黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

BØYエピソード0

 以前にも述べた覚えがあるが、ジャンプ黄金期における二大ヤンキー漫画といえば、森田まさのりの「ろくでなしBLUES」と梅澤春人の「BØY」である。まあ、二大も何も他にめぼしいヤンキー漫画が無いといったらそれまでだが

 さておき、そんな二大ヤンキー漫画の片割れである「BØY」にはこのようなサブタイトルが付いている事はご存じだろうか

 

 HARELUYAⅡ

文庫版でもこの通り

 HARELUYAは主人公の日々野晴矢だとして、Ⅱとはどういう事だろうか? その答えは今回紹介するこの作品にある

 

 HARELUYA(92年26号~35号)

 梅澤春人(正式には梅の右側は毎ではなく每)

作者自画像

 

 「酒吞☆ドージ」までの作者の経歴はこちらを参考にされたし

 

shadowofjump.hatenablog.com

 そして「酒吞☆ドージ」の終了後、91年増刊サマースペシャルに梅澤勇人名義で本作品と同タイトルの「HARELUYA」を掲載、そして翌92年26号から梅澤春人名義に変えて本作品の連載を開始したのであった

 

 単行本の表紙を見ればわかると思うが、前作品は絵が少し泥臭い感じがしたのに対し、線がスッキリして洗練されたように見える

 …という事ではなく、そのタイトルからも大きく描かれている主人公の顔からも、後の「BØY」に多大なる影響を与えた作品である

 似ている、というか同じなのは見た目だけではない。主人公の名前もハレルヤ(晴矢ではない)だし、尊大な態度もそのまんまだ

 しかしながら、両者には決定的な違いがある。それは本作品の主人公は神様だという事だ。比喩とかあだ名やではなく、本当の意味での神様なのである(厳密には次代の神となる存在だが)

 神様の跡継ぎでありながら人間を嫌い、あまりの放蕩ぶりに天上界から追放され人間に転生させられたハレルヤが、山ノ上教会に世話になり人間と触れ合っていくうちに人間愛に目覚め、神様としてふさわしい者に成長するというのが本作品のテーマとなる

 「BØY」以降の作風から作者は現実的な設定のヤンキー、アウトロー漫画を好むイメージがあるが、デビュー作の「南方遊伝」は西遊記モチーフ、以前紹介した「酒吞☆ドージ」は酒吞童子をモチーフにしたSFと、本来はファンタジックな漫画を好むのかもしれない。昨今のブームに乗った感もあるが昨年からヤングエース異世界転生ものの「異世界行っても少年マンガの主人公は1ミリもブレない!!!」の連載を開始しているし

 とまあ、そんな設定であるので、本作品は最初は天上界から地上に落とされて神の力を失っても心を改めようとしないハレルヤが、苦労しながらもなんだかんだで人助けをするという人情噺風味のファンタジックコメディとなっている。これはこれで面白いのではあるが爽快感に欠けるきらいがあり、少年漫画、とりわけジャンプ向けの作風ではないと感じられる。個人的感想ではターゲットはもう少し上の年齢層で、しかも漫画よりドラマに合いそうだ。深夜枠で低予算の

 しかし、このままではあっという間に連載終了になってしまうと編集者など外部からのサジェスチョンがあったのか、それとも最初から構想があったのかは知らないが、本作品はここから路線の変更を図る。ハレルヤが日々野晴矢という偽名で高校に通いだすと神様という設定は殆ど意味をなさなくなり、同じ学校の生徒で、見た目も名前も画家になりたいという夢も一緒な岡本清志郎や、名前は違うが明らかに一条のモデルと思われる氷室などと絡む姿は普通に態度のデカい高校生のそれで、完全に学園漫画、というか「BØY」の雰囲気そのままになったのであった。因みに他にも春香先生のモデルと思われる山之上教会のシスターマリアや、「BØY」では序盤の宿敵となる神崎なども登場したりする

 その路線変更は功を奏しなかったとも奏したとも言える。というのも、本作品は冒頭の掴みが余程が良くなかったのか結局短期終了作品の中でもかなり短めな全10話で終了してしまったので、作品としては全く功を奏さなかったのであった


 であるが、終了が決定してから評価が上がった為に再び本誌に読切を掲載するチャンスを貰え、92年43号に本作品の後半部分をブラッシュアップした文字通りのHARELUYAⅡである「BØY」を掲載、好評を得て同年50号から連載が開始される事になり、そしてご存じの通り大ヒットを飛ばすのだから作者としては大いに功を奏したと言えるだろう。結果として本作品の転換点は、同時に作者にとっても非常に大きな転換点となったのである