もしMr.ジャンプという称号があったとしたら、それを授かるのに相応しい人物は誰だろうか?現在で考えるなら「ONE PIECE」の作者である尾田栄一郎という意見もあるだろうが、やはりジャンプ黄金期の象徴たる「DRAGONBALL」だけでなく「Dr.スランプ」の作者でもあり、ジャンプが発端となって誕生して日本のゲームシーンに革命を起こした「ドラゴンクエスト」シリーズのキャラデザインも手掛ける鳥山明が一番相応しいだろう
しかしこれが黄金期以前だったならば、相応しい人物は違ってくる
である
実際本宮ひろ志がジャンプに与えた影響は凄まじいものがある。ジャンプが創刊間もなくまだ週刊では無かった時代に連載が始まった「男一匹ガキ大将」は、後発な上に予算も無くて苦しんでいた時代を永井豪の「ハレンチ学園」と共に支えてジャンプを人気雑誌に押し上げ、ジャンプ初のTVアニメ化された作品でもある(公式には初のアニメ化作品は紅三四郎とされているが)
影響は作品だけに止まらない。本宮ひろ志の作品を読んで漫画家を志して彼の下に集まった者は多く、その門下からは高橋よしひろや金井たつお、江川達也らが、更に高橋よしひろ門下から宮下あきらや原哲夫、原哲夫門下から森田まさのりや今泉伸二…と後のジャンプを支える漫画家を次々と排出し、一時はジャンプが本宮とその門下、そして本宮漫画に影響を受けて漫画家になった者の作品がいくつも連載された事から故ジョージ秋山などは「本宮マガジン」などと揶揄した程だ
また、ある意味では一番影響があったとも言えるのが、あの有名な専属契約制である。何を隠そう専属契約第1号が本宮ひろ志、と言うより、彼を他誌で描かせないよう考え出されたのが専属契約制だったのだ
そのように色々な面でジャンプに影響を与えた本宮ひろ志であるが、肝心のジャンプ誌上での活躍はどうかというと、本誌連載デビュー作である「男一匹ガキ大将」以降は「硬派銀次郎」や「さわやか万太郎」など佳作と言える作品はあるものの、そこまでインパクトのある作品を作る事が出来ず、むしろ他誌で連載した「俺の空」の方がヒットしたくらいである
本宮ひろ志のジャンプでの存在感が薄まっていく一方で、本宮漫画を読んで育ったような若い新世代の漫画家たちが次々と頭角を現してきた。ゆでたまご、高橋陽一、中でも鳥山明は「Dr.スランプ」で単行本の発行部数で当時の日本記録を打ち立て、TVアニメは平均視聴率が20%を超えるなどジャンプを代表する漫画家となっていった
そして迎えた84年。「Dr.スランプ」の連載を終了させてから数カ月の後、鳥山明があの「DRAGONBALL」を引っ提げてジャンプに帰ってきたその翌週、本宮ひろ志もまた新連載作品でジャンプに帰ってきた
それが今回紹介するこの作品である
ばくだん(84年52号~85年30号)
当然ではあるが以前紹介した「BAKUDAN」とは無関係だ
そんな本作品は、関東朝市一家を名乗るヤクザの娘と日本を牛耳る北西グループの総帥である堂島竜造の一人息子との間に生まれた子であるが嫡出子じゃない為に素性を隠して寺に預けられた朝市軍兵がハチャメチャする物語である
…いや、随分手抜きな説明しやがるとか思うかもしれないが、実際そうとしか言いようがないから仕方がない。なにしろ主人公の軍兵は中学校の上級生グループ相手に猟銃を持ちだすわ、素行を叩き直そうと校長が派遣した戸塚塾(ご想像の通り戸塚ヨットスクールをモデルとしている)の連中と大立ち回りを演じた上に校舎を灰にするわ、預けられていた所とは別の荒行でなる寺に預けられ、そこで高僧が入定して遺体が自然に帰るさまを見届けて、それを契機に人間が、そして物語が変わると思いきや、朝市一家に襲撃をかけた組織が葬儀を行っているところに機関銃を担いで霊柩車で乗り込むわ、日本銀行(作中では大日本銀行)に銀行強盗に入るわ、最後には刑務所に入れられるが全囚人と共に脱走してそのまま日本を出航するわと終始ハチャメチャし通しなのだ
改めて主人公である軍兵の行動を列挙してみると、あまりにも破天荒すぎて物語として破綻しているのではないか、と考える人もいるかもしれない。確かに軍兵の行動は考えてみると、いや考えてみなくても破天荒だ。しかしその行動理念は極めて単純であり、そこに本宮節が加えられているのでそこまでとっ散らかった感じはない。あくまでそこまで、ではあるが。それよりも痛快さが勝って今読むと楽しい物語となっている
そう、今読んでもではなく今読むと楽しいのだ
かく言う私も本作品の連載時はまだジャンプを定期購読する前で、全て読んだ訳では無いのだが、当時読んだ印象はその内容に加えて軍兵のほっかむりとつぎあてズボンという姿から「なんか古い漫画が混じってるな」というものであった
そしてそれはジャンプ連載作品としての本宮漫画のネックでもある
元々本宮ひろ志の作品は本誌初連載作であり最大のヒット作である「男一匹ガキ大将」からして、そのファン層はジャンプの読者の中では年齢が高めであった。そしてその後本宮漫画は作者が年を重なるにつれその作風も更に対象年齢が上がっていき、最早ジャンプを読む年齢層ではなく「俺の空」を連載したプレイボーイや後に「サラリーマン金太郎」を連載するヤングジャンプを読む年齢層となっていった。ジャンプにおいて作者の存在感が薄まっていったのも道理である
一方、本作品の僅か一週間前に連載が開始された鳥山明の「DRAGONBALL」は、連載開始当初こそ思うように人気が出ず当時の看板であった「北斗の拳」や「キン肉マン」の壁を破れずにいたが、丁度本作品が終了を迎える頃に冒険活劇路線からバトル路線に舵を切ってジャンプの大看板となったのはご存じの通りだ
かくてジャンプを代表する漫画家の交代劇は相成った訳である
そんなジャンプにおける作者の退潮を象徴する本作品だが、先に触れたとおり今読むと面白いので、私のように当時敬遠した人にも読んでいただきたいと思う次第である