黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

黄金期ジャンプ短期終了作家列伝

 当ブログではこれまで主に黄金期ジャンプの短期終了作品にスポットを当てた記事を書いてきたのだが、そんな記事をいくつも書いているうちに、作品では無く作者について、短期終了作品以外のジャンプ及び他誌での連載作品の記事も書きたいという気持ちも湧いてきた。という訳で、今回からはちょくちょく黄金期ジャンプに短期終了作品を連載した経験のある漫画家の方にスポットを当てた記事も書いていきたいと思う

 そんな記念すべき第一弾として扱うべき漫画家と言えば、やはりこの人物をおいて他にいないであろう。そう、当ブログで初めて紹介した短期終了作品である「カメレオンジェイル」の作者、成合雄彦だ

 

 尚、今回紹介する内容については、以前紹介した「カメレオンジェイル」の記事と重複する部分も多分にあるという事を断っておく

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 成合雄彦は熊本大学在学中に投稿作品が編集者の目に留まった事をきっかけに大学を中退して上京、北条司のアシスタントを務めながら漫画の勉強をする。そして88年に「楓パープル」が第35回手塚賞で入選、同年32号に掲載されデビュー及び本誌初登場を飾り、更に42号にも読切作品の「華SHONEN」が掲載される事となる。因みに同回は手塚賞で唯一入選者が2人出たのだが、もう1人の入選者は後に「WILD HALF」を連載する事になる浅美裕子である

 

shadowofjump.hatenablog.com

 そして本誌初登場から一年後の89年33号から「カメレオンジェイル」で連載デビューを果たす。のだが、何故かそれには渡辺和彦という原作者がつけられていた上、その内容が当時連載中で、既に人気作となっていた北条司の「CITY HUNTER」と類似していたという事もあり、僅か12話で終了となってしまう

f:id:shadowofjump:20220413194409p:plain

 しかしその後から快進撃が始まった。90年サマースペシャルに井上雄彦と名前を変えて読切作品の「赤が好き」を掲載、これが同年42号からタイトルを変えて連載を開始する事となる。そう、それこそが累計1億部を超える単行本売り上げを記録し、「DRAGON BALL」と並んで黄金期ジャンプの二大看板と称された「SLAM DUNK」である

 「SLAM DUNK」で一躍ジャンプの看板まで上り詰めた井上雄彦であるが、ジャンプとの別れが唐突に訪れる。同作品が人気もストーリーの盛り上がりも絶頂に達した頃の96年27号に突然に終了すると、その後は98年9号に読切作品の「ピアス」が掲載されたのみでジャンプから姿を消してしまったのだ。結局ジャンプで連載した作品は「カメレオンジェイル」と「SLAM DUNK」の2本のみ、出た単行本は併せても33冊と、ジャンプを代表する作家にしては寂しい数字と言えよう

f:id:shadowofjump:20220414190507j:plain

 この急激なジャンプ離れは、二大看板と並び称された片割れである鳥山明の「DRAGON BALL」が連載終了のだいぶ前から誌面で示唆され、その終了後も、言い方が悪いが気楽に余生を楽しみながら描いたような連載を幾つも持ったのとはあまりにも対照的であるが故に当時も今も様々な憶測を呼んでいるが、真相は定かではない。ただ言えるのは、その前年に「DRAGON BALL」が終了したのに続き、二大看板を失った事でジャンプの黄金期が終了してしまったという事だけである。もし「SLAM DUNK」の連載がもうちっとだけ続いていたら、「SLAM DUNK」の終了後もジャンプで描き続けていたら、ジャンプの黄金期は終わらなかっただろうなどと言うつもりはないが、その後の歩みは少し違っていただろう。…まあ後の作品を見ると、どのみちジャンプとの決別は避けられなかったとも思うが

 さておき、井上雄彦が離れた後のジャンプが急激に勢いを失っていくのとは対照的に、自身の勢いは相変わらずであった。「SLAM DUNK」が終了してすぐに、当時では珍しかったウェブコミックとして宇宙バスケットボール漫画の「BUZZER BEATER」を連載(月刊ジャンプで再掲)、そして98年からはモーニングで吉川英治の「宮本武蔵」を原作とした「バガボンド」の連載を開始、99年からはヤングジャンプ車いすバスケットボール漫画の「リアル」の連載を開始する。前者は「SLAM DUNK」に迫る人気を得て、後者はそのテーマから大ヒットとはならずとも文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞するなど名声を更に高め、今やその名声は漫画家の中でも屈指であろう

 その栄光も「カメレオンジェイル」という短期終了作品が出発点となっている訳で、言わば井上雄彦は最も成功した短期終了作家であり、また、例えデビュー作が短期終了の憂き目に遭っても、これだけの成功を収められるという生き証人でもあるのだ