黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

あの人気作品との共通点は

 突然だが、あなたはヤンキー漫画と言えば何を思い浮かべるだろうか?

 「BE-BOP-HIGHSCHOOL」、「疾風伝説 特攻の拓」、「今日から俺は」、「カメレオン」等々、80年代から90年代にかけてはヒットしたヤンキー漫画が各誌で数多く誕生した為、思いつくタイトルは人によって千差万別だと思う。が、ここに「ジャンプで」という前置きをつけたならば、思い浮かべるタイトルは2つしかないのではなかろうか

 その2つとは勿論「ろくでなしBLUES」と「BØY」である

 どちらも長い事連載が続いたジャンプの二大ヤンキー漫画と言えるのだが、私個人の意見としてとしては悪役のキャラが本当にクズみたいなのが多く、それを晴矢がぶっ飛ばすという単純な構造で爽快感のある「BØY」の方が好みで、単行本も購入していたものだ。…後半になるにつれ悪役キャラの悪事がインフレして、いくら漫画だとしても洒落にならん重犯罪レベルまでになったのにドン引きして途中で購入を止めてしまったが

 

 そんな訳で今回紹介するのはそんな「BØY」の作者によるこの作品である

 

 酒吞☆ドージ(90年15号~30号)

 梅沢勇人

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作者自画像

 まず触れるべきはペンネームだろう。梅「澤」「春」人ではなく梅「沢」「勇」人。もっと厳密に言うなら現ペンネームは梅の旁の部分が「毎」ではなく「每」と書く旧字体なのだが、変換方法がわからなかったので不本意ながらそのままにしておいた。ところでWikipediaには旧ペンネームは「うめざわまさと」と読むと書いてあるのだが、ソースは何処なんだろうか? 少なくとも単行本の奥付には©Hayato Umezawaと書いてあるのだが

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画像は荒いが頭文字がMではなくHなのはわかるだろう

 作者は北条司に師事し、88年に「南方遊伝」がホップ☆ステップ賞入選、同年増刊サマースペシャルに掲載されてデビュー。同年オータムスペシャルにも「炎のマリア」を掲載している。89年スプリングスペシャルには「南方遊伝 初戀地獄編」が掲載。因みに作者はこのタイトルに思い入れがあるのか、ジャンプが653万部という発行部数記録を打ち立てた95年3・4号でも設定を少し変え、タイトルも「NANPO U DEN」とローマ字に変えた読切を、当時連載中であった「BØY」と共に掲載している

 

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 その後同年サマースペシャルに掲載された「酒吞ドージ」が同年39号に掲載されて本誌初登場を飾ると、これが連載化されて翌90年15号から開始されたのが本作品である

 さて、作者の漫画と言えば上に挙げた「BØY」以外にも「無頼男」、更にヤングジャンプに移ってからの「カウンタック」と、現代が舞台でやんちゃな男どもが沢山出てくる作品が多いというイメージだが、本作品はタイトルと単行本のカバーイラストからしてそんな作品ではない事は想像がつくだろう。そう、本作品は大江山酒呑童子伝説をモチーフにした物語である

 作者のイメージからはかけ離れているかもしれないが、実は古史古伝をモチーフにしたものは本作品だけではない。デビュー作である「南方遊伝」は西遊記を、「炎のマリア」はジャンヌダルクをそれぞれモチーフにしたもので、この時期の作者の常套手段であったのだ

 ただし、あくまでモチーフとしただけで内容の方は元ネタとはだいぶ違う。「南方遊伝」は三蔵法師の三代目と孫悟空の孫娘の恋話であるし、「炎のマリア」はジャンヌダルクが火刑に処された後、神の導きによって異世界を渡り歩くという内容で、設定にフレーバーが感じられる程度の全く別の話と言ってしまってもいい作品になっている

 そして勿論、本作品にも大胆なアレンジが加えられている。共通点は名前と酒が好きという所くらいで、舞台は大江山どころか日本ですらないし、時代も酒吞童子がいたとされる平安時代でもなければ現代でもない。主人公のドージが妹のシズカ、ダビンチ星人のポンと共に星から星へと渡り歩くというSF漫画なのである

 基本的な話の流れは、酒を飲むほどに酔うほどに力をまし、その手で惑星をも破壊できるという伝説の超戦士である酒吞星人のドージが行く先々で酒を飲んでは悪事を働く。のではなく、逆に悪事を働く連中をぶちのめすというものであり、ぶちのめされる連中は善人を虐げる下衆ばかりと、時代劇のような非常にわかり易い勧善懲悪ものになっている

 こういった特徴は作者の代表作である「BØY」とも共通しており、まさに私好みの展開である。加えて言うならば、本作品は別のある作品とも共通したものがあったりする

 その作品とは黄金期ジャンプの大看板の「DRAGONBALL」だ

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 伝説の超戦士という酒吞星人の肩書はサイヤ人と近いものがあるし、それに何といっても「DRAGONBALL」もまた主人公の名前が孫悟空というところからもわかるように元々は古史古伝西遊記をモチーフにした作品なのである

 作者の代表作である「BØY」だけでなく「DRAGONBALL」とも共通したものを持っているとあれば本作品もヒットする素地は充分にあると言っても過言ではない。…いや、過言だった

 なにせ「DRAGONBALL」は如意棒や筋斗雲といった西遊記由来のものは早々にぶん投げてしまっているし、サイヤ人の設定もそこまでオリジナリティのあるものではなく、そこが共通していたところでヒットする程ジャンプは甘くないし、そもそもSFはジャンプの読者層にはウケが悪い。更に間が悪い事に、本作品の連載時はちょうどサイヤ人にスポットが当たるフリーザ編の真っ最中で大盛り上がりとあっては連載デビューしたてでまだ画力も話作りも未熟な作品に注目する読者は少ない。結局本作品は「DRAGONBALL」との類似点を指摘される事すら無く15話で終了してしまったのであった

 

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