黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

気触れつちまつた悲しみに

 今回紹介するのはこの作品である

 

 水のともだちカッパーマン(95年45号~96年30号)

 徳弘正也

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 さて、作者と言えば以前当ブログでも紹介した「ターヘルアナ富子」の連載終了後、88年15号から連載を開始した「ジャングルの王者ターちゃん♡」が途中で「新ジャングルの王者ターちゃん♡」(以下「ターちゃん♡」と改題すると共にバトル路線に舵を切った結果、TVアニメ化も果たすなど大ヒットを記録し、黄金期ジャンプを代表する漫画の1つとなった事は今更説明するまでも無いだろう

 

shadowofjump.hatenablog だが、「ターちゃん♡」の終盤になると、唐突に環境破壊に警鐘を鳴らすような場面が出てきて戸惑った覚えがある人は私だけではないのではなかろうか

 伝え聞くところによると、作者は「ち〇こマンガ家」を自称する程の下ネタ全開の作風とは裏腹に性格は至って真面目な好人物だという。言われて振り返ってみれば確かに「ターちゃん♡」でもそれ以前の作品でも、山盛りの下ネタに埋もれているがテーマとしてはシリアス過ぎるほどのエピソードがちょくちょくあった事に気付かされる

 また、余談ではあるが、後にかの「ONE PIECE」でジャンプの看板作家となる尾田栄一郎はちょうどこの頃にアシスタントを務めており、作者の真摯な姿勢に大変影響を受けたという

 そんな性格故、作者は長くアフリカを舞台にした作品を続ける間に色々な資料を目に通した結果、自然の大切さを痛感し、自然破壊の愚かしさに一言言わずにはおれなかったのだろう

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単行本1巻の余白には当時の尾田栄一郎のエピソードが描かれてる

 

 私は作者が何かの思想に気触れた末に作品に個人的な主張を混ぜてはいけないとまでは思わない。だが、同時に作品の面白さに繋がらないどころか面白さが損なわれてまで主張を混ぜるのは本末転倒だろうし、主張が強過ぎると逆に反発されて逆効果だとも思う

 そして「ターちゃん♡」の場合は明らかに面白さが損なわれており、結果、そういった主張が目立つようになってから程なくして「ターちゃん♡」は連載終了の憂き目にあってしまう。まあ、それだけが理由じゃなく、連載の長期化によって色々パワーダウンしていたのも否めないが

 

 さておき、「ターちゃん♡」が95年18号に終了後、読切作品の「バレエ入門 俺がバレエを始めたわけ」(同年35号)をはさみ、同年45号から連載が開始されたのが本作品だ

 そんな本作品は、河童の父と人間の母との間に生まれた河太郎が、幼い頃いなくなった母を探しに人間界へと出て来て騒動を起こすギャグ漫画である

 山奥で妖怪として生きていた河太郎は、父の遺言により妖怪ではなく人間として生きようと街に出て来るが、妖怪好きの女子高生である金剛寺舞にアッサリと正体を見破られ、舞の家である寺に居候する事になる。そこに妖怪が妖怪を呼ぶのかのか、昔なじみの猫又など周りに色々な妖怪が出没し始め、次々と騒動が巻き起こる

 当初は「ターちゃん♡」の終盤で見られた環境保護を説くような主張はなく、下ネタの連発と人情噺という本来の作者お得意の展開が続き、流石に作者の環境保護気触れも治ったのかと私もホッと胸をなでおろしたものだ。が、それではジャンプで人気を得るのには不充分なのか、途中からバトル要素が強まっていく…のはいいのだが、それと共に主張も顔を出してきてしまう

 考えてみれば「ターちゃん♡」の連載終了から本作品の連載開始まで半年程度しか経っていないのだから、そんなに早く熱が冷めるものではない。そもそも本作品のタイトルにわざわざ「水のともだち」なんて文言を入れているくらいだし。それどころか話が進むにつれてヒートアップしていき、しまいには無責任に環境を破壊し続ける人間を糾弾するかのようになってしまい、読んでいる自分まで責められているようで辟易させられる

 そしてそんな展開のまま本作品は35話で説教臭く、後味もあまり良くないラストを迎える事になってしまったのであった

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 ラストのあたりは何というか、昔の知り合いが何に感化されたのかSNSで変な政治主張を繰り返しているのを見ているようで痛々しい。しかも、それでいながら相変わらず随所にギャグも放り込んでくるものだから混乱する。作者はシリアスなシーンを続けていると恥ずかしくなってきてギャグをはさみたくなるという話があり、中にはこの緩急こそが作者の魅力だという人もいるが、私としては落差が大きすぎてどんな気持ちで読んだらいいのかわからないし、何より読んでて気疲れしてしまう

 確かに環境保護は大切な事であり、今になって盛んにSDGsが説かれているのを見ると、作者はある意味では時代の先を行っていたとも言えるかもしれない。だが、漫画家としては環境よりもまず漫画の面白さを保護して欲しいと思う次第である