黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

絶滅危惧種の応援団漫画

 現在大学や高校の応援団は全国的に存続の危機にあるという。ただでさえ少子化で生徒数が減っているうえに厳格な雰囲気が敬遠されて、各校で応援団が消滅したり、存続はしていても団員の数は僅か数人という有様だそうだ

 とは言え、それは現在に始まった事ではなく、私が高校生であった90年代には既にその兆候はあったのではないかと思う

 他の学校の事は知らないが、少なくとも私の通っていた高校だと、応援団どころか自分の高校の応援をする事にすら興味が無い生徒ばかりで、当然のように応援団を希望する者などおらず、仕方なしに各クラスから1人応援団に入る者を選出するという生贄のようなシステムとなっていた。おかげで私の代の応援団長はチビでメガネでヲタクという応援団のイメージとは真逆の人物がやっていた、いや、やらされていたものである

 

 そんな訳で今回紹介する作品は応援団を主題にしたコレだ

 

 神光援団紳士録(96年12号~29号)

 岩田康照 

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 作者の岩田康照は90年に「陽の当たる場所へ NO TIME NO CRY」で手塚賞佳作を受賞、92年には「SCATTER BRAIN」でホップステップ賞佳作を受賞すると共にジャンプ増刊に掲載されてデビュー、その後も増刊に幾つか読切作品を掲載しつつ、森田まさのりのアシスタントを経て96年に本作品で本誌デビューにして連載デビューを飾る事となる

 そんな本作品のあらすじはこんな感じだ

 中学時代は女性にフラれまくりだった杉山ヒデキチは、神光高校の入学初日にチアガールの薫に一目惚れし、彼女へ近づきたいが為に応援団へ入る事を決意。同じようにチアガール目的で希望する者も多かったが、各種スポーツが盛んな神光は応援団も伝統があって指導が厳しく殆どは初日で脱落、残ったものはヒデキチを含め5人しかいなかった。そしてチアガールと行動を共にできるのは試合当日くらいだという事をヒデキチが知ったのは入団後の事であった

 

 …なんというか、応援団をバスケットボール部に変えればまんま「SLAM DUNK」だ。残った新入団員5人も上に載せた単行本1巻に描かれているが、デブが1人いる事も含めて完全に花道軍団である

 とは言え、一目惚れした女性目当てでそれまで経験の無いスポーツ(本作品は応援団だが)を始めるというのは他でも見られる事であるし、5人組で1人がデブというのも古くはゴレンジャーのキレンジャー、ジャンプでも「ハイスクール(三年)奇面組」の大間仁(デブではなく食いしん坊だが)と珍しくはない。そういう意味では本作品は王道を行っているとも言える。

 ところで、現実はどうかは知らないがフィクションの中での応援団と言えば、コワモテで喧嘩っ早い荒くれ者の集団というイメージがある。作者の師にあたる森田まさのりの「ろくでなしBLUES」でもそんな感じだったし、応援団漫画の代表格と言える「名門!多古西応援団」なんかも喧嘩がらみのエピソードばかりという印象だ

 しかし本作品は違う。暴力沙汰を起こすと運動部に出場禁止処分が出たりして迷惑が掛かるからと、基本的に喧嘩はNGと言い聞かせてある。ただし、これだけは譲れないという時はとことんやって絶対勝てとも言っているし、団員同士では手が出る事は珍しくないのだが

 では喧嘩がNGとなれば何をするのか?応援及びその為の鍛錬である

 まあ、応援団なのだから当たり前といえば当たり前の話だ。が、その当たり前の話をやってしまうと問題が出てきてしまう

 と言うのも、応援という行為には勝敗が無いので見せ場が作り辛いのだ

 勿論応援する対象には勝敗があるが、応援団がプレイする訳では無いのだから直接試合に介入出来ず、エールで選手を力づけるくらいしか出来ないのである

 実際、作中では野球部の応援をしていて、エースピッチャーがスタミナ切れで崩れそうなところを応援団のエールで立ち直るというエピソードがあるのだが、他にどんなエピソードを作れるのかというと、応援で実力以上の力が出せたとか、逆に相手が圧倒されて縮こまってしまうとか似たようなものしか作れないであろう。例えば応援によって選手がスーパープレイを見せたとかになると、それはもう応援団の物語ではなく選手側の物語になってしまう

 そう考えるとフィクションの中での応援団が喧嘩っ早いのも納得がいく。要するに応援という行為は物語を彩るサイドエピソードにはなれてもメインエピソードにはなり辛いので他のエピソードに頼る必要があったのだ

 

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王ロバがいなければ7回巻末をとっていた

 結局本作品は応援エピソードのバリエーションに困る以前に僅か17話で終了となってしまう事になる。応援団を主題とした本作品であったが、応援してくれる読者は少なかったようだ。だが、応援団自体が絶滅危惧種となっている現状では今後応援団を主題とした作品が再びジャンプの誌面を飾る可能性はゼロに近いだろう。そういう意味では本作品は非常に貴重な過去の遺産だと言える