黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

すもももロボも

 前回の当ブログの記事で、こせきこうじの事が語られるのは皆無であると述べたが、考えてみれば黄金期ジャンプで活躍した他の漫画家も同様の者が多い。なにせ黄金期が終焉してから既に二十五年以上が経っており、現在ではその頃の作品を読んだ事が無いという人も多く、読んだ人も記憶が風化しつつあるのだから当然と言えば当然である。悲しい事だが時は常に流れ続けているのだ

 一方、現在でも圧倒的な存在感を放つ者もいる。その筆頭と言えば、やはり鳥山明だろう。代表作である「DRAGONBALL」は十年以上にわたってジャンプの、いや、漫画の中心であり続けて読者の頭に深く刻まれているし、未だグッズが出続けTVアニメも放送中であるなど現在でも何かにつけて目にする事も多いのだから忘れようもない

f:id:shadowofjump:20220302192740j:plain

ファミコンジャンプミニのパッケージでも扱いが段違いである

 そんな鳥山明について当ブログで改めて語る必要はないだろう。ただ、1つだけ言わせて貰うならば、その功績は「DRAGONBALL」だけではなく、その前に連載されていた「Dr.スランプ」もまた大ヒットを記録し、世の中に大きな影響を与えた事も忘れてはならないと

 中でもTVアニメ版の影響は大きく、「DRAGONBALL」のようにバトルものではないのでファミリー層に広く受け入れられた為、むしろ少年層以外にはこちらの方が有名だと言ってもいいのではないのだろうか。中年世代には未だにレンズが大きく黒いセルフレームの眼鏡をアラレちゃん眼鏡と称する人もいる筈である

 そして、大ヒットを記録した作品はいつの世もフォロワー作品が作られるもので、「DRAGONBALL」が多くのバトル漫画を生んだように、「Dr.スランプ」もまたこちらの作品を生んだのであった

 

 すもも(85年23号~32号)

 天沼俊

f:id:shadowofjump:20220307190256p:plain

画像は電子書籍版です

 作者は津島匠名義で81年52号に「センセーションⅡ」が掲載されデビュー及び本誌初登場を果たす。翌82年に1月増刊に「ちはるチハル」、4月増刊に「ギャング&スター」、21号に「オレンジハウスA面」、24号に「オレンジハウスB面」、83年フレッシュジャンプ2月号に「ハローシンデレラ」とコンスタントに読切を掲載した後、二年半近くのブランクが空き、85年23号に天沼俊と名義を変えると共に本作品で連載デビューを果たしたのであった

 そんな本作品は、十六歳の少女雪野すももと、すももの家に届けられたお手伝いマシーンICX-777はたらき小僧との暮らしを描いた近未来ロボットコメディである

 時は今となっては近未来ではなく過去となってしまっている2001年の鎌倉CITY。幼くして父を亡くし、母も多忙でほとんど帰ってこず、ほぼ一人暮らし状態のすももの家にはたらき小僧が届けられる。しかし、広告では従順で働き者のアンドロイドだった筈だが、実際に届けられたはたらき小僧は見た目そのままのいたずら小僧であり、まるで姉弟のような2人、いや、1人と1体の共同生活が始まる

 ところで、人間と人間型ロボットとの共同生活という題材は別に「Dr.スランプ」の専売特許ではなく、「ドラえもん」などもそうであるように昔からフィクションの世界では見られる題材である。それなのに本作品を「Dr.スランプ」のフォロワーと断じたのは、無駄に凝ったメカの描写や、イラストチックでどこか海外の香りがするオシャレなタッチの画風など鳥山明を連想させるものが多いからである

 ただ、本作品は「Dr.スランプ」と比べると、全体的にマニアック寄りな印象を受ける

 まずキャラデザインにおいては、後に青年誌でエロティックな漫画を描いている事からもわかるように、作者の描くリアルタッチではないのに妙に性的魅力があり、そこを売りにしようとしているのか露出シーンも散見されるし、作品の舞台については、本作品の舞台は鎌倉CITYという今となっては間違った昔の近未来観が懐かしい。加えて、意図的なのか手が足りないのか余白の多い作画と相まってオシャレサブカル感あふれる雰囲気が味わえる。そして登場キャラは基本的にすももとはたらき小僧のみ、あとはたまに出て来るボーイフレンドの宗近を除くとほぼモブしかおらず、舞台もすももの家とごく近所のみという狭い世界で全て完結してしまっている

 それらは本作品独自の魅了を醸し出していると同時に、尖っていて取っつきにくさを感じる要因でもある。対照的に「Dr.スランプ」の女性キャラが良くも悪くも性的魅力を感じさせず健全であり、その舞台は則巻家周りは同じようにオシャレサブカル感があるものの、ペンギン村全体で見ると牧歌的な雰囲気に包まれて尖った感じを軽減させ、取っつきやすい印象を与えている。こんな雰囲気だからこそ「Dr.スランプ」のTVアニメはゴールデンタイムに放送され、ファミリー層に好評を得たのだろう

 一方、本作品が繰り広げるシュールな日常劇は例えるなら深夜番組であり、ハマれる人にはとても魅力的に映るが、そういう人は決して多くない

 深夜番組の中にもゴールデンタイムに昇格して成功した例もあるが、ゴールデンタイムに昇格したら視聴者に受け容れられずに速攻で終了してしまうケースがよくあるように、本作品もまたジャンプでは受け容れられずに10話で終了してしまったのもやむなき事だっただろう

 だが、殆どの深夜番組はゴールデンタイムに昇格する事なく終了してしまう。そんな中、黄金期ジャンプという漫画界のゴールデンタイム中のゴールデンタイムに連載を持ったという事実は揺るぎようがない。それは多くの人間が夢見ても叶わぬ事なのだから

f:id:shadowofjump:20220303194457p:plain