黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

ACEを狙え

 先日行われたウインブルドンは、女子はリバキナの、男子はジョコビッチの優勝で幕を閉じた。などと言った場合、多くの人は程度の差はあれど「ああ、テニスの大会の事だな」と理解するだろう。これが例えば少し話題が古いが、スーパーボウルラムズが勝利してMVPはクーパー・カップだった、などと言っても殆どの人は話題が古いのかどうかもわからずポカーンとなるだけだ

 言い換えればそれだけテニスというスポーツは知名度があるという事で、漫画の世界でも古くは「エースをねらえ」を筆頭に多くの人気作品が生まれ、ジャンプにおいても黄金期ではないが「テニスの王子様」が大人気となっているなど一大ジャンルとなっており、当ブログでも既に1度テニス漫画を取り上げていたりする

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 

 そんな訳で今回紹介するのはテニスを題材にしたこちらの作品だ

 ジャストACE(85年32号~41号)

 井上泰樹

作者自画像

 

 いつもはここで本作品の連載を開始するまでの作者の経歴に触れるところだが、今回は割愛させて頂く。というのも、情報がまるで見つからなかったからである。私は当ブログの為に何人もの短期終了作家の経歴を調べてきたが、こんなに情報が見つからなかったケースは原作者なら「カメレオンジェイル」の渡辺和彦や「不思議ハンター」の飯塚幸弘がいるが漫画家では初めてだ。これまでは情報が無いなりにジャンプ本誌や関連誌の掲載歴や、誰々のアシスタントの経験があるとか、何々賞受賞とか1つくらいは見つかったのものだが。いやはや、調査不足で申し訳ない

 さておき、物語は主人公の荻野目純がテニスクラブでボールボーイをしつつ練習している所に、元全日本王者で現在はジュニアアカデミーで指導をしている五十嵐が娘の奈緒美を連れて現れるところから始まる

 伸び悩んでテニスへの熱意を失っていた奈緒美を無理矢理コートに立たせ、それでもプレーしようとしないのを見るとショットを体にぶつけまくる五十嵐に怒りを覚えた純は思わず2人の間に割って入ってボールを打ち返し、五十嵐はそれを易々と受け止めるもその強烈さに才能を感じ取る、といった感じの導入だ

 さて、漫画に限らず現実でもテニスプレイヤーは各々ネットプレイが得意とか強力なサーブを持っているとか自分のプレイスタイルを持っている訳だが、純の場合はフォアハンドでのストレートショット一で、それでノータッチエースを決めるのが理想のプレーとしており、練習でもそればかりしている為バックハンドは苦手で、試合ではバックを狙われないようフォアサイドを大きく空けたポジションを取り、それでもバックを狙われたら無理矢理フォアに回り込むという極端なスタイルである

 こういった一点豪華主義的スタイルはいかにもフィクション的で、テニス漫画に限らずよく見られる。例えば野球漫画ならストレートは滅茶苦茶速いが変化球は投げられない上にノーコンなピッチャーとか

 だが、そういう設定の作品は大概展開もフィクション要素が強く派手になるものだが、本作品の場合は導入であるモブとのミニゲームこそ割と派手だったものの、いざ試合になってみると派手なプレーは減り、各プレーに丁寧に図説も入れた結果テンポも悪く、純の個性があまり生かされていないように感じられた。↓に挙げた単行本カバー折り返しの挨拶からして作者は本質的には派手で大味な展開よりもしっかりとした展開が描きたくて、それが作品にも出てしまったのだろう

 作者もそれではマズいと思ったのか途中から相手がダブルウイングマニュピレイションなる作戦(大仰な名前の割に中身はショットを左右に振って純を消耗させるだけだが)を繰り出したり、かつてテニス界を追放された神代という男が登場したり、試合に負けた純が相手との握手を拒否して姿を消し、神代から教えを受けてボールが相手のラケットを弾きつつ顔面を直撃するライトニングフラッシュという必殺ショットを身に付けるというヒールムーブに走るなど如何にもな要素を加えてきたのだが、ちぐはぐな内容になってしまった。…というか、ストレートショットでのエースが理想と言ってたのに何故ラケットに当てられる前提のショットを身に付けるんだ。壁にぶち当たってこだわりを捨てるという展開もあるにはあるが、だとしても早すぎだ。作者が本質的にそういう作風に向いてない上、突貫工事だからそういう歪みが出るのも仕方がない事かもしれないが

 結局本作品は10回で終了、最終回は特にきっかけも無くライトニングフラッシュを封印して新たな強敵との試合が開始したところで完という、典型的な短期終了作品の最終回であった