黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

ジャンプの幼年期の終わり

 今から三十七年前の84年11月20日は当ブログで定義するところのジャンプの黄金期が始まった日であるという事は以前の記事で述べた。という事は必然的にそれより一週間前、つまり三十七年前の本日11月13日は、黄金期前の最後のジャンプが発売された日になる

 

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 そこで今回は黄金期前のジャンプの掉尾を飾った作品を紹介したい

 と、その前に、何故84年11月20日がジャンプの黄金期の始まりと定義したのかを改めて説明しておこう。それはこの日に発売された週刊少年ジャンプ84年51号から、黄金期の、いや、黄金期に限らずジャンプ自体の象徴する作品と言える「DRAGONBALL」の連載が開始されたからである。が、実はもう1つ理由があり、その前号である84年50号で今回紹介する作品が最終回を迎えたからでもあるのだ

 それがこちらである

 

 海人ゴンズイ(84年40号~50号)

 ジョージ秋山

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画像は電子書籍版です

 

 さて、ジャンプと言えば既に他誌で実績のある漫画家は起用せずに自前で発掘、育成する所謂純血主義で知られているが、それは創刊時に予算が少なかった為に実績のある漫画家に依頼出来なかったが故の苦肉の策であった事は以前紹介した「さらば、わが青春の『少年ジャンプ』」で述べた

 

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 が、当時はまだ純血主義が徹底されていた訳ではなく、まだ知名度の無いジャンプに興味を持ってもらう為、そしてそもそも新人を発掘育成しようにも一朝一夕で出来る訳ではないという理由からか、全掲載作品数に対する割合は低いものの、赤塚不二夫川崎のぼる、そして手塚治虫といった既に実績のある面々も連載陣に名を連ねていたのである

 本作品の作者であるジョージ秋山もその一人で、ジャンプ初連載となる「黒ひげ探偵長」(69年6号~19号)の時点ではまだ「浮浪雲」や「恋子の毎日」といった代表作は生まれていないものの、67年にマガジンで連載を開始した「パットマンX」が講談社児童まんが賞を受賞した新進気鋭の若手として注目を集めていたところだった

 余談ではあるが、この「パットマンX」は私が物心がつくかつかないかの頃に家に置いてあり、私の漫画の原体験の1つだったという思い出深い作品である。…まあ、今となっては碌に内容を憶えちゃいないのだが

 さておき、作者は「黒ひげ探偵長」の終了後も他誌の連載と並行して「デロリンマン」、「現訳聖書」、「ばらの坂道」、「灰になる少年」、「どはずれ天下一」、「シャカの息子」とジャンプで数々の作品を連載する事になるが、その間にジャンプの純血主義は強まっていき、84年40号で本作品の連載が始まった頃には作者以外の連載陣は皆ジャンプが発掘育成した漫画家によるものになっていたのであった

 そんな本作品は、1854年、乗せられていた奴隷船が難破して八丈島近くの神無神島に流れ着いた黒人少年のゴンズイが、生きる為に奮闘するジャンル不詳の漫画である

 因みに黒人奴隷は基本的にアフリカ西岸で船に載せられ、大西洋を渡って新大陸で降ろされるので、奴隷船が難破しても日本に流れ着く事など無い。などというツッコミは野暮である(ならするな)

 ところで、私は本作品の連載中はまだジャンプを購読しておらず、今回紹介するにあたって読んだのが初めてであった。かなり異様な作品であるという話は聞いていてそのつもりで読んだのだが、それでも感想は異様の一言に尽きる

 神無神島は島流しにされた罪人の島であり、少しでも海に足を踏み入れた者は逃亡の意志ありとして看守に処刑されるという異様な環境。そんな環境故か頭がおかしくなって自分の子供が死んだ事もわからず、挙句にゴンズイを自分の子供だと思い込むアズサなど異様な島民たち。そしてボラやカマスがディフォルメされずそのままの姿で群れを成して人間に襲い掛かるという異様な風景。物語は途中で大人たちが八丈島に連れていかれ、子供たちだけが取り残された事によりジュール・ヴェルヌの「十五少年漂流記」的な色彩を帯びてくるが、これから子供たちがどうなるかなんて事も気にならないくらい、ただただ異様な雰囲気に圧倒されてしまう

 そんな感じで本作品はその異様さ故に読んだ者に強いインパクトを与えるのだが、じゃあ面白いのかと問われると返答に困ってしまう自分がいる。と言うか本作品は異様さが目立ち過ぎて面白いのかどうか自分でもよくわからないのだ。だが、これだけは間違い無く言える。本作品は明らかに大衆向けのエンタテインメント作品ではないと

 本作品の連載当時に編集長を務め、「さらば、わが青春の『少年ジャンプ』」の著者でもある西村繁男などは作者と本作品を評して以下のように語っている

 話がすごく面白い人。でも肝心の漫画が全然面白くない。少なくともジャンプの読者からの人気は最下位だった

 なんとも辛辣であるが、その言葉の通りに本作品は連載開始間もなく巻末付近に追いやられて11話で最終回を迎えてしまい、そして本作品を最後に作者がジャンプを去る事で純血主義は完遂される事になる。またその誌面は、入れ替わりに連載が開始された「DRAGONBALL」に代表されるようなエンタメ全開の作品ばかりになり、本作品のように独特な雰囲気を持つ作品が連載される事もめっきり無くなってしまった。そういう2つの意味において本作品の連載終了は旧きジャンプの終わりを告げる出来事だったと言えるだろう

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 そんなジャンプのターニングポイントとなる本作品は、単行本が出版されてすぐに絶版となってしまった為に長らく入手困難であったが、今では電子書籍版が容易に手に入れる事が出来る。因みに「パットマンX」も同様に入手可能なので、興味を持たれた方はこちらも是非