黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

鬼門のジャンルに挑んだ男

 当ブログでは前回まで3回にわたって、ジャンプ本誌に作品が掲載された事があるものの、連載を持つ事が出来なかった者たちを扱ってきた。そしてその2回目において十津川菜生・水流添了の「テイクオフ」を紹介した際、私は以下のような説明をした

 

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因みにこの年の47号から52号にかけては毎号新人の読切作品が掲載され、その顔触れは森田まさのり稲田浩司萩原一至という錚々たる面々に加え、以前紹介した有賀照人もおり、うち5人が後に連載デビューを果たしている。そう、作者以外の全員がである

 

 お気づきであろうか、作者以外の5人が連載デビューを果たしていると言いつつ、名を挙げられているのは4人しかいない事を。という訳で今回紹介するのは、名を挙げられなかった5人目の人物によるこの作品だ

 

 ハードラック(87年52号~88年12号)

 樹崎聖

 

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作者自画像(短編集ffより)

 作者は87年に「ff(フォルテシモ)」でホップ☆ステップ賞を満票で入選、31号に掲載されてデビュー。同年48号には上に挙げた6号連続読切作品の1つとして「カズ!」を掲載すると、4号後の52号で早くも本作品で連載デビューを果たす事となる

 「カズ!」の掲載から一ヵ月では、アンケートの集計から始まり連載化の可否の決定、連載用のネームの準備、そして執筆という手順を踏んでいたら到底間に合わないので、「ff」の時に連載デビューは既に決まっていて、「カズ!」は連載前の試運転といったところだったのだろう。実際私も「カズ!」については印象がないのだが、「ff」はピアニストの物語というあまりジャンプ向けとは言えない作品ながら妙に印象に残っており、だからこそ本作品の連載が開始した時には期待もしたのだが

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「ff」と「カズ!」はこちらに収録されている

 それはさておき、本作品は不良少年である主人公の原田勇希が、名門高校に入学させてもらう代わりに半ば無理矢理始めさせられる事になったボクシングで試練に見舞われながらもチャンピオンを目指すボクシング漫画である

 ところで、以前宮下あきらの「BAKUDAN」(本宮ひろ志の「ばくだん」ではない)を紹介した時、ボクシング漫画はジャンプとあまり相性が良くなく、その黄金期において単行本が全10巻以上の作品は今泉伸二の「神様はサウスポー」しかないと書かせて貰った。言わばボクシング漫画はジャンプにとって鬼門のジャンルなのである

 

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  その原因は、ボクシング漫画は大別するとバトル漫画に分類されるものの、狭いリングの上でパンチによる攻撃しか認められないという極めて限定的なバトルしか出来ない為、バトルとしては見栄えが良くないという事がまず挙げられる

 勘違いして欲しくないが、ボクシングが見栄えが良くないと言っているのではない。ボクシングはクリンチの多い試合を除けば試合が硬直するケースが少なく、KOで決まる試合も多いからむしろ格闘技の中では見栄えの良い方だと思う。ただルールの縛りが厳しい為に漫画的な見栄えのする行動をとらせ辛く、結果、漫画で見るより実際の試合を見た方が面白いとなってしまうのだ

 そしてもう1つは、ハングリースポーツと言われている為か、主人公の身の上が不幸な場合が多く、物語が暗くなりやすい傾向にあると私は考える

 「あしたのジョー」の矢吹丈は孤児、「リングにかけろ」の高嶺竜児は父を早くに亡くした上、母の再婚相手に虐待を受けており、そして本作品連載時はまだ連載前だが黄金期ジャンプで唯一単行本が10巻以上続いた「神様はサウスポー」の早坂弾もやはり父を早くに亡くして修道院に預けられるなど、成功したボクシング漫画を見てもこの傾向は強い。だからこそ暗い雰囲気を吹っ飛ばし、かつ、バトルの見栄えをよくする為にギャラクティカマグナムとかクロスカウンターとか神の拳といった派手でわかり易い必殺ブローが必要になるのだろう

  翻って本作品の主人公、勇希であるが、やはりご多分に漏れず父を早くに亡くした母子家庭育ちという生い立ちである。それも有望なボクサーだった父が網膜剥離で引退を余儀なくされた為に生きる希望を失ってしまったのが原因なので、ボクシングを憎んでいるというおまけつきの

 生い立ちだけでも充分暗いが、物語が進むと更に暗くなる。当初は真面目にボクシングに取り組んでいなかった勇希も、中学時代に偶然助け、高校生になって再開する事になる少女の菜穂や、チャンピオンになるという自分の夢を勇希に託す同僚の松島などから応援されボクシングに真面目に取り組もうとした矢先、対戦相手を死なせてしまい、世間からバッシングを浴びるという不幸に見舞われるのだ

 このあたりの展開は本作品に期待していた私も正直読むのが辛く、ジャンプを購読していた頃はほぼ全作品を、それこそ特に面白いとは思わない作品でも2度3度と読み返していたのに、本作品は読み返す気にならなかった記憶がある。「あしたのジョー」においても力石徹が丈との試合直後に死んでしまうという有名過ぎるエピソードがあるが、ああいった話は読者が作品に引き込まれてからならともかく、そうじゃない序盤にやるには、特にアンケート結果でアッサリ終了が決まってしまうジャンプではマイナスが大きいと思う

 そして、本作品はそのマイナスを挽回する機会を与えられぬまま、あえなく11話で連載終了となったのであった

 

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