黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

教師シンビン物語

 前回当ブログではジャンプの連載作品の入れ替わり周期を1つのサイクルと定義して、ジャンプ黄金期の最初のサイクルである黄金期第1期を掘り下げてみた訳だが、実は当初の予定では第1期だけじゃなく同時に第2期も掘り下げて両時期のデータを比較してみるつもりだった。それが予定を変更して第1期だけになったのは、書いている途中で第2期に連載が開始された短期終了作品をまだ紹介していない事に気付いたからである

 という訳で、今回紹介するのはその第2期に連載が開始されたこちらの作品だ

 

 ミスター♡ライオン(85年12号~21号)

 大西志信

作者自画像

 作者は82年に「ディア・トミカ」で手塚賞佳作受賞。83年フレッシュジャンプ8月号に「ACE-001」が掲載されてデビューを飾る。そして同タイトルで同年12月号、翌84年2月号、8月号にも掲載された後、85年12号から本作品で本誌初登場にして連載デビューを果たしたのであった

 本作品の主人公である獅子堂大介巡査は、正義感は強いものの制御が効かない乱暴者で、ある時襲撃してきた連中を逆に全員病院送りにしてしまった事から停職一年の処分を受けてしまう

 一年も仕事がないと干上がってしまうと抗議する大介に署長が紹介したのは、なんと全寮制の女子中である姫館学園の代用教員の職であった。女性が苦手な大介は三日でクビになっても知らんとヤケになる一方、男性嫌いの女生徒たちはいじめて追い出してやろうと意気込むのであった。というのが本作品のあらすじである

 因みにタイトルにあるシンビンとは、ラグビーで悪質な反則を犯した選手が一時的にフィールドから退出させられる事で、主人公が警察から停職を食らった事をシンビンになぞらえた上で往年のTVドラマ「教師びんびん物語」と掛けたダジャレである。…説明するのも恥ずかしいが、ピンと来ない人の方が圧倒的に多いと思うので

 ところで、上に挙げた作者自画像を見ればわかると思うが、作者は女性である。そして単行本カバー折り返しの作者あいさつには以下のコメントを寄せている

 

 これは少年まんがなの?少女まんがなの⁉

 

 

 こういう悩みは男性誌で執筆する女性作家ならではのものだろう。私は少女漫画に造詣がある方ではないので、絵のタッチは少女漫画っぽいかなと思うものの、内容については少女漫画っぽいのかどうかはわからない。だが少年漫画、とりわけジャンプっぽくない内容と感じる部分は端々から感じられる

 なにしろモチーフの1つが「美女と野獣」という時点でターゲットをジャンプ読者層の中でもどの層に定めているのか不明だ。女性読者の割合が増えた後のジャンプなら女性層狙いという方針もあるだろうが、この時期は圧倒的に男性が多く、連載陣の顔ぶれをみても男臭い作品が並んでいる中での事だから尚更本作品の場違い感が半端ない

 しかし、そんな事より一番の問題は主人公の大介に教師としての魅力が感じられない事である。問題行動ばかりであまりやる気が感じられず、生徒からは慕われていない教師というのは以前紹介した「アカテン教師梨本小鉄」など珍しい設定ではないのでそこは別にいい

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 だが、同作品もそうだったが、その手の教師は口ではなんだかんだいっても生徒の事を考えているし、だんだん教育者としての自覚が芽生えて時に熱い教師魂を発揮するので当初は反発していた生徒達から慕われるようになってくるものである。しかし、大介の場合は作品自体コメディ色が強い事もあってか正義感はあるものの教師としては、というか人間としてはあまり良い所が見つからない。にもかかわらず、物語冒頭での生徒との対立は飛び降り自殺を図った生徒を助けた為にアッサリ解消して速攻生徒から慕われるようになるし、以降も教育者としての自覚が芽生えた様子も見られないので読者としては肩透かしを食らったように思えてしまう

 そんな事もあって本作品は僅か10話、第2期に連載が開始して第2期のうちに早くも連載終了となってしまった。そして作者はその後87年増刊スプリングスペシャルに「ハロー!ダイナマイトママ」が掲載されたのを最後に姿を消したのであった

 と、本作品の紹介が終ったところで次回こそジャンプ黄金期第2期を掘り下げる事にする