黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

手塚賞入選作を読む

 当ブログでは前回、手塚賞入選者についてを記事にしたが、今回はそのうちの1人の手塚賞入選作を含む短編集を紹介したい

 それはこちらの短編集だ

 

 21世紀の流れ星

 岸大武郎

作者自画像

 

 そう、85年上半期に「水平線にとどくまで」で入選を果たした岸大武郎の短編集である。因みにタイトルはそれより前の83年下半期の準入選作と同じであるが、何故入選作ではなく準入選作の方をタイトルにしたのかは謎である。響きが格好良かったからとかだろうか?

 さておき、収録作品と初出は以下の通りである

 

 水平線にとどくまで    85年増刊サマースペシャル 手塚賞入選作

 SOS!ムシムシ探偵団    87年増刊サマースペシャ

 方舟           87年増刊スプリングスペシャ

 21世紀の流れ星     83年手塚賞準入選作

 

 引き続いて各作品の紹介を

 

 水平線にとどくまで

 

 手塚賞入選作品。勉強しろとうるさい母親に嫌気がさして家を飛び出した少年が1人の少女と出会い、なりゆきで一緒に海上都市を彷徨う近未来のボーイミーツガールもの

 

 SOS!ムシムシ探偵団

 

 昆虫がほぼ絶滅した近未来を舞台に、緑鳩小学校の昆虫愛好クラブであるムシムシ探偵団がクラブの存続を懸けてカブトムシ探しに奔走する学園もの。…なのだが、描かれたのが87年なのに、タマムシの90年絶滅を筆頭に十年も経たないうちに様々な昆虫が絶滅するという設定は無理がないか?

 

 方舟

 

 氷河期が訪れた近未来の地球。密かに進行している選ばれた民のみをスペースコロニーに移民させる選抜宇宙移民計画から漏れた下層市民たちが政府に反旗を翻すというハードSF。暗い

 

 21世紀の流れ星

 

 表題作にして手塚賞準入選作。西暦2083年、第363区総合学校ラグビー部の解散が懸かった試合でキャプテンの彼方は反則を犯し退場処分になってしまう。部員の数はギリギリで替えのメンバーは居らず棄権するしかないと覚悟した彼方だったが、転入生の輝義がスタンドで観戦しているのを発見し、そんなに好きなら試合に出ないかと話を持ち掛ける

 

 以上、作者の好みなのか収録作品は全て近未来を舞台にしたものである。といっても近未来という設定を生かしてSF色が強いのは「方舟」くらいで、他の作品はジュブナイル的な傾向が強く、SF色はフレーバー程度である。また、作品全体を見てまず目につくのは、「恐竜大紀行」では微細な書き込みが印象的だったのに比べ、この頃はまだ発展途上にあって画が粗いという印象は否めない

 

shadowofjump.hatenablog.com

 また、内容面では手塚賞入選作である「水平線にとどくまで」がまさに手塚賞入選作の典型だが、それ以外も同様でキャラクターや演出よりストーリーや設定に重きを置いていてエンタメ性に欠けている。このままではジャンプでやっていけないと自身で悟ったのか編集の指示があったのか、収録作の中では最新である「SOS!ムシムシ探偵団」は比較的キャラクターに個性を持たせてギャグも多めに入れるなどエンタメ性を出そうと努力してる跡が見えるのだが、どうにもそこが余計に感じてしまうし、性に合っていないのか後の作品には生かされていないようである

 因みに私の個人的なお気に入りは「水平線にとどくまで」と「21世紀の流れ星」の2本である。両者とも展開が強引で未熟な感じがあるが、それが登場人物の未熟さに繋がって読んでいて青春の甘酸っぱさを感じるし、話的に手塚賞が求めているのはどういう傾向の作品か理解できることだろう

 などといっても、どうせ絶版で入手困難なのだろう、と思うかもしれない。お察しの通り本単行本は勿論絶版である。が、本単行本に収録されている作品全てに加え、「あいつ」という読切作品が収録されている短編集の「SOS!ムシムシ探偵団」が久志本出版のふしぎコミックスで現在も販売されているので興味のある方は是非。電子書籍版もあるよ