黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

巻来功士の夢の終わりと新たな夢の始まり

 当ブログでは前回、前々回と巻来功士の「メタルK」を、その裏事情を綴った「連載終了!」を交えて紹介したが、「連載終了!」は作者がジャンプの専属契約を解消するまでが描かれているので、せっかくだからそこまでを作者最後のジャンプ連載作品と併せて紹介したい

 

 そんな訳で今回紹介する作品はこちらだ

 

 ザ・グリーンアイズ(89年40号~90年10号)

 巻来功士

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 早速本作品の紹介に入る前に、まずは「メタルK」の連載が終了してから、本作品の連載が開始するまでの流れを「連載終了!」の内容に沿って触れていきたい

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 「メタルK」は僅か10話で終了してしまったが、話が進むにつれ人気が上昇してきたおかげか、すぐに編集部から作者に次回作の要請が来た。しかも、担当によるとネームが出来たら即連載らしいという、実績の無い作者に対しては破格の扱いで

 だったら「メタルK」を終わらせるなよと釈然としない気持ちを抱きながらも、作者はSF、ホラーといった自分好みの要素をてんこ盛りにしたネームを提出し、アッサリと通って87年24号から「ゴッドサイダー」の連載が開始される事となる

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画像は電子書籍版です

 この作品は作者のジャンプ連載作品の中で一番連載期間が長い上、主人公の鬼哭霊気がジャンプの創刊二十周年記念作品であるファミリーコンピュータ用ゲームソフト「ファミコンジャンプ」に、あの「こち亀」の両津勘吉らを押しのけてプレイアブルキャラクタとして登場したという事もあり、作者の作品の中ではずば抜けて知名度が高いだろう。…連載は「ファミコンジャンプ」発売前に終了してしまったが
 しかし、そんな「ゴッドサイダー」の連載中でさえ、作者は編集部に振り回されていた

 連載開始早々にまたも担当が鈴木晴彦に交替、その後一旦松井栄元に戻るも、松井が異動した為、更にKという編集者にと担当がコロコロと替えられていく。しかも、このK、他の編集者と違ってなんでわざわざイニシャルにされているのかというと、作中ではろくでなしに描かれているからだ

 例えば作者はKからこんな言葉を浴びせられている

 「…巻来君…副編集長がボクの肩に手を置いて何度も聞くんだよ…

  『ゴッドサイダー』の最終回はいつになるって…何度も…何度も…」

 おそらくKとしては発奮を促す為の言葉だったのだと思う。が、元々感性が合わないのかKに対して良い感情を持っていなかった作者からしたら嫌味以外には聞こえず、Kに対する悪感情は積もっていくばかりであった。そんな状況ではモチベーションが上がる訳もなく、Kの言葉通りに「ゴッドサイダー」は88年51号で最終回を迎えてしまう

 それでも「ゴッドサイダー」はヒットの部類には入る作品である為か作者の元にはまた連載の要請が舞い込み、そして作者のジャンプにおける最後の連載作品となる「ザ・グリーンアイズ」が89年40号から開始されたのである

 そんな本作品は両親と共に搭乗した飛行機を、世界を裏で動かしている巨大武器密売組織であるシャドーカンパニーオブアメリカ、通称カンパニーに撃墜されアマゾンの密林に墜落するも、命を取り留めた蘭妙広樹が、同じ飛行機に乗っていたダーズリー博士が持っていた通称ダーズリーレポートを奪う為に差し向けられたカンパニーの改造人間と戦いを繰り広げるバイオレンスアクションである

 一連の巻来功士作品を紹介するにあたって本作品と「メタルK」を続けて読んでみたら、両作品を構成する要素は非常に似通った部分と真逆な部分の両面が見られ、両作品は言わば鏡写しの関係にあると感じられた。非常に似通った部分の例を挙げると戦う事になる組織はどちらも闇の組織であるし、その組織に両親諸共殺されかかったというのも、組織の刺客が生物実験で生まれた改造人間というのも一緒。一方真逆な部分はというと、「メタルK」の主人公は女性であり、科学の力で蘇ったサイボーグであるのに対し、本作品の主人公は男性で、自然の力を駆使する野生児等等という感じだ

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 でありながら、いや、であるからなのか、私は本作品に関して「メタルK」ほど強い印象を受けず、最近になって単行本を購入するまでタイトルすら忘れていた程だ。そしておそらく他の読者の多くもそうだろう。同じ系統の作品ならば先に触れた作品の方に強い印象を受けるのは必定で、だからこそ後発作には先発作とは違う強力な何かが必要なのだが、本作品の違いはあまりインパクトのある違いではなかった。結果、本作品は話題になりながらも編集部の都合で短期終了させられてしまった「メタルK」とは違い、順当に21話にして連載終了となってしまう

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 その直後作者は転換期を迎える事となる。きっかけは元担当でスーパージャンプ編集部に移籍していた鈴木晴彦からの依頼で初めて青年誌に読切作品の「ミキストリ 太陽の死神」を描いた事だ。この作品は読者の反応も良くアンケートで2位を獲得しのだが、それ以上に作者にとって大きかったのは、少年誌の枠を気にせず自由に描ける事の精神的解放感である

 一方担当のKとの関係は冷え切っていて、連絡も少なく、ネームを見せても淡白に却下されるという日々が続いていた。我慢しきれなくなった作者は編集部に電話を掛け、担当を代えて貰うよう頼み込み了承されるが、これは業界ではタブーとされた行為だった。新担当は右も左もわからず、まともに打ち合わせも出来ないド新人で、作者は半ば干されてしまう

 この時期、作者はまだ漫画家なら皆が望むと言っても過言ではないジャンプの専属契約を結んでいたのだが、それは最早ジャンプとの関係が冷え切ってしまった作者にとっては他誌での執筆を妨げる足枷でしかなかった。そして決断した作者は自ら願い出てジャンプの専属契約を解消し、ジャンプから旅立った。「機械戦士ギルファー」で連載デビューを果たしてから五年後の事である

 改めて作者のジャンプ時代を振り返ってみると、編集部に翻弄され続けた五年間であった。勝手に原作をつけられ、最初から短期終了ありきで連載を始めさせられ、そして担当をたらい回された末に担当の交代要請というタブーを侵さざるを得ず、結果干されてしまったり。もし担当に恵まれていたなら作者の未来は違っていただろうと想像すると、誰が担当になるかという事は漫画家にとって非常に大切な問題だと思わずにはいられない

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右上から時計回りに堀江信彦、松井栄元、鈴木晴彦、K

 しかし、同時にこうも思う。冷たい言い方だが、所詮ジャンプ編集部にとって作者はその程度の存在でしか無かったのだと。ジャンプでは異質な存在でコアなファンもついていたが、全読者数との比率では取るに足りず、他にいくらでも替えの効く存在だと。まあ、そもそも「キン肉マン」が終了しても「北斗の拳」が終了しても部数が伸び続けた当時のジャンプに替えの効かない存在など鳥山明しかいなかったかもしれないが

 ジャンプを離れた後、青年誌で長く充実した漫画家人生を歩む事になった作者にとって、ジャンプ時代は喜びより苦しみの方が多かったかもしれない。だが、そう歩めたのはあの「メタルK」の、「ゴッドサイダー」の巻来功士という肩書も大きかっただろう。そう思うと苦難の時代は同時にかけがえのない時代だったのではないだろうか