黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

世にも奇妙なえんどコイチ

 8月もあと一週間余りで終わりである。まだまだ残暑は厳しいものの私の住む地域では夜は過ごしやすくなり、セミの鳴き声に混じって鈴虫の鳴き声も聞こえてくるようになってきて、ゆっくりながらも着実に秋の訪れを感じる今日この頃だ

 という訳で、今回は少し気が早いが秋の夜長に読むのにピッタリなこちらの作品を紹介したい

 

 不可思議堂奇譚(94年30号~39号)

 えんどコイチ

 

 作者は81年に「遠足の日」が少年チャンピオン月例フレッシュ賞を受賞、同作品が33号に掲載されてデビュー。同年チャンピオン増刊に「闇に走る」、42号に「マジカルミラクル」の掲載を経て44号から「アノアノとんがらし」で連載デビューを飾る。83年には集英社に移籍してフレッシュジャンプ6月号から「死神くん」の連載を開始し、同作品は途中に連載中断やフレッシュジャンプ休刊による月刊ジャンプ移籍などをはさみながら90年8月号まで続く長期連載となる

 また、「死神くん」の連載と並行して84年49号及び50号に「ついでにとんちんかん」を掲載して本誌デビューを果たすと、同作品が翌85年14号から連載化し、TVアニメ化されるほどのヒットを記録。更に同作品が89年22号に終了した後は、月刊ジャンプ93年1月号から95年9月号まで続編となる「ミラクルとんちんかん」を連載する事となる

主人公である抜作先生は「ファミコンジャンプ英雄列伝」にも登場している

 その一方で本誌には90年24号に「ぱられるクロス」、92年8号に「ひとりぼっちの風小僧」を掲載。そして93年40号に掲載した「不可思議堂奇譚」が連載化して94年30号から連載されたのが本作品である

 さて、作者と言えば、そのふざけた字面のペンネーム(予想がつくとは思うがその由来は本名が遠藤幸一だからである)と代表作である「ついでにとんちんかん」のイメージから、生粋のギャグ漫画家とお思いの方も少なくないだろうが、それ以前に連載していた「死神くん」は、タイトルの通り死神を主人公にして、人の死を主題にしたシリアスなヒューマンドラマであり、たまに月刊ジャンプも読んでいた私は両作品のギャップに戸惑いを覚えたものだ。そして、本作品は「ついでにとんちんかん」ではなく「死神くん」の系譜にある作品となっている

 舞台となる不可思議堂は店主である老婆の不可思議無量と、その娘の穣が営む店で、普通の人は店に入る事すら出来ず、夢や希望を失った者だけが入る事が出来るという文字通り不可思議な店である。そして扱う物も幸福の缶詰や笑顔のマスクといった不可思議な商品ばかりで、人生に行き詰った者たちが店を訪れて藁をも掴む思いで手に入れた品によって引き起こされる騒動を描く1話完結のオムニバスストーリーとなっている

 とまあ、そんなあらすじからも本作品はTVドラマ「世にも奇妙な物語」の影響が窺える。大元を辿れば海外ドラマの「トワイライト・ゾーン」なのだろうが、時期からしてもタイトルにある不可思議という言葉からしてもこちらだろう。あと「笑ゥせぇるすまん」と

 だが、問題なのは、本作品の連載が開始される直前まで「世にも奇妙な物語」の影響が窺える作品がジャンプで連載していた事だ

 そう、光原伸の「アウターゾーン」である

画像は関係ないと思うかもしれないが、実は光原伸の妻が浅美裕子なのである

 91年14号より連載が開始された同作品は、話の展開からも「世にも奇妙な物語」のタモリのようにミザリィというストーリーテラーがいる事などからも、本作品以上にその影響の濃さが窺える作品であり、爆発的な人気があった訳ではないもののジャンプでは異色の作品として長らく連載が続けられていた作品である。が、流石に読者も飽きてきたのと、ネタが切れてきたのもあって本作品の連載が始まる僅か数カ月前の94年15号で連載が終了したばかりだった

 言わば本作品は読者が「世にも奇妙な物語」フォロワー作品に食傷気味だった最悪のタイミングで連載が開始された訳である

 加えて本作品は「世にも奇妙な物語」や「アウターゾーン」と違って商品を手に入れた者が悲惨な結末を迎えるといった事は無く、基本的にはひたむきな者が報われるというハートウォーミングストーリーとなっており、ジャンプの読者層からしたら刺激が無くて物足りなく感じた事だろう

 実は正直言うと私も本作品の事はあまり憶えておらず、「こんなタイトルだから確かホラーだったな、夏にピッタリだ」と勘違いしてこの時期に紹介しようとしたのに、読み返してみたら全然ホラーじゃなかったので、無理矢理修正して秋の夜長にピッタリの作品と銘打ったくらいである

 そんな(?)事情もあってか本作品は僅か9話で終了の憂き目に遭ってしまう。以前寺沢武一の「BLACK KNIGHTバット」を紹介した時にも触れたが、ヒット作の作者による次回作はぞんざいな扱いは出来ずアンケートの結果が良くなかったとしても速攻で終了させるという決断は取りにくいので、短期終了させられるにしても単行本が全1巻で完結するほど話数が少ない例は35例中2例しかない。つまり「BLACK KNIGHTバット」と本作品だ。しかも向こうは全10話だから、ヒット作の次回作としては最短である。本作品の場合は「ついでにとんちんかん」からだいぶ時間が空いている上にその間月刊ジャンプで連載していたという事情はあるにせよ、ここまで短いとなると読者の評判が余程芳しくなかった事が窺がえる。まあ、作者自身、読者の評判など気にせずに描きたいものを好きに描いたと思われる節もあるのだが

穣のキャラコンセプトからしてコレである



shadowofjump.hatenablog.com

 だが、当時の読者の評判はともあれ、年を食ってオッサンになった今になって読んでみると「世にも奇妙な物語」や「アウターゾーン」のような皮肉の効いた作品よりも本作品のような優しい物語の方が心に沁み、穏やかな気持ちになれるので、当初はこじつけだったが本当に秋の夜長に読むのに相応しい作品となっている。…僅か9話なのであっという間に読み終わるのが難点だが