黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

相撲ブームが生んだ怪作

 今日現在、大相撲名古屋場所は十日目を迎え、既に無敗どころか1敗の力士すらなく優勝争いが混沌としてきている。…などと書くと鋭い方は先読みして、さては今回紹介するのは相撲漫画の「力人伝説 鬼を継ぐ者」だなと思うかもしれない

 外れである

 今回紹介するのはこちらの作品だ

 大相撲刑事(92年40号~49号)

 ガチョン太朗

作者自画像

 

 作者は90年にガチョン☆太郎名義の「虫さされに木工用ボンド」で第2回GAGキング残念賞を受賞、翌91年オータムスペシャルに本作品のオリジナルにあたる「大相撲刑事」を掲載してデビュー、翌92年ウインタースペシャルに「大相撲教師」を掲載…とWikipediaなどにはあるが、別の情報では「大相撲教師」は92年ではなく91年のウインタースペシャルだとあり、どちらが正しいかは情報が少ないので判明しなかった。私の調べた感じだと、当該ウインタースペシャルの西暦表記が間違っているっぽいのだが…。さておき、92年14年には「大相撲刑事」が本誌初登場を飾ると40号からは連載デビューまで飾ったのであった

 そんな本作品は両国県警捜査課に配属された元FBI捜査官の大関が騒動を起こしつつ悪人を取り締まる刑事ギャグ漫画である

 そのタイトルと単行本のカバー絵からも察せられるように主人公の大関は大銀杏を結いまわしをつけただけといういでたちで、まるで「こち亀」の特殊刑事課にいるような人物である。そして行動理念は犯罪よりも相撲を侮辱するような行為にキレるなど、刑事というより力士のそれ(実際にはそんな力士などいないが)であり、各話の流れは大関の非常識な行動に新人刑事の今井や、ヤクザなのに大関に無理矢理弓取りをやらされている政などが巻き込まれるのがパターンとなっている

 作品の細かい内容についてはギャグ漫画、それもシュールギャグ、ナンセンスギャグに分類されるものであるから、捕まえた犯人に対して「木工用ボンドと登校きょひについて」だの「エレキギターとはな毛切り」だのをテーマにレポートを書かせ、それで罪が軽くなるのかと問うと「ならん」と一蹴するの定番の流れなどを一々解説するのは無意味かつ無粋なのでやめておく。正直私は当時も今も滑っているとしか感じなかったし、同様に感じた読者が多かったから僅か10話で終了したのだろうが、ギャグが笑えるかどうかは結局感性の問題に過ぎず、何が良くて何が悪かったなどと語れるものではないからだ

 

 が、それはそれとしてどうしても本作品には気になる部分が2つほどある

 まず1つは、取り調べ中に寿司を食わせろと要求する容疑者に対して大関が「なぜちゃんこにしない」とキレたり、モンゴル相撲の使い手が電車道という必殺技を使ったりと、作者が相撲の事をあまり詳しくないと思える事だ

 とは言え、前者はちゃんことちゃんこ鍋を混同しており、ちゃんこというのは親と子、つまり親方と弟子という意味であり、それが転じて特定の料理ではなく相撲部屋で食べる料理全般の事をちゃんこと呼ぶので大関の発言は意味が通っていない、後者は電車道というのは立ち合いから電車のレールの如くまっすぐ一気に押していく事で、土俵が無く押し出しも無いモンゴル相撲にはそんな概念はない、などとわざわざ説明しなけりゃ普通の人はわからないし、そもそも相撲漫画では無くギャグ漫画であり作中でまともに相撲をする訳でもないのでそれ程問題では無いとも言える

 致命的なのはもう1つの問題で、それは絵が下手だという事だ

 世の中には絵が下手と言われる漫画家が結構居て、中には子供でも描けるような絵だなどとまで評される人もいる。だが、そういう人達は下手なりに絵が整って安定しているし、余計な線を加えずシンプルな絵柄に仕上げるのであんまり酷く見えず、実際にはとても子供が描けるような絵ではない場合が多い。しかし作者の絵柄は全く整っても安定してもおらず、マジで子供でも描けるように見える、というか、素人目でも陰影のつけ方がおかしいのがわかるし、手の描写など細部のデッサンが歪み過ぎてむしろ子供が描いたようにしか見えない。しかも信じられない事に、作者1人で全部仕上げたのではなくアシスタントがついているのにこのレベルなのだ(作者自画像の左の方に描かれているのがアシスタントである)

 単行本の余白に書かれている当時の述懐によると、作者は話を考えるのも絵を描くのも早く、連載中でも睡眠時間をたっぷり十二時間も取れたという。そんなに余裕があるなら絵の勉強をしろとまでは言わないにしろ、もう少し時間を掛けて丁寧に描いても良かったのではなかろうか。こんな絵にベタを入れたりしなければならないアシスタントも気の毒である

 しかもそれでいて無駄に線が多い為、見た目が非常に汚い。絵が汚いと言えば漫☆画太郎を連想する方も多いだろうが、漫☆画太郎の絵は確かに汚いし見ていて不快感を覚えるものの、作者と見比べてみると線の雑さは同レベルに見えるが適当ではなく細部も整っており全くレベルが違う事がわかる。以前当ブログで「まんゆうき」を紹介した際に漫☆画太郎はイメージ程に絵が下手な訳ではないと述べたが、図らずもそれが証明された形だ

カバー絵だけだと大差ないように見えるがマジで全然違う

 そんな絵の下手さもあってか作者は本作品の連載終了後は増刊でいくつか読切を掲載しただけで漫画家の活動は休止してしまったという。もっと向上心を持って絵を上達させていれば成功していた、などと言う気は無いが、少なくとも掲載のチャンスは増えていただろう。そう考えると非常に勿体ない話である