黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

バットは殴る為にある?

 12月になってもう一週間が過ぎようとしている。年齢を重ねると一年が早く感じるとはよく言われ、若かった頃はそんな訳ねーだろと思っていたが最近は本当に早く感じ、つい最近令和になったと思ってたのに気付けばもう令和3年も終わりである。ここ数年は体の衰えを感じる事も多く、肩が上がんなくなってくるわ腰の痛みは酷くなるわで嫌になってくるな

 などというグチはさておき、年末らしく今年を振り返ってみると、当ブログ的に最大のニュースは、なんといっても岩泉舞の短編集である「七つの海」が未収録作品と描き下ろしの新作を加えて装いも新たに「MY LITLE PLANET」として復活した事だろう

 

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 だが、実は今年復活を果たした黄金期ジャンプゆかりの作品はもう1つあった事をご存じだろうか? それが今回紹介するこちらの作品である

 

 キララ(86年47号~87年11号)

 平松伸二

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 なぜ今年突然復刻したのかというと、単行本の帯にも書いてあるが、今年は作者のデビュー五十周年でそれを記念しての事である。それにしても、一年の間に本作品と「七つの海」(「MY LITLE PLANET」)と正直黄金期ジャンプ作品の中でも知名度が高いとは言えない作品が相続いて新装版として復活するなど世の中とはわからないものだ

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 さておき、本作品は柴虎高校に転校した天才投手の生沢輝良々が、甲子園優勝を目指して奮闘する野球漫画である

 「ドーベルマン刑事」に「ブラックエンジェルズ」と当たり前のように人が死ぬバイオレンス漫画の第一人者である作者が野球漫画を描く事を不思議がる方もいる方もいるだろう。だが、何を隠そう作者のデビュー作で71年50号に掲載された読切作品の「勝負」は野球漫画であり、そういう意味では本作品は作者にとってバイオレンス漫画よりもより原点に近い作品だと言えよう

 それに安心して頂きたい。野球漫画といっても作者が描くのだからまともな野球漫画である訳がなく、当然のようにバイオレンスに溢れている。物語は甲子園東京予選決勝の9回2アウト、あとワンアウトで勝利という場面から始まるのだが、気を抜いてモタモタしていたらいきなり拳銃を持った強盗犯が球場に乱入、輝良々と恋人の斉藤奈美が撃たれてしまい、二人ともなんとか命は取り留めたものの、奈美は半身不随、輝良々は弾丸が心臓のすぐ近くに埋まってしまった為に摘出出来ずに命を蝕み続けるという有様になってしまうのである

 もしあとワンアウトという所で気を抜かずにいたら、試合が早く終わってこんな事になっていなかっただろう。責任と自分の甘さを感じた輝良々は、自らを厳しい環境に置こうと名門の帝城高校から不良の巣窟である柴虎高校に転校し、甲子園優勝を目指すのであった

 敢えて弱いチームに入るという選択は野球漫画に限らずフィクションでは割とある展開である、が何故不良高校なのだろうか。強い弱い以前に不祥事で出場辞退になりかねないのだが。そして案の定野球部の連中はボールを打つよりも人を殴るのにバットを使うような連中だった。真面目に野球をしようとした1年生部員をリンチにかけるし、練習もせず部室で丁半博打をおっぱじめるといったザマで、結局殆どの部員は輝良々との賭けによって退部させられ、残ったのは輝良々の他には前述の1年生部員山田と高校生の分際で彼女に雀荘を経営させているヒモ男のジュン、そして輝良々とジュンに野球、ではなくケンカで敗れて改心したキャプテンの座門のみと、野球をしようにもメンバーが足りなくなってしまう

 それでも女子高生まで狩りだしてメンバーを揃え、野球部の存続を賭けた竜国高校との対抗戦に臨むのだが、相手もこちらに負けず劣らずの不良高校である。試合前には重機を持ち出してを襲撃するわ、試合になったら故意のデッドボールとかバットをすっぽ抜けさせて投手に向かってとばすなんてのは当たり前で、包帯をランナーの足に絡ませて転倒させるわ、麻酔薬を仕込んだ含み針を喰らわせるわと、最早ラフプレーの範疇に収まらないバイオレンス行為を働くのであった

 

 …ここで1つ告白しなければならない事がある。実は私は本作品を間違いなくリアルタイムで読んでいた筈なのだが、話の内容どころかこんなタイトルの作品があった事すら全く憶えていなかったのである。いや、こんなインパクトのある作品を憶えていないとか嘘だろうと思うだろうが、実際に新装版を購読してみても、そういえばこんな話だったなどと思い出す事が全く無かったくらい完全に忘れていたのだ

 何故奇麗サッパリ忘れてしまったのか? 自分なりに考えた結論としてはこうだ。本作品のインパクトはつまるところ野球漫画としては異端すぎる所である。だが、本作品連載当時の自分はまだ幼く、野球漫画はこうあるべきだという固定観念を持っていなかった為にすんなり受け容れてしまっていた為ではないかと

 私に限らず子供というものは総じて人生経験も知識も乏しく、良くも悪くも無垢で柔軟な考えをするものである。なので、今となってはガバガバ設定で散々ネタにされている「キン肉マン」も、当時の低年齢層読者にはそこまで突っ込まれる事なく普通に読まれていたものだ。…あくまで「そこまで」だが

 そして、本作品はこういうものなのだとすんなり受け容れて読んだ場合、作者の代表作である「ブラックエンジェルズ」等と比べると流石にバイオレンス要素は控えめで、野球漫画としては主人公の輝良々以外は野球の実力の凄さを見せる選手がいないので純粋な勝負としては魅力に欠けると、どちらにしても中途半端な出来に感じてしまうのである

 以上はあくまで私の考えであり、正しいかはわからない。ただ本作品は僅か15話で終了しまったという事実が残るのみである。そしてその後作者は以前紹介したように「ドーベルマン刑事」以来となる原作者付きの「モンスターハンター」で連載獲得を目指すが叶わず、黄金期以前のジャンプを支えた作者は静かにジャンプから姿を消したのであった

 

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