かいに住む曹星寺の息子の天童空也が中心となって繰り広げられる学園&ホームコメディと言った方が適切だろう

 ならば医療はどこに絡むのかというと、主にギャグである

 各エピソードは、例えば、開腹手術に成功したけどまた同じところを開腹するかもしれないからと傷を縫合するのではなくファスナーをつけたり、忘れ物を窓から渡そうとしたら微妙に届かなかったので、手術中の患者の腕を切断してマジックハンドのように使ったりといった感じで、わりとドギツくもあり、コントチックでもあるネタを冒頭に掴みとして入れておいて、本筋は医療関係ない人情噺を展開し、最後にギャグで締めるというパターンが多い

 これは「シェイプアップ乱」、「ジャングルの王者ターちゃん」の両作品でもままある作者の十八番とも言える構成で、話の面白さでは本作品も劣らない、とまでは言い過ぎかもしれないが、作者の魅力は発揮できていると思う。のだが、だからこそタイトルにまでした医療関係の設定があまり生かされておらず、必要があったのかとも感じてしまう。特に後半の話になると、冒頭のギャグすら医療に関係ないケースも出てくるので尚更である

 医療が本筋にあまり絡まない理由は、作者の医学に関する知識が心許ない為であろう

 医療漫画の代表格と言えばなんといっても「ブラックジャック」だろうが、その作者である手塚治虫が医師免許を所持しているという事実は有名であろう。また、ジャンプの黄金期にライバル誌であるマガジンで連載されていた「スーパードクターK」も医師でもあり漫画家でもある中原とほるが原案協力をしている

 無論両作品ともあくまで漫画であるので、内容は必ずしも現実に即しているとは言えない部分も多い。しかし話をそれっぽく見せる為には、ネットですぐに調べる事の出来る今と違って、当時は作者の知識に依存するところが多かったのである

 翻って作者の場合はどうかというと、wikipediaで調べた所、出身大学に医学部は無いようなので本人が医師免許を所持しているという事はなさそうだ。また、単行本1巻のおまけページによると本作品を書くにあたり、郷里の高知に帰って医薬品会社に勤める兄に医師を紹介して貰って取材したとあり、逆に言えば親兄弟みたいな気軽に話を聞ける続柄の中には医者がいない事がうかがえる。これでは本格的な医療シーンを描こうとしても無理な話で、医療コントみたいなものになってしまうのも止む無しだろう

 別にコントが悪いと言うつもりはない。むしろ作風を考えれば本格的な医療シーンよりもコントの方が作者の特性を生かすという意味では良いとも考えられる。ただ、問題は設定上医療を絡めざるを得ないケースが少なからず出てくる事に加え、医療というものは命のやり取りが常の現場である為、コントとしては扱いが難しい部分もある事だ

 その辺りの窮屈さが影響したのか、本作品は15話という短さであっけなく連載終了を迎えてしまう。デビュー作でいきなりのヒットから一転しての短期終了に心中はいかほどであったか。作者はその気持ちを単行本1巻のおまけページで以下のように語っている

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 あっという間の連載だったが作家にとってどの作品も愛着がわくもんで

 この作品が終った時は残念だった。もう少年マンガは書くのはよそうと思った。

 田舎へ帰って小さなスーパーマーケットでも開いて暮らそうかなと思った。

 地域に密着した。地元の人達から愛される店長さんになろうと思った。

 

 まあ、ギャグ漫画家の語る事であるから全てを鵜呑みにする事も出来ないが、こういう事を書いている時点で少なからずショックを受けたのは想像に難くない

 

 本作品の終了後、作者は同年に創刊されたスーパージャンプで「ふんどし刑事ケンちゃんとチャコちゃん」の連載を開始して一時ジャンプ本誌を離れる事になるが、その連載を続けながら88年には「ジャングルの王者ターちゃん♡」で本誌復帰を果たす事となり、それがどれだけヒットしたかについては冒頭で触れた通りである。が、その舞台設定が何でも出来るようかなり緩くなっていたのは、本作品の挫折を踏まえての事だと推測するのは穿ち過ぎだろうか

再び鬼門のジャンルに挑んだ男

 前回紹介した「ハードラック」の作者の樹崎聖であるが、同作品が僅か11話で連載終了という挫折を味わうものの、ホップ☆ステップ賞を満票で入選した実績故か次のチャンスは意外と早く到来し、連載終了後半年も経たぬうちに88年増刊サマースペシャルで「TEENAGE BOMB」を掲載すると、翌89年41号から再びジャンプ本誌で連載を持つ事となる

 それが今回紹介するこちらだ

 

 とびっきり(89年41号~90年23号)

 樹崎聖

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作者自画像もカラーになりました

 さて、その内容であるが、1巻2巻のカバーを見ると知らない方はラブコメのように思われるかもしれないし、実際そういう要素もないでもないが、4巻のカバーを見ればご察しの通りである。そう、またもボクシング漫画だ

 前回も述べたがボクシング漫画はジャンプの黄金期において単行本が10巻以上出版されるほど続いた作品は今泉伸二の「神様はサウスポー」のみしかない鬼門のジャンルである。というのは今振り返っての結果論に過ぎないので、だからボクシング漫画は駄目だとか言う気は無い。が、同じ作者で一度失敗したジャンルに続けてチャレンジしようという案を、作者はともかく編集サイドは何を考えてゴーサインを出したのだろうか。ましてや当時は「神様はサウスポー」が連載中だったのにである。全くもって謎だ

 さておき、勿論作者としては同じボクシング漫画だからと言って結果も同じにならぬよう、本作品は「ハードラック」と比べて色々と差別化が図られている

 まずわかり易いのは絵のタッチであろう

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 並べて比べてみると一目瞭然だが、同じような特徴の主人公なのに「ハードラック」と比べるとデザインが全体的に丸くなり、それがポップな印象を与えている

 そして絵に対応するかのように設定の方も前作のような重たさは軽減し、かなりポップに仕上がっている

 まず主人公の性格からして段違いだ。「ハードラック」の主人公である原田勇希は狂犬だの暴れ狼だの言われた札付きの不良なのに対し、本作品の主人公の鳶木空はヘタレだが口では大きな事を言ってしまい、挙句、その為に転校しなければならなくなってしまったというコメディじみた設定となっている

 そして、空が転校先でも、実際はボクシングジムに行って三時間で投げ出したという経験しかないのに、オリンピックで金メダルを取る事を目標にしてジムに通っていると大口を叩き、その上偶然にも近所の与太高校のボクシング部のエースである大場を叩きのめした為(どんな偶然だ)に周りが盛り上がってしまい、引くに引けなくなってボクシングをやる事になるというのが物語の導入である

 導入からして如何にも少年漫画的だが、その後の展開も多分に少年漫画的だ。大場との因縁、秘密の特訓、対戦相手の卑劣な行為による負傷と、数々の困難を乗り越えた末に空は口だけのからっきしな男でなく、とびっきりのヒーローへと成長する。まさにジャンプの三大要素である「努力」、「友情」、「勝利」の詰まった王道的な物語。伊達にボクシング漫画をわざわざ続けた訳じゃなく、「ハードラック」が描きたい話を優先させた為にあまり読者の事を考えていない節があるのに対し、本作品はちゃんとジャンプの読者層を考えてチューンしてある事がうかがえる

 …しかしながら、それでもやはりジャンプにボクシング漫画は2つも要らないようで、本作品は前作の「ハードラック」と比べると3倍近く連載が続いたが「神様はサウスポー」との争いに敗れる形となり32話であえなく終了となる。だけではなく、「神様はサウスポー」もまた本作品の終了から二ヵ月もせずに終了してしまうという皮肉な結果となってしまう

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終盤は「神様はサウスポー」と巻末、ブービーのワンツーを飾る事も何度かあった

 最後に作者のその後について触れておこう

 本作品の終了後の作者は、本誌で読切が掲載されたり、増刊で何度か掲載された「TACHYON FINK」が単行本化されたりしたものの、本誌では再度連載を持つ事は叶わず94年36・37合併号に掲載された「風と踊れ! 時代を疾走ぬけた男バロン西」を最後に本誌を離れる事となってしまった。が、96年からスーパージャンプ梶研吾が原作を担当する「交通事故鑑定人環倫一郎」の連載を開始すると好評を得て続編も含めると2003年まで続く長期連載となり、その余勢をかって05年にはなんと約10年ぶりにジャンプ本誌で読切「FALLEN」を掲載するという快挙を遂げたのであった

 また、06年からは東京デザイナー学院で数年ほど講師を務め、その経験から09年には「10年メシが食える漫画入門 悪魔の脚本 魔法のデッサン」という指南本を出版すると好評を得てその後何冊も続編が出版されたという

 このあたりの活躍は、作者の事を憶えている当時の読者でも知らない人は結構いるのではないだろうか、と言うか私がまさにそうだった。やはりホップ☆ステップ賞を満票で入選を果たしたのは伊達では無かったのである

 

 

鬼門のジャンルに挑んだ男

 当ブログでは前回まで3回にわたって、ジャンプ本誌に作品が掲載された事があるものの、連載を持つ事が出来なかった者たちを扱ってきた。そしてその2回目において十津川菜生・水流添了の「テイクオフ」を紹介した際、私は以下のような説明をした

 

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因みにこの年の47号から52号にかけては毎号新人の読切作品が掲載され、その顔触れは森田まさのり稲田浩司萩原一至という錚々たる面々に加え、以前紹介した有賀照人もおり、うち5人が後に連載デビューを果たしている。そう、作者以外の全員がである

 

 お気づきであろうか、作者以外の5人が連載デビューを果たしていると言いつつ、名を挙げられているのは4人しかいない事を。という訳で今回紹介するのは、名を挙げられなかった5人目の人物によるこの作品だ

 

 ハードラック(87年52号~88年12号)

 樹崎聖

 

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作者自画像(短編集ffより)

 作者は87年に「ff(フォルテシモ)」でホップ☆ステップ賞を満票で入選、31号に掲載されてデビュー。同年48号には上に挙げた6号連続読切作品の1つとして「カズ!」を掲載すると、4号後の52号で早くも本作品で連載デビューを果たす事となる

 「カズ!」の掲載から一ヵ月では、アンケートの集計から始まり連載化の可否の決定、連載用のネームの準備、そして執筆という手順を踏んでいたら到底間に合わないので、「ff」の時に連載デビューは既に決まっていて、「カズ!」は連載前の試運転といったところだったのだろう。実際私も「カズ!」については印象がないのだが、「ff」はピアニストの物語というあまりジャンプ向けとは言えない作品ながら妙に印象に残っており、だからこそ本作品の連載が開始した時には期待もしたのだが

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「ff」と「カズ!」はこちらに収録されている

 それはさておき、本作品は不良少年である主人公の原田勇希が、名門高校に入学させてもらう代わりに半ば無理矢理始めさせられる事になったボクシングで試練に見舞われながらもチャンピオンを目指すボクシング漫画である

 ところで、以前宮下あきらの「BAKUDAN」(本宮ひろ志の「ばくだん」ではない)を紹介した時、ボクシング漫画はジャンプとあまり相性が良くなく、その黄金期において単行本が全10巻以上の作品は今泉伸二の「神様はサウスポー」しかないと書かせて貰った。言わばボクシング漫画はジャンプにとって鬼門のジャンルなのである

 

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  その原因は、ボクシング漫画は大別するとバトル漫画に分類されるものの、狭いリングの上でパンチによる攻撃しか認められないという極めて限定的なバトルしか出来ない為、バトルとしては見栄えが良くないという事がまず挙げられる

 勘違いして欲しくないが、ボクシングが見栄えが良くないと言っているのではない。ボクシングはクリンチの多い試合を除けば試合が硬直するケースが少なく、KOで決まる試合も多いからむしろ格闘技の中では見栄えの良い方だと思う。ただルールの縛りが厳しい為に漫画的な見栄えのする行動をとらせ辛く、結果、漫画で見るより実際の試合を見た方が面白いとなってしまうのだ

 そしてもう1つは、ハングリースポーツと言われている為か、主人公の身の上が不幸な場合が多く、物語が暗くなりやすい傾向にあると私は考える

 「あしたのジョー」の矢吹丈は孤児、「リングにかけろ」の高嶺竜児は父を早くに亡くした上、母の再婚相手に虐待を受けており、そして本作品連載時はまだ連載前だが黄金期ジャンプで唯一単行本が10巻以上続いた「神様はサウスポー」の早坂弾もやはり父を早くに亡くして修道院に預けられるなど、成功したボクシング漫画を見てもこの傾向は強い。だからこそ暗い雰囲気を吹っ飛ばし、かつ、バトルの見栄えをよくする為にギャラクティカマグナムとかクロスカウンターとか神の拳といった派手でわかり易い必殺ブローが必要になるのだろう

  翻って本作品の主人公、勇希であるが、やはりご多分に漏れず父を早くに亡くした母子家庭育ちという生い立ちである。それも有望なボクサーだった父が網膜剥離で引退を余儀なくされた為に生きる希望を失ってしまったのが原因なので、ボクシングを憎んでいるというおまけつきの

 生い立ちだけでも充分暗いが、物語が進むと更に暗くなる。当初は真面目にボクシングに取り組んでいなかった勇希も、中学時代に偶然助け、高校生になって再開する事になる少女の菜穂や、チャンピオンになるという自分の夢を勇希に託す同僚の松島などから応援されボクシングに真面目に取り組もうとした矢先、対戦相手を死なせてしまい、世間からバッシングを浴びるという不幸に見舞われるのだ

 このあたりの展開は本作品に期待していた私も正直読むのが辛く、ジャンプを購読していた頃はほぼ全作品を、それこそ特に面白いとは思わない作品でも2度3度と読み返していたのに、本作品は読み返す気にならなかった記憶がある。「あしたのジョー」においても力石徹が丈との試合直後に死んでしまうという有名過ぎるエピソードがあるが、ああいった話は読者が作品に引き込まれてからならともかく、そうじゃない序盤にやるには、特にアンケート結果でアッサリ終了が決まってしまうジャンプではマイナスが大きいと思う

 そして、本作品はそのマイナスを挽回する機会を与えられぬまま、あえなく11話で連載終了となったのであった

 

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ジャンプで連載を持つという事の難しさ3

 さて、前回、いや、前々回では、ジャンプ本誌に作品を掲載された経験があるものの連載を持つまでには至らなかった者を、①連載は持てなかったが単行本は出版された者、②ジャンプでは連載を持てなかったが他誌で連載を持てた者、③どこでも連載が持てず単行本も出版されずに姿を消した者の3つに分け、①のケースに該当する者を紹介した。という訳で今回はその続きである

 

 まず②のケースであるが、ジャンプに作品が掲載される事自体、他誌よりもはるかに高い競争率をくぐり抜けて来なければ出来ない、即ちその時点である程度の才能が備わっているという事だ。なので、ジャンプで連載を持つのは無理でも他誌でなら、というのは充分に考えられる事で、このケースに該当する者は10人程度いる。中には該当するかどうか判断に悩むケースもあったのでキッチリ人数を出せないが

 そんな中からまず1人

 南寛樹

 作者は95年に「おやじのゲンコツ」で赤塚賞佳作受賞、翌96年16号に掲載される、と同時期に南ひろたつ名義でサンデーまんがカレッジ努力賞を受賞し増刊サンデーにも掲載されている。名義を変えているのはジャンプの専属契約に触れるからなのだろうか。その後ジャンプでは98年45号に「コンチク笑ゥ‼」、99年2・3合併号に「MADDOGS」が掲載されるが連載には至らなかった一方で、サンデーでは97年4号から「もぅスンゴイ‼」の連載を開始、同作品の終了後、99年16号からは「漢魂!!!」の連載を開始している

 私はジャンプに掲載された読切作品に関しては憶えていないが、サンデーに連載された両作品の事は当時結構サンデーを読んでいたので憶えている。なんと言うか、読者が100人いるならその内の数人はドハマりするけど、大半はつまらないと感じるようなニッチ向けの不条理ギャグ漫画だ。まあ、両作品に限らず不条理ギャグ漫画はそういうものではあるが。因みに私は大半の方に分類される読者で、ほぼほぼ読み飛ばしていた。そしてニッチ向けではアンケート至上主義のジャンプで連載を持てないのも当然の話と言える

 

 そしてもう1人

 戸田邦和

 

 作者は「ROUND」で91年手塚賞準入選、同年増刊サマースペシャルに「ONCE AGAIN」と2本同時に掲載されてデビューを果たす。更に「闘志が一番!」がウインタースペシャル、「てやんでいっ!」が翌92年サマースペシャルに掲載された後、高橋陽一のアシスタントを務めるようになり、「CHIBI」や「キャプテン翼ワールドユース編」の執筆を手伝っていたという。そして94年25号にスポーツライター木村公一原案でメジャーリーガーのマック鈴木の伝記的な話である「MAX マック鈴木の挑戦」で本誌初掲載を飾る事になる

 その後、本人がインタビューで語っていたところによると、アシスタントを続けながらジャンプで連載を持つべくネームを作っていたが、その中の自信作を担当編集者に見せたら作風がまったくジャンプ向けでは無かったせいか「なんでこんなの描いたの?」と小一時間ほど問い詰められたという。なので、知り合いのつてで他所に持ち込んだら評価され、それがチャンピオンで連載が始まった「RAIN DOG」になったそうだ。尚、余談であるが、作者は連載を持ってからも高橋陽一との縁は続いており、かの「キャプテン翼」のリメイク作品である「キャプテン翼 KIDS DREAM」の作画担当として最強ジャンプ18年5月号から連載を始める事になるのであった

 

 そしてもう1人は②のケースに該当すると共に①のケースにも該当するという特殊な例、つまりジャンプで連載を持つ事は出来なかったがジャンプブランドの単行本は出版され、その後他誌で連載を持つ事が出来たというケースだ

 死神に乾杯

 富沢佑

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画像は電子書籍版です

 作者は85年に「放助」で手塚賞佳作受賞、87年増刊オータムスペシャルに表題作である「死神に乾杯!」が掲載されてデビュー。翌88年37号にタイトルが同じ「死神に乾杯!」が掲載されて本誌初登場を飾る。また同年にはファンロードの第1回ファンロードコンテストにて「逃げ水」で入賞している。結局ジャンプ本誌では1本しか掲載されなかったが、富田安紀良と名義を変えて96年からビジネスジャンプで「ほっといてよ!まま」の連載を開始すると、これがTBSドラマの愛の劇場枠で「ママまっしぐら!」のタイトルを変え芳本美代子主演で3度にわたってドラマ化されるヒットとなる。そして現在は富田安紀子名義でも活動しているようだ

 単行本の内容は、表題作が主人公の前に現れる死神が実は美女だったというラブコメに人情噺を加えた感じで、「放助」も収録されているがこちらも人情噺風だ。また、私は未読だが代表作である「ほっといてよ!ママ」が所謂昼ドラ化されている事からも作風はジャンプ向けでは無いと言える。ジャンプ読者が昼ドラを見る事なんてほぼ無いだろうし

 ところで気になったのは、富沢佑というペンネームに加え、単行本の解説漫画に登場する本人の見た目が男か女かわかり辛い(しかも一人称はオレである)のは、ジャンプの読者層を意識して性別を隠す意図があったのだろうか。後にジャンプで連載を持つ事になるかずはじめや樋口大輔も女性なのにそんなペンネームだった事も考えると穿ち過ぎでもないと思うのだが

 

 最後に③のケースで、これに該当する人物が一番多いのだが、連載経験も無く単行本も出版されていない人物となると、これまでの2ケースにもまして情報が少ない。また、私もさすがに読切が掲載されただけの作者及び作品については記憶が無く、ジャンプのバックナンバーを保管していないので読み返す事も出来ないので語るべきものが無いというのが正直な話である

 そんな中で唯一私の記憶に残っているのが第2回GAGキングに輝き、91年6号に掲載された小島茂之の「拳闘王ゴッドフェニックス順平」だ。と言っても記憶は結構あやふやで、作者を同じ回の特別賞を受賞したうすた京介と混同して、「セクシーコマンドー外伝すごいよ‼マサルさん」の連載が開始された時に、『あの「拳闘王ゴッドフェニックス弾平」(タイトルも微妙に間違えて憶えていた)の作者がついに連載を持ったか』と勘違いしたという適当さだが。なので、内容の方も間違って憶えているかもしれないが、順平と後輩にして宿敵であるキングファンシー徳野との戦いを描いたボクシングギャグ漫画だったと思う

 作者は第2回GAGキングだけあって編集者の期待も高く、同年15号に「平凡太郎の奇跡」、更に18号に「ド真面目!サラリーマン教師」と立て続けに読切が掲載されたが、審査員や編集部ほど読者には評価されなかったのか連載を持つには至らず、準キングだったつの丸の方が連載を持ち成功するのだから、やはりギャグマンガの評価は難しい

 

 その他の作品となると、この記事の為に作ったジャンプ黄金期に掲載された読切作品のリストを見返しても全くピンとこなかった。例えば90年の23号と24号の2号にわたって白樺啓の「ピエロのしんちゃんがドバドバ」という作品が掲載されたのだが、こんなにインパクトのあるタイトルにもかかわらず何一つ思い出せるものがない有様である。同じく90年では7号にジョン・M・陸克の「RUSH BALL・REMIX」という作品が掲載されているがこんな特徴的なペンネームなのにやはりサッパリ記憶に残っていない。しかもこれは滅多に出ない事で知られる手塚賞の入選作品にも関わらず、よほどアンケートが芳しくなかったのか、作者は以後一度も作品が掲載されずじまいだ

 長くなるのでこれ以上は挙げないが、他にも各漫画賞の受賞者が当たり前のように一度きりで姿を消す事もまま有り、改めてジャンプで連載を持つという事が如何に難しいかを改めて思い知らされた次第である