黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

「キララ」を継ぐもの?

 前回当ブログで平松伸二の「キララ」を紹介した時に触れそびれたが、その新装版単行本の帯には次のような文言が書かれている

 

 アストロ球団」と「地獄甲子園」をつなぐDNA的作品

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 更に巻末の解説でも、ネット上で漫☆画太郎の「地獄甲子園」は「キララ」にインスパイアされて描かれたのではないかという意見がよく見られるという旨の説が書かれている

 ならば、確かめる為に読み比べねばなるまい

 

 という訳で今回紹介する作品はこちらだ

 

 地獄甲子園月刊少年ジャンプ96年5月号~97年4月号)

 漫☆画太郎(正確には☆の中にF)

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 尚、紹介するにあたって家にある筈の単行本を探したのだが、生憎見つける事が出来なかった。なので、今回は本作品の単行本全3巻を1冊にまとめた編集版である「地獄大甲子園」を使用する事を了承願いたい。まあ、1冊といっても厚さは2冊ぶんくらいあるし、省略された部分は殆ど本筋と関係ない部分なので問題は無いだろう

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 因みに触れられているもう1つの作品である「アストロ球団」は、かなり昔の作品で私が未読であるのと、以前紹介した「戦国甲子園」の記事で最低限の事は書いたので今回は見送らせてもらう

 

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 まずは前々回紹介した「まんゆうき」が94年50号で連載終了して以降の作者の足取りを辿っていこう。95年5・6号に「ババアゾーン」、同年9号「家・なき子」と読切が掲載されたのを最後に作者はジャンプを離れ、MANGAオールマン96年2月号から「道徳戦士鳥獣ギーガー」の連載を開始。そして月刊ジャンプで同年5月号から連載が開始されたのが本作品である

 そんな本作品は、星道高校の十兵衛率いるケンカ野球戦士たちが、卑怯なラフプレーの数々で相手を試合放棄まで追い込むという外道高校を打倒する為に奮闘する野球漫画である。…のだが、いつものようにちゃんと完結せず、結局外道高校との試合に十兵衛が遅れて現れた所で終わってしまっている

 対戦相手を故意に傷つけるようなラフプレーも厭わない野球を殺人野球などと形容するが、本作品の敵役である外道高校はその範疇を完全に逸脱しまっている。グランドに地雷を仕掛けるわ、バットを改造して誘導ミサイルにするわと、最早殺人野球というよりは野球殺人である。対する十兵衛も十兵衛で、そんな卑怯な反則などせずとも身体を回転させて勢い良く投げたボールが人体を貫通してしまうというとんでもなさだ。…反則投球だという突っ込みは置いておくとして

 こんな連中によって球場はタイトル通り地獄と化すのだが、基本的にはギャグ漫画であるのと、作者の絵がアレな事が相まってそれほど凄惨さは感じられ無い。とはいえ、身体中に釘が突き刺さったり、後頭部を殴られて目玉が飛び出したりする様は見ていて気分がいい筈もなく、かなり読み手を選ぶ作品だと言えよう。…まあ、作者の作品に読み手を選ばない作品なんてないのだが

 

 さて、一通り紹介したところで本題に入ろう

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 本作品が「キララ」からインスパイアされたものかどうかであるが、読み比べた感じでは、可能性は否定はしないが殊更言う程のものではないというのが率直な感想だ

 おそらくこの説の根拠は、野球漫画としては過大といえるバイオレンス要素が入っているという共通点があり、そして作者はジャンプのGAGキング出身だから元々ジャンプ読者で、「キララ」も読んでいただろうという推測からだろう。だが、バイオレンス度合いにおいては本作品の方がギャグという事もあって比べ物にならない程過激である。また、野球とバイオレンスの両要素が入った作品は、「キララ」と同時期にサンデーでは中原裕が野球漫画であり暴走族の抗争漫画でもある「ぶっちぎり」を連載しているなど、別に平松伸二の専売特許ではない。そしてバイオレンス部分を除いて比較すると、本作品と「キララ」で共通している部分は殆ど無い。強いて言えば本作品では番長、「キララ」ではキャプテンが主人公との勝負に敗れ、改心して仲間になるというエピソードくらいだろうが、この手のエピソードは少年漫画では別段珍しくもなく、両作品の関係を裏付ける根拠としては弱過ぎる

 ところで、黄金期ジャンプには野球漫画では無いが梅澤春人の「BØY」のエピソードの1つに肩繰高校野球部と野球の試合をするというものがあったのをご存じだろうか。その試合はエアガンで目を狙撃したり、しまいにはナイフで襲い掛かったりと、試合におけるバイオレンスぶりでは「キララ」と負けず劣らずである。そして「BØY」のエピソードの方が「キララ」よりも本作品と近い年代に発表されている事を鑑みれば、本作品は「キララ」ではなく「BØY」からインスパイアされて描かれた可能性の方が高いのではないだろうか

 …勿論、本気でそう主張している訳では無い。私が言いたいのはそう強弁する事も出来るという話で、信憑性においては「キララ」と本作品との関連性を主張する説もそれと同じレベルでしかないという事だ

 また、作者は代表作である「珍遊記」が、タイトルからし西遊記のパクりである事からもわかるようにパクりネタの常習犯である。が、作者のパクりは人知れぬように盗用するのではなく、元ネタが容易にわかるからこそネタとして成立するタイプであり、失礼ながらマイナーな作品でネタにならない「キララ」をパクるとも思えないというのも関連性を疑う要因と言える

 以上が私の出した結論であるが、あくまで一個人の見解に過ぎず、人によっては本作品と「キララ」を強固に結びつける共通点を見出せるかもしれない。幸い両作品とも電子書籍化されており入手も容易なので、興味のある方は読み比べてみるのもいいだろう