黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

ガキ大将に魅せられた者たち

 前回の「男坂」の記事において、同作品は本宮ひろ志の「男一匹ガキ大将」を参考にして描かれたという事を述べた。ところで、黄金期ジャンプの連載作品の中には「男坂」以外にも「男一匹ガキ大将」を参考にした作品が存在する事をご存じだろうか

 その作品とは、今回紹介するこちらである

 

 猛き龍星(95年21・22号~48号)

 原哲夫

f:id:shadowofjump:20220106094855j:plain

f:id:shadowofjump:20220113182602j:plain

作者自画像



 作者は高校時代からジャンプ編集部に原稿持ち込みをするようになり、卒業後は小池一夫主宰の劇画村塾で学びながら、初代担当にして後に第5代編集長となる堀江信彦の紹介で高橋よしひろのアシスタントを務める。そして82年、「スーパーチャレンジャー」でフレッシュジャンプ賞入選、同作品が4月増刊号で掲載されてデビューを飾る事となる。同年フレッシュジャンプ8月号に「マッドファイター」を掲載、そして43号に「クラッシュヒーロー」で本誌初登場、その僅か二週後である45号から「鉄のドンキホーテ」で連載デビューを果たしている

 同作品は10話であえなく終了してしまうが、翌83年フレッシュジャンプ4月号と6月号に掲載された「北斗の拳」が好評で、連載化にあたり原作者として武論尊を迎えてタイトルもそのままに同年41号から開始した同作品については説明は不要であろう。そして88年に「北斗の拳」が終了した後、同年52号からは以前紹介した「CYBERブルー」の連載を開始するも、31話で終了してしまう

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 その後89年50号に隆慶一郎歴史小説一夢庵風流記」を原作とした読切「花の慶次」を掲載、90年13号から「花の慶次 雲のかなたに」(以下「花の慶次」)として連載を開始し93年33号まで続く。94年12号からは同じく隆慶一郎の「影武者徳川家康」を原作としてタイトルもそのままの「影武者徳川家康」の連載を開始して95年13号まで。そして「影武者徳川家康」の終了から僅か二ヵ月後の21・22合併号から連載が開始されたのが本作品である

 

 まず本作品の見どころの1つとして、下の画像を見ていただきたい

f:id:shadowofjump:20220107180104j:plain

 

 見どころも何も、ただ作者の名前が書いてあるだけじゃないか、と思う人もいるかもしれないが、それは半分正解で半分間違いだ。正しくは作者の名前だけが書いてある、つまり、原作者がいないのである。「北斗の拳」は武論尊、「花の慶次」と「影武者徳川家康」は隆慶一郎、「CYBERブルー」はBOBと、作者の作品は大抵原作がついているのだが、本作品は連載デビュー作の「鉄のドンキホーテ」以来の原作がついていない連載作品なのだ。…まあ、前述の通り「男一匹ガキ大将」を参考にしているのでオリジナル作品とも言いづらいのだが

 さておき、本作品は同じく「男一匹ガキ大将」を参考に描かれた「男坂」と比べると2つの点で大きく異なっている。まず1つは、「男坂」は「男一匹ガキ大将」からあまり設定を変えずバンカラ路線を踏襲している為、当時ですら古臭い印象が否めないのに対し、本作品の設定は(当時の)現代風にアレンジされている事。そしてもう1つは、「男坂」が物語的に「男一匹ガキ大将」の前半部、主に不良同士の抗争を扱っているのに対し、本作品は後半部、社会に出て成り上がっていく様を扱っている事だ

 

 そんな本作品は、16歳にして関東一円の暴走族の総長に登り詰めるも、それから数日のうちに忽然と姿を消した花藤龍星が、二年ぶりに地元の街に還ってきた所から始まる

 街は龍星が不在の間にすっかり様変わりしていた。龍星の後継であった八城は暴力団の蝶栄会に従い麻薬を売るようになり、不良社会なりに形成されていた秩序が崩壊してしまっていた。そんな状態に怒りを爆発させた龍星は八城に、続いて背後にいる蝶栄会の組長である鬼土にも喧嘩を仕掛けていき、その熱い姿は敵対者である鬼土までも魅了してしまう

 そして鬼土はかつて目指しながらも捨てなければならなかった夢を龍星に託し、ある男を紹介する為に流星を香港に連れて行く。そこで出会った条河誠は、香港に日本人による日本人の国家を打ち立てようという野望を持っており、そのスケールの大きさに感銘を受けた龍星は自らも香港で成り上がろうと決意するのであった

 

 舞台を香港に移したのは、「男一匹ガキ大将」の連載当時は日本も最終学歴が高等小学校卒業の田中角栄が総理大臣にまで登り詰めたように裸一貫からどこまでも成り上がる事が出来たが、本作品の連載当時の日本は最早そんな国ではなくなってしまっていたからだろう。この変更は現代で「男一匹ガキ大将」をやろうというのなら妥当ではあるのだが、結果、時代も舞台も変わってしまい、「男一匹ガキ大将」感はかなり薄められた感がある

 とはいえ、本作品は「男一匹ガキ大将」を参考にしたと言ってもあくまで「猛き龍星」なので大した問題ではない。それよりも問題に感じたのは、当たり前であるが作者の別の作品である「北斗の拳」や「花の慶次」と絵が同じ為に、どうしてもそちらの方を連想してしまう事である

 これは作者のみならず、漫画家がヒット作を生んだ後に突き当たる共通の問題だろう。あだち充なんかはどの作品でもキャラが同じ顔に見える為に、自虐交じりで同じ役者が違う役を演じる「あだち充劇団」などと言っているし。特に作者の場合は絵力が強すぎる為にこの問題は顕著で、思えば「CYBERブルー」でも終始「北斗の拳」の幻影がちらついたものである。同様に本先品の場合は龍星の男気溢れる生き様がまるで傾奇者のようである為に、当時の私は「花の慶次」がちらつくどころか「現代版花の慶次的なにか」という印象しか抱かなかった。このあたりは、作者が原作者をつけないのも現代を舞台にするのも久しぶりの為に色々余裕がなく、差別化が充分に出来なかったという面もあるのかもしれない

 そして、その印象が拭えぬまま、本作品は「男坂」より僅か1回多いだけの26回で連載が終了、作者も本作品が最後のジャンプ連載となってしまったのであった

f:id:shadowofjump:20220112180716p:plain