黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

代打男の送りバント

 ジャンプの連載作品の入れ替わりサイクルは大体十数号毎に2、3作品を毎号1作品ずつ終わらせて、代わりに新連載作品をやはり毎号1つずつ開始させるのが定番であるという事は、ジャンプを購読した経験がある人ならご存じだろうし、当ブログでも以前に触れた

 だが、中にはそういったサイクルから外れて連載が開始された作品もごく少数ではあるが存在する

 

 という訳で今回紹介するのはそんな作品の1つであるこちらだ

 

 剣客渋井柿之介(89年37号~47号)

 高橋ゆたか

作者自画像

 作者の経歴はこちらを参考にされたし

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 「おとぼけ茄子先生」の終了後は89年増刊ウインタースペシャルに本作品のオリジナルでありタイトルも同じ「剣客渋井柿之介」を掲載、更に同年15号、16号と2号続けて同タイトルで掲載された後、37号から連載が開始されたのであった

 そんな本作品は、花のお江戸を舞台に柿のような頭をした浪人の渋井柿之介が騒動を起こしつつ悪者を成敗する時代劇ギャグ漫画である

 柿之介の「限りなく渋い(ニヒルな)男」という異名は渋柿とも掛けているのだろうが、剣術が渋柿殺法という名前からしても「眠狂四郎」をモデルにしたと思われる。のだが、柿之介はその異名とは裏腹に助平なうえ欲の皮の突っ張った俗物で、渋柿殺法も相手の股下をくぐりざまに股間を強打する股下くぐりの剣だの相手の頭髪から下半身に至るまで全ての毛を無くす断毛全身剣だの滅茶苦茶である。また、時代劇といっても設定は適当でセーラー服だのラジカセだのが普通に出て来るし、会話でも横文字が飛び交う「忍たま乱太郎」みたいななんちゃって時代劇である。まあ、ギャグ漫画でしっかり時代考証するのもどうかと思うが

 しかし、各エピソードは悪者が無辜の町民に狼藉を働いているところに柿之介が現れて渋柿殺法で成敗するというしっかりと時代劇してる展開が多く、そこにポンポンと矢継ぎ早にギャグが挿入されていてテンポよく読めるので、私は本作品を気に入っている

 ところで、前述の通り本作品はジャンプの通常の連載サイクルとは外れて、本作品の前に連載が開始された作品が4号前、本作品の後は3号後と、明らかにサイクルのど真ん中という奇妙なタイミングで連載が開始されている

 それは何故かというと単純な話で、萩原一至が「BASTARD‼」の原稿を落として連載が増刊送りになって枠が1つ空いてしまった為、その穴埋めとして急遽連載が決まったからで、おかげで連載第1話の掲載順が15番目となってしまっている。因みにその余波なのか、本作品が開始した少し後で行われた「カメレオンジェイル」から「ダイの大冒険」への入れ替えも妙なタイミングで行われていたりするが、もしかしたら本作品も本来はここのタイミングで「ダイの大冒険」と続けて連載が開始される予定だったのかもしれない

 さておき、そんな経緯で連載が開始されたのだから本作品がジャンプ編集部に期待されている訳も無く、求められているのは「BASTARD‼」打ち切りの混乱から体制が整うまでのつなぎ役であるのだから、11話で終了したのは予定通りだったのではないだろうか

 だが、編集部からすれば本作品はその程度であったかもしれないが、作者からすれば4コマ漫画だった前作の「おとぼけ茄子先生」から通常の漫画にモデルチェンジする為の経験を積めたし、主人公である柿之介の、周りが普通の中1人だけ低頭身という造形は次回作であり作者の代表作となる「ボンボン坂高校演劇部」の徳大寺ヒロミへと受け継がれる事となるなど実り多き作品であった

 そういう意味においては本作品は作者にとって後のヒット作を生む為の大事なつなぎ役だったと言える