黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

柳生の剣は誰が為に

 前回紹介した「甲冑の戦士雅武」の舞台は戦国時代だったが、今回紹介するのはそれより少し後の江戸時代初期を舞台とした作品である

 という訳でこちらの作品だ

 

 柳生烈風剣連也(92年14号~24号)

 野口賢

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作者自画像

 作者は89年に巻来功士のアシスタントを務めた後、91年増刊スプリングスペシャルに「リエカ」が掲載されてデビュー。同年36・37合併号に「幕末人斬り伝 壬生の狼」が掲載されて本誌デビューを飾る。そして翌92年14号から連載デビュー作として開始されたのが本作品である

 尚、余談ではあるが作者は学生時代レスリングをやっており、全国大会で準優勝、国体でも3位の成績をあげたバリバリのアスリートである。そんな人物が何故イメージが真逆の漫画家になったのか不思議なところではあるが、作中にマグネットコーティングやらガンダムをパロッたような台詞がチョコチョコ出てくるので元々素養があったのだろう。考えてみれば刃牙シリーズでお馴染みの板垣恵介もボクシングで国体出場経験があるし、トップアスリートの中にも漫画やアニメが好きな人が結構いるから意外と親和性があるのかもしれない

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巻来功士の「連載終了」でもその事に触れられている

 そんな本作品は、柳生新陰流の使い手である主人公の柳生連也が、さらわれた姉のサヤカを取り戻す為、闘いの旅を続ける剣術バトル漫画である

 さて、柳生新陰流と言えば、かの有名な真剣白刃取りこと無刀取りで知られ、剣術流派の中でもトップレベルの知名度があり、また、徳川将軍家御家流でもある事から漫画に限らず時代物の作品に登場する事が多い。そしてその場合は、主人公サイドとしては幕府の隠密として幕府転覆の陰謀を阻止したり、逆に敵サイドとしては幕府の犬として汚れ仕事に手を染めていたりと、その立場上幕府と密接に関係した役どころとなるのが常である

 だが、本作品の主人公である連也は肩書きこそ柳生本家の人間であるものの、作中ではあまり幕府との関係は描かれないどころか、そもそも殆ど日本にいなかったりする。というのも、サヤカをさらった相手は日本人ではなく、現在でいうトルコを根城とするベルガ人であり、追跡の為に第1話の終盤で既に日本を離れ大陸に上陸しているからである

 なので本作品はタイトルから連想されるような和風な風景ははほぼ見られない。代わりに異国情緒に溢れ、加えて大きな車輪がついて移動が可能な要塞やら装着しても体の動きを阻害する事のない機動甲冑やらが出てくるフィクション色の強い世界となっている。このあたりは「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」の影響を受けたのだろうか。いや、ガンダムが好きなようだから同じサンライズ作品の「聖戦士ダンバイン」や「機甲界ガリアン」あたりか。と言っても、オーラバトラーや機甲兵みたいな巨大ロボット兵器は登場しないが

 そしてもう1つ本作品の特徴としては、女性キャラが多めだという事が挙げられる。短期で終了してしまったので物語に深く絡み出番の多いキャラは少なく、連也の他に5人しかいないのだが、そのうち3人までが女性という占有率の高さだ。表紙カバー折り返しには「連也のまわりには、いつも美女がいる」などと書いてあるので、本作品がもっと長く続いていれば、それに連れて女性キャラももっと増えていただろう

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 上に挙げた2つの特徴を兼ね備えた作品を黄金期ジャンプで探してみると、比較的近い作品としては萩原一至の「BASTARD!」が挙げられる。あとは、そこまで女性比率が多くないが「ダイの大冒険」も割と近いと言えるだろう。そしてその両作品がヒットしている事実を鑑みれば、本作品もヒットする素地があったと思われるのだが、残念ながらヒットどころか短期終了作品の中でもかなり短い全10話という結果に終わってしまう

 上に挙げた両作品と本作品で明暗を分けた要因は何か? まず挙げられるのはわざわざ加えたフィクション要素が生かされていない事だろう。片やガンズンロウだのメドローアだの設定を生かした豪快な魔法が炸裂する派手なバトルが展開するのに対し、本作品は魔法が登場しないし、移動要塞や機動甲冑も見た目だけでバトルを盛り上げるのに貢献していない。フィクション要素を加えた理由は途中で出会う亡国の公女サーシャの祖国に伝わる古代の超兵器であるアグネアなるものの為だと思われるのだが、短期で終了してしまった為にほぼ触れられる事がなかったので、結果的に全く必要の無い設定になってしまった

 更なる要因としては絵柄の問題が挙げられる。「ダイの大冒険」と「BASTARD!」だけに限らず、ジャンプ、というか少年誌でヒットする作品は総じて線がシャープでポップな絵柄なのに対し、本作品は表紙カバーの画像を見ればわかる通りかなりアクが強い所謂劇画調の絵柄で、しかもキャリアが浅い為に正直あまり上手ではないので、せっかく数多く登場する女性キャラも魅力的に感じられない。人の第一印象は九割は見た目で決まるなどとよく言われるが、本作品も絵柄だけであまりいい印象を抱かなかった読者も少なくなかった事だろう

 そして何よりの要因は、同作品が連載を開始した時には、作品的に近く散々比較対象として挙げた「ダイの大冒険」が既に連載中で人気を博していたという事だ。…以前も同じような事を言った気がするのは気のせいだろうか

 

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 さておき、実際問題として同系統の作品というのは優劣がハッキリつけられ易いものである。そして何か1つにでも明らかに劣っているとみなされるものは別の何かと比較される時に不当に低く見られがちであり、これはアンケートでの相対結果が連載継続の是非を決めるジャンプでは非常に不利に働いてしまう

 勿論これは本作品にだけ言える話ではなく多くの作品、特に競合作品の多いバトル漫画全般に言えるものである。逆に言えば同系統の作品の中でも頭一つ抜きんでた作品だけが長期に渡る連載を成し遂げる事が出来るという事だ。そしてこの過酷な競争こそが数々の名作バトル漫画を生み、ジャンプを日本一の漫画雑誌へと押し上げた原動力なのである

 

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