黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

看板作家が絶賛した作品

 来月にはもう大概の人は気にしなくなると思うが今年の干支は辰、つまり竜である

 そういう訳で今回は竜に関係する作品を紹介したい。といっても、新年早々に触れた「DRAGONBALL」や「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」ではなく、こちらのタイトルだ

 

 恐竜大紀行(88年51号~89年12号)

 岸大武郎

 

 そう、竜は竜でも恐竜である。厳密にいえば辰は竜ではなく龍の方ではないかという気もするが、新年早々細かい事を気にしてはいけない

 ところで、本作品が話題になる時によく引き合いに出されるフレーズにこんなものがあるのはご存じの方もいるだろう

 鳥山明が絶賛した作品、と

 ジャンプ黄金期の象徴といえる「DRAGONBALL」を描いた作家が絶賛とはなかなか御大層なフレーズであるが、実際2005年にジャイブから復刊された「恐竜大紀行完全版」の巻末に鳥山明がわざわざコメントを寄せているらしいので、かなり惚れ込んでいるのは間違いない。らしいとしか言えないのは、私が購入したのは電子書籍版の総集編で、こちらにはコメントは掲載されていないので未確認なのだ。もしコメントを見たいという方がいるなら間違えて購入する事の無いように

 さておき、作者は83年に「21世紀の流れ星」で手塚賞準入選、85年には「水平線にとどくまで」で手塚賞入選を果たし、同作品が増刊サマースペシャルに掲載されてデビューを飾る。その後87年スプリングスペシャルに「方舟」、同年サマースペシャルに「SOS!ムシムシ探偵団」の掲載を経て88年51号から本誌初登場にして初連載として開始されたのが本作品だ

 そんな本作品は、遥か昔に地球を支配していた様々な恐竜たちの生態を描いた1話完結式の恐竜漫画である

 話の流れとしては、エピソード毎にテーマとなる恐竜種、第1話ならティラノサウルスというように定めてそのうちの一個体にスポットを当て、種としての生態と個としての生き様、時に死に様までを描くというものだ

 恐竜たちの描写については、その後研究が進んだ結果、例えばパキケファロサウルスは頭骨が分厚い事から当時は頭をぶつけ合っていたと考えられ作中でもそう描かれていたが、現在では否定的な意見が多いなど恐竜像が変化した為に今見ると古臭い感じがするのは否めない。が、それでもなお登場する恐竜たちは皆、筆致が細かくまるでそこで生きているかのように、文字通り生き生きと描かれていて眺めているだけでも楽しい。鳥山明が絶賛したというのも頷ける出来である

 しかし、その楽しさはNHKEテレで「ダーウィンが来た!」を見た時に感じる生物ドキュメンタリー的な楽しさであって、ジャンプ読者が求めているような楽しさではない。一応は恐竜に言葉を語らせるといった漫画的演出はあるし、見せ場となる捕食シーンも毎話のように入れられているのだが、あまりフィクションに寄せたくないと作者が考えているのか全体的に淡々としていてエンタメ性に欠けるのである。なので、ジャンプの連載陣の中では浮きまくっていて学習漫画を読まされているように感じる読者もいた事だろう。そこが本作品の良いところでもあるのだが

 編集部も本作品が読者に受けないであろうと半ば分かっていたようで、通常は掲載順が優遇される2話~4話の時点でかなり後ろの方に追いやられ、6話以降は巻末かブービーという扱いの悪さであり、12話で終了してしまったのも仕方がない事だろう

 思うに本作品はジャンプではなく、学習研究社あたりが発行している教育系の雑誌に連載していればもっと長く続いたのではなかろうか。…いや、そういった本を読んだ事はないので漫画を掲載するような余地があるのかわからないけど