黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

二刀流男のラグビー漫画

 現在ラグビーのワールドカップが絶賛開催中である

 前後にバスケットボールのワールドカップやバレーボールの五輪予選など大きなスポーツイベントと日程が被る事や期間中に阪神タイガースセリーグ優勝が決定した事、そして自国開催じゃなくなった事などから、前回ほどの異常な熱狂はないながらも充分に注目度が高く、改めてラグビーというスポーツが定着してきた事を感じさせられる

 という訳で今回はラグビーをテーマにした漫画を紹介していきたい

 

 ゲイン(少年サンデー97年1号~98年35号)

 なかいま強

作者自画像

 

 御覧の通り本作品は短期終了作品でもなければ黄金期どころかジャンプの連載作品ですらないのだが、別にラグビー漫画だからというだけで紹介する訳ではない。以前ラグビー漫画の「ノーサイド」紹介した際に、黄金期ではないがジャンプには他にもこせきこうじが「スクラム」というラグビー漫画を連載していたと触れており、本当はそちらを紹介するつもりだったのに所持している筈の単行本が見つからなかったという事情もあるが、それ以上に紹介したい理由は本作品の作者であるなかいま強がジャンプとサンデーで同時に連載を持っていた稀有な漫画家だからだ

shadowofjump.hatenablog.com

 

 とはいえ、ジャンプには有名な専属契約があるので作者の場合はサンデーと同時に連載していたのはジャンプはジャンプでも月刊ジャンプであるのだが、それでも他に実現出来た者が少なくとも私は知らないくらいには貴重である

 作者はちばあきおのアシスタントを経て84年に月刊ジャンプ8月号から「わたるがぴゅん」の連載を開始し、同作品は04年10月号まで二十年以上も続く長期連載となる。と同時に88年にはサンデー19号から「うっちゃれ五所瓦」の連載も開始(91年29号まで)し、89年には同作品で小学館漫画賞少年部門を受賞する

 また、91年にはその2作品と並行して月刊ジャンプ1月号から原作担当として「キック・ザ・ちゅう」の連載まで開始(93年9月号まで)し、更に92年にはミスターマガジンで読切の「佐々霧兵吾円錐剣」の原作まで担当している

 96年にはヤングサンデーで「こんこんちきちき」の連載を開始、そして97年サンデー1号から本作品の連載を開始したのであった。ちなみに、流石に「わたるがぴゅん」との同時連載は辛いのか、「うっちゃれ五所瓦」もそうだったが本作品も度々休載していて楽しみにしていた私を落胆させたものである 

 

 さておき、そんな本作品は、破天荒でこらえ性のない問題児の夏井球生が、偶然出会ったラグビーに熱中していくラグビー漫画である

 主人公の球生がどれだけ破天荒かというと、中学時代は非常用の消火栓で校舎を水浸しにしたり校長の車に火を付けたりととにかく滅茶苦茶で、見かねた母親が高校の三年間部活を続けられたら父親の遺産を好きにしても言われて色々な部活に入部しようとするも速攻で問題を起こして断られるほどだ

 そんな中、サッカー部入部を邪魔された(と球生が思い込んでいる)ラグビー部に殴り込みに行ったらスカウトされてしまい、当初は仕方なしに続けていたがだんだんラグビーに引き込まれていくというのがあらすじである

 競技に興味すらなかった初心者が別の理由から始めてどんどんのめり込んでいくという展開は「SLAM DUNK」などでも見られるスポーツ漫画の王道と言える。そして普通、この手の作品の場合、初心者故の奇抜な発想は生かしつつも練習試合などでの失敗を経てどんどんルールや基本的な動きを覚えていって一端の選手になっていったりするのだが、本作品の場合、球生はまともにルールも覚えないままに話が進み、自分がボールを持っているのに相手にタックルしたり、味方からボールを奪ったりしても注意もされずやりたい放題であるし、性格の方も一向に改善されなかったりする

 そんなだから練習も常識はずれで、エミューを相手に半裸に亀甲縛りされた格好でタックルの練習とか牛を相手にスクラムの練習など滅茶苦茶だが、それでもラグビーを舐めるなとか怒りを感じないのは、本作品に限らず作者のスポーツ漫画はギャグ要素が強いものが多く、球生のような直情的でバカなキャラを描くのが慣れており、それ故にキャラ生き生きしていて楽しく読めるからだろう

 だが、問題もある。作者の他のスポーツ漫画はギャグ要素は強くても安易にギャグに逃げる事は無くしっかりと熱いスポーツ勝負を描いているのに対し、本作品は元々ラグビーというスポーツが1チーム15人と人数が多い上に選手がボールに群がってゴチャつくのでただでさえプレイ風景を描くのが難しいのに、作者がラグビーに詳しくないのであまり熱い勝負が描かれていない、と言うか、そもそもラグビーシーンが少なく試合より練習の方がよっぽど印象に残るくらいなのである

 そんな本作品はラグビー漫画というよりはラグビーをやっている主人公の破天荒さを楽しむ漫画と言った方が正解かもしれない。が、ラグビーの方はせっかく本物のワールドカップが開催中なのだからそちらで楽しんで、こちらはこちらで漫画ならではのハチャメチャさを堪能するのがいいだろう