黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

サクラ革命よ、静かに眠れ

 明日6月30日、所謂ソシャゲの「サクラ革命 華咲く乙女たち」(以下「サクラ革命」)のサービスが終了する。栄枯盛衰の激しいソシャゲ界隈ではサービス終了など日常茶飯事で珍しい事でもないかもしれないが、大手であるSEGAがかつての看板IPである「サクラ大戦」を持ち出し、その前段として「新サクラ大戦」のアニメ及び家庭用ゲームを制作するなどかなり力を入れたにも関わらず半年余りでのサービス終了は、いくら何でも早すぎると驚きの声があると共に、「新サクラ大戦」の時点で旧来のファンにそっぽを向かれ、新規には見向きもされないという有様なのにサービスを強行した時点でどんな判断なんだと訝られ、肝心の「サクラ革命」の出来もアレだったので早期終了も当然だという声も少なくない

 いきなりこんな事を語りだして、それがジャンプと何の関係があるのかと疑問に思う方もいるだろうが、黄金期ではないもののちゃんとジャンプと関係あるので安心して頂きたい

 それはどんな関係かというと「新サクラ大戦」のキャラクタデザインを担当したのが、あの久保帯人だという事だ。いや、「サクラ革命」の方ではないからやっぱり関係ないじゃないかと言われるかもしれないが、そこは気にしてはいけない

 という訳で今回紹介するのは久保帯人の代表作である「BLEACH」、では無くてこちらの作品だ

 

 ZOMBIEPOWDER.(99年34号~2000年11号)

 久保帯人

f:id:shadowofjump:20210623191542j:plain

 作者は95年に久保宣章名義で描いた「FIRE IN THE SKY」がホップ☆ステップ賞最終選考作となり、翌96年「ULTRA UNHOLY HEARTED MACHINE」が増刊サマースペシャルに掲載されてデビュー、同年36号には「刻魔師麗」が掲載されて本誌デビューを飾る。更に97年51号に「BAD SHIELD UNITED」を掲載した後、ペンネームを久保帯人と変え99年34号から本作品で連載デビューを果たしたのである

 そんな本作品は12個集めると死者は蘇り生者は永遠の命を得る薬であるゾンビパウダーが手に入るという死者の指輪を探して主人公の芥火ガンマとその仲間たちが旅を続ける冒険&バトル漫画である

  物語の舞台はアメリカ西部開拓時代にスチームパンク的ファンタジーを加えた感じだろうか。血と硝煙に溢れ、ならず者が闊歩する力こそ正義の世界で、賞金稼ぎであり自らも賞金首でもあるガンマ達が行く先々で騒動に巻き込まれるといった構成は「ONE PIECE」を意識しつつも、その退廃的な雰囲気はアンチ「ONE PIECE」を志向したとも言える

 ところで、作者と言えば、その作風はオサレとかスタイリッシュとか皮肉交じりに形容されているのがネット上で散見されるが、作者の代表作である「BLEACH」の連載が開始された頃にはもうジャンプを読まなくなっており、なんなら本作品の連載時も既にいい年になっていて惰性で読んでいた私は正直あまりピンと来なかった。のだが、この記事を書くにあたって単行本を買って読み返して納得してしまった。確かにキャラの台詞の言い回しや構図といった作中だけにとどまらず、単行本カバー折り返しの普通は作者の写真や自画像を載せる欄やカバーを外した表紙の地のデザインでも俺は他とは違うと言わんばかりの強い自己主張を感じて正直苦笑を禁じ得なかった

f:id:shadowofjump:20210625133452j:plain

f:id:shadowofjump:20210625133522j:plain

 などと言っておきながら掌を返すようであるが、このような意見は私のように冷めた目線で見ている者や「BLEACH」の連載が長くなりすぎて途中で飽きてしまった者によるネット上の声の大きな意見と、それに影響されてネタとして拡散されているに過ぎないというのが個人的な考えだ。確かに自己主張の強い作風とは思うが、それは同時に作者の強い個性として他作品との差別化に役立っているし、そもそも論としてそんな意見が大半を占めるなら、何度も言っているが長期に渡って連載を続けるのが非常に困難なジャンプで「BLEACH」の連載を十五年も続けられる訳がないだろう

 とは言え、本作品は「BLEACH」と違って短期で終了しているので、気になる部分もある。これが初連載というキャリアの薄さに加え、単行本3巻折り返しの作者あいさつによると連載当時は精神状態がガタガタだったという事が影響しているのか、絵は雑だし、所々に挿入されるギャグは作中の雰囲気にそぐわず明らかに浮いている。中でも一番問題だと思うのは、元々全体的に情報不足気味な上、伏線のつもりなのか無駄に情報を隠した思わせぶりな台詞をちょこちょこはくので主人公のガンマすらどんなキャラかよくわからないまま読者置いてけぼりで物語が進んでしまう事だ。そして、中途で連載が終了してしまう為に結局最後まで読んでもわからないままというのは、短期終了作品あるあるだったりする

 ところで、一部には本作品が短期で終了してしまった理由を内藤泰弘の「トライガン」に類似している為とする意見もあるが、私は似ていないなどと言うつもりはないがそれが理由で連載を終了させられる程とは思わない。まあ「トライガン」についてはアニメを見ただけで原作は未読だから、間違った意見かもしれないが。それよりは上に挙げた問題の為、他の雑誌ならまだしも黄金期が終ってしまっていたとはいえバトル漫画の総本山とも言えるジャンプで長期に渡って連載を続けるられるだけのクオリティには残念ながら達していなかった事の方が大きいと感じられる。ぶっちゃけヒット作品なら多少問題があっても連載を終了させるなんて判断にはならないだろうし…作者が逮捕されたりしたら別だが

f:id:shadowofjump:20210628190017p:plain

 真相はわからないが、ともあれ本作品は27話、期間にすると半年余りで連載終了と相成ってしまい、今となっては語られる事も殆どなくなってしまっている。一方「サクラ革命」のサービス期間は本作品にも及ばないが、種々の悪評もあってしばらくはネタ的な意味で語られる事だろう。まさに悪名は無名に勝る状態ではあるが、「サクラ革命」や「新サクラ大戦」ネタで盛り上がった時には本作品の事もついでに思い出して頂ければ幸いである