黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

ジャンプの壁に撥ね返され続けた男

 所謂3大週刊少年漫画誌の中では、ジャンプは他の2誌に比べると伝統的に他所で活躍した実績のある漫画家を起用するケースは少なく、連載陣の殆どは新人を自前で発掘、育成した漫画家が占める事からよく純血主義だなどと言われている。が、その割には新人に見切りをつけるのは早く、初連載作品が短期で終了してしまうとそれっきり二度と誌面に登場しなくなるケースも少なくない

 そう考えると、連載デビュー作品と次の連載作品が続けて短期終了してしまう漫画家はとかく馬鹿にされる事が多いが、次のチャンスが与えられるのだけの評価は受けていたのだと言えよう。小畑健なんかも「ヒカルの碁」でブレイクするまでは土方茂時代から4度も続けて連載作品が短期終了してしまった訳だが、それも評価されているからこそ出来た事だし、実際その評価は間違っていなかったと言える

 

 そんな訳で今回紹介するのは、小畑健と同じく連載デビュー作品から4度続けて連載作品が短期終了してしまった漫画家のこの作品だ。…5度目は無かったが

 

 サスケ忍伝(86年32号~41号)

 黒岩よしひろ

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作者自画像。別に女装癖がある訳では無い…多分

 作者は桂正和のアシスタントを務めながら83年に「ビューティービースト」で第26回手塚賞佳作を受賞、同年には「舞子ミステリアス」で第52回フレッシュジャンプ賞入選となり、フレッシュジャンプ12月号に掲載されてデビューする。その後フレッシュジャンプに幾つか読切作品掲載を経て86年32号から本作品で本誌デビューにして連載デビューを飾ったのであった

 

 そんな本作品は、伊賀忍者の円妖斎の下で修業する事になった甲賀忍者の流サスケが、襲撃を受けた伊賀の里から逃れてきたくノ一の紅百合から、それを抜き自在に操れるものは天下をも統べると言われる妖刀十六夜を託され、妖刀を狙う邪忍の獣王院とその手下の獣魔忍群との戦いに身を投じる事となる忍者漫画である

 さて、ジャンプで忍者漫画と言えば、黄金期終焉後の99年から連載が開始され、如何にもジャンプ的な派手なバトルで当時の看板作品となった「NARUTO」を思い浮かべる方も多かろう。しかし、本作品は「NARUTO」のように如何にもジャンプ的な派手なバトルを中心に話が展開する訳では無く、80年代前半に人気だった忍者漫画である「さすがの猿飛」や「伊賀野カバ丸」の影響か、それとも作者がアシスタントを務めていた時代の桂正和の代表作である「ウイングマン」の影響か、物語は主にサスケが転入してきた私立戦国学園を舞台に展開し、同級生で円妖斎の孫娘でもある美琴とのラブコメ要素が多めとなっている

 そんな本作品の一番の特徴は何かと言うなら、女性キャラの肌の露出の多さだろう

 ヒロインの美琴は毎度のようにパンツが見えるし、敵の攻撃で服が破れて胸が露わになる事もしばしばだし、獣魔忍群のくノ一などは何故かレオタードみたいな際どいコスチュームを着ていてサービス満点である。また、絵柄の方も三十年以上経った今見てみると古い感じは否めないが、それでもなかなか魅力的だ。このあたりは師である桂正和譲りと言えるだろう

 一方、そのおかげでただでさえアッサリ気味なバトルが、更にアイデアや作画リソースを削られて見どころがあまりなくなったという印象も受けてしまう

 そもそも本作品は大ゴマをあまり使わず、しかも全体的に引いた構図が多いのでバトル描写は迫力に欠けるきらいがあるのだが、それに加えてエロに力を入れたぶんアイデアを練り込む余裕が無かったのか、忍者を主題にしたにもかかわらず、作中で使用される忍法はバリエーションが少なく、かつ適当である

 中でも一番酷いのが美琴の「恋のロープをほどかないで」だ。これは新体操のリボンを使って敵を絡めとるという全くもって忍法じゃないし、技名は新田恵利の曲だし、何で新体操部でもないのにリボンを持っているかも不明だしとツッコミが追いつかない忍法である。美琴の忍法は他にも「不思議な手品のように」(これも新田恵利の曲)とか「ノーブルレッドの瞬間」(国生さゆりの曲)があり、他に獣魔忍群のくノ一に魔巳(高井麻巳子)や幽悠(岩井由紀子)がいたりと作者がおニャン子クラブにハマっていたのが窺がえる。こういうネタは私も嫌いではないが、入れる所を考えないと作品の雰囲気が壊れてしまう訳で、その悪い例が本作品と言える

 と、本作品はこれが初連載という作者の未熟さが出て、何がしたいのかとっ散らかって学園ラブコメとしても忍者バトルとしても中途半端になってしまい、短期終了もやむ無しであっただろう

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 が、それにも関わらず本作品が僅か10話で終了してから半年少々で作者は次の連載を始める事となる。あの小畑健ですら初連載作品が短期終了してしまってから次の連載を始めるまで二年も掛かっている事を考えるとこれは破格の待遇だと言えよう。それだけ編集部は作者を買っていたという事であろうし、作者もそれを感じて自分の目の前に栄光への道が開けていると思っていたのではないだろうか。…実際は茨の道であったのだが、それはまた別の機会に紹介させて貰う事としよう