黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

マイナースポーツの悲哀

 気付けば北京オリンピックも次の日曜日で閉会式を迎えようとしている。フィギュアスケートなど一部競技に対する注目度が非常に高かった一方で、昨夏に行われた東京オリンピックに比べると全体的な盛り上がりに欠けていると感じるのは、自国開催ではないという理由だけじゃなく、そもそも冬季五輪の種目がマイナースポーツばかりだという事も大きいだろう。私はスキーのクロスカントリーなどが好きで見ていたのだが、一般の人はノルディック複合の後半部分として見る事はあっても、それ単独では興味が無いだろうしなあ

 

 そんな訳で、今回紹介するのは冬季五輪種目でもあるスポーツを主題にしたこちらだ

 

 METAL FINISH(90年41号~91年1・2号)

 鶴岡伸寿・宮崎まさる

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2巻は電子書籍版で購入したので画像は1巻だけで

 

 作画を担当する鶴岡伸寿は、88年に「THE FIGHT」でホップ☆ステップ賞入選、同年増刊サマースペシャルに掲載されデビュー。翌89年スプリングスペシャルに「NO MERCY」を掲載後、同年30号に「BEAT SWEET!」で本誌初登場を飾る。更に同年38号に「LIKE A CHILD」、翌90年ウインタースペシャルに「RUDE BOY」の掲載を経て同年41号から本作品で連載デビューを果たしたのであった

 一方、原作担当の宮崎まさるは、81年に週刊少年マガジン原作賞入選、86年にはフレッシュジャンプ漫画原作部門で入選を果たし、同年フレッシュジャンプ7月号からともながひできが作画を務める「アリスがヒーロー」で連載デビューを飾る。また、同年にはマガジンでも石垣ゆうきが作画を務める「100万$キッド」の原案として連載デビューを果たしただけでなく、それと並行してやはりマガジンにて鐘田頌太朗名義で宇野比呂士が作画を務める「名探偵Mr.カタギリ」の原案も手掛ける事となる。89年には再び石垣ゆうきとのコンビでマガジンにて「あいつはアインシュタイン」の連載を開始。そして同作品の連載終了後、本作品で本誌連載デビューを果たしたのであった

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関係ないが石垣ゆうきといえばやっぱりコレだろう

 そんな本作品は、天才プレイヤーと呼ばれるも早世した兄にあこがれ星城大一高アイスホッケー部に入部した風間和泉が、輝きを失った部を盛り立てる為に奮闘するアイスホッケー漫画である

 兄の駿も在籍していた名門星城大一高アイスホッケー部。しかしそこは去年起こした不祥事の為に一年間の出場停止処分を受けた事から部員たちは転校や退部で次々と去り、残った者もすっかり腐ってしまってかつての輝きは失われていた。そんな所にやる気満々で入部してきた和泉は先輩たちの癇に障り、執拗な嫌がらせを受ける事になるが…

 やる気の無い部活に入部した主人公が、その熱さで周りを巻き込んでいくという物語はスポーツ漫画の王道の1つと言えよう。そして、登場キャラも熱血漢でいかにも主人公キャラな和泉の他に、中学時代に得点王に輝きながらもチームプレーが嫌いで「一匹狼」の異名を持つ世良、やる気がないようなポーズをとりながらも和泉を気に掛けて色々アドバイスするキャプテンなどベタと言える程の王道を行っている

 ところで皆さんはアイスホッケーについてどれだけ知っているだろうか? 私もそうだが、ちょこちょこ映像を見る機会はあるから全く知らないという事は無いにしろ、詳しいルールはよくわからないという人が殆どではないだろうか

 本作品に限らず全体的にマイナースポーツをテーマにした漫画は多くない。その理由としてはマイナーだからそもそも描き手にも読み手にもあまり興味を持たれないというのが一番であろうが、読者の競技に対する知識の無さ故に事あるごとにいちいち説明を入れなければならないし、いくら描き手がリアルで迫力あるプレイシーンを描いても、それがどんな凄いプレイなのか読み手に伝わり辛いという事もあると思う

 実際本作品でも、ただでさえキャラや物語の舞台を説明する為に貴重なページを割かなければならない序盤に、1チームが何人で構成されているかとか、どんなポジションがあるかとか初歩的な説明まで入れる羽目になってしまっていたし、描き手の絵の方に問題があるのか読み手の自分の方に問題があるのかわからないが、肝心のアイスホッケーシーンを見ても、そのプレイが実際どんな動きをしているのかイメージ出来ず、全然ピンと来なかった。もしこれがメジャースポーツ、例えば野球漫画であったなら、1チームが何人なんて初歩中の初歩的説明どころか、タッチアップとか振り逃げとか特殊なルールすら説明の必要は無いし、少しくらい絵に難があったとしても、このシーンはこんな事しているんだろうなと知識で穴埋めする事が出来ただろうに

 とは言え、メジャースポーツ漫画にはメジャースポーツ漫画なりの難しさがあり、誰もが知っている競技だけに読者の目も肥えているので評価は辛口になりやすい。例に挙げた野球漫画にしても以前の記事で触れたが、黄金期ジャンプにおいては短期で終了してしまった作品の方が多数である。だが、それだけにヒットしたメジャースポーツ漫画は他のスポーツ漫画を霞ませる圧倒的な存在感を放つ。そして、不幸な事に本作品の連載が開始した次の号からあのメジャースポーツ漫画の連載が開始されてしまった

 

 それはこの作品である

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勿論左の作品ではなく右の作品の方だ



 以前当ブログでも紹介した「カメレオンジェイル」の作画担当である成合雄彦が井上雄彦と改名して連載を開始した「SLAM DUNK」は…などという説明は不要であろう。僅か一週差で2つのスポーツ漫画の連載が開始されたとなればどうしても比較されてしまう。「SLAM DUNK」が連載開始から半年ほどでジャンプの看板作品の1つにまで駆け上り、その後更に「DRAGONBALL」と並び称されるまでになったのに対し、本作品は僅か14話で連載終了、今となっては最早憶えていない者も少なくない、と、残酷なまでに明暗が分かれてしまった

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 そして成合(井上)雄彦と同じく原作付きの作品で連載デビューを果たした鶴岡伸寿は、本作品の終了後、ジャンプでは読切作品の掲載はあったものの、二度と連載を持つ事は無かったのであった