黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

戦場バトル漫画が挑んだ過酷な戦場

 前にも述べたかもしれないが、ジャンプにおける花形ジャンルと言えば、やはりバトル漫画であろう。その誌面を彩ってきたバトル漫画はジャンプの黄金期どころかジャンプを、いや、少年漫画を代表すると言っても過言ではない「DRAGONBALL」を筆頭に、「北斗の拳」、「幽☆遊☆白書」、「魁!男塾」など枚挙にいとまがない。が、反面、花形だけにバトル漫画は作品数が多く、しかも上に挙げたような錚々たる面々と同じ誌面で争わなくてはならない為に短期終了作品が多いジャンルでもある。故に各々が他作品より目立とうと趣向を凝らすのだが…

 そう、今回紹介するのはそんなバトル漫画たちによる連載の存続を賭けた血で血を洗う争い、まさにバトルロワイヤルに趣向を凝らした作品で参戦するも、敗れ去ってしまった者たちの1つである

 

 モートゥル・コマンドーGUY(95年32号~44号)

 坂本眞一

 

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 作者は90年に「キース‼」でホップ☆ステップ賞入選、同作品が翌91年に増刊スプリングスペシャルに掲載されてデビュー。更にもう1本増刊に読切作品が掲載された後、93年29号に原作者付きの読切作品「ブラッディ・ソルジャー」が掲載されて本誌デビュー。94年33号では第1回ジャンプ新人海賊杯に「モートゥルコマンドーGUY」でエントリーして見事2位に輝いて連載権をゲットし、95年1号の「心の求道者 史上最強の空手家アンディ・フグ物語」の掲載を経て同年32号から連載を開始したのであった。尚、ジャンプ新人海賊杯についてはこちらの記事で触れてるので参考にされたし

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 さて、単行本のカバー絵を見て、映画の「ランボー」のようだと思う方もいるかもしれない。それも無理なからぬことで、本作品の主人公である本城ガイは「ランボー」のランボーと同じく米軍特殊部隊所属の軍人である。そしてあらゆる格闘技の長所を取り込んで1つにした「モートゥル・コマンドー」と呼ばれる必殺の戦闘術を駆使して戦うバトル漫画が本作品だ

 主人公のガイは元ジャーナリストであり、麻薬犯罪の取材で南米のギズエラを訪れたところ、麻薬組織に拉致されてしまう。そして組織の麻薬工場で強制労働させられていたところを仲間と共に命辛々脱走する事に成功したのだが、その際に恋人のルシアが取り残されてしまった。ルシアの救出をギズエラ政府や現地の日本大使館に嘆願するも相手にされなかったガイは、自力でルシアを救出する為、そして二度とこのような悲劇が起こらぬよう世界中の麻薬組織を壊滅させる為に特殊部隊に志願し、自らを戦闘マシーンと化したのであった

 

 もうお分かりかと思うが、作者が他のバトル漫画との差別化の為に本作品に凝らした趣向がタイトルにも使用されている必殺の戦闘術、モートゥルコマンドーである。特殊部隊仕込みの総合戦闘術という設定はおそらく旧ソ連軍隊格闘術であるコマンドサンボをヒントにした事は、作者の短編集である「ブラッディ・ソルジャー」の中のおまけ漫画に当時コマンドサンボの使い手であるヴォルク・ハンが参戦していた総合格闘技団体であるリングスのイベントを観戦したエピソードが描かれている事からも推察できる。また「ブラッディ・ソルジャー」にはデビュー作でもある「キース‼」と「心の求道者 史上最強の空手家アンディ・フグ物語」も収録されているのだが、前者は近未来の宇宙プロレス漫画、後者はタイトル通りに空手家アンディ・フグのエピソードを漫画化したものであり、作者がかなりの格闘技好きだという事は間違いない。そして、軍隊戦闘術をリングの上ではなく実際の戦場で駆使させてみようという発想が作品の出発点だったのではなかろうか。当時UFCの発足等によって、ポルトガル語で『何でもあり』という意味を持つバーリトゥードの格闘イベントが話題になりつつあったが、それ以上に何でもありな戦場でやらせてみようと

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本作品の読切版はこちらに収録されている

 だが、実際にそれをやらせてみると問題点があった。と言うのも戦場はバーリトゥードなんか目じゃない真の何でもありな場所だからである

 何しろ自分も相手も武器を持っているのでわざわざ近づかずに銃を撃った方が効果的であるし、近づいたら近づいたでナイフを使わない理由もない、と言うかそもそも1対1で戦わなきゃいけないわけでもないのだ。なので、せっかく考案したモートゥルコマンドーであるが、人質を取られて武装解除させられた時など限定的な状況でなければ存分に駆使する場面がないのだ。結果、大部分はバトルと言っても武器を持ってのまさにランボーのようなものになり、それはそれで面白いのだがテーマと内容が乖離してしまったのが残念である。一応武器を持ったバトルの時でも太陽を背に戦うとか、環境を利用した戦闘術の片鱗は見せたが、蘊蓄の域を出ず見せ場にはならなかったし

 

 結局本作品は12話であえなく終了となってしまう。が、当時のジャンプの連載陣を見ればそれも止む無しだろう。「DRAGONBALL」は終了していたものの、同時期に連載されていたバトル漫画はアニメ化された作品だけでも「NINKU」「るろうに剣心」「とっても!ラッキーマン」「ジョジョの奇妙な冒険」「DRAGON QUEST ダイの大冒険」という錚々たる顔ぶれであり、更に不幸な事に本来作者がやりたかったであろう総合格闘技路線には「陣内流柔術武闘伝 真島クンすっとばす‼」が既に居座っていたとあってはこれが連載デビュー作になる新人が戦うには相手が強大過ぎた

 ジャンプにおけるバトル漫画同士の連載続行をかけた戦いは、ある意味では本当の戦場以上に過酷なのかもしれない

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以前紹介した「ファイアスノーの風」の次の号に連載が始まり、終了も同作品の次の号であった