黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

約30年ぶりの新刊

 本日は前々回紹介した岩泉舞の約30年ぶりの新刊となる「MY LITTLE PLANET」の発売日である

 

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  宣言通り私も購入したのでその報告ついでに軽いレビューをしていきたいと思う

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帯のコメントは村田雄介

 

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 見ての通りカバーデザインはバック以外は「七つの海」と一緒だが、サイズは一回り大きく、ジャンプコミックスサイズではなくヤングジャンプコミックスサイズだ。いや、出版が小学館に変わったからビッグコミックスサイズと言うべきか。そしてカバーはリバーシブルになっており、裏返すとこの為に描き下ろしたこちらになる

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 約30年経ったのと、おそらくコンピュータで描いているのが相まって絵のタッチはだいぶ変わった印象だ。洗練したとも言えるし、没個性になったとも言えるから、この辺は賛否両論あるかも

 さて内容の方であるが、「七つの海」に収録されていた作品に関しては、掲載当時カラーページだった所はカラーで再録されているのが良い。あと、私の所持している「七つの海」はかなり灼けて黄ばんでいるので、比較するとページの白さが眩しく感じる

 次に初収録となる「COM COP 夢みる佳人」(原作村山由佳)、「KING]、「クリスマスプレゼント」(武論尊)であるが、こちらも掲載当時カラーページだった所はカラーで収録されている。が、原稿からではなくジャンプからの転載である為若干荒れが気になるのが残念。話の方は、正直再読するまでは記憶の彼方だったのだが、読んでいるうちに次から次へと思い出してきて、ノスタルジーと自分のポンコツさに泣けてきた。あと、原作付きの2作品については、勿論良い話ではあるし、作品自体にケチをつける気は無いんだけど、元々ストーリーテリングが巧みな作者にわざわざ原作者をつける必要があったのか今更ながらに疑問が

 そして最後に本単行本の目玉と言える描き下ろしの新作「MY LITTLE PLANET」。相変わらずストーリーテリングは巧みであるが、約30年という年輪がそうさせたのか、結構ダーク寄りで」皮肉の効いた作品となっている。これまでの作品でも「たとえ火の中…」とかはダーク寄りではあったが、メインキャラの1人がここまでダークなのは初めてだ

 まだ軽く一読しただけだが、面白く、作者の才能が感じられる作品ばかりである。と同時に改めて思うのは、やはりジャンプ向け、少なくともジャンプのメイン読者層に受けるタイプではないという事だ。今更詮無き事ではあるが、もし作者がジャンプではなく他の雑誌でデビューを目指していたらどうなっていたかと思いを馳せる自分がいる

 

 ところで余談ではあるが、私が本単行本を買いに行った時、1件目の書店では入荷してないばかりか、店内の端末で検索をかけたら「該当商品なし」と返されて、もしかして新刊が出るというのは現実ではなく夢の出来事だったのかと一瞬思ってしまった。まあ、そんな訳はなく2件目で見つけたのだが、それでも在庫はたった1冊だった。私は地方在住ではあるが、結構大きめの都市で書店も大きかったのにこのザマであるから、買いに行ったのに売って無かったとスゴスゴ帰ってきた方もいるのではないか。そういう方は電子書籍版もあるのでそちらも考慮に入れたらどうであろう

 

ジャンプで連載を持つという事の難しさ2

 さて、前回私はジャンプに作品が掲載された経験はあるものの、連載を持つには至らなかった漫画家として岩泉舞とその作品集である「七つの海」を紹介させて頂いた。だが、実はこのような例はそれほど珍しい事ではない。黄金期のジャンプに掲載された読切作品は全部で209にのぼるが、本誌で連載実績のない新人(姉妹誌など他誌で経験している人含む)が掲載されたケースは延べ67人、その内連載を持つ事の出来なかった作家は29人と結構な数になるのだ。しかもこれはあくまでジャンプ本誌に限った事で、本誌では掲載された経験はないがフレッシュジャンプや増刊といった姉妹誌で掲載された経験はあるという者も含めればその数はさらに増えるという事は言うまでもない

 そしてそういう者たちは大別すると、岩泉舞のように何度も作品を掲載され、読切だけで単行本が出版されたような者、ジャンプ本誌では連載を持つ事は叶わなかったが他誌で連載を持つ事が出来た者、そしてあまり機会を与えられず、どこからも単行本が出版されずに姿を消してしまった者の3つに分けられる。今回はその各々から何人かをピックアップして紹介していきたいと思う 

 尚、最初に言い訳をしておくが、元々この時代のサブカル情報はネットで調べても情報が少なく、ましてや連載を持つ事の無かった漫画家となるとマジで情報が皆無だ。なので、ここで紹介する情報は不確かで間違っている可能性も大いにある事を念頭に置いて頂きたい

 

 まず最初は読切だけで単行本が出版された者たちで、これは3つの中では圧倒的に数が少ない。まあ、何度も作品が掲載されるという事は編集者から目をかけられるだけの才能があるという事だし、チャンスも充分に与えられているのだから、よほどの事がない限りは連載を持つ事が出来るから当然と言えば当然であるが

 これに当てはまる者は岩泉舞を含めても片手で足りるほどで、そんな中の1人はこちらだ

 瀬戸際少年野球団

 小林義永

 

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 作者の名前が最初にジャンプ本誌に登場したのはかなり特殊なケースである。それはどんなケースかというと、79年46号の「こち亀」にて、登場キャラの星逃田がカルチェのライターを無くして、ラストのコマでライターを探してくれと読者に呼びかけるというネタがあったのだが、それに対して編集部に100円ライターに銀紙を張り付け「かるちぇ」と書いた物を送り付けてきたのが作者で、その顛末が80年2号に掲載されている。それって同姓同名の別人なんじゃないの?と疑う方もいるかもしれないが、本人と思われるTwitterに「ジャンプで使用させていただきましたので」という文言が入った秋本治のサイン色紙の画像があるので本人で間違いない

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ライターを落とした話が17巻に、届けられた話が18巻に収録されている

 そして時を経て正式に作者が本誌に登場したのが86年42号の「彼女が家にきた日」で、更に次号の43号でも「家庭教師エイリアン」と連続登場を果たしている。ただ、掲載順は42号が下から3番目、43号に至っては巻末と、期待されているのかされてないのか微妙な扱いである。翌87年25号には表題作である「瀬戸際少年野球団」を掲載。その後五年のブランクをはさんで92年15号に「夢みるウメオちゃん」が掲載されたのが最後となっている

 尚、これまた本人と思われるTwitterによると、91年21・22合併号のF1特集でモナコグランプリのコース図を描いたのも作者であり、当該の号が復刻版として再版される事になったので再掲載の許可を求める連絡が来たという。当時は気にしていなかったが、こういう風に若手が誌面に載せるイラストを描いた例は他にも一杯あったんだろうなあ

 さて、内容の方であるが、露骨に「瀬戸内少年野球団」をパクった表題作からも察せられる通りギャグ漫画だ。そして、このジャンルは才能の見極めが非常に難しいジャンルである。と言うのも、ギャグが笑えるか否かは完全に個人個人の好みによるもので、例え編集者が面白いと思ってもそれが読者に受けるとは限らないからだ。因みに読者の1人であった私はどう感じたかというと、正直全く覚えていないし、今読み返してみると80年代ノリが気になって正当な評価を下せそうにない。が、連載に至らなかったという事はそういう事なのだろう

 

 続いてもう一例

 テイクオフ

 十津川菜生・上水流了

 

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左右の目の大きさの違いが気になる…

 原作者付きの作品だが、武論尊大場つぐみのように本職の人間ではなく、元々コンビと言うかサークルで活動しているようで、本単行本には他にT.OHKAWAとY.KAINUMAという名前もクレジットされている。カバーの一番下に書かれているSTUDIO FALCONというのがサークル名なのだろう。本単行本の解説によると、これ以前はM書房の某アニパロ誌に掲載された経験があるという。おそらくみのり書房月刊OUTの関連誌だと思われるが、情報不足で残念ながら確定までには至らなかった

 ジャンプ関係では84年に手塚賞の最終選考まで残る(結果は選外)と、翌85年に「BLUE ARROW」がフレッシュジャンプに掲載されてメジャーデビュー。86年には増刊サマースペシャルに「ハート♡スキャナー」が、オータムスペシャルに「あざみはライバル☆」が掲載、そしてついに87年51号に「あ・ぶ・な・い☆エンジェル」が掲載されて本誌デビューを果たしたのであった。因みにこの年の47号から52号にかけては毎号新人の読切作品が掲載され、その顔触れは森田まさのり稲田浩司萩原一至という錚々たる面々に加え、以前紹介した有賀照人もおり、うち5人が後に連載デビューを果たしている。そう、作者以外の全員がである。だからという訳でもないだろうが、作者はこれが本誌初登場にして最後の登場となってしまい、以後の足取りは途絶えている

 

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  内容の方は現代のおとぎ話風あり、柔道ものあり、スパイアクションあり、と書くと多彩な作風に思われるかもしれないが、実際はどれもこれもラブコメの為に取ってつけた設定という感が否めない。この辺の掘り下げの浅さが同じくジャンプ向けのテーマでは無かった有賀照人と明暗を分けたのだろうか

 と、3つのタイプを全て紹介するつもりだったのが予想外に長くなってしまったので、続きは次回に

ジャンプで連載を持つという事の難しさ

 当ブログではここ2回で冨樫義博江口寿史と休載癖のある漫画家の作品を紹介してきた。が、言うまでも無い事だが、この2人のように休載を重ねる人物は極めて稀であり、ジャンプで連載を持った事のある殆どの漫画家は病気などやむを得ない理由でもない限り休載などまずあり得ない事だ。そして、それよりも多くの漫画家、或いは漫画家志望者は休載どころか、そもそもどんなにジャンプで連載を持ちたいと願っていても叶わずに諦めなければならないのである

 そんな訳で、今回紹介するのはジャンプに読切作品が掲載された事はあるものの、連載を持つまでには至らなかった作者の作品集だ

 

 七つの海

 岩泉舞

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短編集1とあるが2巻は出てません

 

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作者自画像


 以前にも説明した記憶があるが、ジャンプで連載を持つまでには越えなければならない大きなハードルが2つある。まず1つは漫画賞に応募したり、原稿の持ち込みや投稿などによって編集者に認められるまでの、編集者のハードル。そしてそれを越えた先に待っているのが、ジャンプ本誌や姉妹誌に読切作品を掲載し、アンケートで高い評価を得て連載を勝ち取るまでの、読者のハードルだ

 尚、余談ではあるが私は昔、ジャンプではないが結構メジャーな漫画誌の原作賞に応募して、賞は貰えなかったものの、編集者の目に留まり声を掛けて貰った経験がある。まあ、所詮は賞も貰えないレベルだったので連載どころか1度も作品が掲載される事すら無かったが。編集者サイドからしたら、そんなに可能性は感じなくとも声を掛けるのは大した手間でも無いし、万が一でも当たったら儲けものくらいの感覚で結構多めの人間に声を掛けているのだろう。このようなケースはジャンプにおいても当然あるだろうから、編集者のハードルは厳密には編集者から声を掛けられるまでのハードルと作品の掲載が認められるまでのハードルという2つが存在すると言える

 

 私の事はさておいて話を戻そう。作者の場合は89年に「ふろん」がホップ☆ステップ賞佳作を受賞し、それが同年増刊オータムスペシャルに掲載と、一気に2つのハードルを越えてデビューを果たしている。のみならず、更に同年のうちに増刊ウインタースペシャルにも「忘れっぽい鬼」を掲載、翌90年25号に「たとえ火の中…」が掲載されて本誌デビュー、91年21・22合併号には「七つの海」、39号に「COM COP」、92年10号に「COM COP2」と短いスパンで立て続けに作品が掲載されている事から、作者は編集者に認められているどころかかなり期待されていたであろう事がうかがえる

 何故そんなそんなに期待されていたのかは、本単行本に収録されている作品を読めばわかる気がする。それは「ふろん」は世にも不思議な物語風、「忘れっぽい鬼」と「たとえ火の中…」は伝奇風、「COM COP」「COM COP2」はゴーストハンター風と作風が多彩な上、どの作品も面白く読める話に仕上げるストーリーテリング能力の高さであろう

 中でも私が好きなのは本単行本の表題作でもある「七つの海」だ。タイトルからして「ONE PIECE」のような海洋冒険活劇をイメージするかもしれないが、内容は海とは殆ど関係なく、冴えない少年ユージの心の葛藤と成長を描いたものである。その読み味はまるで児童文学のような若干ほろ苦くもさわやかな読後感に包まれ、当時の私に強い印象を残したものだ。その後単行本を入手して再読したのは最近になってからなのだが、三十年近くも読んでいなかったのに内容をほとんど覚えていた程である

 尚、この作品が強く印象に残っているのは私だけではないようで、短期連載どころか読切で1回掲載されただけにもかかわらず、この作品について言及する書き込みがネット上にちょこちょこ見られる事からも、作品及び作者に対する評価の高さがうかがえる

 だが、そんなに評価されたにもかかわらず、作者は結局ジャンプで連載を得る事は出来なかった

 本単行本に収録されている作品以降も92年49号に「KING」、93年3・4合併号にはあの武論尊を原作に迎えて「クリスマスプレゼント」、同年52号には後の直木賞作家である村山由佳を原作に迎えて「COM COP3 夢見る佳人」を掲載するもアンケート結果が芳しくなかったのか連載には至らず、94年増刊サマースペシャルに掲載された「リアルマジック」を最後に他誌で活躍する事もなく表舞台から姿を消したのであった

 その理由もまた作品を読めばわかる気がする

 作者の作品は間違いなく面白いと言えるのだが、その面白さは先にも挙げたとおり児童文学のような面白さであり、ジャンプのメイン読者層が求める面白さとは質が違うものであるからだ。その典型例が「COM COP」及び「COM COP2」で、両作品はおそらく連載化を意識してゴーストハンター的な内容にしたのだろうが、その割にバトル要素は薄く、「DRAGONBALL」などを好む読者にとっては地味で物足りなく感じられる作品であった。どちらが優れているという問題ではない。飲み物で例えるなら炭酸飲料のような刺激的な飲み物が好きな層に水出し緑茶を出されるようなもので、いくら良い物でも求めているものでなければよい感想を得られないという話だ。なので、作者の作品群は私の他に少なからぬ人数から高い評価を得ても、ジャンプ全体の読者数からすると支持数が足りなかったというのも無理のない事だろう

 さて、そんなこんなで作者が表舞台から姿を消して三十年近くたったのだが、この記事を書く為に調べ物をしていたら衝撃の事実が判明した

 なんと偶然にも作者の新刊が今月の28日に発売されるというではないか

 どうもきたがわ翔が去年「鬼滅の刃」に引っ掛けて作者の事をツイートしたのがきっかけでこのような運びとなったようだが、「鬼滅の刃」の関連の話題は追っていないし、Twitterも大して利用していないので、この記事を書こうとしなければ知らないままであっただろう。こういうのを虫の知らせと言うのだろうか

 因みに新刊と言っても画像を見ればわかるように基本は本単行本に収録してある作品の再録で、そこに未収録作品をプラスし、更に描き下ろしの新作が1本というラインナップのようだ

 これは是非とも買わなければと思うし、興味を持たれた方にも是非買って読んで欲しいと思う1冊である。また、興味は持ったけど買うまではどうかと思われた人は、マンガ図書館Zのほうで本単行本が無料公開されているのでそちらをどうぞ

 

冨樫以前にも存在した休載王

 あなたは休載という言葉を聞いて誰を連想しますか?

 そんなの冨樫義博に決まっているだろ、などと言われたら身も蓋もないが、殊ジャンプに限っても休載歴のある作家は他にもいる事は忘れてはならない

 例えば現在の看板作家である尾田栄一郎の「ONE PIECE」も物語が一区切りついたところで休載しているし、他にも有名どころではゆでたまごが「キン肉マン」の、桂正和が「ウイングマン」の連載中に病気により休載を余儀なくされている。とは言え、休載の頻度、そして期間の長さにはかなり違いがあるが。他誌に目を向けると九年も休載した上に以前の重要な設定であるモーターヘッドが無かった事にされ、何の説明もなくゴティックメードなるものに差し替えられていた「ファイブスター物語」の永野護とかもかなりのものだと思うが、やはりジャンプに比べると出版部数が大きく劣る為、休載=冨樫義博というイメージは不動であり、彼に休載王という称号を与える事に異議を唱える者は少ないであろう

 しかし、ジャンプの歴史を遡ってみると、冨樫義博と遜色ないとは言わぬまでもかなりの休載頻度を誇り、休載王の称号を与えてもいいのではないかという人物が他に1人だけ存在した。名前を出す前にまずはその人物による、ある連載作品の掲載順変遷を掲載するのでまずはそちらを見て頂きたい。勿体つけるつもりがつい表にタイトルを出してしまったのでバレバレではあるが

 

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これだけ休載しても掲載順があまり落ちないのも凄い

 字が細かく少し見づらいかもしれないので少し説明させてもらうと、連載期間が二年少々で100号あまりの間に掲載された回数は61。休載率でいうと4割強という数値は「HUNTER×HUNTER」の7割近い休載率と比べると見劣りするかもしれないが、「HUNTER×HUNTER」は連載開始から二年少々の段階での休載率は2割程度と同期間での休載率ではこちらが上回っており、先代休載王の早熟ぶりがうかがえる

 

 まあ、かなり有名なタイトルなので既に分かっている人も多いと思うが、そんな先代休載王と問題の作品はこちらである

 

 ストップ‼ひばりくん!(81年45号~83年50号)

 江口寿史

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画像は双葉文庫版です

 作者は77年に「恐るべき子どもたち」でヤングジャンプ賞入選、同年21号に掲載されてデビュー。28号に読切作品の「8時半の決闘」を掲載した後、34号に「すすめ‼パイレーツ」を掲載、これが41号から連載作品となり連載デビューを飾ると、いきなり連載期間が三年あまりとヒットを記録する事となる。以前紹介した「妖怪ハンター」の諸星大二郎もそうだったが、この時代はまだジャンプが盤石ではない為か初掲載から連載を持つまでのサイクルが短い。勿論、本人の才能もあっての事だろうが

 

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  「すすめ‼パイレーツ」の終了後、81年6号から「ひのまる劇場」の連載を開始するも29号で終了。そして同年45号から連載が開始されたのが本作品である

 そんな本作品は、両親を亡くして天涯孤独になった坂本耕作が、母の遺言に従い世話になる事になった大空家の面々、特に同い年でそこの息子でありながら女性の格好をして、学校でも女性として生活しているひばりとの関係を描いたラブコメディだ

 本作品で特筆すべき事は2つある。まず1つは作者が描くシャープでポップな絵柄だ。その絵は四十年も前に連載が始まった作品とは思えぬほど洗練されており今見ても全く古びてない、と言うのは流石に盛り過ぎだが、同時代の他作品と比べると突出していて、少なくとも十年は先を行っているような感じだ。この時代に絵柄で対抗出来たのは「Drスランプ」の鳥山明ぐらいだっただろう

 そしてもう1つは、言うまでも無くヒロイン?の大空ひばりが男性であるという事だ。現在では女性の格好をした男性キャラは男の娘などと称され、あまり珍しいものでもなくなったが、当時はゴツイ男に厚い化粧を施した分かりやすいギャグキャラしかいなかった時代にまんま女性に見える、しかも洗練されたデザインのキャラが出てきた衝撃は計り知れないものがあった。おかげで本作品は連載されるや否やあっという間に大人気となり、当時副編集長で後に編集長となる後藤広喜もその著書に、パワーが落ちてきた「Drスランプ」に代る新たな看板作品になる事を期待していたと書いている程だ

 だが、その人気、期待は作者にとって心地よいものではなかったようだ。元々作者は連載デビュー作の「すすめ‼パイレーツ」の頃から筆が遅く、原稿を上げるのは常にギリギリで集英社の会議室の1つを改装した執筆室に缶詰めになる事もしょっちゅうだったというが、この頃になると遅いどころか間に合わずに休載になる事もしばしばで、掲載された号でも本編に関係なく作者が原稿に悩んでいる話でページ数を稼いでいたり、そもそもページ数が10にも満たなかったりと惨憺たる有様であった。作者もさすがに厳しいと思ったのか、編集部に週間連載ではなく隔週での連載を申し入れたのだが、当時の編集長である西村繁男はそれを許さず、加えて83年になると本作品はTVアニメ化されて益々休み辛い空気が出来上がっていった…いや、十分すぎるくらい休んではいるのだが

 そしてついに作者の緊張の糸がプツリと切れてしまう

 本人がフジテレビONEの「漫道コバヤシ」で語った話によると、83年51号ぶんの原稿の残り5ページを翌日までに上げなければならない状況に追い込まれた作者は、それが間に合わないと悟ると仕事場から逃走してホテルに潜伏したという。本作品の掲載歴を見るに、それまでも間に合っていない事があったように見えるのにまるで初めてやらかしたような口ぶりだが、そうではなく仕事場から逃走してしまったのがまずかったという事なのだろう。若しくはそれまでのやらかしからもう原稿を落とせない状況に陥ったのか

 いづれにしろもう終わりだと覚悟を決めて締め切りが過ぎた後に自宅に戻ると、待っていたのは編集長からの呼び出し電話であった。そして作者は改めて週間連載は無理なので隔週か月間での連載を申し入れるも、編集長は「もうウチでは面倒みきれない」とさじを投げ、本作品は当時のジャンプの人気トップレベルにあり、かつTVアニメも好評放送中という状況にありながら連載が打ち切られるという異例の事態を引き起こしたのであった

 もし編集長が隔週か月間での連載を認めていたなら本作品はどうなっていただろうか?

 その後作者はジャンプを離れフレッシュジャンプなどに活躍の舞台を移し、念願の月間連載を始める事になるが、それでも連載を投げ出す癖は治らなかったようだ。ちゃんと完結させた作品は殆どなく、それよりも洗練されたデザインを生かしてイラストレーターとしての活躍の方が多くなっていったという事実を鑑みると本作品もまともに完結させられたとは思えず、編集長の判断は結果的に正しかったと言えよう

 ただ、読者の立場から考えると楽しみにしていた作品が話も中途で突然終わってしまうのは悲しい事である。果たして「HUNTER×HUNTER」のようにいつ連載が再開されるのかわからないという状況とどちらがより不幸なのだろうか…

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まあ、どっちも不幸なんだけどね…

 

冨樫が仕事をしなくなったワケは

 好き嫌いは別にして、冨樫義博がジャンプにとってかなり功労者である事に異論をはさむものは少ないであろう。「幽☆遊☆白書」は黄金期において鳥山明の「DRAGONBALL」と井上雄彦の「SLAM DUNK」に次ぐ人気を誇っていたし、黄金期の終焉後は鳥山明が半ば隠居し、井上雄彦はジャンプを去ったのに対し、冨樫義博は更に「HUNTER×HUNTER」をヒットさせて年長の読者を繋ぎとめるのに多大に貢献している事を考えると総合的な貢献度でいえばジャンプ史上でも屈指の存在だと言えるのではないか

 にもかかわらず、世間の冨樫義博に対する評判があまりよろしくないと感じるのは気のせいだろうか?

 …いや、気のせいじゃないのはわかっているし、それが何故かもわかっている「HUNTER×HUNTER」の休載があまりにも多過ぎるからだ

 なにせ98年14号で連載を開始してから二十年以上が経っているのにもかかわらず、現在までに出版されている単行本の数は僅かに36。通常は連載期間が一年で単行本はだいたい5冊出版されるから110巻は超えていないとおかしいのに、その3分の1にも満たないのは驚異的である。おかげでいつの頃からかネット界隈で冨樫義博の話題になると『冨樫仕事しろ』というコメントが大量に投下されるようになり、今じゃ『とがしs』と入力した時点で『冨樫仕事しろ』というワードが検索候補に出てくる程である。そして現在もやはり絶賛休載中だ

 だが、当然の話かもしれないが冨樫義博も最初から休載が多かったわけではない。前々回に紹介した「てんで性悪キューピッド」は短期で終了した事もあってか一度も休載した事は無いし、「幽☆遊☆白書」も四年近く連載が続いたにもかかわらず、休載したのは連載終了間際の1回のみである。いや、普通は1回も休載しないだろうという突っ込みは無しで

 

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 それが「HUNTER×HUNTER」になるといきなり休載が多くなるのはどうした事だろうか

 まずアシスタントを使わず1人で描いている上に腰痛の持病持ちの為、肉体的に継続的な連載が厳しい事が考えられる。そして「幽☆遊☆白書」がヒットした事により金銭的に余裕が出来て、仕事に対するモチベーションが低下している事も理由かもしれない。とは言え、それはあくまで作者の側の理由であり、編集サイドからすればいくら人気作家でもこれだけ休載が多ければ他の作家にも悪影響を与えかねない頭痛の種であろう。連載期間より休載期間が長いという体たらくになってしまっては、綱紀を引き締める為にも連載を終了させないまでも姉妹誌送りにして然るべきだと思うのだが、そうならないのは何故なのか

 

 私見ではあるが、理由の一端はこの作品にあるのではないかと思う

 

 レベルE(95年42号~97年3・4号)

 冨樫義博

 

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画像は文庫版です

 作者のデビューまでの軌跡は「てんで性悪キューピッド」の紹介記事を参考されたし。そして同作品の終了後、一年も経たずに90年51号から連載が開始された「幽☆遊☆白書」は説明無用の大ヒットを記録。それが94年32号で終了後、一年少しの間を経て連載が開始されたのが本作品だ

 そんな本作品は、ドグラ星の第1王子であるバカ=キ=エル・ドグラを筆頭に地球に来襲する異星人が巻き起こす騒動をオムニバス方式で描くオカルトSF漫画である

 文庫版上巻の裏表紙には本作品について『「HUNTER×HUNTER」の冨樫義博が世に問う異色の連作集』と説明する一文がある。確かに本作品は作者の二大代表作である「幽☆遊☆白書」、「HUNTER×HUNTER」と比べると派手なバトルがある訳でもなく、全体的に地味でウエットな雰囲気は海外のサイコサスペンスドラマのようで、異色という言葉にも頷けるものがある。が、別の一面に目を向けると本作品は二大代表作と相通じるものがある事に気付かされるだろう

 振り返ってみて欲しい。「幽☆遊☆白書」は一度死んでしまった浦飯幽助が霊界探偵として蘇って妖怪や魔族と戦いを繰り広げており、「HUNTER×HUNTER」も念能力に目が行きがちだが、キメラアントを始め異形の者たちが多く出てくる。そして本作品は宇宙人。全ての作品はその根底にオカルトという共通のテーマを持っているではないか

 この3つの作品に限った事ではない。前々回に紹介した「てんで性悪キューピッド」は悪魔、更に作者の連載デビュー以前の作品を集めた単行本である「狼なんて怖くない‼」に収録されている作品も殆どはオカルト要素が入っているのだ

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 共通点はまだある。本作品のエピソードの1つにバカ王子が小学生をアブダクションして自分の作ったゲーム用の惑星に飛ばすというものがあるが、作品内でゲームをやらせるというエピソードもオカルト要素ほどではないが結構見られる要素である。「幽☆遊☆白書」だとゲームマスター天沼月人戦、「HUNTER×HUNTER」だとグリードアイランド。そしてデビュー作の「とんだバースデイプレゼント」からしてコンピュータゲームと現実世界が融合してしまった話だ。こうしてみると本作品は異色どころか作者の志向がわかりやすく表れている作品だと言えるのではないか

 

 …と長々紹介してきたが、そんな説明は無用だったかもしれない。何せ本作品は既に「幽☆遊☆白書」をヒットさせ、人気作家としての地位を確立させてからの作品であるから誌面での扱いも良く、後にはTVアニメ化もされた程の作品であるから、他の短期終了作品と違って本作品を憶えている、知っているという方は多かろう

 内容よりも異色なのは週刊誌でありながら月イチ連載と言うその連載形態だ。私は関係者でも何でもないので何故なのかは推測するしかないが、編集部サイドがこのような形態を望んだとは思えない。だが当時のジャンプは「DRAGONBALL」の連載が終了した事もあってついに出版部数が減少に転じたという厳しい事情があり、どうしても人気作家である冨樫義博に連載を持って欲しかったのだろう。なので連載を承諾させる為に作者の要求を全部呑んだとは言わぬまでもかなりの譲歩をされた事は、文庫版上巻の作者あとがきで本作品を「比較的好き勝手に描けた」と述べている所からもうかがえる

 そして1つの譲歩が更なる譲歩を生むのが世の常で、譲歩に譲歩を重ねているうちに、連載期間よりも休載期間の方が長くなっても本当は言いたいのに何も言えない今の惨状が出来上がってしまったのではなかろうか

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期間としては一年以上続いた本作品は短期終了作品と分類していいのだろうか

 そんなある意味では記念碑的な本作品であるが、齢を重ねて中年になってしまった今となると二大代表作と比較して派手なバトルが無い分話に集中出来るし、1エピソードが短くてサクッと読める。それに何よりも「HUNTER×HUNTER」とは違ってちゃんと完結しているのでお勧めである

戦場バトル漫画が挑んだ過酷な戦場

 前にも述べたかもしれないが、ジャンプにおける花形ジャンルと言えば、やはりバトル漫画であろう。その誌面を彩ってきたバトル漫画はジャンプの黄金期どころかジャンプを、いや、少年漫画を代表すると言っても過言ではない「DRAGONBALL」を筆頭に、「北斗の拳」、「幽☆遊☆白書」、「魁!男塾」など枚挙にいとまがない。が、反面、花形だけにバトル漫画は作品数が多く、しかも上に挙げたような錚々たる面々と同じ誌面で争わなくてはならない為に短期終了作品が多いジャンルでもある。故に各々が他作品より目立とうと趣向を凝らすのだが…

 そう、今回紹介するのはそんなバトル漫画たちによる連載の存続を賭けた血で血を洗う争い、まさにバトルロワイヤルに趣向を凝らした作品で参戦するも、敗れ去ってしまった者たちの1つである

 

 モートゥル・コマンドーGUY(95年32号~44号)

 坂本眞一

 

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 作者は90年に「キース‼」でホップ☆ステップ賞入選、同作品が翌91年に増刊スプリングスペシャルに掲載されてデビュー。更にもう1本増刊に読切作品が掲載された後、93年29号に原作者付きの読切作品「ブラッディ・ソルジャー」が掲載されて本誌デビュー。94年33号では第1回ジャンプ新人海賊杯に「モートゥルコマンドーGUY」でエントリーして見事2位に輝いて連載権をゲットし、95年1号の「心の求道者 史上最強の空手家アンディ・フグ物語」の掲載を経て同年32号から連載を開始したのであった。尚、ジャンプ新人海賊杯についてはこちらの記事で触れてるので参考にされたし

 

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 さて、単行本のカバー絵を見て、映画の「ランボー」のようだと思う方もいるかもしれない。それも無理なからぬことで、本作品の主人公である本城ガイは「ランボー」のランボーと同じく米軍特殊部隊所属の軍人である。そしてあらゆる格闘技の長所を取り込んで1つにした「モートゥル・コマンドー」と呼ばれる必殺の戦闘術を駆使して戦うバトル漫画が本作品だ

 主人公のガイは元ジャーナリストであり、麻薬犯罪の取材で南米のギズエラを訪れたところ、麻薬組織に拉致されてしまう。そして組織の麻薬工場で強制労働させられていたところを仲間と共に命辛々脱走する事に成功したのだが、その際に恋人のルシアが取り残されてしまった。ルシアの救出をギズエラ政府や現地の日本大使館に嘆願するも相手にされなかったガイは、自力でルシアを救出する為、そして二度とこのような悲劇が起こらぬよう世界中の麻薬組織を壊滅させる為に特殊部隊に志願し、自らを戦闘マシーンと化したのであった

 

 もうお分かりかと思うが、作者が他のバトル漫画との差別化の為に本作品に凝らした趣向がタイトルにも使用されている必殺の戦闘術、モートゥルコマンドーである。特殊部隊仕込みの総合戦闘術という設定はおそらく旧ソ連軍隊格闘術であるコマンドサンボをヒントにした事は、作者の短編集である「ブラッディ・ソルジャー」の中のおまけ漫画に当時コマンドサンボの使い手であるヴォルク・ハンが参戦していた総合格闘技団体であるリングスのイベントを観戦したエピソードが描かれている事からも推察できる。また「ブラッディ・ソルジャー」にはデビュー作でもある「キース‼」と「心の求道者 史上最強の空手家アンディ・フグ物語」も収録されているのだが、前者は近未来の宇宙プロレス漫画、後者はタイトル通りに空手家アンディ・フグのエピソードを漫画化したものであり、作者がかなりの格闘技好きだという事は間違いない。そして、軍隊戦闘術をリングの上ではなく実際の戦場で駆使させてみようという発想が作品の出発点だったのではなかろうか。当時UFCの発足等によって、ポルトガル語で『何でもあり』という意味を持つバーリトゥードの格闘イベントが話題になりつつあったが、それ以上に何でもありな戦場でやらせてみようと

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本作品の読切版はこちらに収録されている

 だが、実際にそれをやらせてみると問題点があった。と言うのも戦場はバーリトゥードなんか目じゃない真の何でもありな場所だからである

 何しろ自分も相手も武器を持っているのでわざわざ近づかずに銃を撃った方が効果的であるし、近づいたら近づいたでナイフを使わない理由もない、と言うかそもそも1対1で戦わなきゃいけないわけでもないのだ。なので、せっかく考案したモートゥルコマンドーであるが、人質を取られて武装解除させられた時など限定的な状況でなければ存分に駆使する場面がないのだ。結果、大部分はバトルと言っても武器を持ってのまさにランボーのようなものになり、それはそれで面白いのだがテーマと内容が乖離してしまったのが残念である。一応武器を持ったバトルの時でも太陽を背に戦うとか、環境を利用した戦闘術の片鱗は見せたが、蘊蓄の域を出ず見せ場にはならなかったし

 

 結局本作品は12話であえなく終了となってしまう。が、当時のジャンプの連載陣を見ればそれも止む無しだろう。「DRAGONBALL」は終了していたものの、同時期に連載されていたバトル漫画はアニメ化された作品だけでも「NINKU」「るろうに剣心」「とっても!ラッキーマン」「ジョジョの奇妙な冒険」「DRAGON QUEST ダイの大冒険」という錚々たる顔ぶれであり、更に不幸な事に本来作者がやりたかったであろう総合格闘技路線には「陣内流柔術武闘伝 真島クンすっとばす‼」が既に居座っていたとあってはこれが連載デビュー作になる新人が戦うには相手が強大過ぎた

 ジャンプにおけるバトル漫画同士の連載続行をかけた戦いは、ある意味では本当の戦場以上に過酷なのかもしれない

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以前紹介した「ファイアスノーの風」の次の号に連載が始まり、終了も同作品の次の号であった

 

 

 

冨樫がちゃんと仕事していた頃

 当ブログでは「モンスターハンターRISE」の発売以来、平松伸二の「モンスターハンター」を始めとしてハンターと名の付く作品を紹介してきたが、残念ながら今回はハンターと名の付く作品ではない。本来なら前回紹介した「不思議ハンター」の本誌連載版を紹介するべきなのだが、あいにく私は単行本を未所持なので。なんで他の黒岩よしひろ作品は電子書籍化されているのに、コレだけされていないのだろうか

 他にも黄金期以外だったらハンターと名の付く作品はいくつかあるが、どれも単行本未所持で電子書籍化もされていないのでネタ切れである。なので、いっその事「HUNTER×HUNTER」でも紹介しようとも思ったが、さすがにメジャー過ぎて改めて紹介してもしょうがないので今回は「HUNTER×HUNTER」と作者が同じこちらを紹介したい

 

 てんで性悪キューピッド(89年32号~90年13号)

 冨樫義博

 

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作者自画像4冊ぶんまとめて


 作者は87年に「ジュラのミヅキ」でホップ☆ステップ賞佳作受賞、更に「ぶっとびストレート」で第34回手塚賞準入選するも雑誌掲載はされず、同年増刊ウインタースペシャルに「とんだバースデイプレゼント」が掲載されてデビューを飾る。翌88年オータムスペシャルから3号連続で増刊に読切作品が掲載されたのち「狼なんて怖くない‼」が89年20号に掲載されて本誌デビュー。そして同年32号から本作品で初の連載を開始する事になったのであった。因みに次号では成合雄彦が「カメレオンジェイル」でやはり初連載を開始していて、後のジャンプの看板作家が立て続けにデビューを飾っているのは興味深い事実だ

 

 そんな本作品は、暴力団の跡取り息子で女性嫌いの鯉昇竜次と、それを直す為魔界から送られてきた悪魔のまりあが織りなすラブコメディである

 鯉昇家は代々スケベな家系で、父の竜蔵も竜次の他にそれぞれ別の女性に産ませた4人の娘を持つほどスケベであったのだが、そんな環境で育った為に竜次は現実の女性に興味を持てず、いつか天使か妖精が現れて、美しい森の中で2人で仲良く暮らすだなどと現実逃避していた。竜蔵はこのままでは鯉昇家が衰退してしまうと心配し、竜次と一緒に暮らして女性に興味を持つように仕向けるスケベの家庭教師を雇う事を決めたのであった

 更に他にも竜次の心配をする者がいた。それは悪魔たちである

 悪魔たちにとって鯉昇家の男子の魂は超高級品であり、このまま竜次が現実の女性に興味を持てずに血が途絶えてしまったら大きな損失となる。のみならず、未来予想によるともし竜次に子供が生まれたなら、その子供の魂は途轍もない価値になるという。なので、竜蔵に家庭教師として雇われるべく魔界から下級悪魔のまりあを送り込んだのだが、人間界に現れて早々悪魔の姿を竜次に見られてしまい…という感じで始まるドタバタ劇は、積極的に迫る女性キャラと逃れようとする男性キャラという構図も相まって高橋留美子の「うる星やつら」の影響を感じさせる。いや、家族が暴力団で姉妹が一杯という設定だから江口寿史の「ストップ‼ひばりくん!」の方か

 ところで、本作品は短期終了作品の中では比較的知名度が高い方だろう。それも当然で、作者は後に「幽☆遊☆白書」に「HUNTER×HUNTER」と大ヒットを飛ばしたのだから…という理由ではない。確かにそれによって知名度が更に上がったのは事実だが、本作品は連載当初から読者に強い印象を与えていたのである

 その理由は、第1話の冒頭からして女性(悪魔だが)の全裸が堂々と描かれていたからだ

 勿論そういうシーンは冒頭だけでなく、テーマがテーマだけに作品の随所に見られる。おかげで私もそうだが、当時の読者の中には作者の事をエロ売りの作家と思っていた者も少なくなかっただろう。だが、作者の後の作品が女性の裸どころか女性が登場する事自体少なく、登場したとしても幻海とかビスケとか性的魅力に欠けるキャラだという事を考えると、本作品は作者にとって非常にイレギュラーな存在だったと言える

 

 何故、本作品はエロいシーン満載となってしまったのか?それはおそらく担当編集者の存在が大きかったのではないかと思われる

 漫画の担当編集者は、特にジャンプにおいてはデビュー前の頃からマンツーマンで漫画家と密に接している事から、漫画家に対する影響力はかなり強く、まだ実績のない若手からすれば頭の上がらない存在である。その力は作者も「幽☆遊☆白書」の単行本19巻のカバー折り返しに 担当→原作者の同義語の場合あり などと書くくらいに作品にも影響を及ぼす程だ。そして、当時の担当編集者である高橋俊昌は、他に担当した漫画家が「きまぐれオレンジロード」のまつもと泉、「BASTARD!」の萩原一至、そして前回紹介した黒岩よしひろと、どういう事かその作品は総じて肌色成分が多い傾向にあるのだ。また、先程「ストップ‼ひばりくん!」の影響を感じさせると書いたが、高橋俊昌は江口寿史の担当だった事もあるし、加えて後に「ヘタッピ漫画研究所R」に作者が登場した際、本作品を黒歴史扱いしているシーンが描かれている事からも、作品の方向性を決める段階において担当が主導的な役割を果たし、作者の方はあまり乗り気では無かったという推測も決して穿ち過ぎとは言えないと思う

 結局本作品は、作者の乗り気の無さが反映されたのか、エロい以上のインパクトは残せず、その分野の本家とも言える桂正和の「電影少女」の連載が開始されると、お役御免とばかりに連載終了となってしまった

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 と、短期で終了してしまった上、作者から無かった事にされている本作品であるが、下世話な話、他人の黒歴史を覗き見るのは楽しいし、なによりもあの冨樫義博の描いたエロいシーンを見る事が出来るというだけでも一読の価値はあるのではなかろうか