黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

柳の木の下に河童は何匹?

 前回当ブログで紹介した「水のともだちカッパーマン」は河童(厳密には河童と人間とのハーフだが)が主人公というなかなかニッチな作品であった

 長い歴史を誇るジャンプでも流石にそんな作品は他に無いだろうと思う方もいるかもしれないが、それは甘い。黄金期の作品ではないが実はもう1つ河童を主人公にした作品が存在していたのである

 それは今回紹介するこちらだ

 

 河童レボリューション(98年12号~32号)

 義山亭石鳥

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作者自画像

 

 作者は97年に「73式乱射銃」で赤塚賞準入選、同年8号に「IN THE TRUE」が掲載されてデビューにして本誌初登場を果たす。また「73式乱射銃」も同年に赤マルジャンプSUMMERに掲載されている。そして同年42号に本作品の前身にあたる「河童レボリューション」を掲載すると、44号に「鼻の中の君よ」を挟み、45号に再び、そして50号に三たび「河童レボリューション」と掲載が続き、翌98年12号から連載が開始したのが本作品だ。尚、余談ではあるが、読切版の方は本作品の単行本とは別に「オリジナル河童レボリューション」というタイトルで出版されている

 このようにハイペースで掲載が続いたのは、それだけ作者が期待されていたという事だろうが、ジャンプ編集部がギャグ漫画家の発掘・育成を目的として創立したGAGキングがこの数年不作続きの為97年をもって廃止されるなど、ギャグ漫画家日照りにあえいでいたという事情もあったかもしれない

 そんな本作品は、冬眠中のところを小学生のマサシに起こされた為、マサシの家に居ついた河童のヒロ坊、サユリの兄妹が騒動を起こす河童ギャグ漫画である

 このように常人ならざる者が人間の家に厄介になり、次々とトラブルを巻き起こすといった題材は、本作品や前回紹介した「水のともだちカッパーマン」に限らずポピュラーな題材である。特に藤子・F・不二雄はこの手の作品が多く「ドラえもん」(騒動を起こすのは専らのび太だが)、「オバケのQ太郎」、「ポコニャン」、「モジャ公」、「チンプイ」など枚挙にいとまがない。また、黄金期ジャンプにおいては「まじかる☆タルるートくん」が有名であろう。そして、このような作品の主人公キャラは見た目が愛らしいのが定番となっている

 一方、本作品の主人公であるヒロ坊はというと、単行本のカバー絵をご覧の通り見た目が非常に良くない。更に中身の方はもっと悪く、自己中心的でマサシの家に居つくようになったのも、半ば脅して強引に迫った結果である。ついでに言えば口も悪い

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河太郎もそんなに愛らしいとは言えないが、ヒロ坊と比べればこの通り

 読切版が好評を得て連載化に繋がったのも、ヒロ坊の定番とは真逆のキャラ造形がウケたというの要因が大きかったであろう。が、こういったネタは言わば出オチに類するもので、読者としても最初は目新しさをを感じるがそのうち慣れてしまうものである。そして、慣れられてしまった後にはデメリットだけが残されてしまう

 と言うのも、この手のキャラがトラブルを起こしても許されるのは、ぶっちゃけ見た目が愛らしいからだ(偏見)。正に可愛いは正義である。加えて言うなら、基本的にトラブルの原因となる行動に悪意が無いか、悪意があった場合は、「こち亀」の両さんが金に目が眩んで暴走した挙句に破滅を迎えるように、最後に相応の報いを受ける事で読み手の不快感を解消しつつ笑いに昇華するからでもある

 だが、ヒロ坊の場合は見た目も性格も悪く、おまけに自分勝手な行動をしても周りが迷惑を被るだけで自分が報いを受ける事は少ないのだから、読み手の不快感は解消されない。私も本作品の連載当時は既に20歳を越えていて良くも悪くも良識が備わっていたのもあって、正直読んでいて笑いよりも怒りの方が込み上げてきて「こち亀」の大原部長ばりに「ヒロ坊のバカはどこだ!」と怒鳴り込みたい気分になる事もあった。勿論、中にはお約束のような展開は飽き飽きで、そっち方が面白いと思う人もいるだろうが、全体から見れば少数だろう。定番には定番になるだけの理由があるのだ

 本先品の他の特徴としては、個性的な新キャラが毎回のように登場する事が挙げられる。その顔触れはホモの烏天狗とかグレて家出したオタマジャクシ河童とかインパクトの強い面々であるのだが、良くも悪くもそれのみに特化した出オチタイプのキャラばかりで、強いインパクトの割にはあまり印象に残らず殆どは使い捨てにされた格好である

 ギャグ漫画は基本的に1話完結で次々に新しいエピソードを考え出さねばならないのでストーリー漫画と比べて消耗が大きく寿命が短いと言われている。その上に次々と新キャラを登場させていったのだから作者の消耗は更に大きくなる。おかげで後半になると、とってつけたようないい話風エピソードでまとめてからの二段オチが増え、たった20話で終了してしまったにも関わらず、完全に息切れして終わったなあというのが正直な感想だ

 

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 そして、本作品で完全にネタが涸れ果ててしまったのか、作者はその後赤丸ジャンプなどに数回読切が掲載されたのみで、連載作品は1本も持つ事が無く姿を消したのであった