黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

栄冠は君に輝かぬ

 それにしても暑い…

 今年の夏は暑さが特に厳しく、東京をはじめ各地で猛暑日になった日数が観測史上最多記録を更新中だという。連日の猛暑に、暑さに弱い(別に寒さに強い訳でもないが)私なんかはせめて気晴らしに花火大会や海水浴など所謂夏の風物詩でも堪能しないとやってられない気分だ。…まあ、実際は出かけるのも嫌になるくらいの暑さだから気晴らしも出来ないのだが

 さておき、そんな日本の夏の風物詩の1つに挙げられるのが明日決勝戦が行われる夏の甲子園こと全国高等学校野球選手権大会である。以前の記事で黄金期ジャンプにおいては野球漫画が8本も連載されたという事に触れたが、最近は薄まりつつあるものの同大会が青春の象徴のように扱われる事に加えて友情、努力、勝利というジャンプの三本柱と相性が良いテーマのせいか、その8本のうち、実に5本までが高校野球を扱ったものだ。が、5本のうち4本までが甲子園に辿り着く事なく短期終了の憂き目に遭っているという悲しい事実がある

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

短期終了になった高校野球漫画たち

 これらの作品が甲子園に辿り着く事なく終わってしまった理由は、単に甲子園に行くまで連載が続かなかったという事情もある。だが、各作品を読み直してみると、どうもそれだけではなく短期終了するには短期終了するだけの共通の理由が見えてきたのである
 その理由とは何か? 既に黄金期ジャンプの短期終了高校野球漫画は全て紹介済みなので、今回は黄金期終焉後のこちらの作品を紹介しつつ解説していきたいと思う

 

 Base Boys(98年33号~51号)

 にわのまこと

なぜBOMBER GIRL CRUSHはBOMBER GIRLとまとめてくれなかったのか

 作者の経歴についてはこちらを参考にされたし

 

shadowofjump.hatenablog.com

 「BOMBER GIRL」の終了後は94年増刊サマースペシャルに「トルネードクラッシャー野武」を掲載。翌95年に「陣内流柔術武闘伝 真島クンすっとばす‼」の連載を開始すると、これが作者最大のヒットとなる。同作品の終了後、98年17号に「闘神スサノオー」を掲載、そして33号から本作品の連載を開始したのであった

 主人公の杉浦祐は、監督が昔名捕手だったという理由で鷹津高校野球部に入部しようとしたのだが、高校入学前日に自主練習をしていたところに乱入してきた剣術少年の根津斬之助の話によると今や野球部はワルどものたまり場となっていて、公式戦はおろか練習試合も碌にやっていないという有様だという。それでも諦めない祐は明らかに追い出すのが目的の無茶な入部テストに臨むが助太刀に入った斬之助のおかげで合格する。そしてそのテストで野球の魅力の一端に触れた斬之助も、剣道部をクビになった事もあって野球部に加入。二人を中心にして野球部は生まれ変わろうとしていた

 そんな本作品のあらすじであるが、実は短期終了してしまった他の高校野球漫画と共通している要素、というか問題があったりする

 それは、試合がなかなか始まらないという事だ

 まず本作品の場合は上で触れた通り野球部がワルどものたまり場と化していた事で祐は歓迎されず、入部テストと称して先輩チームVS後輩4人+足りない分を先輩(協力する気なし)で補ったチームで1点でも取られたら負けというルールでやらされた試合もどきやライバルの顔見せを兼ねた1打席限定勝負はあるが、まともな試合が始まったのは第9話になってからの事である

 既に紹介済みの作品たちも見てみると、例えば「キララ」は最初の試合中にいきなり強盗犯が乱入してきて試合が中断、その後転校してワルのたまり場的野球部で入部テストと本作品同様の展開を見せるし、「チェンジアップUP‼」の場合は主人公が怪我の為ブランクがあって当初はまともに投げる事が出来ないのと、入った野球部が弱小でまともなグラウンドがないなど、それぞれ理由はあれどまともな試合が始まるまでに話数が掛かっており、黄金期に唯一長期連載を成しえた「県立海高校野球部員山下たろーくん」が最初から山沼高校とガッツリ試合しているのとは対照的である

 通常の漫画、特にジャンプお得意のフィクション性の高いバトル漫画の場合、序盤は作品世界の設定やキャラ達の特殊能力を説明しつつ徐々に本格的なバトルに切り替わるという展開は珍しくない。というか、そうしないと読者が置いてきぼりになってしまう。だが、野球漫画の場合「アストロ球団」みたいな超人野球漫画でない限りは特に説明すべき特殊能力もなく、作品舞台は現代、野球自体も基本的なルールは皆知っているから同じような展開にすると読者が置いてきぼりどころか、逆に作品の方が読者に置いてきぼりになって早く試合しろよとなってしまう

 とはいえ、なかなか試合が始まらない作品が全て短期終了になっている訳ではない。他誌だと「タッチ」をはじめとするあだち充作品もそうだし、何より本作品と同時期にジャンプに連載されていた森田まさのりの「ROOKIES」なんかは試合がなかなか始まらないだけでなく、野球部がワルどものたまり場となっている所まで同じであるのに片や短期終了、片やドラマ化もされるほどのヒットと対照的な結果になってしまっている

 両者の明暗を分けたのは何か? それは「ROOKIES」は試合が始まらないうちにしっかりドラマを作りキャラを際立たせて読者を引き込んだから、云わば野球以外にもシッカリとした作品の軸があったからである。上にも挙げた「タッチ」なんかは野球をやらな過ぎるきらいもあるが、逆に言えばそれだけ濃いドラマが無いならとっと野球やれという話であり、野球もその他のドラマも中途半端でどっちつかずの作品では長期連載を勝ち取る事は出来ないのだ