黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

黄金期ジャンプ史上最短連載作品

 さて、問題です

 黄金期ジャンプにおいて最長連載記録を持つ作家は誰でしょう?

 

 答えは勿論「こち亀」こと「こちら葛飾区亀有公園前派出所」を連載していた秋本治である

 同作品は黄金期ジャンプの始まりから終わりまで通して連載が続いた唯一の作品であるだけじゃなく、その前後も合わせて実に四十年もの長き間、しかも一度も休む事なく連載が続いた伝説的作品であると知っているのは当時の読者だけではないだろう

 では、逆に黄金期ジャンプにおいて最短連載記録を持つ作家は誰なのか知っているだろうか?

 それが今回紹介するこちらの作品を連載した作家である

 

 セコンド(88年16号~21号)

 井上泰樹

作者自画像(「ジャストACE」単行本より)

 

 そんな本作品の連載回数は、「こち亀」の1955回に対して僅か6回である。黄金期前でまだジャンプの連載サイクルが確立されていない時期ならば以前当ブログで紹介した「妖怪ハンター」などは本作品よりも少なく5回しか連載していないが、黄金期においては本作品に次ぐ2番目に短い作品が9回(「不可思議堂奇譚」など5作品)なのだからその短さは突出している

 だが、本作品の場合はあまりにも読者の人気が良くなかったので急遽打ち切ったというのではなく、おそらく最初から6回での終了が予定されていたのだろう。その証拠にジャンプの連載サイクルは崩れておらず、本作品の連載が始まる前の号にも新連載が始まっているし、本作品が終了した次の号でも終了作品がある。また、連載第1話が巻頭カラーではなく、掲載順が比較的優遇される2~4話も後ろの方であった事からも最初からアンケートを意識していなかった事がうかがえる

同時期に終了した「はるかかなた」と比べても序盤の掲載順の差は一目瞭然である

 作者の経歴はこちらを参考にされたし

shadowofjump.hatenablog.com

 「ジャストACE」の終了後、86年増刊オータムスペシャルに「ANGEL KISS」を掲載。そして88年16号から本作品の連載を開始したのであった

 そんな本作品は、プロボクシングでセコンドを務めるトレーナーの大松清司の目線を通してプロボクサーのリング内外での生き様を描いたボクシング漫画である

 ところで、ボクシング漫画は通常のバトル漫画と比べると地味でストイック過ぎて見栄えが悪いという事は以前当ブログで触れた。ましてや本作品の主人公はボクサーではなくトレーナー、しかもセコンドにつく事になる選手も世界チャンピオンを狙えるダイヤの原石とかではなく、減量に失敗した選手やファイトスタイルは派手だが勝ちより負けが多くかませ犬と揶揄される選手とかなのだから地味も極まれりである

 だが、それだけにボクシングの栄光に隠れた影の部分が淡々と描かれて面白く、当ブログで紹介するのに相応しい作品だと言えよう

 中でも私が気に入っているのは「ロッキーになれなかった男」で、エピソードの中心となる選手は新人王トーナメントで同門の選手、しかも実力的に格が違いすぎて勝ち目がない相手とあたった為にジムから出場辞退を迫られるという、ある意味ではどんな負け方よりも残酷な話で、試合どころか練習風景すら皆無であるところがドラマをより引き立てて物悲しさを感じられる

 だが、そういったエピソードの数々は大人になった今なら面白く読めるが、ジャンプのメイン読者層にとっては退屈極まりないし、主人公である大松は見た目が冴えないオッサンな上に物言いが説教臭いので親近感が湧かない。同じオッサンでも「こち亀」の両津勘吉とは大違いである。おかげで当時の私が本作品について憶えているのは減量に失敗して計量前夜に絶食した選手の顔が、頬がこけ目も落ち窪んでまるで別人のよう、というか完全に別人の顔になっていて、いくらなんでもそんな訳ねーだろとゲラゲラ笑った事くらいである

 そんな本作品なので、例え最初から6話で終了すると決まっていなかったとしても短期終了は免れなかったであろう。それに、連載が長く続いたら作者が本作品の為にボクシングジムに通い、時には実際セコンドに立って集めたネタも尽きただろうし

 しかし、本作品はたった6話であるだけに、その中にエッセンスが凝縮された味わい深い作品となっているのである