黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

本宮歴史漫画の原点

 改めて言うまでもないが、前回まで当ブログで攻略記事を書いたFC版「天地を喰らう」の原作は、三国志をテーマにした歴史漫画でタイトルも同じ「天地を喰らう」である


 そしてその作者である本宮ひろ志は他にも項羽と劉邦をテーマにした「赤龍王」や、他にもジャンプを離れてからであるが「真田十勇士」、「猛き黄金の国」シリーズなど結構な数の歴史漫画を描いていたりする

 

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 という訳で今回紹介するのはそんな本宮ひろ志が初めて連載した歴史漫画となるこちらだ

 

 武蔵(72年5号~29号)

 本宮ひろ志



 作者は65年に本宮博名義の「遠い島影」でデビュー。68年4号に「アラシと鉄と三本指」でジャンプ初登場を飾ると同年11号から開始された連載デビュー作の「男一匹ガキ大将」が大ヒットし、ジャンプ黎明期を牽引する看板作家となる。そして同作品が71年51号で終了後、翌72年5号から本作品の連載を開始するのであった

 そんな本作品はかの有名な剣豪宮本武蔵の、主に若き日々にスポットを当てて描いた歴史漫画である

 尚、私はこれまで井上雄彦の「バガボンド」などの武蔵をテーマにした漫画、小説、映像作品の類は何ひとつまともに見た事は無く、武蔵については巌流島の決闘や吉岡一門との抗争など有名なエピソードしか知らないので、本作品の武蔵像が他作品や史実と比べてどうなのか言及する事は出来ない事を予め断っておく。そしてもう1つ、この後の文章はほぼ悪口になってしまっているのでそういうのが嫌いな人はご注意を。私もそんなつもりで本作品を採り上げた訳じゃなかったのだが…

 さておき、作者の初代担当にして後にジャンプの第3代編集長となった西村繁男の著書「さらば、わが青春の『少年ジャンプ』」によると、作者は武蔵に対する思い入れが強く「男一匹ガキ大将」の連載中から、航空自衛隊時代の同期で当時は職もなく作者の家に居候していた武論尊に資料をまとめさせていたという

 

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 それが念願かなって連載にこぎつけられたのだから作者の気合たるや相当なものであっただろうし、編集部も看板作家の新連載作品にただならぬ期待をしていた事は想像に難くない

 が、本作品は作者が連載をやめたがっても編集部からなかなかやめさせて貰えなかった前作の「男一匹ガキ大将」とは逆に、早々に連載をやめさせられたばかりか、その尻ぬぐいとばかりに連載終了から僅か2号後には「男一匹ガキ大将」を再連載させられるという、作者にとっても編集部にとっても苦い結果となってしまった

 それは何故か? 単行本カバー折り返しの作者あいさつを見るに、思い入れの強さとは裏腹に執筆が難航して思い通りに描けなかったという事もあるだろうが、最大の問題は主人公の好感度が低すぎるからである

 本作品は前述の通り主に武蔵がまだ若く弁蔵と名乗っていた頃(調べたところ、実際は弁蔵ではないらしい)を描いた話であるのだが、この弁蔵という男は腕っぷしが自慢だが短絡的かつ癇癪持ちですぐ暴力に訴え、人を殺すのも躊躇しないというクソ野郎としか言えない人物なのである

 まあ、時代が時代だから躊躇なく人を殺すのはいいとして、見ていてイライラさせられるのは逆に弁蔵が殺されそうな状況になると、実力や機転で危機を脱するのではなく情けをかけられて助けられる事が度々あるという都合の良さである。それでいて己の不幸を嘆き号泣するのだからたちが悪い。手前が不幸なのは浅慮による行動が招いた自業自得による結果で、むしろ命があるだけ幸運だろうに。本当に不幸なのはこんな奴に殺された人々やその家族の方だ

 第1巻の扉絵からして泣きわめいているところからしても、こういう心の弱い者こそが真の強さを手に入れられる、というのが本作品の肝であったのだろう。だが、私から見れば心が弱いのではなくただの身勝手で、それでいて悲劇のヒーローを気取っている自分に酔っているだけである

 こんな奴に誰が共感するのだろうか? 本作品が25話で終わらせられたのが答えだと言えよう。そしてその為に大幅に話を端折ったのがうかがわれ、大した苦労もなく二刀流を開眼し、その後はほぼ駆け足のダイジェストになっている。というか駆け足過ぎてクライマックスにして最大の見せ場である筈の巌流島の決闘すらなんと1話で終わりという見どころの無い作品となってしまった

 以上は武蔵に大した思い入れも知識もない私の個人的感想に過ぎず、もしかしたら武蔵好きにとっては本作品に楽しさを見出せるかもしれない。が、私としては同じ作者で同じく全3巻の作品なら「ばくだん」のほうをお勧めしたい。あっちの主人公も大概ではあるが、最後までそれを貫き通すので本作品とは爽快感が違う

 

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 最後に本作品のヒロイン格であるお妙の最期の言葉を引用して締めようと思う

 

 ひとつだけ残念なのは…

 あんたが殺されるところを見られなかったことが…

 

 私も全く同感で、読んでいる間に何度「コイツ死なねーかな」と思った事か