黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

ジャンプ黄金期における初の連載終了作品

 ご存じの方も多いと思うが、三日後の2月17日に発売されるウルトラジャンプ3月号で「ジョジョの奇妙な冒険」の第9部にあたる「The JOJOLands」の連載が開始される。それを記念して今回はこちらの作品を紹介したい

 

 バオー来訪者(84年45号~85年11号)

 荒木飛呂彦

 

 作者のデビューの経歴についてはこちらを参考にされたし

 

shadowofjump.hatenablog.com

 そして「魔少年ビーティー」の連載終了後、84年45号から本作品の連載を開始したのであった

 そんな本作品は、秘密機関のドレスによって宿主に超人的な能力を与える寄生虫のバオーを寄生させられた少年の橋沢育朗が、ドレスの刺客と闘いを繰り広げるバトル漫画である

 主人公の育朗は両親共々交通事故に遭って病院に運び込まれたところ、実験材料を求めていたドレスによって両親は殺され、本人はバオーを寄生させられてしまう。バオーはドレスの科学者である霞の目博士によって創り出された新種の寄生虫で、宿主に危機が訪れるとその命を守るべく精神を麻痺させてコントロールを奪い、無敵の肉体に変身させるバオー武装現象(アームドフェノメノン)という現象を引き起こし、手のひらから出る特別な液で物質を溶かすバオー・メルテッディン・パルム・フェノメノンや6万ボルトの高圧電流を発するブレイク・ダーク・サンダー・フェノメノンなど様々な能力が使えるようになる。その能力は成長と共に更に進化するが、仕舞いには宿主の体内に卵を産み付け、やがて孵化した幼虫が体を食い破って外に飛び出し、世界中に伝染するという恐ろしい生物兵器であった

 そしてバオーが成長しないよう仮死状態にされて列車で運ばれる途中、同じくドレスの実験材料にされていた超能力少女のスミレによって目覚めさせられてしまった育朗はスミレと一緒に列車から脱走するのだが、バオーの秘密保持と、幼虫が世界中に飛散してしまうのを防ぐ為に育朗を抹殺、焼却しようとドレスが差し向けた刺客につけ狙われるようになる。というのが本作品のあらすじだ

 

 ところで、「魔少年ビーティー」から本作品までの約一年間で作者を取り巻く環境は大きく変化している。というのも、この間に作者は活動拠点を生まれ故郷である仙台から東京へ移しているからだ。そしてその結果、東京で様々な刺激を受けた事により、作品の方もまた大きく変化する事になる

 まず変化が目につくのは絵柄で「魔少年ビーティー」の時はそのダークな作風に反して子供向けなタッチであり、特にキャラの服装に関しては適当極まりないものであったのが、本作品ではまだ技術的に未熟で洗練されていないながらもちゃんと描こうという姿勢が見られるし、バオー武装現象が起きた時の育朗の異形と言える姿は「ジョジョの奇妙な冒険」での石仮面の男たちや幽波紋などを連想させられる。他にも作中でキャラが取る奇妙なポージングや独特の擬音、更にはバオー武装現象時に使用される能力のバオー・リスキニハーデン・セイバー・フェノメノンとかバオー・シューティングビースス・スティンガー・フェノメノンといったよくわからないが凄そうなネーミングセンスやキャラが発する「バルバルバルバルバル」とか「ドッゲエーッ」という妙な掛け声なども同様であり、そういう意味では「魔少年ビーティー」と同様、本作品もまた「ジョジョの奇妙な冒険」のルーツと言えよう

 ただし、本作品はあくまでルーツの、しかも片割れでしかない。設定など光る部分もあり、相応のインパクトは与えたものの、この時点では作者の技量も発展途上だったのもあってそれを充分には生かされていないという印象だ。特にビジュアル面はまだまだ発展途上で「ジョジョの奇妙な冒険」の域には程遠く、絵で動きを伝える能力も低いのでそれを補う為全体的に説明過多でテンポが悪く感じられる事は重大な欠陥である。結果、本作品は連載開始後すぐに掲載順が急降下、しまいには10号連続巻末掲載という惨憺たる記録を残してジャンプ黄金期における連載終了第1号となってしまったのであった(因みに第2号は「男坂」)

 それでも本作品が無ければ「ジョジョの奇妙な冒険」が生まれる事も無かったのも事実であるので、その新エピソードである「The JOJOLands」が始まる今のタイミングで読み、その源流と作者の成長を感じるのもいいのではないだろうか。短いので余程忙しくなければウルトラジャンプが発売される17日までに読み終える事が出来るし。また、後に「ジョジョの奇妙な冒険」がヒットした影響か、89年になってOVA化もされているが、こちらはパッケージ版は現在入手困難でストリーミングサービスもないようなので見て頂きたいなどとは軽々しく言えない。というか、私も見た事ないし