黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

十七年目の復活

 言うまでも無い事と言いつつ前にも言った記憶があるが、ジャンプの正式名称は(週刊)少年ジャンプであり、そのメイン読者層は少年、即ち男性である。その為連載作品の主人公は読者と同性の男性である場合が圧倒的に多く、女性が主人公の作品は極めて少ない。更にヒット作品となると希少も希少で、黄金期において女性が主人公の作品で単行本が10巻以上出た作品は「シェイプアップ乱」くらいしかない有様である。…あ、タイトルから一応「電影少女」も女性主人公としておく。あとミザリィは主人公という扱いでいいのかわからないが、「アウターゾーン」も加えておこう。と、甘めに判定してもそれくらいしか思いつかないのだから、女性主人公というのはジャンプにおいては概ね不遇だと言えるだろう。そう言えば、前回紹介した「BLACK KNIGHTバット」も女性主人公だが、同作品が「コブラ」というヒット作の直後の作品にも関わらず10回しか連載が続かなかったのは、この事も多少は影響があったのかもしれない。あくまで多少であるが

 

 そんな訳で今回紹介するのは女性が主人公のこの作品だ

 

 舞って!セーラー服騎士(88年36号~47号)

 有賀照人

 

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 作者は87年に「スクールウォーズ 風は南から」でホップ☆ステップ賞佳作まであと一歩を受賞(?)。同作品は雑誌掲載はされなかったが、後に単行本ホップ☆ステップ賞セレクション1巻に収録される事となる。更に同年、本誌49号に読み切り作品で「セーラ服騎士」が掲載されてデビューすると、その設定を引き継いだ「舞って!セーラー服騎士」が翌88年増刊スプリングスペシャルに掲載、そして同年36号に同タイトルで本誌連載デビューを果たしたのであった。因みに作者の名前は「あるがてると」と読む。作品及び作者を憶えている方の中にも「あるが」ではなく「ありが」と思っていた方も多いのではないだろうか。…まあ、私もつい最近までそう思っていたのだが

 

 そんな本作品は、三ヵ月学園の生徒である星野舞子が、その正体を隠してセーラー服騎士に姿を変え、学園に蔓延る悪を成敗する正義のヒーロー(ヒロイン)漫画である

 と、こんな説明だと本作品を知らない方は「美少女戦士セーラームーン」のようなものを想像するかもしれない。黄金期ジャンプ作品だと性別は違うが「とっても!ラッキーマン」 とか

 だが、本作品の主人公である舞子はそれらの作品の主人公のように超常的な能力がある訳ではない。両親が共にプロレスラーで、食事に使う箸が10㎏、茶碗が50㎏もあるなど、普通に生活しているだけで体が鍛えられる環境で育ったために力が強いがそれだけであるし、セーラー服騎士に姿を変えると言っても決めポーズや決め台詞と共に変身してパワーアップする事もなく、正体を隠す為にサングラスと帽子を被ったりして変装しているだけの生身の人間に過ぎない。なので、敵方も世界征服を狙う悪の組織なんていう大仰なものではなく、不良使徒とか、優等生を装って裏で悪事を働く委員長とか常識的な範囲に留まっており、バトルシーンも地味でアッサリとした印象だ

 また、学園生活においては、新聞部や悪者どもにセーラー服騎士の正体を探られたり、舞子の幼馴染にして唯一セーラー服騎士の正体を知る辰也と微妙な雰囲気になったりと割とクラシックというかこの時代の学園ものの王道的な展開となっている

 そんな本作品の中で唯一と言っていい特徴を挙げるなら、武器として使用するというよりは、セーラー服騎士登場のサイン的に使用される事の方が多いチャクラムだろうか

 後には使い手が「ONE PIECE」に登場したり、ゲームの「大乱闘スマッシュブラザーズ

SP」で外見や必殺技をカスタマイズできるキャラであるMiiファイターの必殺技の1つとして採用されるなど、今となってはそれなりに知られた存在となった輪っか状の投擲武器であるチャクラムだが、当時は全くと言っていいほど知られておらず、私にとって本作品は初めてその存在を知った作品として今でも強く印象に残っていたりする

 のだが、本作品の連載が始まった時期はほんの数カ月前に黄金期の学園漫画(というよりヤンキー漫画だが)の代表格と言える「ろくでなしBLUES」の連載が開始されたというタイミングの悪さであり、また、バトル漫画としても「DRAGONBALL」を筆頭に伝説級のバトル漫画が犇めいているという更にタイミングの悪い状況であったから、小道具の1つが印象に残ったくらいでは生き残るのは厳しい。ポイントを押さえた堅実な話ではあるが派手さが無い上に女性が主人公の本作品の連載が短期で終了してしまうのは仕方のない事であろう

 

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 と、残念ながら12話で終了してしまった本作品であったが、作者はその後99年からビジネスジャンプで「警視総監アサミ」の連載を開始し、2006年まで連載が続くヒットとなったおかげか、05年にビジネスジャンプの増刊であるBJ魂にて「セーラー服騎士」のタイトルで復活を遂げる事となる。私は復活版の方は未読なので語る事は出来ないが、本作品の続編では無く設定を受け継いだリメイクで、時代が変わった事と掲載誌が青年誌になった事に合わせてシリアス寄りになったという。気になった方は本作品と復活版を合わせて読んで、その違いを楽しんでみるのも一興だろう