黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

ジャンプを駆け抜けていった異端の漫画家

 何度も説明しているが、当ブログにおいてジャンプの黄金期は「DRAGONBALL」の連載が開始した84年51号を始まりとし、「SLAM DUNK」の連載が終了した96年27号までと定義している

 そして、その約十一年半という間にジャンプで連載を経験した事がある漫画家は原作のみの担当者を抜いても90人を超えるのだが、その中で最も異端の漫画家を一人挙げなさい、と言われたら貴方は誰の名前を挙げるだろうか? などと聞かれても、質問が漠然としている事もあって返答に困るかもしれない

 だが私なら困る事なくこの人物の名前を挙げる

 

 漫☆画太郎である

 

 89年にジャンプがギャグ漫画家の発掘、育成を目的に新設した漫画賞であるGAGキング、その栄えある第1回でキングを獲得した漫☆画太郎は、その受賞作である「人間なんてラララ」が90年6号に掲載されてデビューを飾る。そしてその後幾つかの読切を経て同年49号から連載デビュー作となる「珍遊記」が開始されたのだが、その作品はあまりに衝撃的だった。一度見れば頭から離れないようなクセが強すぎる画風と、それ以上にクセが強すぎる作風は賛否両論を呼び、今でも尚強く印象に残っているという方も多い事だろう。…まあ、悪い意味で印象に残っている方が圧倒的多数だと思うが。だが、どんな意味であれジャンプの黄金期においてこれほどの存在感を放った人物はそうそういないと言える

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画像は不完全版です

 そんな漫☆画太郎であるが、実はジャンプで連載していた作品は意外に少なく僅か2作品しかない。1つは前述の「珍遊記」、そしてもう1つが今回紹介するこの作品である

 

 まんゆうき 94年29号~50号

 漫☆画太郎(正確には☆の中にFが入る)

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作者自画像

 そんな本作品は、かつて妖怪どもによって占領されていた地上から妖怪どもを一掃し、人類を救った伝説の仙人である萬々の弟子、娘々が、再び姿を現した妖怪どもを退治していく仙術ギャグ漫画である

 因みに「ばばあとあわれなげぼくたち」というサブタイトルがついているが、「げぼくたち」と複数形でいいつつ作中に出てくる下僕は娘々1人いない。これはサブタイトルが「太郎とゆかいな仲間たち」といいつつ仲間が玄じょうしか出てこないという「珍遊記」のセルフパロディだろうか。まあ、考えてみれば「珍遊記」と「まんゆうき」という本タイトルからしてモロ被りだし。更に言えば、単行本2巻の表紙カバーにデカデカとババアの画が描いてあるが、このババアはサブタイトルにある件のババアこと萬々ではないどころか、描き下ろしに出てくるだけのババアで本編には一切出てこなかったりする

 ところで、作者について漫画家なのに絵が下手だと思っている方は少なくないだろう。だが、それは誤解であると言いたい。作者の絵は決して下手ではないと

 …いや、別に上手いなどと言う気は無いし、上手か下手かの二元論で言うなら私も前言を撤回して間違いなく下手の方に属すると言うだろう。だが、絵柄のクセの強さ故に実情以上に下手だというイメージを持たれているのではないかとも思うのだ

 まあ、そう思われるのも仕方がない。実際作者の絵、特にキャラクターを見ると、まるで子供の落書きにしか見えない代物である。だが、時々ある細かく描き込まれた背景に目を向けると、線自体は粗雑でリアルとは程遠いものの、描き込みの細かさ故に見辛くなるような事も無く、意外とスッキリ仕上がっているのに気付かされるだろう

 更に特筆すべきは本作品の主人公の娘々だ。作者の描く女性キャラなんてババアかブサイクしかいないと思っている方が多いと思うが、娘々は他のキャラとは違って普通に可愛く描けている。普通なんて言葉は作者を形容する言葉として一番似合わないかもしれないが、マジで良い意味でも悪い意味でもクセが無くて普通に可愛く、実は作者はそれほど絵が下手ではなく、ちゃんと描けばもっと綺麗で普通の絵が描けるのに敢えて汚く描いているのではないかと思ってしまう

 さておき、話の内容の方をもう少し詳しく説明…いや、しなくてもいいか。本作品に限らず作者の作品はいくら説明したところで実際に読まない事には半分も理解出来ないし、読んでもあまりものアクの強さに理解などしたくないと思う方が多数であろうから

 こんな事を書いていると私は作者が嫌いなのかと思われるかもしれないが、逆である。確かに最初に読んだ時は中学生が思いついたままに勢いで描き殴ったような支離滅裂な展開と、露骨なパクりネタや下ネタのオンパレードに嫌悪感を抱いたものだ。だが、本当に中学生ならまとめられずに投げ出してしまうような話を、強引で唐突さはあるもののまとめてしまう力技は作者ならではと言えるし、よくよく読んでみると話のテンポも良く、続きが気になるような所謂「引き」の技術が意外と上手い(個人の感想です)事からすっかり好きになってしまったのである

 だが、そんなもの好きな読者は全体からすれば少数だろう。作者のクセの強すぎる作風は明らかに万人向けではないし、加えて作者は1つ1つの話をまとめるのには長けていても作品全体の流れをまとめるのは得意ではないようで、21話にして終了した本作品ばかりでなく、作者の代表作であり一年以上も続いた「珍遊記」すら結局グダグダになって投げっぱなしな最終回を迎えているように、長期連載よりは読切や短期連載に向いている人材なのだ

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 そんな漫画家としては極めて異端な作者にとって王道中の王道を行くジャンプは居心地のいい所ではないし、ジャンプとしても必要としている人材ではない。本作品が作者にとって最後のジャンプ連載作品となり、その後読切を数本掲載しただけで活動の場を他に求めたのは当然の帰結であったのだろう

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こんな似顔絵を描く漫画家はどう考えてもジャンプ向けではない