黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

時代が早すぎたレスリング漫画

 前回当ブログで紹介した「ノーサイド」のラグビー同様に、急激にメジャー化したスポーツというのは他にも結構ある。カーリングもオリンピック中継で大々的に取り上げられる前はどマイナースポーツだったし、スケートボードなども昨年行われた東京オリンピックでメダリストを複数輩出した事で始める人が急増したという。卓球なんか昔は根暗のスポーツだと蔑まれていたのがウソのようだ

 そしてそんなスポーツの1つに含まれるのがアマチュアレスリングである。昔からオリンピックで金メダリストを何人も輩出してきたにも関わらず何故かメディアの扱いが悪く、かつては私がアマレス関連で憶えている事と言えばソウルオリンピックで金メダルを取った小林幸至選手がメダルを紛失した事くらいだったのに、2004年のアテネオリンピックで女子レスリングが正式種目化した途端、吉田沙保里伊調馨といったスター選手が現れた事もあるがメディアが挙って取り上げるようになって一気にメジャースポーツ化してしまった感がある。…まあ、男子レスリングの方は相変わらずメディアの扱いが悪いし、世界的に見ればオリンピック競技から除外するという動きもあるのだが

 そんな訳で今回紹介するのはこちらの作品だ

 

 Wrestling with もも子(97年20号~39号)

 徳弘正也



 作者の「水のともだちカッパーマン」までの経歴はこちらを参考にされたし

shadowofjump.hatenablog.com

 

 そして、その後97年20号から連載を開始したのが本作品である

 体格は小柄なので自らがする事は無いが知識だけはある格闘技マニアの岡イサムは、入学した八田学園の同級生に女子レスリングのジュニアチャンピオンである持合もも子がいるのを知り、後をつけて行って覗いたレスリング道場で彼女の素敵なおっぱいと、そのスパーリング風景に圧倒される。そして道場が閉鎖され、練習する場所がなくなるという事を聞いたイサムは、彼女とふれあいたいという不純な動機もあって八田学園にレスリング部を作る事を決意、そこにイサムと同じ動機でやってきた和田と松浪が加わり、4人でレスリング同好会が発足する

 さて、「水のともだち カッパーマン」の紹介記事でも触れたが、作者は根が真面目なせいか、「新ジャングルの王者ターちゃん♡」の末期あたりから環境問題に警鐘を鳴らしたり、果てには無責任に環境を破壊し続ける人間に対する怒りを吐き出したりとエンタメとしてはどうなんだというような作風になってしまった。だが、流石に反省したのか、それとも取材しているうちにレスリングにハマって余計な事に目がいかなくなったのか、本作品では嬉しい事にそんなところは全くなくなっていてエンタメ全開となっている

 中でも特筆すべきは下ネタで、主人公は頭の中がエロい妄想で溢れている高校生男子、レスリングを始めたきっかけが不純、更に父親がエロ小説家という無駄な設定もあって、次々と繰り出されるギャグの殆どが下ネタという徹底ぶりだ。元々作者は自らち〇こマンガ家を自称するくらいに下ネタを多用しているが、もう1つの得意技である人情噺が殆どなく、ここまで下ネタに振り切った作品は私が知る限り他にはない。にもかかわらず意外に不快感がないのは、1つのネタを引っ張らずにテンポよく繰り出す事と、下ネタの被害者といえるもも子がノリノリで突っ込んでくれるからだろう。…まあ、私が齢を食ったせいで下ネタに対して寛容になっただけかもしれないが

 一方で、スポーツ漫画としては未経験者がめきめき上達していくという王道を行っている。フィクションである為に上達スピードが速いのは否めないものの、前回紹介した「ノーサイド」ほど極端じゃなく、しっかり負けるし苦労もする。それでいて試合シーンの中にも下ネタをぶっこんでくるので真面目になり過ぎず読み味が軽やかだ

 …が、そんな本作品にも欠点はある。それは、上にも挙げた通り当時レスリングは

メジャー化する前で興味を持つ者が極めて少なかった事であり、では、何故そうだったかというと、身も蓋も無い話だが非常に見栄えが良くないからである

 レスリングという競技はスポーツであると同時に格闘技でもあるので、本作品はバトル漫画の側面も持ち合わせていると言えるのだが、ルール的に打撃が禁止されている上に、そもそも相手にダメージを与えるのが目的ではない(結果としてダメージを与える事はあるが)ので、攻防に派手さが無いのだ

取材に行った作者もこんな反応である

 私はスポーツ全般の観戦が好きでレスリングの試合も結構見るのだが、実際の試合は相対して押し合いするなど膠着する場面が殆どで正直退屈な時間が多いし、本作品でもクライマックスにもも子がガッツリとレスリングをするシーンがあるのだが、個人的にはその部分が一番面白くないと感じた

 結局本作品は当時はまだマイナーなテーマを扱ったという事もあって18話で終了となってしまう。もし連載当時既にレスリングがメジャースポーツになっていたらもう少し連載が続いていたかもしれない。が、そうなるとイサムの上達と共に必然的にレスリングシーンが増えて面白みがなくなってしまうので、その前に終了したのはある意味では良かったのかもしれない。おかげで面白いまま短時間で読み切れる作品となっており、作者の作品で一番好きなものは何かと問われたら、世間的には「(新)ジャングルの王者ターちゃん♡」挙げる人が多数だろうが、私は冗談ではなく本作品を推したい程である

 本作品の終了後、作者はジャンプを離れ同年スーパージャンプ21号から「狂四郎2030」の連載を開始、そのダークな雰囲気が高評価を得る事になるが、私としてはそれよりも作者には本作品のように何も考えず心の底から笑えるような作品を描いて欲しいと思う。…まあ、賛同する者は少ないだろうけど