黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

戦国北斗の拳

 当ブログでは前回まで「北斗の拳3新世紀創造凄拳列伝」の攻略記事を載せ、改めてクソゲーであると断じたが、それでもゲームはそれなりに売れて続編が幾つも出たし、以前も触れたが「北斗の拳」を原作としたゲームは東映動画が出したシリーズ以外も含めると全部で30もある

 

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 なぜそんなに「北斗の拳」を原作にしたゲームが出るのかというと、同作品がそれだけネームバリューがあるからで、実際「北斗の拳」は…などと改めてここで語る必要など微塵もないくらいだろう

 当然「北斗の拳」がジャンプに与えた影響も絶大で、その連載中に編集長を務めていた後藤広喜は著書の『「少年ジャンプ」黄金のキセキ』で「少年ジャンプ」の行く手をさえぎり、方向を見えにくくしていた霧を一瞬のうちに吹き飛ばした革命的作品と評し、ジャンプの黄金期の始まりを便宜上85年の年始号(「DRAGONBALL」の連載が始まった翌々号である)としながらも、本当は「北斗の拳」の連載がスタートした時点から、黄金期は始まっていたと言うべきかも知れない。と記している程だ

 

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 しかし、それだけの作品なのにも関わらず、以後のジャンプにおいて「北斗の拳」の流れを汲んだ作品は非常に少ない。何せ作画を担当した原哲夫すら「北斗の拳」以降にジャンプで連載した作品はその流れから外れた作品ばかりだし(ジャンプを離れてからは流れを汲んだどころか関連作品を描いているが)、原作の武論尊に至っては以降ジャンプに連載を持つ事すらなかった(読切はあったが)くらいなのだから

 という訳で今回紹介するのはそんな「北斗の拳」の流れを汲む希少な作品の1つであるこちらだ

 

 竜童のシグ(95年24号~36・37号)

 野口賢

作者自画像

 作者の経歴についてはこちらを参考にされたし

 

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 「柳生烈風剣連也」の終了後は、95年増刊ウインタースペシャルに木村登美雄原作で本作品のオリジナルである「シグ 闇蠢集成より」を掲載。因みに木村登美雄がどのような人物か調べたところ、月刊ジャンプで連載されていた「ダブル・ハード」(作画今野直樹)の原作協力やチャンピオンで連載されていた「聖戦士KAZUMA」(作画小成たか紀)の原作などを務めたという事だ。また、「シグ 闇蠢集成より」はその題名と、書物を引用したような描き出しから闇蠢集成なる書物があると思ったが、調べても何も出てこなかったのでおそらく「魁‼男塾」における民明書房刊の数々の書物と同じく架空の書物のようである

 そして、同年24号から原作者を外して設定を若干変更し、タイトルも「竜童のシグ」と改めて本作品の連載が開始されたのであった

 時は戦国時代、百式拳闘術の使い手である金髪の少年シグは友達である獅子王豪鬼に会いに月島領を訪れたが、そこは悪党がのさばり力ある者が弱い者を押さえつけるこの世の地獄だった。そんな月島領でシグは豪鬼を捜して彷徨い、弱い者を虐げる悪党や領主の刺客と闘いを繰り広げる。というのが本作品のあらすじである

 ところで自分で言っておいてなんだが「北斗の拳」の流れを汲むというのはどういう事なのだろうか。勿論明確な定義などないし人によって考えが違うと思うが、私としては特殊な戦闘術の使い手がその身一つで秩序の無い世界を渡り歩き同じく特殊な戦闘術の使い手など様々な相手と闘いを繰り広げるといった要素の幾つかを併せ持つものだと考えている。それを踏まえてあらすじを見返してみると本作品が多くの要素を持っている事がわかるだろう。そういう風に書いたという話はさておき

 加えて個々のエピソードを見ても、幼い女の子であるユキを助けて同行者となるという最初のエピソードはリンを彷彿させるし、如意影射流忍術の使い手である紫外をシグと戦わせる為に紫外の妹を殺し、殺したのはシグだと嘘をついてけしかけるエピソードはヒョウとサヤカのそれである。また、作者は巻来功士のアシスタントを務めており、その巻来功士原哲夫のアシスタント経験があるので、そういう意味においても流れを汲んでいると言えよう。…まあ、巻来功士原哲夫のアシスタントを務めたのは僅かな期間ではあるのだが

どうでもいい事だが何故作者は名前が出ているのに春日井恵一はイニシャルなんだ

 しかし、それだけ重複する要素があるにも関わらず、本作品を読んでもあまり「北斗の拳」を連想させる事はなかった

 それは何故か。まず目につくのは絵柄の差である。両作品とも大別すればジャンプ向けとは言えない劇画調ではあるが、「北斗の拳」が洗練されたタッチで迫力のバトルを描いているのに対し、本作品は粗削りな上にアクが強い(これでも前作よりは丸くなったが)タッチでバトルシーンも動きが感じられず止まってるようで視覚的魅力にはかなり開きがあると言わざるを得ない

 そして一番の差は、なんと言っても作品の核となる戦闘術の設定だろう。本作品の百式拳闘術(の抜骨法)も人体に何万と走る目に見えぬ筋である竜命線に沿って素早く手刀を入れる事によって血を一滴も流さず骨を抜き取る事が出来るという設定でなかなか考えられていると思うが、秘孔を突いて体を内部から破壊するという北斗神拳の設定は視覚効果も相まって全てのバトル漫画の中でもトップと言える優秀な設定であるから比較対象が悪すぎる。これがなくば「北斗の拳」程のインパクトは与えられず本作品のように短期終了してしまうし、これがあれば「北斗の拳」にしかならないのだから、その流れを汲む作品が皆無なのも納得である

 と、厳しい話をしてしまったが、私自身は時代ものの作品が好きだし、万人向けではない事はわかっているが女性キャラには意外と魅力を感じているので結構好きな作品だったりする。「北斗の拳」と比べて見劣りするとは言うが、それは殆どの漫画がそうだし