黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

色無き世界の色男

 当ブログでは前回ジャンプ二大ヤンキー漫画の1つ、「BØY」の作者である梅沢勇人(梅澤春人)の作品を紹介した。ならば、二大ヤンキー漫画のもう1つ、「ろくでなしBLUES」の作者である森田まさのり作品を紹介するのが筋であろう

 …と言いたいところだが、残念ながら森田まさのりがジャンプで連載した作品は前述「ろくでなしBLUES」の他に「ROOKIES」、「べしゃり暮らし」と残念ながら短期終了作品は存在しない(「べしゃり暮らし」はジャンプ連載分だけなら短期終了作品とも言えるが)。いや、作者からすれば残念でも何でもないのだが

 なので、今回は代わりに森田まさのりのアシスタントであった作者によるこの作品を紹介したい

 

 原色超人PAINTMAN(93年14号~25号)

 おおた文彦

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作者自画像

 本作品の連載当時は作者が森田まさのりのアシスタントだったという事を知らなかったので見比べようなどと思わなかったが、改めて師弟の画を見比べてみると作者の方は当時デビューして間もないという事もあってタッチはかなり粗い。が、顔の陰影のつけ方や、口を開けた時に下唇が突き出るような感じなどに師の影響が見て取れる

 作者は90年に高校卒業後、森田まさのりのアシスタントとなる。因みに森田まさのりとは同郷(滋賀県)の上、単行本1巻に寄せられた同氏のコメントによると恩師も一緒だったというが、出身校まで一緒だったのかは残念ながら調べてもわからなかった。尚、同門には以前当ブログで紹介した「神光援団紳士録」の岩田康照もいる

shadowofjump.hatenablog.com

 

 その後91年に「ペイントマン」でホップ☆ステップ賞佳作受賞、翌92年増刊スプリングスペシャルに掲載されてデビューを飾る。同年サマースペシャルに設定を引き継ぎ題名を少しだけ変えた「原色超人ペイントマン」を掲載、それが連載化にあたりペイントマンをPAINTMANと英語つづりに変えて93年14号から開始されたのが本作品だ

 そんな本作品は、新米の小学校教師である一色彩人が、ドゥ・トゥーン・ボーリ星の王子であるクィン・ダ・ウォーレⅡ世から授けられた超人原色でペイントマンに変身し、クィンを追って地球にやってきたケェアニ・ド・ルァークの一族と生徒たち及び地球を守るために戦う変身ヒーロー漫画である

 ドゥ・トゥーン・ボーリやらクィン・ダ・オーレやら語感の悪いカタカナが出てきて戸惑った人もいるかもしれないが、落ち着いてよく見て欲しい。何の事は無い、道頓堀に食い倒れ、かに道楽と関西由来の名前をもじっただけである。作中には他にもアディ・グル・スーだのジャ・ロートァ・イーグだのが出てくるのだが、これらも元ネタがあるのだろうか。あいにく私は関西に縁が薄いのでわからない

 ところで、ジャンプの黄金期において生徒たちを守る為に戦うといえば「地獄先生ぬ~べ~」を、地球を守る為に戦う変身ヒーローといえば「とっても!ラッキーマン」を連想する人も多いだろうし、その中には本作品を両者からパクっていいとこどりをしようとした作品と思ってしまう人もいるかもしれない。が、本作品の方が先に連載が開始されているので誤解なきよう。むしろ両者の方が本作品からパクったのかもしれない…いや、ないか

 そんな本作品の一番の特徴は、ペイントマンの名前の通り、彩人が赤、青、黄という三色の超人原色を体に塗る事によって変身する事だ。この超人原色は、赤は空中飛行、青は筋肉超増強、黄は五感超進化、と塗る色によってそれぞれ異なる能力が得られる。加えて、色を混ぜる事で更に強力な能力、例えば青と黄を混ぜて緑にする事によって武装変形の能力が得られるという風に、色の特性を生かしたギミックがあってなかなか面白いアイデアである

 のだが、ここで問題が1つある。ジャンプは、いや、ジャンプに限らず漫画というものは基本的に白黒で描かれるものだという事だ。その結果、色を塗る、色を混ぜるという本作品の肝であり見どころでもあるシーンが何色なのか視覚的にわからないという残念な事になってしまったのである

 この問題は読切の段階で気付いてもよさそうなものだが、作者や編集者はどう考えていたのだろうか。デビューする事に必死で見落としていたのか、それとも気付いていたけど読切が好評だったから大した問題ではないと高を括ったのか

 いずれにしてもいくら読切で好評だったからといって連載でもそうだとは限らない。何せ他の連載陣も皆、読切で好評を博して連載を勝ち取った作品であり、今度はその中で争わなければならないのだから。そして各作品がそれぞれの特色を出してなんとか連載存続を図る中、白黒な為に特色を充分に出せなかった本作品は、当時誌面で「キン肉マン」のオリジナル超人募集のように読者から怪人を募集したにもかかわらず、結局作品に登場させる事の無いまま僅か11話にして終了してしまったのであった

 

 

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 本作品の終了後、作者は二度とジャンプ作品が掲載される事も無く、話によると再び森田まさのりのアシスタントに戻ったという。一方、皮肉な事に本作品の終了後僅か数カ月のうちに「とっても!ラッキーマン」(同年35号)、「地獄先生ぬ~べ~」(同年38号)の連載が開始され、共にアニメ化されるほどのヒット作となってしまう。それを見て作者は一体何を思ったであろうか