黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

ジャンプナイズの功罪

 ジャンプを象徴する漫画ジャンルは?と問われれば、殆どの人は「それはバトル漫画である」と即答する事だろう。黄金期の看板である「DRAGONBALL」、現在の看板である「ONE PIECE」、そして映画の興行収入記録を塗り替えた「鬼滅の刃」など、ジャンプの歴史はそのままバトル漫画の歴史と言っても過言ではあるまい

 ただし、それらバトル漫画の全てが最初からバトル漫画を志向していたという訳ではない。中には最初は問題解決の手段としてクライマックスに数ページ程度のバトルが行われていたものが、読者の反応が良かったのか編集者の要望かどんどんバトルの割合が増えていき、いつの間にやら目的と手段が逆転してバトルの方がメインとなってしまったものも少なくなかったりする。「DRAGONBALL」なんかも元々はタイトル通りにドラゴンボールを巡る冒険活劇だったのが、いつの間にかバトルがメインとなり、ドラゴンボールは忘れた頃に出てくる便利アイテムと化していたという、まさにその典型例だと言えよう

 Wikipediaによると、このように作品をジャンプのカラーに合うように改変する事をジャンプナイズというらしい。そして、このジャンプナイズによって件の「DRAGONBALL」をはじめ、「幽☆遊☆白書」、「ジャングルの王者ターちゃん♡」など多くの作品がバトル漫画に変身し、人気作品となった訳である

 …が、全ての作品がジャンプナイズによって恩恵を受けた訳ではない

 

 そんな訳で今回紹介するのはジャンプナイズによって逆に魅力が削がれる結果となってしまったこの作品だ

 

 タイムウォーカー零(91年26号~48号)

 飛鷹ゆうき

 

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こんな自画像だが作者は女性である

 

 作者は88年、一条馨名義の「HERO⁉」で手塚賞佳作受賞。90年に増刊スプリングスペシャルに本作品の前身でありタイトルも同じ「タイムウォーカー零」が掲載されてデビュー。更に同年サマースペシャル、38号にも同タイトルの作品が掲載されて本誌デビューを飾る。そして連載デビュー作として翌91年26号から開始されたのが本作品である

 そんな本作品は、時間遡行能力を持つ刹那零が、依頼を請けて時間を遡り、未来を変えようと奮闘するSF漫画である

 物語の基本的な流れとしては、冒頭で依頼を持ち込まれた零が、渋りながらも依頼人やその関係者の境遇にほだされてて結局受諾。その原因となった事件の起こる前に遡って介入。それによって依頼人若しくは関係者の未来がどう変わったのかを描くというSFと人間ドラマを併せたようなスタイルで、1話から数話で完結するエピソードを重ねていく形だ

 主人公の零は右の掌に六芒星の形をしたアザがあり、ここにプラーナ(気)を集中させる事で時間遡行能力や瞬間移動などの超能力が使用出来るのだが、消耗が激しいので超能力を使用し過ぎたり体調が良くない時はアザが消えて超能力が使用出来なくなってしまう。その上、使用出来る超能力も戦闘向きの能力ではない為、時間を遡った先で揉め事に巻き込まれると一般人相手ですらピンチに陥る事も少なくない。そもそも相手を倒す事が目的ではないので逃げる事もあるし、最大のピンチが災害という場合があったりと、その活躍はジャンプの連載作品の主人公としては比較的地味な方だと言えよう

 それよりも焦点が当てられているのは依頼人(若しくはその関係者)の心の内であり、現在の後悔と遡った過去での葛藤、そして零の介入によって変えられた現在の様子の対比など、今読んでみるとベタな展開と思ったりもするが、それでもなお物語として楽しめるものが多い

 そう思っているのは私ではないようで、今回本作品を紹介するのにネットで調べてみると好意的な声もちょこちょこ見られる。なんだ、ちょこちょこかよ、と思われるかもしれないが、当ブログで紹介するような短期終了作品だと憶えている人もおらず、全く語られないような作品も少なく無いのだからかなり異例である

 だが、その作風は連載が始まって二ヵ月を迎えようとする頃からガラリと変質してしまう

 まず、零と同様の能力を持つ九条京介といういかにも漫画的なライバルが登場し、更に5つ集める事で全世界の人々の心を操る事が出来る漏尽珠といういかにも少年漫画的な秘宝の存在が明らかになり、この漏尽珠を巡ってバトルが繰り広げられるといういかにもジャンプ漫画的な話となってしまったのである

 この結果本作品独特の魅力が失われて、ジャンプによくある作品、それも正直作者の特性と合っていないので平均より下のものになってしまったというのが私の感想だ。そしてこれ以降本作品の掲載順は巻末近くに追いやられて22話にして連載終了、その後作者はジャンプで連載を持つ事はなかった

 本作品における作風の転換=ジャンプナイズは失敗だったのか? 結果から見れば失敗だったと言わざるを得ない。だが、そのままの作風で良かったのかというと、そういう簡単な問題ではなかったりする

 下のグラフを見て頂きたい

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 九条が登場して作風が変わったのは8話目の33号からだが、そこを境に一気に掲載順が落ちているのがわかるだろう。そして以前紹介した「ラブ&ファイヤー」でも説明したが、アンケート結果が掲載順に反映されるまでには4週程度のラグがあると考えられる

 つまり、元々の作風からして私や一部の読者からは好評だったものの、全体的な人気はイマイチだったのである。そして何とか人気を獲得しようと作風の転換を試みるも、逆に従来のファンにすら受け入れられなくなるという誰も幸せにならない結果になってしまったのだろうという事がグラフから読み取れる

shadowofjump.hatenablog.com

 ジャンプナイズという風習が悪などと言う気はない。上にも挙げたがジャンプナイズによって人気作品となったものは枚挙にいとまがなく、その功は非常に大きいものがある。それに本作品にしても、せっかく掴んだジャンプ連載というチャンスをフイにせず、作風を変えてでもなんとか連載を続けたいという作者や担当の苦悩や努力を考えると、そのままの方が良かったなどとは軽々しく口にはできない

 だが、それでもやはり当初の作風のまま最後までやり遂げる本作品が見たかったという気持ちは今も消えず、私の胸の中でわだかまり続けているのであった