黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

サンデーより来た男

 前回紹介した「海人ゴンズイ」で、同作品の終了と共にその作者であるジョージ秋山がジャンプを去った事により、ジャンプの純血主義は完遂したと述べた

 だが、それ以降にジャンプで連載した漫画家の中に他誌で実績のある人物が全くいなかった訳ではない。例えば以前3回にわたって紹介した巻来功士などは持ち込みからの再スタートではあるがキングでの連載経験を持っているし、江川達也なんかは「まじかる☆タルるートくん」の連載以前にモーニングで「BE FREE」を五年近くも連載していた

 

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 そして中にはなんとジャンプと共に三大少年誌と称されるライバル誌であるサンデーで連載経験を持つ者もいたりする

 それは桐山光侍である

 代表作の「忍空」は途中で連載が度々中断した挙句、結局完結せぬまま連載が無くなってしまったり、TVアニメ化されたのは良いが原作とは別物だったりと色々問題のある作品ではあったが、間違いなく黄金期ジャンプのバトル漫画を代表する作品の1つであった。因みに、ご存じの方もいるだろうが同作品は本誌での連載が止まってから約十年後の2005年にウルトラジャンプで「忍空 SECOND STAGE干支忍編」として復活を果たし、本誌より遥かに長い連載の末に一応の完結を迎えている

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画像は電子書籍版です

 そんな訳で今回は桐山光侍の短期終了作品を紹介したい。と思ったのだが、作者がジャンプで連載した作品は「忍空」のみである。それどころか、「忍空」及び「忍空 SECOND STAGE干支忍編」以外に単行本化されている作品はおそらく1つしかないので、ジャンプ連載作品でもなければ短期終了作品でもないが、そちらを紹介する事にする

 そう、先に挙げたサンデーで連載されていたこの作品である

 

 戦国甲子園(サンデー91年1月増刊号~7月増刊号、同年33号~92年27号)

 桐山光侍

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作者自画像




 作者は89年、ヤングマガジンに桐山浩二名義の「地球の上のいろんなあなた!」が掲載されてデビュー、90年にはサンデー32号に「嵐の如き男」が掲載される。そして翌91年1月増刊号から連載が開始されたのが本作品だ

 そんな本作品は、主人公の犬江親兵衛をはじめとする徳川高校野球部の面々が、石田高校を打倒しようと奮闘する高校野球漫画である

 石田高校は実に三十年もの間甲子園春夏制覇を続けているのだが、過去に一度だけ苦戦を強いられた試合があった。それが二十四年前の決勝で戦った徳川高校であり、徳川ナインは「里見八犬伝」の八犬士と同じ苗字(一組は双子)であった事から徳川九犬士と呼ばれた。その試合は延長18回の表に石田高校が1点先制した直後、落雷により裏の攻撃を迎える事なくコールドゲームで終了という無念の幕切れであった。そして現在、打倒石田の意思を継いだ九犬士の息子たちが徳川高校に入学して来るところから物語は始まる

 ところで、「里見八犬伝」を下敷きにした野球漫画には先達がある。それはジャンプで72年39号から76年26号まで連載されていた遠崎史朗原作・中島徳博作画による「アストロ球団」だ。そして本作品は「アストロ球団」から着想を得たのかは不明であるが、どちらも常人あらざるプレーが飛び交う所謂超人野球漫画あるばかりでなく、ライバルチームの主砲が実はメンバーの1人だったとか、メンバーの中に双子がいる(本作品の場合は先代九犬士が双子で現九犬士はその子供だが)とか共通する部分が散見される

 それと同時に、作者が同じなのだから当たり前なのかもしれないが後の「忍空」を彷彿させる部分も見られる。「忍空」連載開始当時でもまだ発展途上だった絵は、更に粗く未熟さが感じられるが、その癖のあるタッチで描かれるバトル、ではなく対決のシーンはどこか海外映画のような雰囲気があり、迫力も充分である。また、シリアス一辺倒にならぬようにちょこちょこ挟まれる下ネタ(オナラ多め)で緊張感を和らげるという手法も共通しており、作風はこの時点で既に確立してあると言えよう。加えて、九犬士の1人であるショートの犬川荘助は、伊賀で忍術の修業をしたという設定といい、何よりも丸く見開かれた目と出しっぱなしの舌というビジュアルからして明らかに「忍空」の主人公である風助の原型であろう事が窺がえる

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左が荘助、右が風助。名前も似ている

 そんな読み応え充分な本作品であるが、不満点もある。物語の目的であり、ようやくたどり着いた石田高校との試合は、二十四年前の因縁の続きという事で0-1のスコアで18回裏の攻撃から始まってしまう上、その決着がハッキリ描かれないまま三十年後の未来に飛んで終了という幕切れは消化不良としか言いようがない。更に深刻なのは、作品そのものの問題ではないが、発行されている単行本全6巻では話が全部収まりきらずに最終回含む終盤数話が未収録であり、サンデーのバックナンバーが無ければその消化不良の最終回すら読む事が出来ないという点だ

 この理由については作者がサンデーからジャンプに移籍する際、強引な引き抜き工作があって小学館との仲が拗れたしまった為だという噂があるが、実際のところどうなのかは部外者である自分が知りようがないし、別に知りたいとも思わない。ただ、どんな理由であれ本作品を最後まで読む事が困難である現状は残念であり、いつの日か最終回までを収録した第7巻、もしくは新装版が出版されるのを、連載が終了して三十年近く経った今でも私は待っているのであった