黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

ジャンプで連載を持つという事の難しさ2

 さて、前回私はジャンプに作品が掲載された経験はあるものの、連載を持つには至らなかった漫画家として岩泉舞とその作品集である「七つの海」を紹介させて頂いた。だが、実はこのような例はそれほど珍しい事ではない。黄金期のジャンプに掲載された読切作品は全部で209にのぼるが、本誌で連載実績のない新人(姉妹誌など他誌で経験している人含む)が掲載されたケースは延べ67人、その内連載を持つ事の出来なかった作家は29人と結構な数になるのだ。しかもこれはあくまでジャンプ本誌に限った事で、本誌では掲載された経験はないがフレッシュジャンプや増刊といった姉妹誌で掲載された経験はあるという者も含めればその数はさらに増えるという事は言うまでもない

 そしてそういう者たちは大別すると、岩泉舞のように何度も作品を掲載され、読切だけで単行本が出版されたような者、ジャンプ本誌では連載を持つ事は叶わなかったが他誌で連載を持つ事が出来た者、そしてあまり機会を与えられず、どこからも単行本が出版されずに姿を消してしまった者の3つに分けられる。今回はその各々から何人かをピックアップして紹介していきたいと思う 

 尚、最初に言い訳をしておくが、元々この時代のサブカル情報はネットで調べても情報が少なく、ましてや連載を持つ事の無かった漫画家となるとマジで情報が皆無だ。なので、ここで紹介する情報は不確かで間違っている可能性も大いにある事を念頭に置いて頂きたい

 

 まず最初は読切だけで単行本が出版された者たちで、これは3つの中では圧倒的に数が少ない。まあ、何度も作品が掲載されるという事は編集者から目をかけられるだけの才能があるという事だし、チャンスも充分に与えられているのだから、よほどの事がない限りは連載を持つ事が出来るから当然と言えば当然であるが

 これに当てはまる者は岩泉舞を含めても片手で足りるほどで、そんな中の1人はこちらだ

 瀬戸際少年野球団

 小林義永

 

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 作者の名前が最初にジャンプ本誌に登場したのはかなり特殊なケースである。それはどんなケースかというと、79年46号の「こち亀」にて、登場キャラの星逃田がカルチェのライターを無くして、ラストのコマでライターを探してくれと読者に呼びかけるというネタがあったのだが、それに対して編集部に100円ライターに銀紙を張り付け「かるちぇ」と書いた物を送り付けてきたのが作者で、その顛末が80年2号に掲載されている。それって同姓同名の別人なんじゃないの?と疑う方もいるかもしれないが、本人と思われるTwitterに「ジャンプで使用させていただきましたので」という文言が入った秋本治のサイン色紙の画像があるので本人で間違いない

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ライターを落とした話が17巻に、届けられた話が18巻に収録されている

 そして時を経て正式に作者が本誌に登場したのが86年42号の「彼女が家にきた日」で、更に次号の43号でも「家庭教師エイリアン」と連続登場を果たしている。ただ、掲載順は42号が下から3番目、43号に至っては巻末と、期待されているのかされてないのか微妙な扱いである。翌87年25号には表題作である「瀬戸際少年野球団」を掲載。その後五年のブランクをはさんで92年15号に「夢みるウメオちゃん」が掲載されたのが最後となっている

 尚、これまた本人と思われるTwitterによると、91年21・22合併号のF1特集でモナコグランプリのコース図を描いたのも作者であり、当該の号が復刻版として再版される事になったので再掲載の許可を求める連絡が来たという。当時は気にしていなかったが、こういう風に若手が誌面に載せるイラストを描いた例は他にも一杯あったんだろうなあ

 さて、内容の方であるが、露骨に「瀬戸内少年野球団」をパクった表題作からも察せられる通りギャグ漫画だ。そして、このジャンルは才能の見極めが非常に難しいジャンルである。と言うのも、ギャグが笑えるか否かは完全に個人個人の好みによるもので、例え編集者が面白いと思ってもそれが読者に受けるとは限らないからだ。因みに読者の1人であった私はどう感じたかというと、正直全く覚えていないし、今読み返してみると80年代ノリが気になって正当な評価を下せそうにない。が、連載に至らなかったという事はそういう事なのだろう

 

 続いてもう一例

 テイクオフ

 十津川菜生・上水流了

 

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左右の目の大きさの違いが気になる…

 原作者付きの作品だが、武論尊大場つぐみのように本職の人間ではなく、元々コンビと言うかサークルで活動しているようで、本単行本には他にT.OHKAWAとY.KAINUMAという名前もクレジットされている。カバーの一番下に書かれているSTUDIO FALCONというのがサークル名なのだろう。本単行本の解説によると、これ以前はM書房の某アニパロ誌に掲載された経験があるという。おそらくみのり書房月刊OUTの関連誌だと思われるが、情報不足で残念ながら確定までには至らなかった

 ジャンプ関係では84年に手塚賞の最終選考まで残る(結果は選外)と、翌85年に「BLUE ARROW」がフレッシュジャンプに掲載されてメジャーデビュー。86年には増刊サマースペシャルに「ハート♡スキャナー」が、オータムスペシャルに「あざみはライバル☆」が掲載、そしてついに87年51号に「あ・ぶ・な・い☆エンジェル」が掲載されて本誌デビューを果たしたのであった。因みにこの年の47号から52号にかけては毎号新人の読切作品が掲載され、その顔触れは森田まさのり稲田浩司萩原一至という錚々たる面々に加え、以前紹介した有賀照人もおり、うち5人が後に連載デビューを果たしている。そう、作者以外の全員がである。だからという訳でもないだろうが、作者はこれが本誌初登場にして最後の登場となってしまい、以後の足取りは途絶えている

 

shadowofjump.hatenablog.com

  内容の方は現代のおとぎ話風あり、柔道ものあり、スパイアクションあり、と書くと多彩な作風に思われるかもしれないが、実際はどれもこれもラブコメの為に取ってつけた設定という感が否めない。この辺の掘り下げの浅さが同じくジャンプ向けのテーマでは無かった有賀照人と明暗を分けたのだろうか

 と、3つのタイプを全て紹介するつもりだったのが予想外に長くなってしまったので、続きは次回に